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豊かな未来のきっかけを届ける

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「日本の大学にも未来がある」学生起業家が提唱する「寄付文化」の推進方法とは? #豊かな未来を創る人

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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日本の大学の収益モデルや財政基盤にイノベーションをもたらすことで、大学教育から日本再生を実現する。そんな大志を抱き、現役大学生起業家として活動している中沢冬芽さん。

中沢さんは、アメリカのトップ大学では卒業生による寄付金を基盤として財源を確保していることに着目し、日本でも寄付文化を醸成するためのシステム構築や、卒業生と大学のネットワークづくりを行っています。

「自分は恵まれた環境で育った」と感じる中沢さんが実現したい未来とは。話を聞きました。

中沢 冬芽(なかざわ・とうが)

株式会社Alumnote代表取締役。1998年生まれ、長野県松本市出身。幼少期をアメリカで過ごす。東京大学法学部入学後、学業と並行して様々なプロジェクトに従事。アルムノートを創業。過去、起業家甲子園総務大臣賞など複数受賞。趣味は将棋とヴァイオリン。

卒業生が大学へ寄付する文化を作る

── 中沢さんが展開する事業について教えてください。

日本の大学が財政的に自立するため、その第一歩として寄付文化を根付かせることを目指して、事業を運営しています。

一つは、寄付募集から同窓会運営まで可能なSaasの運営です。寄付を増やすためには、潜在的支援者である卒業生との繋がりが鍵になりますが、現状、多くの大学が卒業生データを管理できていません。また、寄付に対応する職員も不足していて、既存の寄付に対応する業務しか手をつけられていない状況です。卒業生データベースづくりから同窓会の運営、決済などの事務処理まで一括で行い、少ない人でも寄付を増やしていける基盤づくりを目指しています。

また、大学が卒業生とつながり、寄付文化を醸成するためのチャリティイベントも開催しています。2022年には、全国18の国立大学を横断した日本最大規模のチャリティイベントを開催しました。累計10万人以上の方に参加いただき、総額5,000万円以上の寄付金が大学、及び大学生の活動支援金として集まりました。

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── どうして大学運営に注目したのでしょうか。

大学は社会に出る前の最後の教育的な接点です。しかし今は大学の財政逼迫に伴い、博士課程進学率が年々減少し、若手研究者のポストが減ってきている状況。国際的な競争力は低下し、日本の優秀な研究者が海外に流出する事態が起きています。

これからの将来、18歳以下の人口がさらに減少し、学生による納付金はさらに減少します。また日本の財政状況も厳しいことから、国立大学への交付金はさらに少なくなる見通しです。このような状況下ではイノベーションが起きず、さらに日本の国力が低下し、大学の財源が減少する悪循環が生まれます。

大学の資金が潤沢になれば、日本の教育自体の質が底上げできるはずです。今こそ大学の財政基盤を盤石にすることが必要不可欠だと考えて、この領域に取り組んでいます。

── 今の事業はアメリカの大学の事例から発想を得ているのですよね。

アメリカのハーバード大学では1970年代から寄付金募集に取り組みはじめました。現在では1年間に18%もの卒業生が寄付を行い、さらに基金を金融市場で運用することで大学の運営資金を賄っています。2017年には4.5兆円もの規模になっています。日本全国の国立大学に文部科学省が出している1.08兆円の交付金よりも、海外の一大学の方が潤沢な財政基盤があるわけです。

なぜこれほどの違いがあるのか。そこにはさまざまな理由がありますが、「同窓会」の質の違いが大きいと考えます。たとえばハーバード大学では、同窓会は大学が運営しており、1日に数件の同窓生向けイベントを開催するほど力を入れています。卒業生からしても、同窓会が魅力的な場所になっています。

その結果、卒業生の寄付が集まっていて、米国大学の卒業生寄付金率は平均8%というデータがあります。日本では、潜在寄付者層の中で、実際に寄付する人は1%と言われていますが、寄付が広がる可能性は十分にあると思います。大学の強みは、過去の卒業生やその保護者たちなど、すでに大学の価値を享受した人が大勢いることです。NPOだったら、活動を知ってもらい、その背景にある社会問題に共感してもらって、その先に初めて寄付となるわけで、これは大学の持つ強みだと思います。

生まれた環境による情報格差をなくしたい

── いまのテーマにたどり着くきっかけは、「同窓会」について調べたことだと聞きました。

そうです。もともと目を付けていたのは「同窓会」なんです。僕は、2010年に新設された中高一貫校の2期生として入ったので、将来の相談ができる社会人の先輩はいませんでした。教育やキャリアに関する学びの機会も少なく、とりあえず偏差値の高い大学を目指そうと思って受験に取り組みました。

