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豊かな未来のきっかけを届ける

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あなたの声で本当に社会は変わる。能條桃子さんと考える人権問題へのアクション

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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12月10日は世界人権デー。1948年に「世界人権宣言」が国際連合で採択されたことを記念し、制定された記念日です。第二次世界大戦の反省から生まれた30条の項目では、すべての人が享受すべき基本的な権利を細かに規定し、達成するべき共通の基準として掲げています。

Yahoo! Japan SDGs編集部ではこれまで、SDGsに関するさまざまな記事を発信してきました。SDGsでは全部で17の目標が掲げられていますが、そのすべての根底にあるのは「人権尊重」の考え方です。しかし、脱炭素や海洋汚染などの「環境問題」への関心は集まりやすくても、ジェンダーや貧困といった「人権問題」への関心は薄いのが現実。人権の重要性を伝える難しさを感じています。

「人権は大事だ」といくら伝えても、「そうだよね」で終わってしまう。メディアとして、人権問題の重要性を伝え、アクションにつなげていくにはどうしたらよいのか。

そこで今回は、U30世代に政治参加や社会運動についての情報を発信するメディア「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんにお話を聞くことにしました。メディア立ち上げから3年経った今、人権問題の重要性を伝えることについて思うことをうかがいます。

「政治参加の方法に関する情報を広めたい」

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── 「NO YOUTH NO JAPAN」の概要を、改めて教えていただけますか?

NO YOUTH NO JAPAN」は、2019年7月の参院選に合わせて立ち上げられた、政治と社会のことをわかりやすく説明するInstagramメディアです。選挙のときに投票案内所を設けたり、選挙があることを知らせる選挙のキャンペーンを行ったりと幅広く活動しています。

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NO YOUTH NO JAPAN

若い世代の方で、社会課題に対する関心はあっても投票率は低かったり、社会起業やビジネスは好きでも政治や、人権問題をはじめとした社会問題を解決するために行う社会運動に対する関心は薄かったりする方が多いと感じていました。これは政治や社会運動についてよく知らないことが原因で、自分の考えを持って行動することにつながらないからなのではないかと考えました。

「知って、自分のスタンスを持って、行動する」。この3ステップで最終的にアクションする人を増やせるよう、まずは政治や社会運動など社会を変えるアクションにつながる情報を発信しています。

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http://noyouthnojapan.org

── 「NO YOUTH NO JAPAN」の活動目的は、投票に行く人を増やすこと、なのでしょうか?

投票に行く人を増やすことと同時に、投票以外の政治参加の方法を広めることも目標にしています。

日本だと、「最終的な権利行使はすべて投票に」という主権者教育が強いのですが、投票のほかにも、署名を集めて持っていくことや、陳情すること、パブリックコメントを書くことなど、市民として伝える手段があることはあまり知られていません。

こうした投票以外の政治参加の方法を広めることで、政治的なアクションを起こす人を増やしていきたいなと考えています。

人権問題に興味を持つ人が少ないのはなぜなのか

── 活動を3年間続けてきて、手応えはいかがですか?

Instagramのフォロワーも10万人を超えましたし、政治に関心がないと言われているUNDER 30世代でも行動を起こしている人は増えている実感はあるので、手応えは感じています。

ただ、Yahoo! JAPAN SDGs編集部の方がおっしゃるように、人権問題に関心を持ってもらうのはなかなか難しいなと私も感じています。たとえば、SDGsでは貧困や教育、ジェンダー問題など、さまざまな目標が設定されているのに、多くの人は気候変動や海洋汚染などの環境問題にばかり注目していますよね。

── そうなんです、私たちもその難しさに悩んでいて...。環境問題にばかり注目が集まりがちなのは、なぜだと思いますか?

環境問題のほうが企業の利益につながりやすい側面があるからだと考えています。

たとえば、環境問題への取り組みは、「ESG投資」のように企業への投資価値を判断する際の指標にも使われますし、温室効果ガスの排出量削減・吸収に取り組めば、削減・吸収した分のクレジットを売却して利益を上げることもできます。

一方で、利益につながらない問題は「何のメリットがあるの?」と合理性の問題に回収されてしまいます。

ジェンダー問題も、「労働人口が減っちゃうから女性も働かせましょう」と言うと、ピンと来る人が多いのに、「シングルマザーが貧困になるの、おかしくないですか?」と言うと重要性を考えられる人が圧倒的に少なくなる。

── 企業の判断基準は、合理性の有無にあるんですね。個人レベルで人権への関心が薄い理由はなんだと思いますか?

