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「脱石炭」の次は「脱プラ」 金融機関への圧力強めるESG投資家

猪瀬聖(Yahoo!ニュース 個人)

(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

世界の環境保護活動家やESG(社会的責任投資)を重視する投資家らが、金融機関によるプラスチック産業への融資に監視の目を強めている。プラスチック製品、とりわけ使い捨てを前提としたプラ製品の氾濫が、地球温暖化や深刻な海洋汚染の大きな原因になっているとの認識が広がっているためだ。日本の3メガバンクは2020年、国際的な圧力を受けて石炭火力発電への新規融資をしない方針を打ち出したが、今度は、プラスチック業界との取引が批判される可能性が出てきた。

ゴア元米副大統領が序文を執筆

オーストラリアの非営利団体「ミンダルー財団」は今月、「プラスチックごみの生産者索引」と題した報告書を発表した。英オックスフォード大学やスウェーデンのストックホルム環境研究所の研究者らの協力を得てまとめたもので、世界の主要化学メーカーや資産運用会社、および金融機関が、使い捨てプラ製品の生産にどれくらい寄与しているかを示した。元米副大統領のアル・ゴア氏が序文を書いている。

報告書は特に、食品や飲料の包装容器など使い捨てプラ製品の原材料となる中間製品の「ポリマー」に着目。使い捨てプラ製品に関する統計や報告書はこれまでもあったが、使い捨てプラ製品向けのポリマーに絞った詳細な報告書は初めてという。英国のガーディアン紙やBBC、米国のニューヨーク・タイムズ紙やCNNがその内容を一斉に報じるなど、欧米諸国の関心を引いている。

報告書では、ポリマーの主要製造業者として、米石油メジャーのエクソンモービルや米国の化学大手ダウ、中国の国営石油企業シノペックなど、世界的な大企業が名を連ねた。上位20社で世界の使い捨てプラごみの55%を生産していると指摘している。

また、ポリマー製造企業に投融資している資産運用会社や金融機関も、投融資額のどれくらいがポリマーの生産に寄与しているかを推計した上でランキング。資産運用会社は、米バンガード・グループ、米ブラックロック、米キャピタル・グループが、金融機関では英バークレイズ、英HSBC、米バンク・オブ・アメリカが、それぞれトップ3だった。

3メガバンクが上位にランクイン

それぞれの上位20社を見ると、日本企業は製造業者としては入っていなかったが、製造企業に投資する資産運用会社としては三井住友信託銀行が18位、製造企業に融資する金融機関としては、三菱UFJファイナンシャル・グループ、SMBCグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクが6、7、8位と、比較的上位に仲良く並んだ。

欧米企業と比較すると、日本企業は使い捨てプラ製品の生産への寄与度がけっして突出しているわけではない。しかし、日本は、国全体の使い捨てプラごみの排出量が中国、米国、インドに次いで世界ワースト4位、一人当たりの排出量は、主要国の中ではオーストラリア、米国、韓国、英国に次ぐワースト5位となるなど、使い捨てプラごみ大国なだけに、日本企業に対して風当たりが強まる可能性は否定できない。

報告書は、使い捨てプラごみは世界のプラごみの大半を占め、海や川に投棄されて、ウミガメをはじめ様々な野生生物の生存を脅かしているほか、使い捨てプラ製品に添加されている可塑(そ)剤が人の生殖機能に影響を及ぼす疑いがあるなど、そのコストは「莫大」だと強調。さらに、使い捨てプラ製品の「98%は化石燃料から作られている」として、このまま生産され続ければ、「2050年までに世界の温室効果ガス排出量の5~10%を占めるようになる」と警告している。

こうした重大な弊害があるにもかかわらず、各国政府のプラごみ対策はもっぱら末端のプラ製品が対象だったと報告書は指摘。環境汚染や地球温暖化を食い止めるためには、「プラごみを再利用したポリマーの生産や、繰り返し使用できるリユース容器の利用拡大、ポリマーに代わる新しい素材の開発を進めるべきだ」と提言している。

「銀行は見境なく融資」

金融機関によるプラスチック産業への投融資を問題視しているのは、ミンダルー財団だけではない。2021年1月には、金融機関を監視する環境保護グループ「ポートフォリオ・アース」が、銀行によるプラスチック関連融資の実態や環境への影響をまとめた報告書「プラスチックへの融資」を発表している。

報告書は、プラスチックの素材メーカーや最終製品メーカー、プラ製品を大量に使用する食品企業、小売店など主要40企業に対し、世界の金融機関が過去5年間でどれくらい融資したかを調べ、ランキングを作成。40企業はほぼ欧米企業だが、日本からみずほが11位、三菱UFJが12位、SMBCが16位にランクインした。また、国別にまとめると、日本の3メガバンクによるプラスチック関連融資は世界全体の7.7%を占め、日本は米国の46.4%、英国の15.5%に次ぐ融資国となっている。

ポートフォリオ・アースは「銀行は、世界のプラスチック汚染に自分たちが果たしている役割を認識せずに、プラスチックの利用拡大に貢献している企業に見境なく融資している」と批判。そして、銀行に対しては社会的責任を果たしている企業を選別して融資するよう要求し、各国政府に対しては銀行の社会的責任を強化するよう求め、プラ製品を製造や利用している企業に対しては、プラごみを再利用したプラ製品の製造・利用の推進と、リユース容器の開発・活用を訴えている。

ポートフォリオ・アースの報告書を取り上げた米金融業界紙アメリカン・バンカーは、「銀行は近年、化石燃料業界への融資を減らすよう投資家や環境保護グループから圧力を受けてきたが、今度は、プラスチック業界との関係を見直すよう求められている」と報じるとともに、銀行の中にはすでに、プラごみ問題に取り組み始めているところもあるとも伝えている。

ミンダルー財団とポートフォリオ・アースが共に提案しているリユース容器の利用に関しては、日本でもスーパー大手のイオンが2021年5月25日からリユース容器を使った商品の販売を首都圏の店舗で始めるなど、世界的に取り組みが広がり始めている。金融機関にはそうした取り組みへの支援も求められることになりそうだ。

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