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豊かな未来のきっかけを届ける

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不健康な食事による死者は5人に1人。私たちの健康と地球との共存を実現する食べ方を知ろう

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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電気代、めちゃくちゃ高くないですか!?

エネルギー価格に限らず、生活に関わるあらゆるものの値上げが続いています。私たちが生きていくのに欠かせない食料品も、価格が高騰する一方です。

食料の消費者物価指数を見てみると、2021年から急激に上昇。スーパーで値札を見て「高っ!」と叫んでしまった人も少なくないんじゃないでしょうか......。

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出典: 総務省『消費者物価指数』より

値上げが続く背景には、円安やエネルギー価格の高騰、気候変動の影響など、様々な要因が挙げられます。また、ロシアのウクライナ侵攻により、「食料危機が訪れるのでは?」という声も。

これから日本の食卓はどうなってしまうのだろう――。

そんな不安から、国際連合食糧農業機関(FAO)でアドバイザーを務め、ジョンズホプキンス大学の教授であるジェシカ・ファンゾ博士の書籍『食卓から地球を変える あなたと未来をつなぐフードシステム』(日本評論社)を翻訳した、(株)三祐コンサルタンツの手島祐子さんを訪ねました。

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管理栄養士として、アジアやアフリカの栄養課題の解決に取り組む手島さんは、食料品の値上げに対し、こう懸念します。

「物価高により経済的な負担が増すことで、栄養バランスの好ましくない手軽な加工食品に頼る人が増え、それによって病気になったり、死亡につながったりする人が増加してしまうことが考えられます。そもそも先進国では、動物性食品を"摂りすぎている"といった課題もあります」

私たち、一人ひとりの食卓から、「自分の健康」と「地球の持続可能性」を一緒に実現するためにできることを手島さんに聞くと、「ヒントは和食にある」ということが見えてきました。

食料危機は「飢餓」だけじゃない。価格高騰により加速する偏った食事による栄養不良

今、世界の飢餓人口は8億2800万人(10人に1人)を超えています。

新型コロナウイルス感染症の蔓延以降、慢性的な栄養不足に晒されている人は世界では1億5000万人ほど増加している状況です。

背景には、新型コロナウイルス感染症の蔓延によるサプライチェーンの破壊、ウクライナ紛争による食料、燃料、肥料の価格高騰などが挙げられます。

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国際連合食糧農業機関(FAO)でアドバイザーを務めるジェシカ・ファンゾ博士は、「紛争と気候変動というふたつの要因によって飢餓の増加が引き起こされている」と本著の中で述べている

世界情勢により物価高の影響を受けている日本でも、食料危機は間近に迫りつつある課題でしょうか?

手島さんは、「国内で深刻な食料危機に陥ることは考えづらいのでは」と回答します。

「日本政府は、国内生産の減少や輸入の途絶といった有事の際の食料安全を確保するために定期的なシミュレーションを行いながら、一時的に物流がストップしてもその瞬間に食料不足に陥ることのないように備蓄もしています。また、日本は低中所得国と比較して購買力があるため、不足分は輸入で補うことができます。低中所得国で飢饉が起きてしまうのは、政府がそれらに対応する財力がないことに加え、輸入してもその後、公正に分配できていないことが原因です」

しかし、ここで手島さんが伝えたいのは、食料危機だけが健康を損なう理由ではないということです。

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「私が懸念しているのは、社会的な要因から起こる物価高で金銭的な負担が増すことにより、菓子パンやインスタント食品といった安い金額で手軽に空腹を満たせる食事に頼る人たちが一層増えてしまうことです。手軽な加工食品は、脂質や糖質過多で、たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足しています。栄養バランスの好ましくない食事によって病気(食事由来の非感染性疾患)になってしまい、その結果死亡する人が増えることを懸念しています」

事実、不健康な食事の影響で死亡した人は、世界で死亡した人の5人に1人を占めることが、2019年に世界5大医学雑誌のひとつである 『Lancet』で発表されました。

