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コンクリートをカラフルにすると、海の生物多様性に好影響? オーストラリアの大学が実験

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海辺の街でよく目にする、灰色のコンクリートの護岸。災害時に海沿いの都市を守る重要な役目を果たす一方で、実は海洋生物の多様性を著しく低下させる要因となってきたことをご存じだろうか。従来の海壁は、機能性のみを追求した平坦で灰色の構造物であり、自然の岩礁が持つ複雑な地形や環境からはかけ離れていた。これにより、多くの海洋生物が住処を見つけられず、沿岸の生態系は貧弱なものになっているのだ。

こうした生物多様性の損失は、生態系全体の健全性を損なうだけでなく、水質浄化や漁業資源の維持といった、人間が受ける生態系サービスの低下にも直結する。

この課題に対し、オーストラリアの研究者たちは、「色」で状況を改善できるという新たな可能性を示した。マッコーリー大学の研究チームは2025年7月、シドニー港において、コンクリートに色をつけることで、人工の海壁が豊かな生態系を取り戻せることを実証したのだ。

シドニー港の海壁に取り付けられた色付きコンクリートタイル
出典:Scientists find colour influences the growth of marine invertebrates

研究チームはシドニー港内の3か所に、赤、緑、黄、そして比較対象の灰色のタイルを設置し、定着する生物種を12ヶ月間にわたって観察。その結果、赤、緑、黄色のタイルが、従来の灰色や無着色のタイルに比べて、より多くの、そしてより多様な海洋生物を引きつけることを発見した。

特に赤色のタイルは、水質浄化に貢献するカキや、生態系の基盤となる多様な藻類を惹きつけ、生物多様性の向上に最も効果的だったという。これは、カキの幼生が定着場所を探す際に、赤いサンゴモなどの色を手がかりにしているためだと考えられている。また、緑色のタイルは、緑藻類の繁茂を促した。

この研究の興味深い点は、特定の色が特定の生物群集を引き寄せることを示したことだ。これにより、将来的には、回復させたい生態系の機能(例えば、水質浄化や特定の魚種の餌場の創出など)に応じて、海壁の色を戦略的に「デザイン」できる可能性が示された。

これは、沿岸インフラの設計において、生物多様性への配慮を標準的な仕様として組み込む「グリーンエンジニアリング」のコンセプトを、より具体的かつ効果的に前進させる重要な一歩と言える。

特に、色を選ぶだけで生物多様性を向上させられるというアイデアは、コストを大幅に上げることなく実践できるため、多くの自治体や企業にとって魅力的だろう。将来的には、この技術が応用され、世界中の港湾や護岸が、地域の生態系に適した色で彩られるようになるかもしれない。

しかし、このアプローチの価値を正しく理解するためには、その前提と限界を忘れてはならない。研究チームも指摘するように、これは手つかずの自然を再生する魔法ではない。あくまで『すでに人工物に覆われ、自然に戻すことが困難な都市沿岸部で、いかに状況をベターにするか』という、次善の策としての挑戦である。

自然をそのままに保つことが最善なのは言うまでもない。だが、気候変動から暮らしを守るため、沿岸インフラは避けられない現実でもある。ならば、その壁を単なる防御施設から、生命を育む「岩礁」へと変えていく。この研究は、開発と保全の二項対立を越え、人間と自然との新たな関係性を諦めずに模索し続ける一手と言えるのではないだろうか。

【参照記事】How coloured concrete on Sydney seawalls is benefiting marine life, from oysters to crustaceans
【参照記事】Australian researchers find coloring seawalls helps improve marine life

相馬素美

相馬素美(そうま・もとみ)

1996年横浜出身。東京音楽大学器楽専攻鍵盤楽器(ピアノ科)、同大学院伴奏研究領域にて研鑽を積む。2020年にハーチ株式会社に入社、IDEAS FOR GOOD、Circular Yokohama等にてサステナビリティに関する幅広いトピックの取材・執筆のほか、企業向けのサステナビリティ研修、展示、地域イベント、ワークショップ等の企画運営を担当。2023年、半年間アイルランドに滞在し、語学研鑽や取材活動を行う。(この人が書いた記事の一覧)

元記事はこちら

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