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知る、つながる、はじまる。

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資本でも宗教でもない。社会起業家が模索する、もう一つの生き方。

    

サストモ編集部

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もともと「経営者」という人に興味がありました。

自ら課題を見出し、価値を生み出し、世の中に居場所を作りながら存続する。
それってまるで人生そのものだなと思うのです。
だから経営者の作る事業や組織を、彼らの生き方として興味深く見ていました。

「社会起業家」は、中でも興味のある方達です。
なぜなら彼らが進もうとしているのは、誰もが手をこまねいてきた道だからです。

社会課題は、これまでどうしても解決しなかったからこそ残っているもの。
そこにチャレンジする人って、どんな人なんだろう?
どんな矛盾や葛藤を抱え、どんな解決の仕方をしているんだろう?

もしかしたら彼らの経営の仕方は、答えのない現代を生きる私たちの新たな指針となるかもしれない。そんな考えから、彼らのことがずっと気になっていました。

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今回お話をうかがったのは、SOLIT株式会社の代表・田中美咲さんです。
「多様な人も、地球環境も、誰もどれも取り残さない『オールインクルーシブ』な社会の実現」を目指し、ファッションブランド「SOLIT!」を運営されています。

彼女は2011年の東日本大震災をきっかけに「防災ガール 」という一般社団法人を立ち上げ、防災を当たり前にするべく発信を続けてきました。「世界のメディアが選ぶ女性起業家」の世界一に選ばれ、国際的なPRアワードでは環境部門 最優秀賞を受賞するなど注目を集めましたが、7年後に解散を発表。

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2018年には社会課題解決に特化した企画・PRを行う会社「morning after cutting my hair」を、2021年には先述の「SOLIT!」を立ち上げるなど、連続社会起業家として知られています。

10年以上もの間、社会起業家として走り続けてきた田中さん。その期間に、彼女の中ではどんな葛藤があり、どんな変化があったのでしょうか。

一人の社会起業家の、矛盾と葛藤、そして生き方についてうかがいました。

田中美咲

社会起業家・ソーシャルデザイナー。1988年生まれ。立命館大学卒業後、株式会社サイバーエージェントにてソーシャルゲームのプランナーとして従事。東日本大震災をきっかけとして福島県における県外避難者向けの情報支援事業の責任者を担当。2013年「防災をアップデートする」をモットーに「一般社団法人防災ガール」を設立、2020年に事業継承済。2018年2月より社会課題解決に特化したPR会社である株式会社morning after cutting my hair創設。2020年「オール・インクルーシブ経済圏」を実現すべくSOLIT株式会社を創設。

「防災ガール」で一度諦めているんです

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── 田中さんはこれまでに3回、社会課題の領域で起業をされていますね。3.11を機に立ち上げられた防災ガール以降、現在のSOLITに至るまで、約10年もの間ずっとソーシャルデザインの領域で活動されています。

そうですね。いわゆるシリアルソーシャルアントレプレナー(連続社会起業家)というものに当たるかと思います。

── 今回は、その中でどんな葛藤や思考の変遷があったのかをうかがいたいのですが、まずはSOLITでの活動内容を教えていただけますか?

SOLITが目指しているのは、「人も動植物も地球環境も配慮されている、オールインクルーシブな社会を作る」ことです。

これまでは自然災害や気候変動などに特化した事業を行っていたのですが、徐々に私の中で、ダイバーシティ&インクルージョンという側面にフォーカスするようになりました。より多様な人、動植物、地球環境も含めて、「それぞれが自律的に選べる選択肢がある」という状態を作りたい。また、まだまだ資本主義がメインのこの世の中で、お金だけではない資本が回っていく状態にしたいと思いながら、事業を展開しています。

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── 具体的には、どんなアプローチをされているのでしょうか?

