過疎地では除雪できない未来も...除雪クライシスどう乗り越える? #災害に備える

気候変動の影響で、降雪量が減少する地域がある一方で、「ドカ雪」と呼ばれる豪雪が増える地域もある。高齢化や過疎化が進むなか、除雪を担う人材が枯渇し、雪が降るたびに生活インフラの維持が困難になる"除雪クライシス"も叫ばれている。
近年の暖冬や猛暑とも表裏一体のこの問題。果たして、今後の日本はどう除雪に向き合うべきなのか。豪雪の現場や、除雪人材不足を乗り越えるための新たな取り組みを取材した。(取材・文・編集:島田龍男/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
気候変動で変わる雪の降り方
日本の年平均気温は、温暖化対策をしない場合、20世紀末と比較して21世紀末までに約4.5℃、冬季では約5℃上昇すると予測されている(「日本の気候変動2020」文部科学省・気象庁)。気温がこれほど上がると、多くの人が「雪は減る」と想像するかもしれない。
しかし実際には、地域や標高によって雪の降り方の変化は異なると指摘されている。東日本や西日本の平野部では、雪の降り始めが遅れ、降り終わりが早まるため、ひと冬の総降雪量が減る見通しだ。
一方で、真冬の気温が依然として0℃以下にとどまる北海道や標高の高い山岳地帯では、海水温の上昇による水蒸気量の増加によって、逆に雪が増えるリスクが浮上している。北陸の山沿いや内陸部でも、全体の降雪量は減っても「一晩でドカッと降る」極端な豪雪が増加する可能性がある。結果的に「雪が減る地域」と「豪雪が増える地域」が併存する雪の二極化が進むとされ、交通網や生活インフラへの影響も予測されている。
地球温暖化で大雪が増える!? 既に起こり始めている気候変動の行く末
サストモ編集部

足りない除雪人材。高齢化に気候変動が追い打ち
除雪作業と一口に言っても、道路などのインフラ、商業施設の駐車場、家屋の屋根、そして間口(玄関・車庫まわり)など多岐にわたる。大型の除雪機を扱う重作業から、スコップを使う手作業まで、その担い手の多くは高齢化や人口減少の波に直面している。
「隠れ積雪日本一」をうたう山形県西川町。山間部では4メートル以上の雪が積もることもある一方、近年はあまり降らない年もあるという。西川町役場は、この「雪が降ったり降らなかったりする」状況こそ、道路の除雪人材不足を加速させると危惧する。
「西川町のような豪雪地域では、冬は工事ができないため、道路除雪は地元の建設業者にとって冬季の仕事の柱です。ところが雪が降らないと除雪の仕事が発生せず、若手オペレーターの雇用を維持できない。逆に大雪のときは早朝から深夜まで稼働しなければならず、体力的・費用的に厳しい面もある。この不安定さが、人材を呼び込みにくくする要因でもあります」
屋根の雪下ろしも、深刻な課題だ。転落や落雪などの事故リスクが高く、体力を要する作業だけに、従来は地域住民の助け合いによって対応してきた。しかし今や、建設業界でも少子高齢化が進み、業者への依頼すら難しいケースが増加している。国土交通省によると、多雪の年には全国で年間1000件以上の除雪作業中の事故が報告され、100人以上が亡くなっている。死亡事故の約8割は65歳以上の高齢者というから、早急な対策が求められる。
また、家の間口の除雪も、高齢者や体が不自由な人にとっては外出の可否を左右する問題である。地域コミュニティーが高齢化し、ボランティア体制の維持が難しくなると、買い物や通院のたびに雪かきをする人がいない、という事態に直面しかねない。
新たな視点で挑む「ためない除雪」の可能性
様々な課題が顕在化する中、従来の「積もった雪をまとめて除雪する」発想ではなく、「雪をこまめに取り除き、ためない」という対策が注目され始めた。
「除雪ドローン®」を遠隔操作
水上ドローンの開発で知られるエバーブルーテクノロジーズ社は、ロボット掃除機が家の中を常にきれいに保つ仕組みに着想を得て、家の周囲や駐車場に雪を積もらせない「除雪ドローン®」の販売を2024年末に開始した。