ところが、大学で東京に来て驚きました。自分が目指したいような、かっこいい大人と出会う機会がたくさんあったのです。そして東京育ちの人たちは、そのような大人に中高生時代から触れ合う機会があったことを知ったのです。

生まれ育った環境で得られる情報に大きな格差があること、それにより社会的成功の得やすさが大きく異なることを実感しました。もし自分が東京のど真ん中で高校生時代を過ごしていたら、きっと人生も違っていたと思います。生まれた環境による情報格差を解消できるインフラを整えたい。そんな思いで色々調べるうちに、OBOGをつなぐネットワークとして同窓会にたどり着きました。

同窓会は、卒業生と学校や現役生徒をつなぐことができるコミュニティですが、多くの学校で機能していないことが分かりました。事務の方が高齢化していたり、会費が集まらなかったりなどの問題があったのです。

そこで海外の事例を調べてみると、アメリカでは同窓会への投資が卒業生自身にメリットとして返ってくるようなシステムになっていることが分かりました。もし日本でもそういった同窓会が実現できれば、情報格差が解消されるのではと考えたのがスタートです。

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実力があれば、認められる

── 発想は同窓会だったんですね。自ら道を切り拓いている今の中沢さんをみると、高校時代にとりあえずいい大学を目指そうと考えていたことに驚きです。子ども時代はどのように過ごしていたのでしょうか。

小2のとき、父の転勤でアメリカに引っ越しました。英語もしゃべれないし、周りからはいじめられましたね。でも負けず嫌いだったので、実力で圧倒できればいいと考えました。スポーツや勉強を頑張るようになり、結果が出ると周りも自分を認めてくれるようになりました。実力があれば周りに認められることを知りました。

しかし小6になって日本に帰国すると、またいじめられました。「トマトの発音がきれいすぎる」とか、本当にしょうもない理由で。地元の公立中学ではなく私立の中高一貫校に進学してからは、居心地が良かったです。

その頃に打ち込んでいたのはヴァイオリンです。ヴァイオリンは幼少期から習っていて、月1,2回は、東京の有名な先生の教室に通っていました。ただ、自分には才能がないことにも気付きはじめました。毎日何時間も練習してきたから、それなりの演奏はできますが、プロを目指している人と比べると歴然の差です。本当にこのままヴァイオリンばかり続けて良いのか悩んでいました。

── 実力で認められたいと考えている分、どれだけがんばっても、周りにもっと上手な子がいると心も苦しくなりそうです。

当時は、アイデンティティがぐちゃぐちゃでしたよ。ただ、高1の修学旅行で、ロンドンに行ったときに吹っ切れました。ケンブリッジ大学をみたとき、大好きな『ハリーポッター』の世界が広がっていて、心が躍ったんです。僕もここに通いたいと思いました。

しかし親には、そんなお金はないと反対されて。それで、日本のトップの大学を目指すことにしました。

お金を稼ぐにはどうすればいいか、追求する日々

── 大学入学後は、どのように過ごしていたのでしょうか。

大学進学という目標を達成すると、それ以上の夢や希望はなかったんです。だから勉強にも熱が入らなくて。授業にもほとんどいかず、オーケストラ部の練習だけに顔を出していました。

しかし、大問題が起きました。親の教育方針なのか、ほとんど仕送りがなかったんです。夏には貯金がつき、秋以降の学費が払えない事態になりました。

そこでアルバイトをはじめました。まず働いたのは工事現場の仕事です。オーケストラの練習が終わった後に、夜11時から朝5時までアルバイトして、少し寝てまたオーケストラに行くような生活でした。

働いて少ししてから、工事現場の仕事には現役大学生がいないことに気づきました。お金を稼ぐ上で、大学生である自分の強みを活かせていないことに気づいたのです。そこで目を付けたのは仮想通貨のトレードでした。

実際にやってみると、起きている時間は勝てるけれど、寝ていたり、集中力が切れている時間帯には負けることが分かりました。そこで、自分が勝っている時間の思考をアルゴリズムにしたプログラムを作ってみました。これで勝ち続けられると思ったのですが、そううまくはいかなかったです。ただ、ここでプログラミングのスキルを身に付けることができました。