私が10年以上社会課題に向き合ってきた中で、「本当に社会が変わった」と感じた取り組みには、3つの共通要素があることに気が付いたんですね。

1つ目は「とても純度の高い前例があること」、2つ目は「次の人が続く意志を持てるようなエビデンスや情報があること」、3つ目は「協働するパートナーがたくさんいて、持続的に活動していること」......この3つの要素が掛け合わさったときに社会が変わっていくのをよく見てきて、それらをSOLITで実現できるように活動してきました。

── なるほど。

まず「とても純度の高い前例」を作るべく、私達の実現したい社会の一部となりうるような服のブランド「SOLIT!」を運営しています。

また、これからいろんなスタートアップや非営利団体や企業が「私達もやりたい」と思ってもらえるようなエビデンスを用意するため、病院や研究所と連携して、SOLITの服作りに活かすための情報や研究データをまとめて、論文にしたり学会発表の準備を行っています。

そして、この私達の開発のフローやデザインの仕組みを企業に提供し、その会社がもっと多様な人のための選択肢を作るように促していくこと......かっこよく言えばコンサルティングですし、泥臭く言えばロビイングですね。そんな3つの活動をSOLITでは行っています。

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── 田中さんの12年間の学びが反映されたのがSOLITなんですね。先ほど「自然災害」から「ダイバーシティ&インクルージョン」へと視点を変えていったとおっしゃっていましたが、それには何かきっかけや理由があったのでしょうか。

うまく言えるかどうかわからないのですが......1つは防災ガールをする中で、「社会課題を1個だけ解決しても何も変わらない」という感覚がすごくあったこと、もう1つは「すべて繋がっている」と感じたことです。それらには似通っている部分もあるのですが。

── はい、はい。

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防災ガールを始めたのは、東日本大震災がきっかけでした。当時は「そもそも『災害が起きるたびに人が死ぬ』という事態がなぜ起きるんだろう?」という違和感があったんです。たくさんの人が復興支援をしたり、復興庁ができたりしているのに、まったく対策が打たれていないなと。

防災ガール

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それで「復興」ではなく「そもそもこういうことが起きないようにするにはどうしたらいいんだろう」と考え、根本から解決する方法を模索しました。だけど、やればやるほど「自然災害がなぜこんなに起きるのか」とか「なぜ、人は災害が起きる場所に住むのか」と新たな疑問にぶつかるわけです。

そのコアを辿っていくと、気候変動や環境問題といった自然の問題、貧困問題や難民問題といった人権の問題に行きあたり、「これは防災だけやっていても何も変わらないな」ということに気づきました。

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── 聞いているだけで途方に暮れそうなのですが......田中さんはその時「もう手がつけられないな」という気持ちにはならなかったのでしょうか?

はい、まさに手がつけられなくなって。もう無理だなって思って防災ガールを辞めたんですよ。なので私は、一度諦めているんです。

── そうだったんですね。

こんなふうにモヤモヤした人間が代表をやっていると他の人の首を絞めてしまうと思い、引き継いで終わりにしました。そこで一旦ゼロになったのですが、もうどうすればいいのか、どこで何をインプットしたらいいのか、全然わからなくなっていたんですね。それで、とにかくいろんなことを学ぼうと大学院に通い直して、リベラルアーツを専攻したんです。

そこでは宗教や哲学、ファイナンスやマーケティングなど、本当に多岐にわたる勉強をしました。そうしているうち、自分の中に火種が残っていることに気づき、もう一度行動したくなってきたんです。

── そこでの学びが、結果的にいいインプットになったんですね。

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その大学院が東洋思想的なMBAが取れるところで、当時の自分の思想と合っていたのもよかったと思います。

大きな資本の流れは変えられないかもしれない。だけど、西洋の資本主義の「とにかく稼げ、とにかく成長しろ」というものとは違う人や社会の成長のあり方だってあるのではないか......そんなことを教授たちもずっと悩んでいらっしゃったので、それを見て私も一緒に悩みたいなと思いました。世界はとても複雑で、一つ解決したら何かに問題が出てしまう。そんな悔しくも悲しい社会の中で、どこを倒せばドミノのように少しでも社会が前に進むのだろうと考え続け、立ち上げたのがSOLITです。

何を事業にするか決めるとき、自分が体験したことがあるもの、続けられるもの、心が晴れやかになるものは何か考え、いくつかの点が重なったのが「服」でした。自己表現を制限しているものを解決しながら、社会を前に進めたい。そんな思いで、最初にファッションという分野を選びました。

