なぜシシャモはメスばかりなのか?
お腹に卵をふっくらと抱えた干しシシャモ。人気の焼き魚ですよね。 シシャモには、北海道で漁獲されるシシャモと、ノルウェー、アイスランド、カナダなどから輸入されるカラフトシシャモの2種類があります。
スーパーの鮮魚売り場で、シシャモはお腹一杯に卵を抱えたメスばかりが売られているのを見て、「なぜオスは売られていないのだろう」と、不思議に思う方もいるでしょう。
さらに、ネットでシシャモを検索してみると、その理由に「(オスの)お腹に卵が注入されている(メスとして売られている)」といった情報も出てきます。
「人工卵や他の魚の卵を使っている?」「メスだけで回遊している?」「本当はオス?」
実際はどうなのでしょうか?
子持ちシシャモ(カラフトシシャモ)はどうやって加工されているのか?
ここでは、供給量の大半を占めるカラフトシシャモについて解説します。 産卵に備えたシシャモのメスは、オスと一緒に回遊しており、一緒に漁獲されます。
一般的に成魚のシシャモは、メスよりオスの方が大きくなります。
雌雄は産卵期の1か月ほど前までは区別が付きにくいのですが、メスの産卵が近づくにつれて、オスは黒っぽくなり婚姻色が表れてきます。
上の写真は左が産卵期以前のオス、右は産卵期前後のオスです。さらにオスは体の側面に、メスを挟んで産卵を促すためのゼリー状のものができ始めます。
オスはメスに比べて大きいだけでなく、このゼリー状の物質が加わることで、メスの体の幅より大きくなります。
この魚の幅で、選別機によりオスとメスが選別されているのです。
上の写真はノルウェーでの生産現場。1時間に50トンのシシャモがオスとメスに選別されていきます。
卵が腹に注射されている?
冒頭の都市伝説、「卵がお腹に注射されている」ことはまずありません。
オスに卵を注入しようとしても、そもそもオスの腹の中には白子が入っています。
また、見た目がメスと違うオスに卵が入っていれば違和感があるでしょう。仮に卵を注入するとしても、適当な原料は見当たりません。
このような話は、イワシの腹に明太子を詰める「イワシめんたい」や子持ちイカなどの製品があることなどから派生したのではないかと思われます。
オスは捨てられている?
20年以上前、オスの食用としての価値が低かった頃には、メスを選別したあとにフィッシュミール向けにされることが多かった時期もありました。アイスランドやノルウェーでは、海上での投棄を禁止していますし、かつフィッシュミール向けの原料としての価値があるので、捨てるという選択肢はなかったのです。
また、日本人は卵を持ったメスを好みますが、ロシア・東欧などのオスを好む市場開拓が行われた結果、産卵直前で婚姻色が強く黒くなったオスを除き、今ではオスの食用市場が出来上がっています。
最近は日本でも、上の写真のように、オスを開いて味醂干しに加工した製品の人気が高まっています。
北欧シシャモ資源の復活と心配な日本のシシャモ資源
水産資源管理の観点から、アイスランドでは2018年、ノルウェーでは2019年にシシャモ漁が禁漁になっていました。
シシャモ自体はたくさんいるのですが、科学的根拠に基づき、前者で産卵親魚を15万トン、後者では20万トンを残すというルールがあります。
マダラなど他の魚などに捕食される数量も考慮されています。しかもその達成率は95%以上という厳格なもの。
アイスランドでは2021年シーズンのシシャモ漁解禁が決まりました。また2022年にはさらに多くの水揚げが行われる見通しとなっています。
ノルウェーでも資源が回復しているという報告が出ており、解禁はそう遠くないでしょう。
一方で心配されるのは、日本のシシャモの資源です。
2020年に北海道で水揚げされたシシャモは295トンと、記録が残る30年余りでは最低の水揚げ量となっています。
日本では、2020年12月1日に改正漁業法が施行されました。
日本のシシャモも科学的根拠に基づく水産資源管理の実施によって、資源が回復してほしいですね。
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