「働く更年期第一世代」の私たち〜管理職としての自分と組織の整え方とは〜
1997年、男女雇用機会均等法の改正により、採用や昇進などの労働基準における男女差別が「禁止」とされました。改正前は、「男女差別をなくすことはあくまで"努力目標"」という位置づけだったため、なかなか大きな変化が起きなかったそう。そこへきての待望の改正で、女性の働き方は大きく変わりました。あれから約30年。1997年~2000年初頭に社会に出てがむしゃらに働き、責任ある立場を任されるようになった女性たちが今、50歳前後を迎えようとしています。
「50歳・女性」。この節目に避けて通れないのが「更年期」です。ホットフラッシュや経血量の変化、気持ちの落ち込みなど、心身の揺らぎを抱えながら、職場では変わらず"頼られる存在"でいる――。「働く更年期第一世代」の女性たちは、更年期とどのように向き合い、働き続ければよいのでしょうか。そこで今回は、株式会社Playce代表取締役社長の秋山さんの企画のもと、更年期と仕事の両立をテーマに鼎談(ていだん)を実施。更年期世代であるF30プロジェクト代表の小林と社会保険労務士の奥林さん、秋山さんで、更年期とともに働く管理職の葛藤や、更年期を支える職場の在り方について語り合いました。
(企画:Playce、執筆:関 香里)
<お話を伺った人>
秋山 由香(あきやま ゆか)さん
株式会社Playce代表取締役社長
新卒で編集プロダクションに入社。2000年、三井物産と大日本印刷の出資によるベンチャー企業、株式会社ディジット(のちにディジットブレーンに改称)に転職し、ファミリー向けの月刊PC誌の編集を担当する。その後、編集者・ライターとして独立し、2007年に株式会社Playceを設立。企業広報物の企画・編集・ライティングを中心に事業を展開し、企業のコミュニケーションをサポートしている。社員の約9割が女性という環境のなかで、妊娠・出産など女性特有のライフイベントと向き合いながら、働きやすい職場づくりに取り組む。自身や管理職層が更年期世代ということもあり、今まさに会社として更年期とどのように向き合うべきかを模索中。
奥林 美智子(おくばやし みちこ)さん
社会保険労務士事務所 おくばやし労務サポート 代表
大手社会保険労務士事務所に4年間勤務した後、独立。社会保険労務士として約14年のキャリアを持つ。経営学修士(MBA)を保持。2017年7月東京テレワーク推進センター開設以降、テレワーク専門相談員も務めている。現在は、医療・福祉法人(社会福祉法人、NPO、保育園、学童、障害者・高齢者施設等)を中心に、人事労務手続き、就業規則作成、給与計算、助成金申請まで幅広く手掛ける。更年期関連では、テレワークの導入や生理・更年期休暇の制定などの制度づくりにも従事。自身も更年期と仕事の両立に悩んだ経験をもつ。
小林 奈巳(こばやし なみ)さん
F30プロジェクト 代表 / 株式会社都恋堂 代表取締役
雑誌やフリーペーパーで編集・執筆経験を積んだ後、2010年にiPhoneの使い方が分からなかった自身と女性に向けた簡単解読本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは『F30プロジェクト』と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。2021年に株式会社都恋堂の代表に就任。
ホットフラッシュや子宮筋腫、増える経血量......。これって、まさか更年期?
小林:今回の企画は、同世代であり、公私ともに仲よくさせていただいているPlayceの秋山さんからのお声がけで実現しました。私自身も更年期を自覚し始めていますし、Playceさん同様、社内では更年期や家族の介護といった、ミドル世代の女性が抱えがちな課題も気になるようになってきました。管理職として、そして会社として更年期とどう向き合い、組織へ浸透させていくべきか、今日はリアルなところを語り合いましょう!
