動物と生きる権利を全ての人に|介助犬と共に多様性社会の実現へ
私はこれまで、動物といえば金魚を2週間ほど飼ったことがあるだけで、動物が人の心に深く働きかけるなど想像もできませんでした。でも実際に、動物たちは私たちに癒しや安心感をもたらすだけでなく、それ以上の力を持つ存在です。近年、メンタルヘルスの重要性や、自分自身の心と体の状態に向き合うことの大切さが注目される中、ペットや介助犬(Service Dog)といった動物がもたらすセラピー効果や健康面での恩恵が、あらためて見直されています。
人の心と体を癒す動物たち
ペットとの関わりは、心身の健康維持に有効であるとされ、さまざまな場面で推奨されています。動物との日常的なふれあいが、血圧の低下やストレスの軽減をもたらす(※1)ことは広く知られていますが、それ以外にも、ペットと暮らすことで得られるメリットは数多く報告されています。たとえば、孤独感の緩和、身体機能の改善、認知機能の低下予防、さらには認知症の発症リスクの低下など、広範囲にわたります。特に犬は、注意力のコントロールが難しいADHD(注意欠如・多動症)の子どもに対し、落ち着きを促し、集中力を高める働きがある(※2)とも言われています。
介助動物との出会いで救われる人々
人間にとって特に大きな恩恵となる存在としては、「スーパーペット」とも呼ばれる介助動物が挙げられます。具体的には、視覚や聴覚など、身体に障がいのある人のさまざまな補助を担う、介助犬などの動物です。介助犬と暮らし始めた人は、社会参加や感情のコントロール、就学や就業機会において大きな改善が見られることが多く(※3)、まさに人生を変える存在となっています。身体面でも、視覚や聴覚の補助に加え、アレルギーの原因物質をかぎ分けたり、血糖値の急激な変動を体臭や呼気の匂いで感知したりと、介助犬は実に多様なサポートをしてくれます。
こうした介助動物の持つ能力と影響力が広く認識されたことを受けて、EU(欧州連合)のすべての加盟国は、介助動物の同伴を含む移動や自立の権利を保障する「Convention on the Rights of Persons with Disabilities(障がい者の権利に関する国際連合条約)(※4)」に署名しています。なかでもオーストリアは非常に先進的で、介助犬に関する法的な定義と認定制度が明確に整備されています。また、訓練内容や試験基準が細かく設けられ、IDカードやQRコードを用いた公式登録制度も完備されています。一方、アメリカには障がい者の社会参加を保障する「Americans with Disabilities Act(障がい者差別禁止法)(※5)」がありますが、介助犬の認証や装備に関する法的義務は特に定められていません。この柔軟な制度は、制度や費用面のハードルを下げ、介助犬を必要とする多くの人々にとって、より利用しやすい環境を実現しています。
Data via Snowy Pines White Labs
動物を使うことの難しさ
動物は多くの恩恵を人間に与えてくれる一方で、動物へのアレルギー問題など、難しい側面もあります。アレルギーを持つ人々にとって動物は不快なだけでなく、時に命に関わる危険をもたらすこともあります。動物の唾液や毛に対するアレルギー症状は、皮膚の発疹や目のかゆみ、喘息などさまざまな症状(※6)を引き起こします。介助動物の利用者にとっては心身の健康を守る大切な存在でも、他の人には健康を脅かす存在にもなり得る。このような状況で、どうしたら両者が安心して共存できるのでしょうか。
また、動物と共に暮らすことで経済的負担が発生し、ストレスとなってしまうこともあります。飼い主は、ペットにかかる費用を低く見積もってしまう傾向がありますが、介助犬は訓練のレベルにより、1頭あたり1万5000ドルから3万ドル(※7)の取得費用がかかります。当然ながら、そこに食費や医療費、保険料なども必要です。経済的に余裕がなければ利用できないという現状は、本当に必要とする人が介助犬を利用できない要因にもなっています。
すべての人が安心して生きられる社会を目指して
ペットや介助動物は、私たちの心と体を支え、大きな喜びをもたらしてくれるかけがえのない存在です。だからこそ、誰もが平等にその恩恵を受けられるようにすることが、私たちに求められているのです。障がいのある人が自由に暮らし、学び、働く権利は守らなければなりません。一方で、アレルギーや動物へ恐怖心を持つ人にも配慮された環境もづくりも同じように大切です。誰もが安心して心地よく暮らせる社会のために、お互い少しずつ譲り合いながら、共に生きる道を見つけていくこと。それこそが、私たちが目指す「インクルーシブな社会」のあるべき姿ではないでしょうか。
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執筆 C. Musaba
翻訳・編集 K. Tanabe
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