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ミツバチが減るとどうなる? 研究者・長谷川のんのさんが考える生物多様性の大切さ

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花の蜜を巣に集め、蜂蜜をつくるミツバチ。国連食糧農業機関によると、なんと世界の農作物の3分の1以上はミツバチが受粉しています。愛らしい見た目からアニメのキャラクターなどでも親しまれてきましたが、私たちの生活になくてはならない存在なのです。

ですが、そのミツバチが近年減りつつあると、研究者の長谷川のんのさんは話します。長谷川さんは沖縄科学技術大学院大学(OIST)の博士課程で、減少の原因を解明する研究に取り組んできました。博士課程を始めて間もない頃、ミツバチに寄生するダニに関する論文をまとめ、世界的な科学雑誌に掲載されるなど、優れた研究成果をあげています。

なぜ今、ミツバチは減っているのでしょうか。私たちの生活や生態系への影響は? 長谷川さんに、ミツバチの今、そして研究への情熱と葛藤を聞きました。

INDEX

  1. 寄生虫とウイルスによってセイヨウミツバチが急減
  2. 「養蜂をやめる」は「電気をやめる」と同じ。研究者として抱える葛藤
  3. サステナビリティとは、中間地点を探し続けること

寄生虫とウイルスによってセイヨウミツバチが急減

青い海が輝く沖縄屈指のリゾート地、恩納村。この自然豊かな村に位置する沖縄科学技術大学院大学(OIST)には、最先端の研究に取り組む人材が世界各国から集まります。ここで長谷川のんのさんが取り組む主なテーマは、ミツバチの世界的な減少です。

沖縄科学技術大学院大学

なぜ、ミツバチは減っているのでしょうか。減少の理由を知るにはまず、ミツバチと人間の関わりを知る必要があります。

「私が主に扱っているのは、セイヨウミツバチです。もともとアフリカ、ヨーロッパで自生していた種ですが、近代の農業革命に伴い、20世紀半ばから世界各地で養蜂に使われるようになりました。そうして人間の管理のもと、数を増やしてきたんです」。

研究に取り組む様子(ご本人提供)
研究に取り組む様子(ご本人提供)

養蜂は農作物の栽培に大きな役割を果たしています。イチゴの栽培一つとっても、ミツバチが受粉することでイチゴが成長し、甘くおいしくなるのです。この養蜂に適した特徴を備えているのが、セイヨウミツバチ。私たちの生活を豊かにしてくれている反面、生育地域が拡大して、在来種のミツバチを追いやってきた面があると長谷川さんは解説します。

「セイヨウミツバチは、他のミツバチと比べていろんな種類の花を蜜源とすることができます。巣が大きくてハチの数が多いですし、距離に関しては諸説ありますが、巣から半径3kmという遠方まで飛べて、蜜をつくるのも上手。だから養蜂に使われるようになったんです。セイヨウミツバチが増えて在来種のミツバチは競争に負け、数を減らしてきました」。

長谷川のんのさん

そんな中、今度はセイヨウミツバチが寄生虫とウイルスによって急減しています。その背景にも養蜂が関わっているのです。

「ウイルスを運ぶミツバチヘギイタダニというダニが、セイヨウミツバチに寄生しています。このダニはもともとトウヨウミツバチに寄生していて、何千年もの間、両者は共存関係を築いてきました。トウヨウミツバチは、自分自身をグルーミングしてダニを取り払う行為をはじめ、耐性があります。一方セイヨウミツバチは、トウヨウミツバチが共生の中で築いてきた耐性がそこまでありません。養蜂のために生育地域が増える中、ダニとウイルスの被害を受けるようになりました。これは、この数十年の間に起きている現象です」。

ミツバチヘギイタダニに寄生されたセイヨウミツバチ
ミツバチヘギイタダニに寄生されたセイヨウミツバチ。ミツバチの大きさに対してダニが大きいことがわかります(ご本人提供)

例えば、ダニが持ち込むチヂレバネウイルスにかかったセイヨウミツバチは、羽が縮れてしまい、飛べなくなってしまいます。脳に悪影響が出るウイルスもあり、認知機能が衰えて巣に帰れなくなることもあるそうです。

