最先端の「量り売りスーパー」で直面した、ごみゼロな未来と葛藤
皆さんは量り売り専門の「ゼロ・ウェイスト・スーパー」をご存知ですか?
ゼロ・ウェイストを辞書で引くと「工場や地域社会での廃棄物の発生や資源の浪費をゼロに近づける運動。(goo辞書)」とのこと。
つまりゼロ・ウェイスト・スーパーとは「廃棄物の発生や資源の浪費をゼロにしながら運営するスーパー」と言えるでしょうか。
京都・上京区出水町へ2021年7月にオープンした『斗々屋(ととや) 京都本店』は、日本で初めてのゼロ・ウェイストスーパーの大規模店舗。
販売面積約50坪の広々とした店内には、所狭しと商品が並びます。
このお店の最大の特徴は、国内外から集められた商品が「量り売り」で販売されていること。
また、並ぶのはどれも「自然・人・経済」の視点でバランスのとれた商品。
農薬や化学肥料に頼らずつくられた農作物や、フェアトレードで輸入された食料品、動物福祉を重視した畜産品など、生産過程や適正な価格設定に重きを置いた商品が集まっています。
その商品数は実に700点。 野菜や果物のみならず、お肉や豆腐、卵、お醤油、お酢、お茶、チョコレート、ナッツ、小麦粉......。 ひとつずつ挙げていくよりも、「スーパーで買えそうなあらゆる食品」と言うほうが早いかもしれません。
すべてがグラム単位で量り売りされている商品を、買い物客は計量から梱包まで自らの手で行います。
斗々屋内に並ぶ食品は、全てグラム単位で値段がつけられており、購入は20gから可能です。
この写真のブドウのように、種類によっては購入しやすい個数であらかじめ計量され、皿やトレーに載せられているものも。
野菜や果物類はそのままカゴに入れ、支払い時にレジで計量してもらいます。一方、乾物やナッツ、醤油や粉類は、什器から欲しい分だけを、持参した容器に計量して取る仕組み。
容器がない場合は、デポジットを払ってレンタルしたり、購入したりも可能です。
ちなみに斗々屋では、ビニール袋も紙袋も提供はありません。代わりに野菜を包むための新聞紙や、デポジットの容器、エコバッグの販売・レンタルコーナーが店内に設置されています。
写真のようにナッツの容器のレバーを引くと、横にある計量器と連動。自動で品名が計量器のモニターに表示されます。
そうして印刷された値札のラベルを容器に貼り、お会計へ。醤油やお酢などの液体調味料も同じ流れで計量・値付けをお客さんの側が行います。
上図「例2」の部分で、RFIDシールを貼らない場合は、斗々屋のすでに貼ってある容器を使い、ラベルを印刷した後に中身の商品を入れ替えることもできます。
計量しながら買い物をすることへ感じた、「戸惑い」
そんな斗々屋を訪れ、実際に買い物をしようとニンジンを手に取ったそのとき、はたと筆者の心に浮かんだ疑問がありました。 それは「自分は普段、ニンジンをどれくらい消費しているんだっけ......?」というもの。
普段の買い物であれば、スーパーでパッケージされた商品や、八百屋で山積みになっている野菜たちの1個当たりの値段を眺め、欲しいものだけをサッサと買い物かごに入れれば終わり。 グラム単位でバラ売りされている商品の方が少ないため、「ニンジンは何グラム必要か?」を厳密に考えることはありません。
しかし斗々屋では、全てが量り売り。袋ごとガサっと買うことはもちろんできず、「どのくらい買うか」を決めるのは、すべてがお客さんである私たち自身。
「何をどれくらい買えばいいんだ......?」とまるで決められず、迷子になったかのような不安に襲われました。
結局ニンジンが何本必要か検討はつかないまま、なんとなく2本を購入。
ほかの商品に関しても、悩んだ末に微妙な量になったり、見当違いな量を容器に入れてしまい、計量器の前で悩んだり......。
そのあとも「何をどれだけ買えばよかったんだろう......」「いつもどれくらいの量を使いきっているんだろう?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、買い物は終了。 店で感じたさまざまな疑問について聞いてみたくて、店を訪れた約2週間後、株式会社斗々屋・広報担当のノイハウス萌菜さんに話を伺いました。
「量り売り」と「利便性」を、いかに両立させるか
ノイハウス萌菜(もな)
1992年生まれ。ロンドンから日本に引っ越してきてから周囲の「使い捨て」の多さに敏感になり、プラスチックストローの代替品となるステンレスストローブランド「のーぷら No Plastic Japan」を設立。その後、 斗々屋のメンバーと出会い、現在はフリーランスとして斗々屋を始めとするサステナビリティに関する活動を行う企業のコンサルティング、広報を務めている。
── なぜ京都にお店をオープンされたんですか?