「人権が侵害されるのはおかしい」と思えるような環境で育ってこなかったことが原因じゃないかなと思います。そうした前提がないと、声を上げようと思いませんし、侵害されている人を見ても「そのくらい当たり前」という発想にもなってしまいますから。

たとえば、会社や学校でみんなが勝手にまとまって声をあげると、管理する側は面倒くさいじゃないですか。そうした理由で、個人が勝手に団結しないように管理してきた結果、自分の小さな尊厳が踏みつけられる経験をたくさんさせられたんじゃないかなと。

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人権はパソコンのOSのようなもので、インストールされていない人もいるし、インストールされても機能するまでに時間がかかる人もいる。人権のOSが機能していない人に、「人権を大切にしよう」と言っても、その重要性を理解するのはなかなか難しいですよね。

── 人権のOSがインストールされていても、アップデートされていない人も多そうです。

たとえば、私の親が学生だったころは、「女性は家庭科、男性は技術」と受ける教科が性別で分けられていた世代なので、性差による偏見が身につきやすい教育を受けてきました。

ただ、そうした教育システム自体が悪いというよりは、学校を卒業したら勉強しなくていいという風潮のほうに問題があると私は考えています。変化する時代に合わせて、OSもアップデートしていかなければいけませんよね。

「個人」ではなく「構造」を変えることが大切

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── でも、人権の重要性を理解できない環境で育った人に、人権の重要性について伝えるにはどうしたらいいのでしょう?

まずは、人権について考えるモチベーションを見つけてもらうことが大切ですね。「自分の娘に嫌われたくない」とか「社会に置いていかれたくない」といった身近なものでも構いません。また、「自分ってわかっているつもりで全然わかっていなかったな」と気づいてもらうことも大切です。

人権の重要性を訴えつつ、「学びたい」と興味を持ってもらえるような、モチベーションを喚起することはメディアの役割でもあると思います。

── なるほど!重要性だけを押し出すのではなくて、「学びたい」と思ってもらえるようなきっかけをつくるほうが先ですね。

ただ、個人への働きかけも大切ではあるのですが、それよりも重要なのは構造への働きかけです。たとえば、女性蔑視発言をしてしまう人がいたとして、その人が女性蔑視的な発言をしなくなるのは良いことではありますが、それだけでは根本的な解決にはなりませんよね。

同じゴールを共有できる人たちで、ルールや仕組みをつくったり、変えたりするほうがまわりまわって人権を軽んじてきた人を変えることにもつながると考えています。

── それは「NO YOUTH NO JAPAN」が提唱する「政治参加の方法を増やす」ことにもつながりますね。

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NO YOUTH NO JAPANではU30の誰もが参加しやすいよう、インスタグラムでの情報発信に加え、記事制作やイベントなども企画している

デンマークの人が活動に積極的なのは「because it works(意味がある)」から

── 能條さんはデンマークに留学していた時期がありますよね。社会運動における、デンマークと日本の違いを感じたことはありますか?

まず「教育」が違います。日本の教育では「意見を言いましょう」までは教えてくれますが、意見を伝えて社会を変えるまでの手法は教えてくれません。

一方で、デンマークは「一人で意見を言っても受け入れられなければ、仲間をつくりましょう」とか「意見をまとめて持っていきましょう」といった、自分の意見を反映させるための具体的な方法を教えてくれます。

一人で検討したら「個人の問題」で片づけられてしまうのですが、何人かで検討すれば、それが「社会の問題」になる。日本とデンマークでは「社会の問題」にするための方法やプロセスの説明の有無が完全に異なります。

── 教育以外の違いは?