死亡率を増加させる要因のトップ3は「(1)食塩の摂取が多いこと」「(2)全粒穀物の摂取が少ないこと」「(3)フルーツの摂取が少ないこと」。

全般的に塩分が高く、全粒穀物やフルーツを食べることが少ない日本人の食事にもよく当てはまると、手島さんは指摘します。

また、『食卓から地球を変える』でジェシカ・ファンゾ博士は、先進国の人々は新鮮な果物や野菜、ナッツや種子、豆類、全粒穀物など、良質なものを十分に食べておらず、それどころか、加工された動物性食品や油、砂糖入りの飲料、砂糖や健康に悪い脂質や塩分が多く含まれた加工食品をより多く摂取することにより、自らの健康を損なっていると警鐘を鳴らします。

私たちが健康で持続可能な食生活を送るためには、どのような視点で日々の食事を選択していけばいいのでしょうか?

"食の実践"として手島さんが勧めるのが、『食卓から地球を変える』で紹介されているプラネタリー・ヘルス・ダイエットです。

食卓から自分と世界の人々、地球をも健康にする「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」

プラネタリー・ヘルス・ダイエットとは、健康にも地球環境にもやさしい食事のこと。

ジェシカ・ファンゾ博士を含め、健康、農業、政治、環境など様々な分野で活躍する世界の専門家らが、地球の持続可能性の範囲内(地球の気温を1.5度以内に抑えつつ、2050年に100億人に達すると予測されている将来の人口の栄養必要量を満たす範囲)で、人間の健康を維持・向上させる食事を目指して検討した末に、「EATランセット委員会報告書」にまとめて発表しました。

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プラネタリー・ヘルス・ダイエットの推奨する食事基準を、一皿で説明する図。一皿あたりに占める、野菜や全粒穀物、動物性食品などの割合を可視化している

プラネタリー・ヘルス・ダイエットは、1食1皿と見たとき、お皿の半分に野菜とフルーツ、残りの半分で全粒穀類や、豆、植物や魚の脂に多く含まれる不飽和脂肪酸を多く摂り、動物性食品を控えるように呼びかけています。

「日本人の食事は、多くの食品群においてプラネタリー・ヘルス・ダイエットの推奨値以内ですが、卵や牛肉、豚肉などの動物性食品は、1.5〜2.5倍の量を消費しています。まずは自分の普段の食事とプラネタリー・ヘルス・ダイエットがどのくらい違うかを比較してみた上で、できる範囲でプラネタリー・ヘルス・ダイエットに沿った食事を選択してもらえたらいいと思います。」

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誤解してほしくないのは、プラネタリー・ヘルス・ダイエットは、実践する頻度を強制したり、特定の食品や食文化を否定したりするものではないということ。

「管理栄養士として、食に携わる私が一番大切にしたいことは、『食は楽しむもの』であること。現代の忙しい日本人が手軽な加工食品に頼ってしまうことも理解できますが、食を楽しむよりも『かきこんでいる』ように思えることもあります。自身の食を見つめなおすためにも、まずは、日々の生活に余裕を持ってほしい」

そう語る手島さんが紹介するのが、和食を基礎とした家庭料理を探求する料理研究家・土井善晴さんの著書『一汁一菜でよいという提案』。

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「計画的な自炊はお財布にも優しく健康的ですが、時間に余裕がないと続けることができません。そういった中で、土井さんが提案する一汁一菜は、ごはんを中心として、汁(みそ汁)と菜(おかず)それぞれ1品を合わせた和食の原点ともいえる食事スタイルです。日々の食事をシンプルに考えることを呼びかけていて、とても素敵だなと思います」

『食卓から地球を変える』では、訳者コラムの中で「日本人の財産としての和食」と題し、日本の伝統的な食文化のポテンシャルについても取り上げています。

「私たちの食事」と「地球環境」は双方向に関係し合う

私たちの健康をつくる日々の食事。

あらゆる食料はどこからどのように、スーパーなど目の届くところへやってくるのでしょうか。そして、購買し、食べるという行為が、自分の健康以外の何に関わっているでしょう?

