「次の停留所は、森です」都市から森林への直行バスがオランダで無料運行
「自然に触れることは心身に良い」──そうわかっていても、日常から抜け出す、あるいは自然に身を置く時間を取り入れることは、なかなか難しい。
これは働き方のせいか、個人の意識の問題か。そもそも自然から離れて暮らしていること自体が問題か。
オランダ・ユトレヒトのある取り組みは、それが「インフラの問題」かもしれない、と問いかける。2026年6月の週末に期間限定で開催したのは、ユトレヒト中心部と、市内から15分ほど離れた森林地帯、ランドグッド・ベールスホーテンを結ぶ無料バスの運行だ。
おもに16〜27歳までの若者を企画のターゲットとしているものの、誰でも参加可能。ウェブサイトで事前に行きと帰りの便を予約すれば、当日はバス停に向かうだけ。森林に到着したら、自然の中を散策するもよし、40分ほどの専門家による森林浴セッションに参加するもよし。帰りの時間まで思い思いに、自由に過ごすことができる。
このプロジェクトはDe Boshalte(デ・ボシャルテ)と呼ばれ、ユトレヒトの文化拠点RAUM、クリエイティブ組織We The City、Moedtが共催。キャッチフレーズに「自然の中で回復力を養うこと」を掲げ、特に若い世代が森林に行くことを単発のイベントではなく習慣にしてもらうこと、同世代との繋がりを深めてもらうことを目指している。
そのアプローチが際立つ理由を、グローバルメディア・TrendWatchingはこう分析する。
ウェルネス・リトリートとしてサービスを売り込むのではなく、公共交通の停留所を真似ることで、De Boshalteの運営者は森林での時間を路面電車や通勤と同じカテゴリーに位置づけようとしている。これは「回復を贅沢ではなくインフラとして捉える」という、価値ある再定義だ。
近年増えているのは、自然を体験コンテンツの一部として捉えたハイエンドな"商品"。それも自然と繋がり直す良いきっかけになりうるものの、本来その機会はあらゆる人、特に地域の人々にひらかれた場であるべきではないだろうか。
筆者がウェブサイトを見てみると、数日後の週末は行きの便がすでに満員。自然に触れる時間への潜在的な需要の大きさがうかがえる。
これまでにも、人々を自然の中に誘うアイデアやプログラムは存在してきた。例えば、社会的処方箋は美術館や演劇、自然の中での時間を過ごすよう医師が促したり、ワークショップとして提供される枠組みとして知られる。
一方で、こうした「声かけ」や「意識づけ」だけでは実際にアクションを起こすに至りにくいのも実状だろう。実際に山や森、川、海へと足を運ぶための手軽かつ物理的な手段を用意すること、それが誰でも無料であることは、行動を起こすための最後のギャップを埋めているのかもしれない。
現代を生きる私たちのちょっとわがままなニーズに応える、森行きの無料バス。自然に親しむ初めの一歩を支える、日常のインフラが必要であることを示してくれただろう。
【参照サイト】Utrecht's newest bus stop exists solely to bring young people to the forest|TrendWatching
【参照サイト】First forest bus stop in the Netherlands opens in Utrecht|IamExpat
Natsuki
仲原菜月(なかはら なつき)。IDEAS FOR GOOD 副編集長。大学在学中は政治経済を学びながら難民支援や環境課題の解決に従事し、スウェーデンに留学。ウクライナ避難民の写真展を都内で開催。脱成長、紛争予防、自然観などを中心に執筆。(この人が書いた記事の一覧)
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