「私が研究しているのは、宿主の交代に伴うウイルスの変遷。ダニを世界50カ国くらいから送ってもらってRNA※1を抽出し、宿主が変わることでウイルスがどう変化していくのかを調べています。ウイルスがハチ以外に広まっていく可能性もあり、この研究が感染症などの研究に応用できるかもしれません」。

長谷川さんは博士課程を始めてすぐ、一つのミツバチヘギイタダニの個体からRNAとDNAを抽出することに成功し、論文で発表しました。過去に例がなく、世界的な科学雑誌でも取り上げられます。その後、宿主交代に伴うウイルスの変遷を論文にまとめました。

「今後は、宿主に影響を及ぼすことなくダニを駆除する研究をしたいと思っています。RNA干渉というテクノロジーによって実現できると考えられていますが、ミツバチではまだ成功していないんです。今は抗ダニ剤などで対処しているものの、ミツバチにも振りかかるので、蜂蜜などに影響があるのではないかと懸念されています」。

「養蜂をやめる」は「電気をやめる」と同じ。研究者として抱える葛藤

「セイヨウミツバチを助けたい」という思いで研究を進める日々の中、葛藤も抱えていると長谷川さんは語ります。

長谷川さん

「セイヨウミツバチを助けると、在来種のミツバチは追いやられてしまうわけです。生態系や生物多様性を考えると、助けることはかえってよくないのではないかと自問自答しています」。

しかし、セイヨウミツバチの減少を放置すれば、養蜂は立ち行かなくなります。

「養蜂が衰退すると、スーパーマーケットで手に取る野菜や果物が減っていくでしょうし、おいしさが損なわれる可能性もある。やがては食糧危機に陥ると思います。人間は養蜂に頼りきっているので、『養蜂をやめる』というのは『電気をやめる』ようなものなんです」。

生物多様性を守ることと人間の豊かな生活を維持することは、トレードオフの面があると長谷川さんは指摘します。例えばバナナは、人間が改良を繰り返す中で種の多くの品種が絶滅したそうです。長谷川さんは、この相反する二つの側面についてアウトリーチ※2を通じて伝えるようにしています。

「子どもや学生さんに研究やキャリアについて伝える際や、インタビューなどでお話しする機会が時々あります。『ハチって可愛いよね』を入り口に興味を持ってもらい、ハチが減少している現状や研究のことを説明するなかで、生物多様性について伝えたい。一つの種が衰退すると、生態系のバランスが崩れます。例えば蚊が減ると、蚊を食べるトンボが減り、トンボを食べる小動物が減り......という連鎖が起きてしまいます」。

サステナビリティとは、中間地点を探し続けること

長谷川さんが考えるサステナビリティは、「共存」です。

「いかに持続的に共存できるか。生物多様性と豊かな生活の維持は、両極端にあるように思えますが、両極端なソリューションしかないわけではありません。養蜂に関していえば、養蜂箱の密度を下げる提案などもされています。箱の数が同じでも設置する密度を下げることで、ハチにかかるストレスは減り、生産量もキープできます」。

長谷川さん

まずは知ることが大事だと長谷川さんは考えます。

「知識があれば、『これっておかしくない?』と疑問を持ったりすることができます。外来種は在来種に悪影響を及ぼすから、『ザリガニなどの外来種を外に放ってはいけない』とわかる。まずは生物多様性について知ること。そして中間地点を探し続けて、共存していくことが重要です。研究に取り組みながら、その延長線上でアウトリーチをして問題を提示していきたいと思います」。

元記事はこちら

長谷川のんの

長谷川のんの  Nonno Hasegawa

1997年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。幼少の頃より英語に親しみ、カナディアン・インターナショナル・スクールを経てカナダのゲルフ大学に入学。卒業後、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の博士課程へ。数カ月間でミツバチに寄生しウイルスを持ち込むダニの研究結果を論文にまとめたところ、科学雑誌『BMC Genomics』に掲載され評価される。現在は食虫植物の研究にも取り組む。

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