私は、昨年からホットフラッシュが始まりました。急に暑くなり、汗だくになる。日中のほてり以上につらいのが夜間の症状で、暑さで目を覚ましてしまう。睡眠で元気を保っていた人間なので(笑)、ホットフラッシュによる睡眠不足で、「なんか調子悪い」という日々が続いております。
お二人の更年期の症状はいかがですか? どんな心身の変化を経験したのでしょうか。
秋山:私の場合は、健康診断で重度の貧血を指摘されたことがきっかけになりました。婦人科を受診したところ、子宮筋腫と子宮内膜症が見つかり、そこで初めて更年期を強く意識しました。振り返ると、4年ほど前から生理の経血量が明らかに増え、「何かおかしい」と感じてはいたのですが、「もういい年だし、きっとみんなこんなものなんだろう」程度にしか考えていませんでした。更年期に向かう過程で経血量や周期が変化することは知っていましたが、具体的にどう変化するのかが分かっておらず、自分の症状と結びつかなかったんですよね。
特に経血量の多さは想像以上で、タンポンを入れた状態でもナプキンが1時間ももたなかったんです。外出先のカフェの椅子に血をつけてしまい、店員さんにこっそり声をかけて対応していただいたこともありました。その後、婦人科で薬を処方されたものの、症状はあまり変化することなく......。ホルモンのバランスが崩れ、貧血が進み、気持ちがガクンと落ち込んでしまって、人間不信に陥ったこともありました。それでも経営者という立場ですから、何とか平静を保ちながら仕事をして、時にトラブルなどにも対応して......。正直、この時期は本当に苦しかったです。最近、子宮筋腫や子宮内膜症の治療にも役立つ子宮内避妊器具である「ミレーナ※」を装着し、漢方治療も始めたことで、ようやく心身ともに落ち着き、元気に仕事ができるようになりました。
奥林:私も秋山さんとほぼ同じ症状でした。47歳のときに、子宮のあたりが歩けないほどに強く痛み、これはおかしいと婦人科を受診しました。そこで、子宮筋腫とチョコレート嚢胞(のうほう)が見つかったんです。チョコレート嚢胞(のうほう)は経過観察中に腫れが引いたものの、経血量がかなり多い状態が続いていました。
ある仕事で2〜3時間に及ぶ会議に参加したとき、嫌な予感がしつつも途中退席ができず、会議終了後にはスカートも椅子も血まみれになっていたことがありました。年配の男性ばかりの会議でとても言い出せる雰囲気ではなく、本当に焦りましたね。全員が退席するのを待ち、誰もいなくなってから急いでトイレに駆け込んでスカートを洗い、椅子を拭きました。このままではつらいと感じて病院に相談し、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で子宮を全摘出することに。大変だったのは、会社を1週間ほど空けなければならなかったことです。お客さまには私が休みをとっていることは伝えず、手術の翌日から病室で仕事をしていました。体の状況を表に出せないことが、何よりつらかったです。
小林:子宮を摘出した後、症状は改善したんですか?
奥林:よくなりました。生理の煩わしさがなくなり、さっぱりした気持ちというか。とにかく楽になったので、手術をしてよかったと思っています。
秋山:私の周りでも、更年期をきっかけに子宮を摘出している方が意外と多いです。私も子宮筋腫で通院していたとき、医師から「子宮、とりますか?」とサラッと聞かれてびっくりしました。
小林:お二人の話を聞いていると、私は軽症な方なのだなと......。
奥林:更年期や生理の話って人と比べることがあまりないので、みんなそんなものだろうと思い、自分の症状の深刻さに限界まで気づけないんですよね。
秋山:人によって症状は異なるので、症状が重い方が仕事を続けられず、辞めざるをえないというのも分かる気がします。
更年期休暇やテレワークの導入など、会社として取り組むべき更年期対策とは
小林:都恋堂では、更年期で体調を崩し、仕事を調整する必要がある人はいないのですが、生理痛などの対応は考えていて。といっても制度ではないけれど、女性だけの連絡網があり、つらい日はリモートに切り替えたり、もちろん休みをとったりしながら、臨機応変に働こうって話しています。Playceさんはいかがですか?
