気候変動や資源枯渇を懸念し子供を望まない若者、欧米でじわり増加
「子供を育てる経済的余裕がない」「キャリアを優先したい」「単に子供が好きではない」――。従来はこれらが、子供を持ちたくない理由の1つだった。しかし、欧米では近年、気候変動や資源枯渇への懸念から、そのような選択をする若者が増えているという。環境意識が高まる中、温室効果ガスを排出し、資源を消費する人間をつくらないことで、こうした問題を軽減できるとの考え方が広がっているためとみられる。
「人間をつくれば気候変動が深刻化」
「なぜ私が消費者を増やさなければならないのか」。マノンという26歳の女性はこのほど、フランスの国際ニュース専門テレビ局フランス24の取材に対し、子供を望まない理由についてこう答えた。「西欧諸国では、利用可能な量よりも多くの資源を消費している」と主張する。水や石油といった資源を大量に使うであろう子供を産むことで、資源が枯渇してしまうことを懸念しているようだ。フランス24は「環境問題を理由に子供を持たない選択をする若者が増えている」と報告している。
英調査会社ユーガブが2020年1月に公表した世論調査結果によると、同国では、子供を欲しない35歳未満の成人の10人に1人が、子供をつくることで気候変動が悪化するとの懸念を抱いており、7人に1人が、世界人口がさらに増えることを憂慮している。
米国でも、環境悪化への懸念を理由に子供を望まない若者が存在する。米情報サイトビジネス・インサイダーが2019年に実施した世論調査によると、18~29歳の米国人の38%が、子供を持つかどうかを決める際に「気候変動を考慮すべき」だと考えている。一方で、30~44歳は34%、45~60歳は25%、60歳超は20%にとどまっており、若い世代ほど、気候変動への関心が高いことが示された。
米アリゾナ大は、気候変動を理由に子供をつくりたくない人々が、具体的にどのような懸念を抱いているのかについて、18~35歳の成人へのインタビューなどを基に調査。2021年4月に発表した調査結果によると、インタビュー参加者のほぼ全てが「子供が二酸化炭素の排出量を増加させ、気候変動を悪化させてしまうことや、食料や水といった資源を乱用すること」を懸念していると回答した。人間(子供)を増やすことで、気候変動や資源の枯渇が進むとみている。今よりも過酷な環境になり、子供に苦労させてしまうことを憂慮する声も多かった。子供を持つとしても、3人以上は人口が増えてしまうため、問題だという意見もあったという。著者は、子供を持ちたいかどうかを考える際に、気候変動を念頭に置く人が増えていると指摘する。
ごみの増加に直面も
こうした若者の思考に一定の影響を与えているのが「子供をつくらないことが、気候変動や資源問題を緩和するための最善策である」と思わせるような調査研究だ。
2017年にスウェーデンのルンド大が発表し、欧米のメディアに度々引用されている研究によると、日本を含む先進国では、子供を1人少なくすることで、温室効果ガスの排出量を二酸化炭素(CO2)換算で年間58.6トン減らせる。車なしの生活(2.4トン)や植物ベースの食事(0.8トン)といった他の行動ではさほど削減できず、子供をつくらないことが、最も効果的に温室効果ガスを減らせる行動であることを示した。
国連は世界の人口について、2019年の77億人から2050年に97億人、2100年には109億人へ増えると予測する。一方で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2021年8月に発表した報告書で、人間活動により地球温暖化が進んでいることについて「疑う余地がない」と初めて断定した。単純に考えれば、人口の増加に伴い、温室効果ガスの排出量が増え、気候変動が深刻化する恐れがある。
また、国連は2020年版の「世界食料農業白書」で、世界人口の増加や気候変動が続けば、水不足が各地で深刻化し、食料生産に支障が生じると指摘。多くの人々が食料を入手できなくなると警鐘を鳴らした。世界の1人当たりの利用可能淡水量は、人口増に伴う水の需要増加により、2017年までの20年間で20%以上も減少したという。
ごみの増加も懸念される。世界銀行は2018年に発表した報告書で、人口の増加や経済発展により、世界の廃棄物発生量は2016年の20億トンから2050年に34億トンに増えると予測した。こうした研究結果やその報道が「温室効果ガスの排出源であり、資源の消費者である人間が増えれば、気候変動や資源問題などが深刻化し、人間(子供)をつくらなければ問題が軽減される」との考えを広げている可能性がある。
ヘンリー英王子は「子供は最大2人」と表明
有名人による発言も、ある程度影響を与えているとみられる。エリザベス英女王の孫ヘンリー王子は、ファッション誌「ヴォーグ」英国版のインタビューで、子供は最大で2人しか持たない考えを明らかにした。人口が増えることにより、地球温暖化が進み、水などの天然資源をめぐる争いが激化すると考えているためだ。米歌手マイリー・サイラス氏はファッション誌「エル」のインタビューで「われわれは粗悪な地球を渡されている。それを自分の子供に引き継がせたくない」と述べ、子供を産まない意向を表明している。
われわれは、好きな時に好きな物が買えて、家電が大半の家事をやってくれる便利で快適な生活を送っている。一方で、商品の製造過程などで大量の資源やエネルギーを使用し、水や大気を汚染し、温室効果ガスや自然分解されないごみを生み出している。われわれの子孫が将来、今の生活水準を維持しながら、環境に一切負荷を与えずに暮らしていくことは、かなり難しいように思える。
環境に一定の負担をかけてしまう人間を自主的に減らしていくのか、物質的に豊かな生活をある程度手放してでも環境への影響を最小限に抑えていくのか。真剣に議論すべきなのかもしれない。
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文デハーン 英利子
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