そうやって色々やっていくうちに、お金の稼ぎ方が分かってきました。すると次第に「誰かのためになることをして、お金を稼ぎたい」という気持ちが湧いてきました。

受験勉強で歴史や政治経済を学んだときから、日本を変えるようなエキセントリックなことをしたいという気持ちがあったんですよね。

というのも、教科書で「昔の日本は良かった」といった書かれ方をしているのがすごく嫌で。昔は世界1位だったけど、今はいろんな国に負けている。だけどジャパンプライドだけは捨てきれない、みたいな書かれ方が嫌でした。今の時代に生きていることが損ではないかと思ったんですよね。例えば、15世紀のヨーロッパに生まれていた方が面白くて、21世紀の日本に生まれたっていうのは、あまり面白くない。自分が生まれてからの20年ほども、何も起きずに、ずっと下り坂で。もっと何か起きてほしい、起こしたいというのは高校生時代から思っていました。

長らく経済が低迷している日本で革命的な何かをしたい気持ち、自分の実力で誰かのためになることをして認められたい気持ち、いろんな思いがあったのだと思います。そこで金銭的に困っているベトナム人留学生を助ける事業や健康に関する事業など、興味のある分野に挑戦していきました。ただ、やっぱり難しかった。社会課題に対してお金を稼ぐのは、こんなにも難しいことなんだと気づきました。

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── 簡単に解決できないからこそ、社会問題になっているわけですものね。

一方で、社会課題をビジネスとして解決しなければいけないという思いも強くなりました。NPOやボランティアの活動は重要です。しかしその活動が成立するためには、発起人が利他的ないい人であり、かつその活動に寄付をする人が必要です。それはかなり特殊な状況ですし、どちらかが崩れると、活動が成り立たなくなってしまいます。

社会課題の解決において非常に大事なのは、他の人が真似したり、再現できて、かつ収益があることだと考えました。もし仮に僕が死んだり、会社が倒産しても続けることが真の解決につながる。そのためにも自分には、仕組みづくりのスキルが必要だと考えました。

そこでまず、大企業の仕組みを知るために外資系大手IT企業でインターンをはじめました。しかし、すでにビジネスモデルが出来上がった状態の会社であり、僕が求める仕組みづくりには関われないと感じました。そこで次は、創業直後のスタートアップに入りました。まさにゼロからイチをつくる、カオスな状態を経験できましたね。

大きな会社もベンチャーも両方体験したことで、自信がつきました。同時に、自分が子どものときから考えていた、実力で認められる発想が本質的ではないことにも気がつきました。

── 「実力主義が本質的ではない」というと?

外資系大手IT企業に履歴書を送ったのも、世界で一番の企業に入ってみたいという、自身の承認欲求に突き動かされた面もありました。でも実際にそこで仕事に取り組んだり、素敵な大人に出会っていくうちに、特定の誰かやコミュニティから認められたからといって、自分がすごいわけではないと気づいたのです。

そもそも、自分は恵まれた環境で過ごしてきたこともわかりました。大学に入れたのも、親が整えてくれた環境があったからです。自分の力だと思ってきたけれど、実はそうではありませんでした。

その気付きを経て、自分が本当に興味があることに取り組もうと立ち上げたのが、アルムノートなんです。事業の発想も、自分が感じていた悩みから始まりました。

どんな環境で生まれても、すべての人が必要な情報を享受できるような社会にしたいと。

民主主義が苦手な複雑な社会問題にチャレンジしたい

── これらの経験が今に繋がっていくのですね。これから先、中沢さんはどんなことを実現したいのでしょうか。

まずは、卒業生が大学に寄付する文化の情勢です。寄付文化が根付いていけば、学生人口が減っていくのに対し、1人1人の学生に対するサービスの価値はより大きくなります。結果として、将来を担う若者1人1人に投資する文化が日本全体で促進され、イノベーションが継続的に起きるしくみができると考えています。

この領域もそうですが、僕が興味を持ってるのは、民主主義が苦手にしている部分を解決することなんです。たとえば高齢者人口が増えていく中、普通に考えれば医療福祉などへの費用は増えるものの、若い世代への教育への優先順位はどんどん下がっていきます。そこをいかにひっくり返すか。複雑な問題を考えることは面白いですね。これからもこういった複雑な社会課題にチャレンジし、日本をもっと盛り上げるためのシステムをつくっていきたいです。

アルムノートをはじめたきっかけとして、「もっと高校時代に情報があれば」と話しました。でも実際、情報として頭で理解していても納得できないことはたくさんあります。僕がいろいろな経験を積んだのも、そのためです。

大事なのは自分が納得できることだと思います。そのためには、自分が本気を出せば達成できるような目標を立てて、それを一つ一つ解決していくことが必要です。そうやって目標を達成していけば、世の中のどうでもいい基準をどんどんそぎ落として、自分が何に時間を費やすべきかが見えてくるはずです。遠回りに見えるかもしれませんが、一歩ずつがんばっていきたいですね。

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