秋山:更年期だけが原因ではないと思いますが、体調を崩しがちになり、気持ちの落ち込みが強く出てしまったスタッフがいました。これまでと同じように仕事を続けるのは厳しいと感じる状態で、業務を調整する必要がありました。50歳前後になると、体力が低下し、若い頃と同じようにバリバリと現場の仕事をこなすのが難しくなってくる人も増えてきます。そこに介護や子育てなどのさまざまな要因が重なって、より一層、「これまで通りに働けない」という困り感や焦りが強くなる。中堅からベテランの知見や技術のある方がそうした現実に直面するクライシス感は、経営側としても大きな悩みでした。特にその方が管理職などコアメンバーである場合、役割をどうするのか、代わりはいるのかといった判断を迫られ、調整の負担も大きくなります。こうした経験もあり、事前に更年期に対処する道筋を考えておく重要性を感じました。
奥林:ちょうど40代後半から50代は、本人の問題と家族の問題、両方が起こりやすい時期ですよね。だからこそ、更年期や介護などの制度を整えたり、「つらいときは休んでいいんだよ」というメッセージを積極的に伝えることは大切だと思います。
小林:令和5年に、鳥取県が男女対象の「更年期障がい休暇※」を設定したことも話題になりましたよね。
奥林:最近は、社会の在り方として女性の働き方に理解を示す姿勢が顕著になっていると感じます。行政側も女性の身体の不調に寄り添った施策をしている企業事例を公開していますし、生理や更年期休暇を設定する企業も増えてきています。
また、更年期に悩む方を、一定の期間だけ時短勤務の正社員にしている企業もあります。仕事内容は変えずボリューム感を減らし、無理なく、今の仕事を続けられる施策だと思います。働き方の柔軟性を高める制度や仕組みをつくるのもよいかと思います。
秋山:うちの会社は基本的にテレワークで、遅刻や中抜け、早退もOKというスーパーフレックス制(笑)を採用しています。体調がすぐれない場合は遅刻を使ってゆっくり始業をしたり、在宅で休みながら働いているスタッフもいるので、更年期や生理がつらいときに柔軟に働ける制度かなと思っています。テレワークでもみんな真面目に取り組んでいる印象はありますが、やはり在宅でのパフォーマンスは人によって差があります。自分を律して働ける人もいれば、かなり細かくマネジメントしないと難しい人もいる。結果として管理工数が増える傾向にあり、管理職層の負荷は高まりがちだと感じます。マネジメントコストが増加傾向にある割に、業績が伸びるわけでもなく、正直、出社をベースにした方がいいのではと考えることも......。
一方で、中小企業が生き残り、よい人材を確保するためには、テレワークのような柔軟な働き方が大きな武器になるという意見もあって。なにより、介護、子育て、持病や更年期など事情を抱えるスタッフにとって、テレワークは、生命線ともいえる重要な仕組みだと思うんですよね。働きやすさ、コミュニケーション、業務負荷、公平性、いろんな側面で、会社としてもバランスに悩んでいるところです。
奥林:難しい問題ですよね。ただ、ある程度スタッフを信頼して任せることも、人を育てる一つの方法だと思います。自由を与えることで、伸びる可能性もありますから。
また、秋山さんがお話しされたように、人材確保の観点でも柔軟な働き方は欠かせないと思います。特に昨今は、中小企業にとって優秀な人材の獲得が厳しい状況ですから、働き方の選択肢が多いことは、これからますます重視されると思います。
更年期や生理などのセンシティブな話題は、個々の価値観の違いにも注目を
奥林:制度を整えることも大切ですが、更年期や生理について話しやすい風土をつくっておくことが重要だと思います。恥ずかしさから生理・更年期休暇を使わず、有給休暇で対応してしまう方が多いという事例も聞きますし、それでは意味がありません。生理や更年期は誰にでも訪れるものですから、会社のトップが「生理や更年期で困ったら頼っていい」と明確に伝えないと、スタッフは無理をしてがんばってしまうんですよね。
小林:今日のお話を聞いて、私自身も、更年期や生理についてもっと気軽にスタッフに話していいのかもしれないと思いました。ただ、話したくない人もいるだろうから、そこは探り合いながら、ですかね。
