「ラップもゲームも海も、まずは楽しんでみる」加山雄三が海から学んだ''人生の指針''

"海の男"といえば、誰を思い浮かべますか?
いろいろな人が挙がりそうですが......そのなかでも「元祖」的存在といえば、加山雄三さんではないでしょうか。

2019年3月、加山雄三さんと日本セーリング連盟が「海 その愛基金 海洋環境クリーンプロジェクト」をスタートさせることを発表しました。
このプロジェクトは、工業製品や海洋ゴミなどから出た「マイクロプラスチック(微小なプラスチック粒子)」などによって汚染された海の再生を目指すというもの。
海洋汚染の現状に心を痛めた加山さんが、コンサート収益の一部などから基金を設置し、啓蒙のためのビデオメッセージ作成や小学校への訪問授業を行います。

「海の豊かさを守ろう」をキャッチフレーズに掲げる「Gyoppy!」としては、注目せざるを得ません。
加山さんと海にはどのようなつながりがあるのか? どんな思いで「海の再生」に取り組もうとしているのか?
「元祖・海の男」の胸中を聞いてきました。
小学4年で船の設計を始める。造船に魅せられた少年時代

── まずは加山さんと海との関わりのはじまりからお伺いしたいのですが......。
はじまりも何も、僕の場合は物心ついたら茅ヶ崎の海があったからね。
3歳くらいのころには、海っぺりにすっぱだかで放り出されてたんだから(笑)。海パンじゃなくてすっぱだかなのがイヤだったねえ。
それで、自分でなんとかしようと思ったんだろうね。海パンのかわりにワカメを巻いてる写真が残ってるんだよ(笑)。

子どものころは、とにかくずっと海で遊んでた。島まで泳いでいっちゃったりさ。
── 幼いうちから、ご自身で船を設計していた......というエピソードを聞いたのですが、本当なんでしょうか?
そうなんだよ! 小学校4年生のときかなあ、家の斜め前に東京商船大(現・東京海洋大)の学生さんが住んでて、算数の家庭教師やってもらってたんだ。
彼は設計科だったから、船の設計図をいろいろ見せてもらって。「おもしれえ!」と思って自分でマネして描きはじめたんだよ。
── そこから、実際に設計までしてしまったんですか?
うん、14歳くらいになったら、実際に造ってみたくなった。それで材木屋にいって友だちと3人で木を削ったり、水が漏れないように加工したり......。
── すごい行動力ですね。
やっぱり楽しかったんだよなあ。
今でも覚えてるけど、家の近くの砂山に、雨が降ると水溜りができるところがあったんだ。
そこに造った船を浮かべたら......浮いたんだよ! あれはうれしかったね。

しかも、2人乗っても平気だった! それで自信がついちゃって、高校卒業するまでに8隻も船を造った。
大学に入ったらモーターボートを造りたくなってね。親父に「エンジンを買ってくれ」って頼み込んだ。
── 今の大学生だったら「車がほしい」とかでしょうか......。加山さんにとってはそれが「エンジン」。
米軍基地に出入りしてる業者が「中古のエンジンがある」「40馬力の"マーキュリー"ってエンジンだ」って言うから見に行ったんだよ。
そのエンジンが25万円。でも、そんな金はない。
── どうやって手に入れたんでしょう?
うんうん唸りながら業者の夫婦と交渉してたら、おカミさんが外に出かけていったんだよ。
そこでまた「なんとか安くならないか」って言ったら「実はカミさんがうるさくてね......。今のうちなら20万円でいいよ」って(笑)。
── すごい幸運が!
捨て猫や捨て犬と一緒に船上へ......。「光進丸」での、思い出深い生活

そのあと、1964年に自分で設計してできたのが「光進丸(こうしんまる)」。
台所も風呂もついてて、生活用具からギターまで何でもそろってたんだ。
── あの、昨年"3代目"が燃えてしまったという......。
そうそう、あれはもう神様が「いつまでも船で遊んでるんじゃない」って言ってるのかなと思ってね。今回のプロジェクトはそこから始まったんだけど。
初代の光進丸っていえば思い出深いのは、江ノ島の桟橋に、捨て猫や捨て犬がいるんだよ。
それを見てかわいそうだなーと思ってね。船に乗せて、一緒に生活するようになった。

── 動物たちと船の上で......! 最高の生活じゃないですか。
そこから仕事へ通ったこともあるからね。テレビ局とかコンサートへも行ったよ。
── 家と同じように生活できるものなんですね。
うん、何も変わらずできる。
── 船の上からコンサートに行くと、やっぱりテンションが上がるものですか?
いやあ、テンションもなにもないよ。船は「生活」だからね。
── 「生活」かあ......。

3日間の漂流......「自分の人生に責任を持つ」という生き様を考えるように
── 加山さんにとって海は、まさに生活であり遊び場だったんですね。そんな半生を通して、「海から学んだこと」は何ですか?
海と触れることで、「自分の生き様」を考えるようになったと思うんだ。

── 生き様ですか。どういうことでしょう?
若いころ、1人で船に乗っていて、3日間漂流したことがあって。
── ええっ!!
値切って買った「マーキュリー」がエンジントラブル起こしちゃってさ。
海の上に浮かびながら、エンジン全部バラして掃除して。それで、また組み立てたら、「あれ? 部品が一個余ったなあ......」って(笑)。
── それ、おいくつくらいのときですか?
まだ大学生くらい。体力があるときでよかったよね。
おかしいな、おかしいな、と3日間海を漂流しながらいろいろ試してみて、3日目になって
なんとか動いた。
どこにいるかわかんないくらい沖に流されてて。岸を目指したら、どうやら銚子(千葉県)の近くにいるらしいってわかったんだ。調子っぱずれの銚子だよ!