決定するのは、あなた。「助ける人 / 助けられる人」の二分構造から抜け出す

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SOLITを始めた時に、絶対にしないでおこうと決めたことが私にはあって。それは、「勝手に決めつけないこと」「助けてあげようとしないこと」なんですね。

── 決めつけない、助けようとしない、ですか。

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── 「助ける人 / 助けられる人」「寄付する人 / される人」という二分構造が作られると、物事が進みやすくなる側面もあるのですが、カテゴライズした瞬間に区別が生まれて差別が起こり、また構造化されることでそこから抜け出せなくなってしまうということも起こります。

もちろん寄付はないよりはあったほうがいいのですが、それは実は彼らに選択肢を与えているのではなく、「あなたは助けられる立場の人である」ということを押し付けているのだとも言えます。

そこをもっと民主化して、「本人が本当にヘルプを欲しがっているのか」「どんなヘルプが必要なのか」「むしろヘルプでない方がいいのではないか」といったところから、みんながちゃんと意思決定できる状態である方が本当はいいなと思っているんです。

── 寄付にはそういう矛盾もあるわけですね。その気づきは、防災ガールの時に得たものなんでしょうか。

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そうですね。最初は東日本大震災のときに感じました。当時私は、平日は東京に住みつつ、土日に福島で活動していたのですが、「寄付する人 / される人」という構造を間近に見ながらめちゃくちゃ違和感があったんです。平日に会う東京の人たちはいつも通りの生活をしながら「お金が足りないらしいから寄付しよう」という感覚で寄付している。一方、土日に会う福島の人たちには「お金があればこれができるのに」というギリギリの中で生活をしている人もいれば、寄付金を使って酒を浴びたりパチンコに通っている人もいる。

なんて言うんでしょう......同じ国にいるのに格差のようなものが生まれているのを目の当たりにしたんですよね。寄付する側は「お金を渡したらそれでいい」と思っていて、寄付される側は「もらったお金だから何をしてもいい」と思っていて......という状態が、どうしても納得できませんでした。そもそもどうしてこんなことが起きているのかまで考えられていない。その気持ち悪さを何度も感じたことは、私の今の考え方につながるきっかけにはなっていると思います。

── その時の違和感が、今のSOLITに繋がっている。

はい。だから「勝手に決めつけない」「助けてあげようとしない」という前提で活動をしようと決めました。誰しもがどちらにもなりうる、すべてがグラデーションであるということを理解して、意思決定し続けたい。

それなので、SOLIT は「可哀想な人のための支援団体」になりたいとは一切思っていないんです。相手がどんな人であったとしても、私たちは変わらず選択肢を出し続ける。あくまで選択するのはあなたである。「あなたが可哀想な存在だから」とソリューションを押し付けることは絶対にしないというのが、私たちのスタンスなんです。

宗教や資本の代わりになるのは「美」かもしれない

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── 「助ける人 / 助けられる人」という既存の二項対立は、資本主義では当たり前の構造だったと思います。田中さんはそもそも、西洋の資本主義の「とにかく稼げ、とにかく成長しろ」という価値観に違和感を覚えたとおっしゃっていましたね。その違和感は、どこから来ているのでしょうか?

資本主義は近代に生まれたものですが、その前には宗教が根強くありました。特に一神教が強かったエリアでは「神様が見てくれている」という考え方があり、どんなに苦しい状況にある人でも、それが最後の幸福としてちゃんと残っていたと思うんです。

だけど近代から宗教の代わりに資本主義が広がって、「神様は信じているけれど、資本がないから幸せではない」という人が増えていった。結果、宗教がなくなり、神様の代わりにお金が信じられるようになった。それが今の苦しさの元になっているのだと感じています。

そんな現代において、お金ではない心のよりどころを作ったり、神様の代わりに自分を信じることができたりすればいいんですけど、そこまで強い人は多くない。また、資本主義を変えることも100年単位でも難しい......そこは悩んでいるところですね。