「除雪ドローン®」は、夜中に数センチずつ積もった雪を、人間の労力なしに取り除けば、重い雪に悩まされなくて済むという発想で作られた。
もともと自動運転を目指していたが、早期導入を求める声に応えるため、まずは遠隔操作型(ラジコン式)を先行販売。雪上を走れる専用モビリティーに雪を押し集めるブレードを取り付けることで、駐車場などの除雪をする発想だ。ただし、20~30センチ以上積もった後の作業には向かず、こまめな稼働が前提となる。将来的に自動運転化できるアップグレードキットを提供する予定で、今後はAIやGPSを活用した完全自動運転も目指しており、いつか「夜中に勝手に動き、朝起きたら雪がない」世界が実現するかもしれない。

屋根の雪は「滑らせて」落とす
一方、屋根の雪下ろしを手軽にする目的で登場したのが「らくらく雪すべ〜る」だ。開発者の井口さん夫妻は、雪深い山間部に移住して初めて体感した「一晩で家が埋まる」現実にショックを受け、また隣家では高齢の夫婦が屋根に上って雪下ろしをする姿を見て「何とかもっと安全で楽な方法はないのか」と考えたのがきっかけだという。海外の動画を参考に屋根の雪を"滑らせて"落とす道具を試作。アルミ製の先端部分で切った雪が、ポールについたシートを伝ってそのまま下に落ちる。クラウドファンディングを通じて改良を重ね、屋根の下からも、上からも使えるようにした。

屋根に上って利用する際も、軒先まで移動せずに雪を落とせるので事故リスクの軽減と作業時間の短縮が図れるという。実際、ユーザーからは「朝に数分で屋根の雪を片付けられる」という声もある。ただし、硬く固まった雪には不向きで、あくまで「日常的にこまめに落とす」スタイルを推奨している。

地域を超えた助け合いの広がり
人手不足の深刻化に対し、地域外からボランティアを呼び込む動きも全国的に進む。前述の山形県西川町では、総務省の「地域おこし協力隊インターン制度」を活用した「おたすけ隊」を積極的に受け入れ、屋根以外の雪かきや高齢者の生活支援などを担ってもらっている。
ボランティアの多くは「見たことのない豪雪地帯で除雪に参加するのが楽しい」と感じており、地域社会の限界を補うと同時に、外部住民との交流や関係人口の拡大にも寄与している。実際に数年前から「おたすけ隊」を利用している地元住民(89歳・女性)は、「一人暮らしでは除雪ができません。建設会社や近所の方にも助けてもらっていましたが、人手不足と費用面で厳しかった。おたすけ隊ならお金がかからないし、いろいろな人と出会えるのが嬉しいです」と語り、費用面の課題と孤立感の両方を解消してくれる取り組みに感謝を示す。

行政が動く。道路除雪を支える仕組みづくり
さらに西川町では、道路除雪を請け負う建設業者の経営を安定させるべく、行政による支援策も模索している。
一つは事務効率化の取り組み。西川町では除雪車にGPSを搭載し、どのルートを何時間除雪したかを自動記録するシステムを導入した。これまではどのルートを走ったかをいちいち計算、報告した上で精算を行っていたが、GPSの導入により、業者と自治体双方の精算事務が格段に楽になった。加えて、除雪ルートの最適化も見込める。
さらに、雪があまり降らなかった年に建設業者が無収入となる問題を緩和するため、「債務負担行為」と呼ばれる会計手法を導入した。2〜3月に雪がない場合は、通常は翌年度4月以降契約、5月頃の着工になる工事に関して、契約を前倒しする仕組みだ。早めに公共工事に着手できるため、オペレーターの継続雇用につながる。雪が降る年と降らない年の差が大きくなっても柔軟に対応できる体制を目指している。
西川町役場は「除雪の仕事は地域の暮らしを守るやりがいのある仕事だと、若い世代にも伝えたい」と語り、動画を含む各種PRにも力を注ぐ。今後はAIやロボットの活用による効率化や、大学との共同研究で進める「雪を溶かしながら発電する技術」など、さらなるイノベーションへの期待も高まっている。
除雪から気候変動への対応を考える
気候変動と少子高齢化が進むなか、雪国の暮らしは大きな転換点を迎えている。技術革新や広域的な助け合い、行政による制度改革など、多様な取り組みが芽吹き始めた。雪が減る地域と、かえって大雪が増す地域が併存するこれからの日本では、安全で持続可能な除雪体制を築くことが重要になる。そして「除雪クライシス」をどう乗り越えるか、それは今後ますます深刻化する気候変動の行方を、私たち一人ひとりが考えるきっかけにもなるだろう。