地球温暖化で大雪が増える!? 既に起こり始めている気候変動の行く末
「地球温暖化が進行すると、雪は降らなくなるんだろうか?」
もし雪が降らなくなれば、私たちの暮らしや様々な産業に悪影響が出そうだ......。天然のダムである雪山が消え、山に蓄えられる栄養は減り、海に流れ出す栄養も減ることで、海の生物にとっても悪い影響がありそうだし......。
こうした疑問をもとに「降雪の未来」を調べていると、『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』という本に出会った。
本の著者である、気象庁気象研究所の川瀬宏明さんは言う。
「温室効果ガスの緩和策を積極的に行なわなければ、2100年頃には20世紀末と比べて日本の年平均気温は4.5℃程度、冬季の平均気温は5℃程度上昇することが予測されます(引用:日本の気候変動2020|2020年12月 文部科学省 気象庁)」
気温が4℃~5℃上がると、近年生じている異常な猛暑や、災害をもたらす豪雨の頻度や激しさがさらに増すんじゃないかと考えられる。冬の平均気温が5℃も上がってしまうと、雪の降る量も減ってしまいそうだ。しかし、川瀬さんは「地域によっては雪が増える」と話す。減るのはわかるけど、増えることもある......?
気象予報士でもある川瀬さんに、100年後の天気を予想してもらった。
川瀬 宏明(かわせ ひろあき)
1980年生まれ。気象庁気象研究所応用気象研究部主任研究官。理学博士。気象予報士。専門は気象学、気候学、雪氷学。2019年度、日本雪氷学会平田賞を受賞。著書に『異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと』(共著、ベレ出版)、『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』(ベレ出版)
本州全体では雪が減るが、北陸ではドカ雪が増える
── 「山に積もる雪が減ると、田植えの時期に雪解け水が減って困る」「雪の降る量が減ってスキー場の経営が苦しくなっている」など、地球温暖化による身近な変化について聞く機会も増えました。このまま気温が上昇すると、日本の雪はさらに減ってしまうのでしょうか?
そうですね。ひと冬に降る雪の量は減ると予測されています。現時点を超える温室効果ガスの緩和策を取らない場合は、2100年ごろには20世紀末よりも日本の気温は年平均で4℃程度、冬季は5℃程度上昇することが予測されます。
すると、雪の降り始めが遅くなり、降り終わりが早まります。北陸や西日本は初雪が年を超えるかもしれません。また場所によっては、1月に入っても気温が0℃を下回らなくなり、ほとんど雪が降らなくなる可能性があります。
とくに東日本や西日本では大きく減少するでしょう。「日本の気候変動2020」(2020年12月 文部科学省 気象庁)によると、東日本の日本海側は、年間の最深積雪が20世紀末の2割程度になり、西日本のもともと雪が少ない地域では、将来はまったく雪が降らない年も出てくるかもしれません。
── ほとんど雪が降らなくなる地域もあるわけですね......。
そうなんです。ただ、雪の量が逆に増える地域もあります。真冬の北海道の雪の降る量は、現在よりも増えると予測されています。
── なぜ気温が上がるのに、雪が増える地域があるんでしょう。
理由としてひとつ考えられるのは、気温や海水温が上がると、海からたくさんの水が蒸発し、大気中の水蒸気の量が増えるためです。水蒸気が増えることで、現在よりも雲が発達し、雪が増えると考えられます。
たとえ気温が上がったとしても、0℃を超えなければ、雪は降ります。北海道は、そもそも気温が非常に低いため、4~5℃上がったとしても真冬に雪が増える地域があるのです。
── 単純に「暖かくなると雪が減る」というわけではない、と。
そうですね。雪の量が全体的に減る本州でも、標高の高い北アルプスでは、年によっては雪が増えそうです。また、北陸の内陸や山沿いでは、全体的な雪は減るのに対して、厳冬期のドカ雪(一晩などの短い時間で一気に降る大雪)の頻度が増えると予測されます。
水蒸気が増えたとしても、地上の気温が0℃を越えると、雪は雨に変わります。そのため、本州の日本海側の沿岸部では、冬の雨が増えると考えられます。暖かくなるからといって、晴れの日が増えるわけではありません。曇りや雨の天気が多くなるでしょう。
── 日本以外でも、世界的に雪の量は減るのでしょうか?
広い視点では減りますが、アラスカやシベリアなど、もとから気温がかなり低い場所では、1年を通した雪の量が増えるという予測があります。
雪の減少は気温上昇を加速させます。地球温暖化は、地球全体が一様に温まっていくわけではありません。もともと雪や氷が存在していた場所は、それが融けて無くなったときの気温上昇が激しくなります。そのため、南半球よりも陸が多い北半球のほうが顕著に気温が上昇すると予測されています。
雪が減っても増えても、困る地域がある
── 100年後に雪の量が変わってしまうことで、どんな影響があるんでしょうか?