── 日本は特に無宗教だと言われていますね。だからこそあのような災害が起こったときに、「何かしなくちゃ」と思った先の解決方法が「お金」だけになってしまうのかもしれないなと思いました。

だけどもしそこに「神様」という視点があったら、違う行動になるかもしれない。「神様」が見ているという考え方があれば、そこで思考を止めることはないかもしれない。

田中さんはそんな現状に、お金でもない神様でもない軸を作ろうとされているのではないのかなと感じました。それって一体なんなのだろうなって......。

なんですかね? なんでしょう......。まだ答えがないからやり続けてるって感じはするんですけど......。

── とてもわかりにくいことですよね。

そうなんです。もう、伝えられないんです(笑)。

── でもそれがもしできたら、きっとぐっと社会が変わるんだろうなっていうのは、私も感じます。非常に難しいとは思うのですが。

はい、やっぱりすごく難しいことだなと、私も日々思っています。SOLIT自体が私たちの実現したい社会の縮図となるよう、メンバーとも日々いろんなことを話し合うのですが、小さい頃から学校教育で答えのあるものを教え込まれた私達にとって、「あなたはどう思う?」「あなたの意思はどこにあるの?」と聞かれることって、すごくしんどいことなんですよね。問われすぎると苦しくなる人もいますし。

その難しさは小さい単位でも痛感しているので、大きい単位になってくるともっと増えてくるだろうと感じています。

── 個人的に「多様性を大事にする」社会はとてもいいものだと思うのですが、逆にみんなすごく苦しいだろうとも思うんです。だって宗教がない今、信じるべきもの、よすがにすべきものが明確にはないし、お金以外に意思決定の基準ってどこにあるのだろう?という。それはどのように見つけていくのがいいんでしょうね。

深いため息しか出ないんですけど......(笑)、そうですね、すごく抽象的な言い方をすると「美の追求」だと思っています

── 美の追求?

物質やアートとしての美とはまた別の「美」ですね。自分の中にある「これは美しい」という感情にお金が負ける瞬間って、必ずあるじゃないですか。

例えば私の場合おばあちゃんが大好きで、おばあちゃんとハグをした瞬間に感じる温かみこそ「これは数億円かけても絶対に買えない、これだけは欲しい」と思うものなんですが、そういうものの良さをちゃんと繰り返しわかっておくこと、大切にすることの繰り返しな気がしているんですね。

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うちのメンバーに「いつか小説を書きたい」という人がいるのですが、以前その人と話している時に、「人から求められてお金になる言葉と、自分は美しいと思うのにお金にならない言葉、それらが全然違う場所にあるときに、諦めずに自分が大切だと感じるものを手放さないっていうのはすごく大事だよね」と話していて、確かにそうだよなと。

── 自分の中の美の感覚。それは、良心と言い換えるられるのかもしれないですね。教わったものというよりはもともと備わっているものに気づくというか......。そして今の小説を書くことについての例えがまさに、社会起業における葛藤を言い表しているのかなと感じました。

本当にそうですね。先ほど話した「助ける人 / 助けられる人」というカテゴライズは、非常にシンプルでわかりやすいし、よく社会起業家育成プログラムで教わることなんです。わかりやすいフォーマットを作り、顧客を設定し、PDCAの枠に落とし込む。だけどそうするとどんどんグラデーションの部分が抜け落ちていくんですよ。

私自身もそんな教育を受けてきたけど、ふとそんなに明確に「助ける人 / 助けられる人」と分けられるものではないと気づいたんです。みんなグラデーションの中にいて、いろんな層があるのに、それに気づけないまま「かわいそう→助ける→終わり」になってしまってた。この複雑性とかジレンマみたいなものをちゃんと理解しながら、それでもなおベターを選び続けることが大事なんだと思うようになりました。

だけどそんなふうにモヤモヤと悩みながらも、やはり心のどこかでソーシャルプレッシャーは感じるし、持続的に活動して生活していくためにもお金は必要です。モヤモヤと同時進行で事業もうまくやらなければと思うと、「ああ、果たして私は、いつどこで何をすべきなのか......」と思うことはよくありますね。

「甘い蜜を飲まずして水を飲むのだ」

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── 答えのない中で模索しながら、株式会社として存続する。それが「社会起業」というジャンルでなされていることだと思うのですが、その両輪を成り立たせる在り方とは、どういったものだと思われますか?

