「暑すぎる夏」は終わらせることができるのか。気候変動を''自分ごと''にするために
今年4月、気象庁は最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と新たに定義しました。かつては、35℃以上を表す「猛暑日」が夏の暑さを表す最上位の言葉でしたが、今やそれでは現実を捉えきれなくなりつつあります。
熱中症による救急搬送者数は増加し、日中の外出控えが当たり前になり、子どもの運動会は5月に前倒しされ、着ぐるみのご当地キャラクターは真夏のイベントに出演しにくくなくなる──こうした日常の小さな変化からも、私たちの生活が「暑すぎる夏」によって、じわじわと変わり始めていることがわかります。
一方、多くの人が「この暑さはおかしい」と感じているにも関わらず、自分ごととして受け止められていません。しかし、この異常気象は生活の不便や健康被害にとどまらず、企業活動や経済の基盤にも影響を及ぼす問題です。
2009年に設立されたJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)は、まさにこの"危機感"を共有する企業ネットワークです。「気候変動は経済基盤を脅かし、その対応は企業の競争力を左右する」という認識のもと、経済界全体を巻き込みながら脱炭素化を推進してきました。現在240社以上が加盟し、会員企業の電力消費量の合計は日本全体の1割弱を占めるという、非常に大きな経済団体です。
そして今、JCLPが新たに力を入れているのが、世論への働きかけです。その一環として、昨年JCLPは8月8日を「暑すぎる夏を終わらせる日」とする記念日を制定しました。一年で最も暑さが厳しい時期に、気候変動について改めて考える機会をつくり、社会全体の機運を高めていくことを目指しています。
私たちは「暑すぎる夏」を終わらせることができるのでしょうか。今回は、暑すぎる夏を取り巻く日本と世界の状況、そして解決に向けた道筋について、JCLP事務局がご紹介します。
この記事の目次
- 猛暑の報道は増えているのに、気候変動の話にならない
- 個人の「行動」ではなく「認識」に焦点を当てる
- お隣・韓国では、気候変動が「選挙の争点」になり、政策が前進
- 8月8日、「暑すぎる夏を終わらせる記念日」を制定
- 慣れないでください。耐え忍ばないでください
猛暑の報道は増えているのに、気候変動の話にならない
毎年夏になると、「今日も危険な暑さです」「熱中症に注意してください」というニュースが溢れます。しかし、その暑さが「なぜ起きているのか」という背景まで踏み込んだ報道は、驚くほど少ないのが現状です。
JCLPが分析したデータによると、猛暑に関する報道件数は7月から8月にかけてピークを迎えますが、「地球温暖化」や「気候変動」と紐づけて報じられることはほとんどありません。むしろ、気候変動の報道が最も多くなるのは11月から12月──COP(国連気候変動会議)が開催される冬の時期です。
人々が暑さを最も肌で感じている夏こそ、気候変動を「自分ごと」として捉えるチャンスのはずです。ところが、その時期に届くのは「熱中症対策」の情報ばかり。気候変動の議論は、遠い国で行われる国際交渉のニュースとして、冬に届く。これでは、暑さと気候変動が人々の中で結びつかないのも無理はありません。
JCLPが調査・分析した世論データも、この構造を裏付けています。「気象がおかしい」と感じている人は約95%にのぼります。しかし「温暖化は人間活動が原因だ」と確信を持てる人は約50%に減り、さらに「自分ごと」として捉えている人は25%以下、そして実際に環境配慮製品を購入するなど行動に移している人は、わずか2.5%程度と推定されます。
気象の変化や、それに伴う身近な被害は実感し始めているけれど、気候変動と結びつけていいのか自信がない......。この「モヤモヤ層」の存在こそが、日本の気候変動対策が進みにくい最大の要因のひとつだと、私たちは考えています。
個人の「行動」ではなく「認識」に焦点を当てる
気候変動対策において必ず焦点が当たる、「個人ができる、こまめなエコ活動」という点にも注意が必要です。個人の取り組みに過度に焦点を当てると、それが「不便・我慢を強いる」と受け取られたり、「完全にCO2ゼロの生活」を送っている人以外は、気候変動対策について論じることが憚られたりといった、ネガティブな空気ができてしまいます。
もちろん、個人の努力を否定するものではまったくありません。しかし、狭い範囲での「個人ができるこまめなこと」に過度に焦点を当てることは、そろそろ考え直すべき時に来ているのではないでしょうか。現在の気候変動の現状や必要な対策の規模は、個人の心がけのみで解決できる次元をはるかに超えています。実際、地球の気温は上がり続け、夏はさらに暑くなっている。「あれだけ頑張ってきたのに」という徒労感、いわば"一人ひとり疲れ"とでも呼ぶべき感覚が、じわじわと広がってきていることも伺えます。
日本における本当の問題は、制度やインフラが足りていないという構造的なものです。例えば、CO2を排出することにはコストがかからず、再生可能エネルギーを選ぶことにはコストがかかる。つまり、真剣に脱炭素に取り組む企業ほど、短期的には競争上不利になってしまうことなどが挙げられます。これはいわば「囚人のジレンマ※」の状態です。どこかの企業が熱心に脱炭素化に取り組んでも、ルール全体が変わらなければ、その努力は報われにくく、社会全体も変わっていかない。そうした歯がゆい現状があります。
