チャンネル登録者数107万。人気・言語系YouTuberのだいじろーが、いま⽇本の⽅⾔⾳声を買い取る理由
「君のパンツ(ズボン)いいね。どこで買ったの?」
「は? どうやって俺のパンツ(下着)が見えるんだ!?」
同じ「Pants(パンツ)」の意味するところが違うアメリカ人とイギリス人が、お互いの英語で喧嘩するコント動画。140万再生を誇るこの動画の投稿者が、英語発音コーチであり、YouTuberのだいじろーさんです。7年ほど前より世界で話される英語の違いや、発音の面白さをコメディ形式の動画で発信し人気を集めてきました。
そんな彼が2026年から始めたのが日本語の「方言」を記録する活動。なぜだいじろーさんは、いま日本の方言に注目するのか。その真意について、話を伺いました。
だいじろーさん
英語発音コーチ。YouTuber。北海道札幌市出身。立命館アジア太平洋大学在学中に香港・ヘルシンキへ留学し、卒業後はメーカー勤務やタイ生活を経て、2019年にYouTubeチャンネルを開設。英語の発音指導をする傍ら、英語を中心とした各国言語の発音や文法、文化の違いを取り上げた動画コンテンツを発信し、人気を集めている。YouTubeチャンネル登録者数107万人(2026年7月現在)。
北海道弁と佐賀弁が行き交う環境で育まれた「発音」への興味
──英語の発音指導や、言語系の動画発信をされているだいじろーさんですが、そもそも「言語」に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。
中学2年生の時に、オーストラリアのパースに留学したのがきっかけです。当時、日常生活に退屈を感じていた折に、札幌市のプログラムでパースに行けるという案内を目にして、めちゃくちゃ行きたいなと思って。衝動的に親に相談して、実際にオーストラリアに行けることになったのですが、そこの滞在経験があまりにもインパクトが大きかったんです。それで、文化の違いや言語の違いに興味を持ちました。
──具体的にどういった点に「違い」を感じたんですか?
学校で教室の机がぐちゃぐちゃだったことに衝撃を受けました。日本の学校では机の位置がテープで決められていて、少しでもずれていると注意されますよね。でもオーストラリアではもう並びがぐちゃぐちゃだし、フリーアドレスのように席も自由だし(笑)。それに、生徒が手を挙げて許可を得ることなく、先生と友達のように自由に話し合っているのも驚きでした。
そういったカルチャーショックを通して、それまで自分が信じてきた常識がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じたんです。国が違えば文化もルールも違う。当たり前なんですけど、そこにすごく興奮しました。
──言語に関心を抱いたのも、留学体験がきっかけだったのでしょうか。
はい。留学前も普通に学校で英語学習はしていたんですが、学校で習う英語とオーストラリアで聞く英語は明らかに違うんですよね。なんというか、もう楽器として響きが全然違うという感じで。それで、英語にも「方言」があるんだと知り、「面白いな」って。帰国してからイギリス英語など、さまざまな国の英語を夢中で調べました。
そもそも僕、生まれは北海道札幌市ですが、母が佐賀県、父が秋田県出身で、家庭内で話す日本語がみんな違うことに昔から疑問があったんです。兄弟の中で北海道弁の訛り具合も違うし。そういう環境だったからこそ、言語や発音の違いに敏感になったのかもしれないですね。
──英語など各国の言語を解説する動画を発信されていますが、YouTubeはどういう経緯で始めたんですか?
過去にタイに7年間ほど滞在して働いていた時期があるのですが、その時に友達とチャンネルを始めたのがきっかけでした。最初は言語と関係のない、YouTuberらしい体当たり系の企画をしていて、言語や発音について発信を始めたのは、帰国してあらためて自分のチャンネルを立ち上げてからです。
昔は、発音の違いなんて僕以外に誰も興味なくて、「発音は自分だけのオモチャ」と思っていたのですが、ある時に、お互いの英語の違いで喧嘩するアメリカ人とイギリス人のコントをYouTubeで投稿したところ、すごく再生数が伸びて! 「みんな興味あるんだ」と気づき、そこから完全に動画を発音に振り切ったんです。
発音は「音楽」。日本各地の「方言」という美しい音色を残したい
──これまで英語を中心とした外国語にフォーカスし情報発信をしてきただいじろーさんですが、2026年から日本の方言データを収集する「日本方言アーカイブ」という活動を始めましたね。これはどういった取り組みですか?
文字通り、日本語の方言を記録し後世に残していくプロジェクトです。自然な方言の会話を一般の人から動画や音声で送っていただいて、それを僕が買い取る仕組みです。収集した音声は、XやTikTokでも公開しています。「買い取り」という思い切った形にしたのは、「音声を買うってどういうこと?」というインパクトで興味を引きたかったのと、私財を投じるという本気の姿勢を見てもらうことで、より多くのデータが集まることにつながれば、という狙いです。
──そもそも方言収集を始めようと思った理由はなんですか?