ビジネスモデルとして解決する手法を戦略的に行う、ということも1つにはあるのですが、それとは別に「この会社がこの世の中にあり続けてほしい」と願われる存在であることが大事だと思います。

お金や規模で勝負する事業がいっぱいある中で、「そこではなくて『n=1を大切にしよう』とする事業が、この世に一つでもないと心が荒んでしまうな」「馬鹿売れしてなくて全然いいから、こういう組織が残っていてほしいな」という存在ですね。

まさに自分がSOLITに対してそう思っているからこそ、SOLITを残し続けるため頑張っている。そんな願いと希望と期待によって成り立っている会社だからすごく儚くもあるんですけど、そう思ってくれているだろう人が徐々に増えていってるのは実感しています。

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『SOLIT! 』が出場するバンクーバー・ファッション・ウィークに向け、モデルたちの練習がはじまっている。写真は演劇手法に基づいた「心を開く」レッスン中の風景

私達だけが「こんな会社があった方がいい」と言っても多分続かないけれど、少しずつ資本主義や株主第一主義の崩れが表れ始めていて、それを感じている人が増えている。たくさん売られたくさん捨てられる服を買うのではなく、「この会社が世の中にあると嬉しい」と投資する感覚で服を買う人が増えてきているので、その流れに乗っている限り何とかなるのでは、と思います。

── それってまるで、街に美しい公園を作るみたいなことですよね。「駐車場にした方が儲かるけど、緑があって心地いい空間があったほうが嬉しいよね」という、みんなの願いで成り立っている。そのためには、公園自体をずっと美しく保たないといけないですよね。大変なことでもあるだろうなと思うんですけど。

もう修行ですよね(笑)。自分が少しでも自分や社会に対して嘘をついたなと感じると、公園が汚れてしまうので、「いかんいかん」と思いながらストップする。どんなにお金を積まれても、大手クライアントからのお声掛けがあっても、違和感があればちがう道を行き、その道を太くし続けること。「甘い蜜を飲まずして水を飲むのだ」という......本当に修行ですよね。

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── その「いかんいかん、こっちじゃない」っていう感度みたいなものって、どうやって鍛えられてるのでしょうか。例えばSOLITが「バンクーバー・ファッション・ウィーク(以下、VFW ※)」への出場に声をかけられたときも悩んでいたと書かれて いましたよね。

「私たちが、流行や既存市場での消費を促す意味合いも持つ"ファッションショー"に出場することは、果たしてベストな選択なのか。この出場が、オールインクルーシブな社会を実現する上でどのような意味を持つのか。そんな問いを発端に、メンバーと議論を重ね、悩みました。」

── こんなふうに違和感に敏感になり考え続けるのって難しいと思うのですが......。

私はいつも「何事も裏がある」と思うようにしているんです。「何事もいろいろな人が関わっていて、社会的な構造の中で起こっている」と。できる限り森を見ながら、木も蟻も空気も見ながら、ひとつの意思決定をするようにしている。だからそういう意味では意思決定のスピードが遅く、一度決めたら変えないタイプなんです。

── 「経営者の意思決定は速いほどいい」と言われますが、その逆を行かれていますね。

私から見てめちゃくちゃイケてる粋な人って、お金に目もくれず粛々と自分がやるべきことに集中されている方なんですね。バリ島にある助産院にロビン・リムという助産師さんがいらっしゃるんですが、その方は妊婦さんから一切お金をもらわずに、ただ「人は健康であるべき、人は幸せであるべき」という考え方に則って仕事をし続けているんです。全然儲かってないけれど、周りにいる全員が幸せそうなんですよ。

そういう人を見ると、私は有名な経営者になれなくて全然いいから、ちゃんと「これが正しいのだ」と正義感と倫理感を心に持ちながら生きていく人でありたいって思う。それは自分の中の心で決めていることですね。