必要なのは、「頑張る人だけが損をしない」というように、社会のルールを変えることです。レジ袋の有料化が一つの好例です。「マイバッグを持ちましょう」という啓発だけでは長年変わらなかった行動が、制度が変わった途端に一気に広がりました。経済的な合理性が生まれた瞬間、人々の行動は自然と変わったのです。
制度やインフラを変えるためには、国民世論がこうした制度の変化を後押しすることが大事です。いくら省庁や政治家が「もっと制度を改善したい」と思っていても、世論の後押しがなければそれは実現しません。個人の「行動」に過度に焦点を当て続けると袋小路に陥りますが、個人の「認識」に焦点を当てると、世論になり制度を変える力になるのです。
お隣・韓国では、気候変動が「選挙の争点」になり、政策が前進
日本が「モヤモヤ」している間に、世界は動いています。最近特に注目されるのが、お隣の韓国の動向です。
韓国では、気候変動に対する国民の関心や危機感が高まっており、先の総選挙でも気候・エネルギーが主要な争点の一つとなりました。さらに、憲法裁判所が気候変動を「生命や身体を脅かす危機」と位置づけ、国の政策強化を求める判決を下すという、歴史的な出来事も起きています。
そうした世論と政治の機運を受け、韓国は2025年10月、気候・エネルギー・環境政策を一元的に担う新省庁「気候エネルギー環境部」を発足させました。そして、ホルムズ海峡問題に伴うエネルギー危機への対応として、あと4年以内に再生可能エネルギーの導入量を現在の約3倍の100GWへ拡大する国家目標を発表しました(100GWといえば、日本が東日本大震災後、現在に至るまでに導入したすべての再エネの総量を超えるボリュームです)。
同じアジアの国で、気候変動が「政治の問題」「自分たちの権利の問題」として、これほど具体的な政策に結びついているのです。
日本でも、気候変動を「遠い未来の話」「環境意識の高い人だけが気にすること」ではなく、私たちの仕事が、生活が、命が直接脅かされる、今ここにある経済と社会の問題として捉える。その認識を広げることが、第一歩だと思います。
8月8日、「暑すぎる夏を終わらせる記念日」を制定
そのための一歩として、JCLPは昨年、8月8日を「暑すぎる夏を終わらせる日」として記念日を制定しました。これは、猛暑報道がCOPが開催される冬の時期に集中するという報道のパラドックスに対して、1年の中で最も暑さが実感される時期に、あえて気候変動と暑さを結びつけて発信しようという試みです。
昨年の取り組みでは、記者会見を実施し、100件以上の報道につながりました。また、企業の現場で働く人々のリアルな声──「建設現場の作業員の命が危ない」「着ぐるみの中は熱中症リスクが高く、子どもたちに会いに行けない」「プールサイドが熱くて足をやけどする」──を可視化したことで、「気候変動は自分たちの問題だ」という気づきが、企業の社内にも広がり始めました。
今年は、この取り組みをさらに広げ、自治体や各種団体とも連携した実行委員会形式で展開していきます。また、「暑すぎる夏を終わらせるWEEK」と、期間も延長しました。目指すのは、「暑い夏に、暑さの背景を報じる」という当たり前のことが、当たり前になる社会です。
慣れないでください。耐え忍ばないでください
この記事を読んでいるあなたに、一つだけお伝えしたいことがあります。
「また今年も暑いね」「しょうがないね」と、諦めて耐えないでほしいんです。
この暑さは、異常です。そして、私たちの社会が選択してきた結果でもあります。だからこそ、社会の選択を変えることで、未来は変えられます。
みなさん一人ひとりに求めているのは、特別な行動ではありません。「この暑さはおかしい」「このままでいいはずがない」と今感じているそのモヤモヤを、ぜひ声にしてほしいのです。SNSでもいい、家族との会話でもいい。小さな声が重なり合うことで、政策を動かす世論が生まれます。
これは、善意のエコ活動の話ではありません。私たちの生活とビジネスが成り立つかどうか、生き死にの問題です。だからこそJCLPは、綺麗事ではなく、社会のシステムそのものを変えることに、経済界と社会全体で取り組んでいきます。一緒に、暑すぎる夏を終わらせましょう。
元記事はこちら
JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)
持続可能な脱炭素社会の実現には産業界が健全な危機感を持ち、積極的な行動を開始すべきであるという認識の下に2009年に発足した、日本独自の企業グループです。
サステナブルジャーニー
大和ハウス工業が企画・運営するメディア『サステナブルジャーニー』では、「未来の景色を、ともに。」を大切なメッセージに、多様な視点や考え方、サステナブルなプロジェクトなどを紹介しています。大和ハウスグループが目指す「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、皆さまとともに学び、ともに考え、ともに歩みを進めていきます。