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私たちの食事はすべて『フードシステム』を通して繋がっています。そしてフードシステムは、私たちの健康だけではなく、地球環境にも影響を与えています

フードシステムとは、食料の生産から加工、貯蔵、流通、マーケティング、小売店での販売、消費、廃棄に至るまでの、食料供給に関するあらゆる工程のこと。

「あまり知られていませんが、フードシステムは、地球全体で排出される温室効果ガスの約3分の1を占めています。温室効果ガス削減というと、多くの人は電気自動車や再生可能エネルギー等を思い浮かべると思いますが、世界80億人のみんなが関わるフードシステムの変革なくして、気候危機を食い止めることはできません」

中でも、動物性食品や多くの加工を経た超加工食品(糖分、塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品)。これらの摂りすぎは健康を損なうだけでなく、生産・販売過程で地球環境に甚大な影響を与えています。

また、フードシステムが地球環境に影響を与えるだけでなく、地球環境もフードシステムに影響を与えています。

熱波、干ばつ、洪水、寒波などの異常気象は、小麦、とうもろこし、大豆、米などの破壊的な不作につながります。大気中の二酸化炭素濃度が上昇することで、作物の栄養価を低下させる可能性もあると、ジェシカ・ファンゾ博士は訴えています。

つまり、食料生産によって排出される温室効果ガスが気候変動を加速させ、また気候変動によって、食料生産や食物の栄養度に大きく影響するのです。

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『土を育てる』(ゲイブ・ブラウン著)を紹介しながら、「化学肥料をつくるのにも多くのエネルギーが使われ、化学肥料の過剰な使用により、土壌中の有機物が減少し、土壌の炭素吸収能力に影響を及ぼしているという農業の課題を口にした

「未来の持続可能な食卓」のために個人と社会、両方からの変化が必要

フードシステムを健全に機能させるためには、「まずは、政策の変更が必要です。具体的には、国の食生活指針(Dietary guidelines)を見直すことができたら」と手島さん。

食生活指針とは、国民の健全な食生活実践のため、どのように食生活を組み立てればいいのかを示した指針で、世界100カ国以上で作成されています。

「日本の食生活指針は、地球環境に対するアクションとして『食品ロス』への対策にのみ触れています。しかし、食品廃棄物から排出される温室効果ガスは、フードシステムから排出される温室効果ガス全体の8.6%ほどです。大部分の温室効果ガスは、土地の利用や農業生産から排出されており、この部分の削減のためには、私たちの食べ方(食事の選択)から変える必要があります。日本の食生活指針にも、他国のように、地球環境を考えた食事の選択を促す言葉をぜひ、入れていただきたい

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世界の温室効果ガス排出量のうち、フードシステムが占める割合。参考:「ONE Conference 2022」ジェシカ・ファンゾ博士のレポート

たとえば、ドイツの食生活指針では、「植物性食品には健康増進効果があり、持続可能な食生活を育むことができます」と記載があり、オランダの食生活指針では、「私たちが口にする食べ物は、環境に大きな影響を与えている」と明記しているのだそう。

政策によって企業がそれに準じて動き、消費者の行動も変わると語る手島さんは、「環境負荷を考慮した食品ラベルの積極的な導入」も期待しています。

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手島さんがフランスのスーパーで撮影。Nutri-Score(ニュートリスコア、栄養スコア)は、食品の栄養価に基づいて、A(緑)からE(赤)までの5段階で表示する栄養表示システムで、欧州で導入が広がっている。ABのロゴは「有機農業」を意味するフランス農務省による認証のマーク。隣の「ユーロリーフ」は、欧州共通の有機農業規則によって生産された農産物や加工食品につけられるマーク

これまでは、人間の健康問題と地球環境の問題は別々のものと考えられ、それぞれの対策が講じられてきました。ですが、双方はフードシステムを通して双方向に関連し合っています。フードシステムへのより良いアクションを通じて、自分も地球も健康にしていくことができる。それを科学的エビデンスと共に伝えてくれたのが、『食卓から地球を変える』でした」

自分のための行動が、地球のための行動になる。

『食卓から地球を変える』、プラネタリー・ヘルス・ダイエット、そして『一汁一菜』のように無理せず続けられる和食。

ぜひ、気になった入り口から、食卓に小さな変化を起こしてみませんか? 日々の食事を楽しみながら、自らと地球を健康にしていきましょう。

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\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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