すでに雪だけなく、様々な分野への影響が懸念されており、2018年に気候変動適応法が施行されました。各自治体などが、地球温暖化に備えて農業や防災の適応計画を考え、推進するためです。
防災面では、北海道など降雪量が増えると予測される地域は、現在同様、あるいはそれ以上に雪害に備える必要があるでしょう。また、ドカ雪が降ると、雪崩や交通網が麻痺するという影響もあるでしょう。
北陸などの、「ひと冬の雪の量が減るのに稀なドカ雪は増える」地域では、除雪体制をどう準備するかが課題になりそうです。現在は、時々ドカ雪があるので予算を確保する意味がありますが、将来的に数年に一度のドカ雪に備えて、毎年除雪車を用意しておけるかどうか、難しい選択になるかもしれません。
雪があまり降らなくなると、どうしても人の危機意識は薄らいでいくものだと思います。そういう部分も含めて、災害に結びつきやすくなる可能性はあります。
── 影響の大きい産業は?
ひと冬の雪が減ることで、ウィンタースポーツやその周辺の観光産業は影響を受けそうです。ただ、その影響は地域によって異なります。もともと気温が低い長野県や北日本の山では、大きく雪が減少すると予測される西日本や北陸に比べると、影響は小さいと考えられます。
── 農業への影響は大きいのでしょうか?
冬季に山岳地帯に積もる雪は、天然のダムと呼ばれ、雪解け水は農業用水として田畑を潤します。温暖化すると、雪の量が減り、雪が融ける時期が前倒しになるとみられます。
現在、北陸地方では4月から5月にかけて雪解け水の流れる量が多いですが、それが3月頃になってしまうという研究もあります。すると、現在の田植えの時期とずれてきます。
温暖化によって冬の雨は増えますが、雨は積もることなく河川に流れていってしまいます。天然のダムでは、冬季に水を十分に貯めることができなくなるかもしれません。
── 天然のダムには、将来頼れなくなってしまうんですね。温暖化によって、海水温が上昇すると漁業にはどのような影響があると考えられますか?
「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~ p.80(PDF)」|2018年2月環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁(外部サイト)によると、温暖化の影響で将来的に魚介類の分布や、体のサイズに変化が起こると予測されています。
このレポートの中では、たとえば、北海道沿岸でスルメイカの数が少ない範囲が広がったり、サンマが日本の漁場に南下してくる時期が遅くなっていくことが指摘されてています。
若い世代に伝えることで、未来は変わるかもしれない
── 予測される100年後の気候やその影響を知ると、なんとか地球温暖化を食い止めたい気持ちになってきます......。
今回、お話させていただいたのは、100年後に4~5℃の気温上昇が起こった場合の予測です。そうならないよう、2015年にパリ協定が採択され、2020年以降の温室効果ガス削減の、国際的な枠組みが示されました。
── 温室効果ガス削減のためには、どんな取り組みが必要なのでしょうか?
環境省では、2018年に「環境省再エネ加速化・最大化促進プログラム」をまとめていて、CO2を排出しない再生可能エネルギーを中心に、効率的にエネルギーを使う省エネや、エネルギーを蓄える畜エネの暮らしを促進しています。また、温室効果ガスを減らしていくためには新しい環境技術を開発していくことも重要になります。
たとえば、環境省「長期低炭素ビジョン小委員会」では、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)(PDF)|環境省(外部サイト)という環境技術が議論されています。これは、工場などから排出される二酸化炭素を回収し、地中や海底などに隔離して貯蓄する技術です。この技術があれば、石油を燃やしても二酸化炭素が大気には出ないですし、また最近では、CCSに加えて貯留した二酸化炭素を利用するCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage:二酸化炭素回収・有効利用・貯留)が検討されています(CCUSの早期社会実装会議|環境省)。
── 私たち個人に、何かできることはあるんでしょうか?
省エネを意識して生活することはもちろん大事ですが、地球温暖化やその緩和策について、なるべく正しい知識を身につけていただいて、それを周りの人、とくに若い世代に伝えることが大切だと思います。
多くの人が正しい情報を発信をすることで、社会的な意識を大きく変えることができるかもしれません。次世代を担う誰かが、温室効果ガスを減らす新たな技術を開発したり、省エネを推進するビジネスを思いつくかもしれません。
私自身も時々、中高生や大学生向けに地球温暖化についてお話しする機会があります。質問に答えたり話をしたりすると、興味を持ってくれる方も多いです。「これまでの疑問が解決しました、ありがとう」と言っていただけることもあります。その方たちが10年後、50年後にどんな未来をつくるのか、非常に楽しみです。
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文都田ミツコ
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編集くいしん
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