── その漂流体験から、どんなことを考えたんでしょうか?
まず、「自分の命、人生には自分で責任を持たなきゃいけないんだ」と痛感したんだ。
そして、責任を持って生きていくためには、"知らなきゃいけない"。
── 生きていくために「知る」。
そう。たとえば天候についてだったり、機械についてだったり、知らないことがミステイクにつながるんだ。だから、自分が知らないことは、なんだって素直な心で吸収しなきゃいけない。
それから天気図を自分でとるようになったり、文明の利器がいっぱいあるけど「電気がなくなったらどうするか?」と常に考えたりするようになった。
── 自分の身体で生きていくことを意識するようになったと。
うん。でも、思えば漁師さんは昔からそういうことを言っててね。
たとえば、沖に出て、霧でまわりが見えなくなったらどうすればいいと思う?
── 電子機器もなくってことですよね? うーん、見当もつかないです......。
自分が昔教わったのは、「できるだけ目線を水面に近づければ、水面付近には霧がないから見える」ってこと。
そういう「without文明」の感覚が、海に出てるとピンとくるんだよな。

漁師たちとの交流で、「フラットに仲間をつくること」の喜びを知る
もうひとつ、すばらしい漁師さんたちをいっぱい見てきて、「おおらかな気持ちで、仲間をつくること」を教えてもらったよね。
台風のとき、漁港に停泊してると、いろんな港から来た船が避難しにくるんだよ。焼津だとか清水だとか......。
それで僕を見つけるとさ、「やー、加山さんじゃねえの?」って話しかけてくるんだ。
「そうだよ」「加山さん、こんないい船持ってるんだあ」なんて話しはじめて。
それで「一杯やるか」ってことになって、飲みはじめるんだよ。
── 船の上でですか! 漫画みたいだな......。
そしたらものすごい飲んじゃってね。ベロベロだから、その漁師が自分の船に戻っていくとき、「大丈夫かな?」って思うんだけど、桟橋の板に乗ったとたん「スッ!」として、パッパッと歩いて帰った。「さすがだな、これがプロだな」と思ったよ。
そのかわり、次の日昼の12時になってもその船が出ていかない。僕と飲んだために出られなくなっちゃったんだ(笑)。

まあ、たまにそういうこともあるんだけど、自分の仕事を自分で守り、みんなたったひとりで戦ってるんだよ。
そうやって、おおらかな付き合いをして仲間をつくることの喜びっていうのは、海にいたから知った気がするなあ。
海も、ラップも......「自分に関係ない」と思わず、まずは遊んでみる
── そうか......。加山さんは、ラッパーのPUNPEEさんと共演したり、若い世代のミュージシャンともフラットに交流されていますよね。海を通じて学んだ「おおらかな付き合い」を実践されてるんですね。

そうだね、海と同じで、まずは遊んでみること。なんでも楽しんでみることなんだよ。
ラップだって「自分には関係ない」なんて思わないで、「カッコいい!」と思ったからリミックスしてもらったんだ。
今、「海に興味がない」っていう若い人が増えてるらしいんだけど、「都会で生活してるから自分は関係ない」って思わないで、まずは遊んで、海と友だちになってほしい。
── 今回発表された基金の活動で、フェス会場でのワークショップ(*1)や、コンサートの売上の一部を寄付するという活動もされるようですね。
そう。みんながフェスやコンサートのチケットを買ってくれて、そこから寄付っていうかたちで海の再生に取り組んだら、みんなにとっても、もう「関係ない」じゃなくなるよね。
まわりまわって、"すべての人の意識改革"になるんじゃないかと思ってます。
(*1由比ヶ浜「ビーチクリーン&ライブ」、横浜赤レンガ倉庫「GREEN ROOM FESTIVAL」、代々木公園野外音楽堂「OCEAN PEOPLE」で、海を知るためのワークショップを開催)

── 「関係ない」と断ち切らずにまずは遊ぶ......。少年時代に船を自作してみたりするエピソードから考えても、加山さんはずっと「なんでも遊んでみる」スタイルなんですね。
うん。目の前に海があったから、そのまま楽しんでたわけ。
でも、それは今ではぜいたくなことかもしれないね。
今はいろんなものがあるからね。「そのまま楽しむ」っていうことがみんなわからないんだな。
── それは、子どものころからゲームなどの遊びがまわりにあふれているからってことでしょうか?
まっ、それがダメってこともないか! 僕もゲームにハマるからね。『バイオハザード』なんか随分やったよ。
── あ、加山さんが実はゲーマーだっていう噂は本当だったんですね......。
『バイオハザード』は最近「VR」っていうのが出てさあ。やりすぎると疲れちゃうんだ。
── VR酔いというやつですか。
いやいや! 船乗りはあんなので酔わないよ!(笑)
── ......さすがです!

終わりに
加山さんのお話からは、「自分が多くのものを学んだ海を救いたい」「みんなに、海との接点を持ってほしい」という熱意がひしひしと伝わってきました。
とかく一次産業のことを「関係ない」と考えてしまいがちな我々を、「フェスに参加するだけで、もう『関係ない』じゃなくなるんだ」とつなげるエネルギー。純粋にリスペクトの念が湧き上がってきます。
最後に、加山さんがそこまでポジティブかつ精力的に活動できる秘訣を聞いてみると......。
「精力的? 海に行けば簡単になれるよ。だって海に行ったらでかい声でしゃべらなけりゃ通じないじゃん! 声帯は丈夫になるし、いいことばっかりだよ!」

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文・取材天野俊吉(新R25副編集長)
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撮影黒羽政士
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