斗々屋では、できるだけたくさんの種類の商品を置きたくて。
そのために、より広い店舗面積が必要だったため、色々と探した後、家賃の高い東京ではなく、自由に実験できる場として京都を選んだんです。
この地域は最近になってお店が増えてきたエリアで、周りに住宅が多いのもポイントでした。
また、京都府と京都市の、環境に対する取り組みやフードロス運動といつか連携できたらなという思いもあって。
── 2021年7月にオープンしてから、これまでの感触はどうですか?
環境問題への関心が高い方がお客様として来てくれます。日常生活でゴミをなるべく減らしたいという地元の方からは「やっとこういうお店に出合えた」と言っていただいたり。
健康のためにオーガニックの食材を探している方にも喜んでいただきますね。
京都市とも昨年10月の食品ロス削減月間では意見交換をしていました。持続可能な社会を目指す他のビジネスの方々も関心を持ってくださって、交流会なども行っています。
現状は遠方から来てくれる方も多くいらっしゃるのですが、近隣の方々に日常的な買い物をしていただかないと、店としては成り立ちません。 そのため、お客様にとって不便がなく、欲しいものがなんでも揃う点を今後も追求していかなくてはと思っています。
── 一般的なスーパーマーケットや食料品店との差別化を意識した部分はあるんですか?
違いを出すというよりも、日本にはまだ数少ない量り売りの食料品店に、いかにスーパーマーケットのような利便性を持たせるか。そこにすごくこだわっています。
── ー計量器のシステムを導入したのも、そういった背景が?
そうですね。
レジシステムは、テクノロジーパートナーの寺岡精工が手がけています。
例えば、容器レバーに付いた黒いタグが動きを検知すると、横に設置された計量器に品名が表示されます。
それによって、お客様自身で簡単に計量・値札付けまでできる仕組みを導入できました。
お客様が選んだ商品をレジでまとめて店側が計量しようとすると、商品数が多いため時間もかかりますし、スタッフの人数も限られています。
そこで、お客様にとっても、スタッフにとっても効率的にお買い物ができる仕組みを採用しているんです。
── 「量り売り」で生まれる手間を、できるだけ減らせるように工夫されているんですね。
デポジット用のガラス瓶などの裏には、容器の重量が登録されたシールが貼ってあるため、計量時に容器分の重量を自動で差し引いて計算してくれます。 お客様自身で持ち込んだ容器も重量を登録できるので、2回目以降のご来店からは、スムーズにそのまま買い物をしていただけます。
── デポジット容器の種類の多さにも驚きました。
ガラス瓶が四種類と、ステンレスお弁当箱を取り揃えています。あとはコットンの巾着や、シリコン製保存容器、リサイクルペットボトル製の量り売り専用バッグを販売しています。 手ぶらでお越しになった場合でも、こうしたデポジット容器や購入できる商品を利用してお買い物をしていただけます。
── デポジット容器は、すべて繰り返し使えるものなんですね。
それが大前提です。
ただ、悩みどころでもあって......。
お客様が持参する容器に関して特に指定はしていないのですが、新品のジップ付きビニール袋を箱ごと持ってきて、それにどんどん商品を入れている光景を見ると、心が痛みます。
製品の公式サイトを確認すると、市販のジップバッグって使い捨てのものとされているんですね。
つまり廃棄が前提となっているし、もし再利用したとしても衛生面が担保できません。
あまりストイックになりすぎても良くないかなと思うのですが......環境に配慮した形で、家庭まで商品をお持ち帰りいただきたい、というのが本音ではあります。
── 人によって環境意識にも差がありますし、難しい問題ですね。
当店としては、ゴミを出すことはしたくない。 けれど何かを禁止することで、誰も来なくなっても意味がないとも思うので、葛藤があります。 だからこそ、店のあり方については今でも議論を続けていて。 創業間もない斗々屋チームが持つ「妥協したくない」という信念と、創業100年のノウハウを持ったテクニカルパートナー・寺岡精工の「ビジネス」という視点をバランスよく合わせることを意識していますね。
── 昔の日本では量り売りが主流で、ビニール袋も個包装もなかったわけですよね。 年齢層によっては、もともと量り売りに慣れ親しんだ経験があり、戸惑いも少ないのかな?と思ったのですが。
あくまで肌感覚ですが、意外とそうではないんです。 もちろん全ての人ではありませんが、量り売りを原体験として持っている上の年代の方にとっては、「こんな便利になったのに、なぜ昔に戻るの?」みたいな疑問もあるみたいなんですね。
プラスチック製品が当たり前にあった世代だと、利便性の反面で生まれたゴミ問題にも関心の高い方が多いです。 けれど、不便な時代からプラスチックによって生活が楽になった世代だと、便利さを手放すことへの違和感があるのかもしれません。
── そうした上の世代の方々に、量り売りの利点を改めて伝えていく難しさもありそうですね。
ただ、トータルでの不便さや、面倒くささは変わらない気がしていて。
パッケージフリーな量り売りのお店で買い物すると、買い物の時間は長くなるかもしれません。
けれど、通常のスーパーで買い物した際には、家に帰って、袋から食材を出し、さらに個包装から物を出し......さらにそのゴミを家に溜めて、毎週捨てる時間もありますよね。
それも加味すると、トータルでかかる時間は、意外と同じかもしれないんです。
なので、まずは実際にお店で体験していただくのが大切なのかなと。
私たちが抱える「サービスへの期待」が、過剰な包装を生んでいる?
