映画の中の奇妙なアジア人|違和感ある役柄が示す多様化の遅れ
Credit: MTV International,CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
映画「フルメタル・ジャケット」には、短くも強烈に印象が残るシーンがあります。ミニスカートにショッキングピンクのタンクトップを身にまとったベトナム人の娼婦が、2人のアメリカ兵に歩み寄り、片言の英語でこう誘います。「Me love you long time(ワタシ、あなたに沢山サービスしてあげるよ)(※1)」。この拙いフレーズは、英語を十分に話せないアジア人像を意図的に誇張し、幼児的な言い回しの中に性的な従属関係を匂わせる、きわめて侮辱的なものです。アジア人女性に対する過度に歪められた性的イメージ(※2)であるにもかかわらず、このフレーズはその後、ハリウッド映画で何十年も繰り返し使われてきました。このステレオタイプによって、スクリーンに登場するアジア人女性の多くは、従順でおとなしく、白人男性に喜んで仕える存在として描かれます。一方でアジア人男性は、弱々しく、男らしさに欠け(※3)、性的魅力や社交性も乏しい人物として表現されることがほとんどです。こうした偏った描写が、アジア人に対する固定観念を長期にわたり定着させてきました。
偏った演出が現実世界に与える強い影響
このような状況が放置されると、映像での描写はスクリーンを超え、現実世界の偏見や暴力へとつながっていきます。2021年には米ジョージア州アトランタのマッサージ店で連続銃撃事件(※4)が発生し、6人のアジア系従業員女性が命を落としました。加害者はその動機について、「目の前の誘惑を消したかった」と語り、メディアが生み出す偏見が現実に及ぼす危険性を浮き彫りにしました。
ハリウッドでは長い間、アジア人の存在が軽んじられてきました。映像に登場しても正しい描写は少なく、アジア人役を白人俳優が演じるケース(※5)すら多く見受けられます。2010年から2024年の間、興行収入上位作品でアジア系俳優が主役を務めたのはわずか5.1%(※6)。しかも、アジア系の登場人物の約半数(※7)はコミカルな脇役にすぎません。こうした実態の背景には、制作側の人種的なアンバランスさがあります。実際、映画監督に占めるBIPOC(黒人や先住民、有色人種)の割合は20.2%、脚本家はわずか12.5%(※8)です。これでは、多様な作品を制作するにも限界があります。こうしてアジア系クリエイターの表現の場は自然と少なくなり、アジアの映画ファンは白人ばかりが登場する作品を見て、自分たちの存在が軽んじられているような感覚を抱いています。
Credit: U.S. Census, 2023, via Social Sciences at UCLA
世界的ヒット後もアジア系は依然少数派
とはいえ、わずかながら前進も見られます。映画でセリフのある役を演じたアジア系俳優は、2007年のわずか3%から2022年には16%(※9)へと増加。なかでも2018年公開の「クレイジー・リッチ!」はアジア系キャストを主要メンバーとし、1993年公開の「ジョイ・ラック・クラブ」以来、25年ぶりのハリウッドメジャー作品(※10)として大きな話題となりました。本作は興行的な成功に加えて社会的な反響も大きく、多様な登場人物や背景を描く作品を世の中が求めていることを、映画業界に改めて示すきっかけにもなりました。その後も「パラサイト 半地下の家族」や「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、アニメ映画「K-Pop Demon Hunters」など、さまざまな作品でハリウッドの偏った価値観に挑戦し、批評家にも観客にも高く評価され、世界的ヒットを記録しました。
作品への批判を前進の糧に
「クレイジー・リッチ!」が大きな転換点となった一方、その過程でいくつかの課題が浮上しました。批評の中には、描かれた「アジアらしさ」に違和感を示す声もありました。本作のキャストの多くが「色白」でアジア人らしさに欠け、アジアのどの地域の出身かも分かりにくかったためです。これはハリウッドで繰り返し議論されてきた問題で、実際、本作のキャストの67%は東アジア出身(※11)で占められ、東南アジアなど他の地域の人々はほぼ出演していません。また、この作品がシンガポールの富裕層を舞台にしていることから、アジア人を一律に「学業や仕事が優秀で成功している人たち」とみなす偏ったイメージ、いわゆる「モデル・マイノリティ神話(※12)」を助長するとの懸念もささやかれました。これは一見良いイメージのように思えますが、逆に労働者階級やLGBTQ+の人々、神経多様性を持つ人々など、コミュニティ内のさまざまな苦労や経験を見えにくくしてしまう危険をはらんでいます。
社会学者ナンシー・ユウンは、「ハリウッドにはヒット作品のパターンが繰り返し使われる傾向がある」と指摘します。近年、映像作品にアジア人が多く登場するようになったことはある一定の進歩と評価すべきですが、ここで歩みを止めてはいけません。アジア人がどのように描かれているのかを引き続き見つめ直し、形だけのキャスト起用ではなく、ジェンダーや世代を含めたアジアの幅広い文化的背景を丁寧に反映していくことが大切です。インクルージョンとは、スクリーンに映る俳優だけでなく、制作に携わる人々の声も十分に取り入れることから始まります。こうして初めて、ステレオタイプを打ち破ることができるのです。
Credit: John E. Manard, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
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執筆 Z. Dang 翻訳・編集 K. Tanabe
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