── その助産師さんも「この世界にいてほしい」と思う人達がいるから、活動を続けていられるのかもしれません。今後、そういうふうに社会の価値観も変化していくのかもしれないですね。これまでは「儲かる」から投資してきたけれど、これからは「こういう会社(人)が世の中にあった方が素敵だよね」という気持ちで投資をするようになるかもしれない。

そうですね。お金の意味合いや使い方が、自分の幸福のためというより、全体最適や共通善のために使われるようになるのではないかと思います。そうなると、価格で価値を感じていた人が、ちゃんと自分の価値観に合わせて価値を決めていくことができるようになるんじゃないかなと。

答えがない中、ベターを探し続けるのが人生

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── それはまさにSOLITが目指している「自分で自分の生き方を選んでいく」社会ですね。だけど「自分の価値観を信じる」って、どうしたらできるようになるんでしょう。そこで悩んでいる方も、結構いらっしゃるのではと思うのですが。

私が言えるのは私がやってきたことだけなので、属人的な答えになるかもしれないんですけど......

「私は私らしい人生を歩まなくてはならないんだ」「私は幸福になるべきなんだ」って思っちゃうと、多分逆効果だと思うんですよね。別に幸せでなくてもいいし、完璧でなくてもいい。もっと言うと、自分らしい生き方すら見つからなくてもいいと思うんです。探せば探すほど、見つからなくなるものだと思うから。

── なるほど。

ただ頑張らなくてもいいから、「布団の中にい続けることだけはやめる」ってことは大事だと思います。何も変わらない、何も生まれないところにはいないほうがいい。例えば普段行かないところへ行くとか、食べたことがないものを食べるとか、なんでもいいので一つでも新しいものを出会っていくと「私、モンブランよりアイスが好きかも」と徐々に自分を知れると思うんですね。

恋愛や仕事でも、一回うまくいかなかったからもう終わりって考えるのではなく、この人・この会社は合わなかっただけだから他のタイプも試してみよう、と考えてみる。失敗してもいいから、ベターを見つけていく。私は自分に合うものを見つける旅に出ているんだ、これが人生なんだと思うくらいがいいのではないかと思います。

100%ハッピーなんてことは生きてるうちに実現するのは難しいし、いつまでたっても完璧などない。「ベターを見つけ続ける」ぐらいでいいんだと、私は思ってますね。

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── そのやり方は田中さんの会社経営の仕方でもありますね。悩み続けること自体が、もはやある種のモチベーションというか。

いい意味で「答えを見つける」ことを諦めているのも正直あると思います。世界が複雑に絡み合って明確なものなんて存在しないと痛感しているからこそ、答えはもうないんだって思っている。すべてにおいて、自分の中でのベターをセッティングするだけだと捉えていますね。

あと、「答えが出ないでいてほしい」と思う気持ちも多分あります。答えが出ない状態にロマンを感じるっていうんでしょうか。自分をまるで物語の主人公のように感じつつ、答えを見つけに行こうとする旅路が楽しい。その過程自体が楽しいと感じているんでしょうね。

終わりに

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「自分に合うものを見つける旅に出ているんだ、これが人生なんだ」

田中さんのお話を聞きながら、まさに彼女にとっては人生と経営がリンクしているのだろうと感じました。

複雑に絡み合い、影響し合い、答えの見出せないこの世界。
その中にいるとつい目を背けたくなったり、考えるのをやめたくなってしまいます。
だけど「答えはない」と諦めつつも、「よりベターを見つけ続ける」......
彼女の経営のやり方は、不確実で答えのない今における、一つの真摯な生き方のように感じました。

宗教でもなく、お金でもない。これから信じて進むべき軸とはなんだろう?

社会起業家に抱える一つの大きな葛藤は、もしかしたらこの問いなのかもしれません。
彼女はそこに「美」と答えてくれました。お金では買えない、自分の中の美。

その美を追求するために、今日も「甘い蜜」ではなく「水」を飲む。
そんな彼女の姿がこれからもSOLITそのものを作り、お金ではない資本を集めていくのだと思います。

\ さっそくアクションしよう /

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サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

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