── 斗々屋でバラ売りされている野菜を手に取りながら、ふと「普段スーパーで買う食品は、誰が袋詰めしてくれているんだろう......」という疑問も生まれました。
日本はビニール袋が有料化したのも最近だし、野菜もビニールに入れられて販売していますもんね。
いわばパッケージが当たり前になっているので、パッケージフリーにしやすい商品と、そうでない商品があるんです。
しやすい商品というのは、個人や大きくない規模の生産者さんによるもの。
逆に、例えばあらかじめ個包装されたお菓子のように、大手メーカーの商品を量り売りすることはハードルが高いと思います。
── パッケージが前提で、それ専用の生産体制になっている商品の場合、パッケージをやめるコストのほうが大きくなりそうですね。
そうですね。
一方で、小規模な生産者さんにとっては、斗々屋に卸すことで今まで発生していた袋詰め作業や、梱包材を購入するコストを省けます。
量り売り事業が増えていけば、生産者さんのメリットにもどんどん繋がるはずなんです。
そうすると、ほかの生産者さんも、パッケージフリーにシフトしていきやすくなるかもしれません。
あとは、日本のサービス水準の高さも、パッケージの多さに関係している気がします。
こんなにコンビニの店舗が多い国は珍しいですし、便利さやサービスに溢れていますよね。
だからこそ、ビニールパッケージや使い捨て容器も多い。なぜなら、包装も今では「手厚いサービス」の一環と思われているから。
── ノイハウスさんが暮らしていたヨーロッパではどうでしたか?
個人的な印象ではありますが、袋詰めは店員が入れるものではなく、お客さんが「自分で入れる」もので、サービスの一環ではあまり見かけなかったり。 いい意味で、お客さんも店員さんも、そこまで期待してないのがヨーロッパの空気感なのではないでしょうか。
── 無意識にサービスに依存し、パッケージ包装も「あって当たり前」と思っていたから、それがない斗々屋での買い物で戸惑ったり、判断できなかったりしたのかもしれません。
量り売りだけではなく、あらゆることに対して「いる・いらない」の選択を消費者自身が行うことがとても大事だと考えています。
── コンビニでつい受け取ってしまう使い捨てカトラリーやおしぼりのように、日本で暮らす私たちがまだまだ無意識に享受しているサービスは多そうですね......。
「ゼロ・ウェイストな量り売り」の選択肢を増やす
これから日本でいろんな量り売りの店が増えることも、「選択肢を増やす」一つかなと思っています。
── 詳しく伺いたいです。
私たちは生産者と消費者の両方と繋がりがあるからこそ、どちらも同じペースで変えて行きたいと思っているんです。 量り売りの店が増えれば、消費者はもちろん、そこに商品を卸す生産者にとっても選択肢が増えることに繋がりますよね。
── 卸し先が多くなれば、生産者の側が生産体制をパッケージレスに切り替える選択肢もより現実的になりそうですね。
そうなんです。だからこそ斗々屋という名前に関係なく、量り売りのお店を増やすことが大事だと考えています。
実際、ゼロ・ウェイストな量り売りを日本全国で広めることを目的に、オンライン講座を始めています。 およそ200人の方々が受講してくれていて、実際に量り売りの店舗を開業した方もいらっしゃいますよ。
── どうしてそれだけの受講者が集まったのでしょう?
コロナ禍になり、仕事や生活を見直すタイミングを迎えた方も多いように感じています。 社会が大きな転換点を迎える中で、個人が改めてやりたいことを選択する時期になっているのかもしれません。
── これからゼロ・ウェイストな量り売りを広めていくために、必要だと考えていることはありますか?
大手企業とのコラボレーションを増やしていきたいですね。資金的にもスピード的にも、私たちのような小さなチームだけではできないことを、大手の力を借りながらやるのも大事なはず。 あとは行政に働きかけて、使い捨てを減らすルールづくりにも取り組んでいきたいです。
大きな会社がゼロ・ウェイストなお店を開くこと自体は、お金があればすぐに可能だと思います。 ただ、そのプロジェクトを進める社員や、売り場に立つ店員にその意義がしっかり伝わっていないと、それこそ持続可能ではないとも思っています。
── だからこそ、ゼロ・ウェイストの背景を伝えていくことにも、斗々屋の役割がありそうですね。
企業へ向けて量り売りやゼロ・ウェイストについてきちんと伝えるコンサルティング事業は、積極的に取り組んでいきたいですね。
事業を進めていくと、いろんな選択肢が増えていきます。
それはどんなポジションでも起こること。そうなった時に、迷わないような「指針」を持つことが重要なんです。
現場で働く人にこそ、マインドがあった方がいい。そうしたことを重視して、持続可能な社会に向けた活動を進めていきたいです。
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取材・執筆ヤマグチナナコ
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取材長谷川琢也
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取材徳谷柿次郎
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