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今はDEIを縮小すべき時か|圧力に負けず企業が前進するために

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アメリカ、インド、南アフリカなどの政策にも取り入れられ、世界に広まりつつある「アファーマティブ・アクション」。これは、長きにわたる差別により不当な扱いを受けてきた女性たちをはじめとするマイノリティに、教育や雇用の機会を意図的に増やすことで格差是正を試みる、DEI促進を目的とした取り組みです。しかし2023年、米国最高裁判所による判決(※1)で、大学入試におけるアファーマティブ・アクションが禁止となりました。この決定を受け、アメリカのビジネス界では、企業のDEI推進プログラムが法的に問題視される可能性についての議論が巻き起こりました。現時点では大学入試のみが禁止対象であるものの、多くの企業が推し進めようとしている多様な人材の採用が、法的な問題にまで発展する(※2)可能性はゼロではないと専門家は警告しています。

アメリカ合衆国最高裁判所
アメリカ合衆国最高裁判所
Mathieu Landretti,CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

DEIを批判する人々と企業への影響

イーロン・マスク氏は、DEIを「人種および性差別的である」と批判し、反DEI活動家であるロビー・スターバック氏のような人物に多大な影響を与えました。スターバック氏は、企業に対し「公平性や社会正義ばかりを意識し過ぎてはならない」として、企業に対しDEIの推進を中止するよう公然と圧力をかけてきました。そしてLowe'sやJohn Deere、Walmart、Fordなど一部の大手企業は、社会的圧力や法的リスクを考慮し、DEI施策の縮小を決断するに至りました。

アメリカ合衆国最高裁判所
ケビン・マッカーシー元下院議員と会話をするイーロン・マスク氏

マスク氏やスターバック氏のような反DEI派の人々は、DEIの代わりの概念としてMEI(Merit, Excellence, and Intelligence:実力、優秀さ、知性)を提唱しています。しかし世の中の制度的な問題により、人々に均等な機会が与えられていないということを、彼らは軽視しています。フォーチュン誌の指摘にあるように(※3)、DEIにより公平な競争環境を整備し、公正な職場環境を促進することは、MEIを実現するためにも必要不可欠です。

長期的な取り組みへの覚悟

DEIの概念自体は、現代社会において常に前向きに受け入れられてきました。そして2020年にジョージ・フロイド氏やブリオナ・テイラー氏(※4)らアフリカ系アメリカ人が理不尽な死を遂げる事件が連続し、人種差別に対する社会的抗議が高まったことで、DEIへの注目度が一気に高まったのです。大企業の多くはこれに合わせ、黒人従業員の利益を守るためにDEI推進の方向性を積極的に打ち出し、全ての従業員にとって安全な職場環境を整える取り組みを発表しました。しかしわずか数年後、Google、Zoom、Uberなどの有名企業では、すでにDEI部門が縮小され始めています。企業がDEIへの取り組みを縮小し、関連の役職を次々と廃止したことで、それまで従業員リソースグループ(ERG)と経営層を繋いできた要の人物たちも失うこととなり(※5)、その活動に支障をきたしています。それのみならず、DEIのプログラムにも修正が入り、中には「DEI」から「E(Equity:公平性)」が削除され「DI」に改変される事態も起こっています。

Anthony Quintano, CC BY 2.0 via Flickr
Anthony Quintano,CC BY 2.0 via Flickr

2020年に加速したDEIの勢いに乗り、各社はDEIを前面に打ち出したアピールを行い、社会の注目を集めました。しかしアメリカの大手金融機関、Wells Fargoは、2020年にDEIへの取り組みを改めて表明したにも関わらず、女性や有色人種の就職希望者と「形だけの面接」を行い(※6)、実際にはその中から誰も採用しなかったことが明るみに出ました。面接を行ったのは企業PRのための見せかけで、DEIへの具体的な取り組みは機能していなかったということです。このような企業は、そもそもDEIの原則に真剣に向き合うだけの文化が社内に醸成されていなかったと、専門家は指摘しています(※7)。

好業績の企業に見るDEIの継続的な拡大戦略

一方、JPMorganやChase、MasterCardなど「フォーチュン500」に名を連ねる企業の中には、右翼団体からの批判を受けながらも、DEI推進に対する強い姿勢を崩さない(※8)企業もあります。こういった企業の経営幹部は、DEIへの取り組みは必ずや企業や投資家にとって利益につながると明確に述べています。

DEIに反対する動きは最近始まったばかりであり、企業のDEI部門を縮小することが今後どのような影響をもたらすかはまだ不透明です。しかし、一度DEIの推進活動が中断してしまうと、実現まで未だ道半ばである公平性の問題が更に長引く可能性があります。DEIの弱体化はまた、企業の売上にまで影響を及ぼしかねません。これは、特に購買力がある消費者層(※9)がDEIに敏感であることに関係しています。彼らは商品やサービスの購入時に、その企業がどれだけDEIに真摯に取り組んでいるか、商品からどれだけそれを感じ取れるかを基準にし、購入を決める傾向があるためです。

アメリカのビジネス界にとって、今このタイミングでDEI推進から撤退することは決して得策ではありません。成長を続けるビジネス環境において、公平な採用機会を提供し、多様性のある従業員を雇用する企業は、従業員の定着率や満足度も上がり、最終的には投資利益率(ROI)の向上も期待できます。優秀な人材は、多様な人々の中に存在します。有色人種、障がい者、LGBTQ+、女性、移民など、多様なバックグラウンドを持つ人々の様々な経験を軽視してしまっては、企業として得るものはありません。DEIを後退させることがすべての人々にとっての損失となり得ることを、ビジネス界はしっかりと認識すべきです。

  • 執筆 M. Chaza   翻訳・編集 K. Tanabe

元記事はこちら
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