冬季スポーツの祭典に学ぶ。国際的な大会が挑むサステナビリティ戦略
来月6日から、イタリアのミラノ・コルティナを舞台に冬季スポーツの祭典が開催されます。開幕が間近に迫り、各国から集まるトップアスリートたち、そして美しいイタリアアルプスを舞台にした大会に、世界中の注目が集まり始めています。
しかし、夏季・冬季を問わず、こうした世界規模の大会は深刻な環境課題に直面しています。会場建設、エネルギー消費、観客や選手の移動、そして大量の廃棄物といった環境への負荷も増大します。
そんななか、これまでも国際オリンピック委員会(IOC)を中心に、改善に向けた多様な取り組みが積み重ねられてきました。今回のミラノ・コルティナ大会でも、さまざまなサステナビリティ施策が計画されています。本記事では、これからの国際スポーツ大会のあるべき姿をサステナビリティの視点から考えます。
国際スポーツ大会が直面する環境課題とサステナビリティ戦略
世界規模のスポーツの祭典の開催国には、大きな経済効果が見込まれる一方で、環境への負担は深刻です。競技施設の建設に伴う森林伐採や、大会期間中の膨大なエネルギー消費、世界中から集まる観客や選手の移動に伴う温室効果ガスの排出、そして大量の廃棄物の発生など、従来の大会運営は環境に大きな負担をかけてきました。
また、ウィンタースポーツの大会は実は、開催可能性そのものが危機的な状況にあります。気候変動による気温の上昇によって、競技を実施するための雪や氷の環境を確保できる地域が減少しているのです。実際、アルプス山脈の平均気温は、過去30年の間で10年ごとに0.5℃ずつ上昇しているという報告もあります(参照元:Journal of Mountain Science)。
こうした環境に対するさまざまな懸念は、大会のあり方を根底から変えようとしています。かつての開催時の利益を優先するような手法から、環境配慮を前提とした「持続可能なイベント」へと再定義が進んでいます。
IOCは1990年代から「スポーツ・文化・環境」の三本柱を掲げ、大会の開催にあたって環境への配慮を重視する姿勢を示してきました。
IOCが掲げるサステナビリティ施策は、以下の5つの分野に焦点を当てています。
1. インフラと自然環境:既存施設の活用を最大化し、新規建設は最小限にする。生物多様性や文化遺産を守る。
2. 調達と資源管理:調達において環境・社会への影響を考慮し、製品のライフサイクルを最適化する。
3. モビリティ:人やモノの移動に伴う環境負荷を低減する。
4. ワークフォース:従業員やボランティアの安全・健康を確保し、多様性や人権を尊重する。
5. 気候変動:温室効果ガス排出量の削減と、気候変動への適応を行う。
この指針は、今回のミラノ・コルティナ2026冬季大会から本格的に適用され、開催プロセスの全般に組み込まれました。このようにして、開催都市には、大会後の未来まで見据えた持続可能な計画を示すことが求められています(参照元:IOC Sustainability Strategy)。
過去大会におけるサステナビリティへの取り組み
こうした環境課題を受けて、過去の大会ではさまざまな工夫が実践されてきました。そのなかから、先進的な取り組みで知られる2つの大会を紹介します。
ロンドンでの2012大会
ロンドンは招致の段階から「史上最も環境に配慮した大会」を目標に掲げ、数々の画期的な取り組みを実現しました。
まず取り上げられるのは、工業跡地として荒廃し、深刻な土壌汚染が放置されていたロンドン東部の地区を再生させたことです。大規模な土壌改善によって大会で利用可能な土地となり、大会後には新しい居住区として注目されました。選手村として使用された建物群は、現在では多くの人が暮らす住宅街として生まれ変わっています。
また、ロンドンでの2012大会は、準備段階から大会後の解体に至るまで、全体を通してCO2排出量を測定した初の大会でした。そのうえで、「Zero Waste Games Vision」に基づき、大会運営に伴う埋め立て廃棄物ゼロを達成し、さらに、会場の設置および撤去に伴う廃棄物の99%が再利用またはリサイクルされるという成果を残しました(参照元:IOC)。
そのほかにも多くの功績を残したロンドンでの2012大会は、その後の大会運営におけるサステナビリティ施策を考えるうえで、重要な参考事例の一つであるといえます。
パリでの2024大会
パリでの2024大会も環境に配慮した大会として注目を集めました。パリ協定に沿って、大会に関連する温室効果ガス排出量の削減に向けた積極的な取り組みが推進されました。
具体的には、競技会場の約95%に既存施設、または環境に配慮した仮設会場が採用されました。また、大会期間中の人々の移動に伴う環境負荷を削減するために、80%以上の会場が選手村から10キロ以内に位置し、すべての会場が公共交通機関でアクセスできるように配置されました。(参照元:IOC)
観客に対する呼びかけとして印象的だったのは、競技会場へのペットボトルの持ち込みが原則禁止されたことです。観客はマイボトルを持参し、会場内に設置された給水スポットを利用するよう促されました。こうした取り組みは、単に環境負荷を減らすだけでなく、観客一人ひとりに環境意識を持ってもらうきっかけにもなったのではないでしょうか。
ミラノ・コルティナが舞台の2026年の冬季大会では?
ミラノ・コルティナが舞台となる2026年の冬季大会の最大の特徴は、「複数都市での分散開催」です。本大会は北イタリアの4つ地域にまたがる会場で開催されます。
この分散開催によって、一つの都市にあらゆる負担が集中するのを防ぐことが期待されます。各地域の既存施設を活かすことで、環境に負荷をかけて新たにスポーツインフラを設備する必要がなくなるのです。実際、本大会で使用される会場の90%以上は既存あるいは仮設の施設です。
たとえば、アルペンスキーの会場であるコルティナ・ダンペッツォの「トファーネ」は、アルペンスキーのワールドカップでも使用されている既存の施設です。既に十分な設備が備わっているため、新たな建設を最小限に抑えられます。
また、今回の選手村の一つは、3つの既存のホテルが選手村に生まれ変わるかたちで使用されます。ここには800台のベッドのほかに、選手のための準備設備もしっかりと完備されています。
そのほかにも、本大会では移動やエネルギー調達などにおいて、さまざまな環境対策が行われています。これらの施策は、冬季大会が今後も開催され続けるための重要な試みになるでしょう。
最後に
ここまで見てきたように、気候変動の影響が懸念されるなか、大会運営には環境への配慮が不可欠となっています。一方で、国際規模のスポーツ大会の環境施策には、実効性や透明性の面で課題も残されています。こうした懸念を解消しながら、限られた自然資源を大切にし、将来の世代が競技を続けられる環境を守っていくことが求められています。
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ニューロマジック(Neuromagic)SusSolグループ
ニューロマジックのSusSol(サステナビリティソリューションズグループ)は、デジタルデザイン、戦略、サステナビリティの豊富な経験を活かし、企業のサステナビリティ戦略統合を支援します。コンサルティング、リサーチ、ワークショップを通して、マテリアリティ評価、KPI設定、ブランド強化、情報開示をサポート。さらに、Neuromagic TokyoとAmsterdamが主導するCSRDコンサルティングを通じて、EUにおける日本企業の子会社が規制遵守と適合を果たせるようサポートします。