社会が若者に向ける視線にも違いがあります。

デンマークでは、若者が声を上げたり行動に起こしたりしたら、クオリティによらず、それだけで素晴らしいと受け止められる傾向があります。それは一人一人の市民が自分なりのかたちで参加することを重んじているからなんですよね。

そういう風に社会が受け入れてくれるから、デンマークの人たちに「なぜこういう活動をするの?」と聞くと「Because it works(意味があるからだよ)」と迷いなく返ってくる。
私自身も日本で学生団体をやっていたときは「やらないよりはやったほうがいい」というくらいにしか思えていなかったので、そこに大きな差を感じましたね。

でも、日本でも「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げてやってみると、高い壁も感じるけど、無風ではないなと思った。だから、何かやってみればいいだけのことなのかもしれないよと、若い人たちに伝えたいです。

日本に合ったアクティビズムの方法

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── 日本にも「どうやったら動けるんだろう?」と思っている潜在層は多いと思うのですが、なぜ社会運動が根付かないのでしょうか?

一つ目に「居場所」の問題があると思います。自分が役に立つと感じられる居場所を見つけると参加しやすいのですが、その居場所の作り方がわからない。活動の数もそもそも少ないし、そうした運動に参加することはいいことだという認識が日本にはあまりないので、アクティビズムの場所を「自分の居場所」だとは考えにくいのだと思います。

二つ目の理由としては「労働時間の長さ」が挙げられます。日本の大学生は22歳で就職するのが当たり前で、25~26歳で社会活動の中心にいる人はほとんどいません。それはなぜかというと、社会運動が基本的にボランティアで、それだけでは生計が立てられないからです。

ヨーロッパのアクティビストたちに「何をして生活しているの?」と聞くと「これ(社会運動)だよ」と答える。組織に残って活動を続けてくれている人がいるから、他の仕事をしていたり、一旦抜けたりしても活動に参加しやすい土壌が残っているんですよね。

── 確かに、私も国際協力系の学生団体で活動していましたが、大学卒業以降はまったく......日本では社会人のアクティビズムが盛んではないことも関係しているのでしょうか?

そうですね。これは日本に社会運動が根付きにくい3つ目の理由ですが、欧米型のコミュニケーションが日本に必ずしも合わないことも考慮したほうがいいですね。

2020年5月にアフリカ系アメリカ人の男性が警察に殺された事件をきっかけに巻き起こった人種差別抗議運動「Black Lives Matter」のときに、海外ではInstagramに黒い画像を投稿するムーブメントがありましたが、日本の若い世代は何かしらの躊躇があったのか、投稿自体はあまりされなかったんです。

ただ、インスタグラムのストーリーは日本国内でもたくさんシェアされていたので、投稿よりもマッチしていたんだなって。思っていることは同じでも、表現の仕方が違うことはありますよね。だから、みんなでデモに繰り出さなかったとしても、違うやり方ができるならそれでいいと思うんです。

── 日本では、具体的にどんなことができると思いますか?

まずは「言葉をつくる」ことですね。たとえば、ツーブロックの禁止や地毛証明、下着の色指定など、人権を脅かす可能性がある校則を「ブラック校則」と名付けたことで「これ、ブラック校則だよね」とみんなが共通の認識を持って言いやすくなり、そうした校則を撤廃する方向に動けた事例もありました。言葉があると、みんなが共通認識を持ちやすくなってアクションを起こしやすくなる好例です。

── 「SDGs」もそうですが、私たちは「モノサシがないと弱い一族」ですもんね...逆に、名前があることで推進していける可能性はある。

それから、日本ならではの方法と言えば、「オンライン署名」ですね。コロナ禍以降のオンライン署名フォーム「Change.org」の利用率が世界一になったんです。声を上げる手段として、オンライン署名があることが認知された結果ですよね。

だから「こういうものがあるよ」ってメディアが伝えることには意味があるし、そうやって武器の数を一つずつ地道に増やしていくことが大切だなと感じています。

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終わりに

メディアを運営していると、情報を発信するだけで社会を変えることができていないのではないかと、歯がゆさを感じることがあります。とくに人権問題は「当たり前のこと」として流されたり、合理性やエンタメ性に押し負けたりして、二の次三の次になってしまいがちです。また、当たり前の権利が奪われようとするときに立ち上がって声を上げる海外のムーブメントと、日本の現状を比較して、肩を落とすこともあります。

それでも、日本に人権意識が根づきにくい理由をひとつずつ拾い上げて、「知りたい」モチベーションを喚起したり、日本の人々が行動を起こしやすい政治参加の方法を提示したりすることで、一人ひとりのアクションへとつながっていくのかもしれません。

能條さんにお話をお聞きする中で、メディアだからこその役割が、見えてきた気がしました。

\ さっそくアクションしよう /

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