英語の発音について調べたいと思ったら、ネットで検索すればすぐに情報が出てきます。発音の調査をしている企業やボランティア団体がたくさんあるので、文献であったり、音声データであったりが、豊富に手に入るんです。一方で日本語にはそれが全然ない。そこに疑問を持ったのが、方言収集を思い立ったきっかけでした。
例えば、YouTubeで「鹿児島弁」と検索すると、「鹿児島弁解説講座」のような動画は出てくるんですけど、鹿児島人同士が喋っているような自然な音声資料はほとんどないんです。まあ多少、国の研究機関が収集しているデータはあるんですけど全然足りなくて。データが蓄積されたら、将来的にはそういった研究機関にも活用してもらいたいと思っています。
──方言の音声データを収集することで、日本語研究に貢献したいと。
それもありますし、単純に消えゆく方言を残したいという思いも強いです。いま日本語がどんどん東京寄りになっていく中で、若い人からも方言が失われていると思うんです。その流れは止められないかもしれないけど、記録して後世の人たちに残すことなら、自分でもできるかなと思いまして。
僕は発音をある種の「音楽」として捉えているんですけど、方言を喋る人がいなくなったら、その楽器の奏でる音色やメロディーを永遠に聞けなくなってしまう、これは僕にとってはちょっと恐ろしいことなんですよ。
例えば、佐賀にいる親戚の方言をたまに聞くと、めっちゃ懐かしい気持ちになります。あったかい気持ちというか、あの頃はいい時代だったな......とか。方言を残すことは、そういう思い出を残すことにもつながると思うんです。
「発音」で嫌な思いや寂しい思いをする人が減ってほしいから
──実際に、プロジェクトを始めてからはどういう反響がありましたか?
いまのところ100〜150くらいの応募があるんですけど、方言買いすぎて60万円くらいは使っちゃってますね(笑)。いままで送っていただいた音声で印象的だったのは、広島の99歳の女性の会話です。既に亡くなられている方なのですが、戦争のことも含めて自分の若い頃の話をしっかりとした広島弁で語られていて、その人の人生を垣間見るようで、心に残りました。
また、投稿した音声にコメントも寄せられるのですが、「昔、亡くなったおばあちゃんがこういう話し方をしていました。涙が止まりません」みたいな感想をいただくと、このプロジェクトをやって良かったと、うれしくなりますね。
──「日本方言アーカイブ」プロジェクトの未来の展望はありますか?
「方言カフェ」というアイデアがあって。方言って、自然な会話を記録するのがすごく難しいんですよ。町中で勝手に録音するわけにもいかないし。そこで、飲食代を安くする代わりに、お客様に許可をいただいた上で、方言の会話をすべて録音させてもらうというお店があったら面白いなと思って。可能ならば、ぜひやってみたいですね(笑)。
──言語に関する発信活動&記録活動を通じて、だいじろーさんが実現したいこととはなんでしょうか。
生き物にいろいろな種類があるように、言語にもやっぱりいろいろな種類があるんですよ。多様な言語があるのって、美しいことだと思うし、僕にとっては喜ばしいことなんです。多様性が失われることは寂しいし、せめて記録や思い出として残していきたいですね。
それに「日本方言アーカイブ」を通じて、事実として日本には標準語以外のたくさんの方言があるんだ、ということをもっとたくさんの人に知ってもらえたらとも思います。
──どういうことでしょうか。
例えばいま、東京の言葉が「標準語」「共通語」となってますけど、それは東京が強い経済力やソフトパワーを持っているから影響力があるだけで、言語学的には「標準か、標準じゃないか」という言葉の優劣ってないんですよ。みんな平等なんです。そもそも、東京出身の方は「方言喋ってる」と意識していないと思うんですけど、北海道出身の僕からしたら、東京出身者の方の発音を聞くと「ネイティブ東京」だなと感じます。東京の言葉も一つの方言なんですよね。
──日本の中で、方言がない地域なんてないんですね。
海外では、言語や発音で差別される地域がまだまだあって。現代の日本にいると実感しにくいと思うのですが、かつては方言を喋ることが禁止された時代もあったそうです。理想としては、発音が原因で嫌な思いや、寂しい思いをする人が世界中から減ってほしい。こういう話、普段の動画ではあまりしないんですけど、それが僕の思いですね。
取材後記
だいじろーさんが発信する動画は、各国の言語や発音をおもしろおかしく取り上げながらも、どの言語も平等に扱うフェアな精神が根底にあります。アメリカ英語の発音を笑いつつ、「でも日本語だって海外からしたら変だよね」と自分たちも俎上に載せる。その敬意が伝わるのか、「お前の発音は上手くなったな」と外国人から感想が来ることもあるそう。
「言葉って、みんな違って、みんな面白い」。そんな優しくフラットなまなざしこそが、だいじろーさんの動画が多くの人に届いている理由なのだと、取材を終えて改めて感じました。
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写真
新谷敏司
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執筆
小野和哉
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編集
都恋堂