秋山:私も、更年期や生理の話題をオープンに話せる文化をつくりたいと思う一方で、個々の価値観の違いも無視できないと思っていて......。生理現象だからもっと気軽に話してもいいのではと思いつつ、こうした話題は極力話さないことが常識ではと考えている人もいる。価値観や話の受け止め方は千差万別で、人によっては不快な気持ちにさせてしまうのではと考えると、あまりあけすけに話すのもどうなんだろう、難しいなと思います。それから、特に経営層や管理職の立場だと、「こんなに忙しい時期に自分の体調の話をしていいのか」「心配をかけてしまうのではないか」という気持ちもあり、発信に抵抗を感じてしまいます。
小林:スタッフに心配をかけてしまうと思うと、どこまで開示したらいいのか難しいですよね。
秋山:自己開示も、相手のことを深く聞くことも難しい時代ですよね。この話題で一つ思い出したのですが、互いの価値観を理解するという意味で、以前会社全体で実施したワークショップ内の「価値観インタビュー」というのがよかったなと思っていて。社員同士でペアを組んで、幼少期の思い出や、やりがいを感じた経験、理想とする働き方などをかなり踏み込んで聞き合ってもらったのですが、それがスタッフから好評でした。「相手のことを聞いてよい場」をオフィシャルに作った形だったので、普段聞けないことを遠慮なく聞き、思い切り話すということがやりやすかったのだと思います。一緒に働く仲間の知らない一面を知れてよかったという意見が多くあがりました。その一方で、プライベートな情報を聞かれること・話すことを負担に感じる人がいることも分かったんです。「この人にはどこまで聞いていいのか、話していいのか」を知る、一つの指標にもなったと思います。
奥林:それはいいですね。もっとカジュアルに話せる、女子会の実施もいいかもしれません。
秋山:価値観インタビューのような取り組みを通して互いの価値観や踏み込み許容度を理解し、そのうえで、まずは小さく生理や更年期などのテーマについて話し合える場をつくるといいのかなと思いました。そこから少しずつメンバーを増やし場を広げて行って、オープンに話せる・助け合える雰囲気を醸成していくといいのかもしれませんね。
小林:更年期や生理といった話題は避けがちですが、誰もが通る可能性のあることですし、若手の方にとっても、予備知識として知っておく意味もあると思います。とりあえず、会社の女性チャットで、「生理や更年期でつらかったり困ったときは、遠慮せずに言ってね!」と再度伝えつつ、個人面談でも話してみて、それぞれの開示レベルを確認してみます!
奥林:自分の身体の不調は、対外的には言いづらいですよね。お客さまに不安を与えることにもなるので、外向けには言いにくい話題だと思いますが、自分の組織のなかだったら、もう少しオープンに言ってもいいのではないでしょうか。例えば朝会で雑談タイムを設けている会社がありますから、そうした時間に生理や更年期の話題を取り上げてみたり。
あるサービス業の会社では、40代・50代の女性社員が多いにもかかわらず、更年期の話題はほとんど出てきませんでした。そんななか、ある朝の雑談タイムで、課長の女性がぽつりと話したのです。「最近、急に暑く感じることがあって......ちょっと席を替えてもいいですか?」その言葉に、周りの社員が「あ、私もあります」「実は昨日つらくて......」と自然に続きました。深刻な雰囲気ではなく、ちょっと笑いも混じった、やわらかい空気のまま。その日をきっかけに、会社では温度差を感じやすい人が自由に席を選べるようになりました。また、大丈夫? と声をかけ合う習慣ができ、男女問わず「体調の話をしてもいいんだ」という安心感が広がったそうです。特別な制度をつくったわけではありません。ただ、一つの小さな共有が、職場の空気を軽くしたのです。
更年期の話題は、決して大げさに扱う必要はありません。ちょっとした会話のなかで触れられるだけでも、誰かの安心につながります。こうした日常の積み重ねが、働きやすい組織づくりの土台になっていくのだと思います。
元記事はこちら
「2030年、もう"女性活躍"とは言わせない」を合言葉に、私たちは組織の女性ミドルマネジメントが抱える「課題」と「ストーリー」を記事化し、彼女たちやそれに続く人たちが、ときに一緒に泣いて怒って笑って、元気が出る発信をnoteでしています。日本や世界の働く女性の現状を知り、多くの方に周知するため、専門家や企業への取材も行っています。








