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自治体の半数が消える!? 「人口減少社会」で、故郷が''暮らせる場所''であるためには?

    

サストモ編集部

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左から、鍋谷暁さん、河合雅司さん、太田直樹さん

2023年、初めて全都道府県で日本人の人口が減少。

日本の人口は、2070年には現在の7割以下となる8,700万人にまで激減すると予測されている。

人口減少は出生率の低さによるものだが、改善される見込みは薄く、年間出生数は2016年にはじめて100万人を切り、2022年には80万人を割った。その一方で、2042年に65歳以上の高齢者数はピークを迎えると言われている。

地方に目を向けると、状況はより深刻だ。全国には1,741の市区町村があるが、少子高齢化や都市部への人口流出によって、2040年には全国の自治体の半数が消滅の危機であると言われている。

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人口問題の専門家である河合雅司さんの著『未来の地図帳』によると、人口減少は全国一律に進むのではなく、都市部より地方のほうが、早くから激しく減少していくそうだ

筆者の生まれは、秋田県の沿岸部に位置する能代市。少子化と高齢化が深刻で、65歳以上の高齢者が41.8%を占める。

一方で、日本海に注ぐ米代川や、海岸沿いに連なる「風の松原」など、美しい自然が人々の暮らしに入り込んだ地域でもある。

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日本海へ注ぐ米代川の橋梁からは美しい朝焼けと夕焼けを望むことができる

そんな故郷が、近い将来、人が豊かに暮らせない場所になってしまうかもしれない。

過疎地ではすでに、商店の閉鎖による買い物難民、空き家の増加による治安悪化、人の手入れが届かなくなったことによる自然災害などが問題になっている。人口減少が進めば、人々の暮らしに関わる問題が一層、表面化していくだろう。

人口減少社会でも、故郷が住み続けられるまちであるためにできることを考えたいと、人口問題や地方創生に関わる有識者に話を聞いた。

人口減少が地方にもたらす、働き手不足と利用者不足によるインフラ・サービスの衰退

人口減少社会は、地方の暮らしをどのように脅かすのだろうか?

地方の暮らしに起こっていること・これから起こりうることを、 人口約5万人の秋田県能代市の例から見つめてみたいと、能代市議・鍋谷暁さんに話を聞いた。

鍋谷さんは、人口減少が進むことによる喫緊の課題は、働き手不足だと指摘する。

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国際教養大学在学時にノルウェー・ベルゲン大学に留学し、欧州の政治について学ぶ。大学卒業後、DOWAホールディングス株式会社に入社。参議院議員・中泉松司氏の秘書を務めたのち、父の急逝に伴い家業の「なべや製麺」を継ぐ。2022年、合併して新能代市となった2006年以降では、最多得票で当選し、27歳で能代市議会議員となり、県内最年少議員となる。

鍋谷さん

「能代市は数年前から有効求人倍率が高止まりしています。これは求人に対して応募する人が不足していることを指します。仕事の需要はあるけれど働く人がいない、そんな状況は日本全国の多くの地方が抱えている問題だと思います。働き手が不足するとサービス低下につながり、持続的な経営ができず、さまざまな業種の企業が廃業あるいはその地域から撤退せざるを得なくなります」

また、サービスの低下・撤退を招くのは、働き手不足だけでなく、消費者不足も絡んでくる。国交省の資料からは、大半のサービス施設が存続可能なラインは、人口10万人の規模感であることが読み取れる。

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人口規模とサービス施設の立地する確率に関する資料。出典:国土交通省「都市圏参考資料」

鍋谷さん

人口密度が低い地域ほどさまざまなサービスや生活インフラが衰退していき、住民の不便さが高まります。能代ですでに起こっている不便さで言うと、商店の閉店や、バス路線の廃止などがあります。

昔ながらの商店は閉店しているところが多く、車がない人や高齢で免許を返納した人は生活必需品を買うのに不便な状態です。利用者が少ない市内を走る4つのバス路線も廃止され、市街地に住んでいない人はさまざまなサービスにアクセスしづらくなっています。その代替としてデマンドタクシーを導入して対応しています」

将来の懸念として、利用者不足や水道管の老朽化による「水道料金の値上げ」や、医師不足や患者不足による経営難などによって「医療へのアクセスが不便になる」可能性も挙げた。

そのほか、若い世代の少なさが、市内の自治会や消防団などの自治機能の低下にもつながると警鐘を鳴らす。

鍋谷さん

「私は商工会議所青年部や青年会議所といった若い世代が中心となって活動する団体に所属していますが、会員数は右肩下がりで減少しています。自治会と消防団も高齢化が顕著です。私の自治会では、雪が多い冬は町内の除雪を行ったり、毎年地域のお祭りの運営をしたりしています。しかし、若い世代がほとんどおらず、活動の継続が難しくなってきています」

過疎化が進む社会でも能代市が暮らしやすいまちであるためには、働き世代を増やす必要がある。

鍋谷さん

「そもそも、なぜ働き世代が減少しているかを考えると、雇用面や生活面で東京や仙台などの都市と比べて、能代市に留まる、あるいは移住するメリットやインセンティブを見出せない人が多いからだと思います。直接的に雇用を生み出す企業誘致や子育て支援・教育の充実はもちろん必要です。

それに加えて、地域特性を活かして新しい価値を創造することと、地域課題を逆手に取ってビジネスチャンスに変えるという発想が重要ではないかと考えます。能代市では、かつて大火をまねいた強い風を活かして洋上風力発電を推進しています。地方自治体は地域課題を明確に提示し、サテライトオフィスの誘致や起業・創業支援を行うことが重要です。

企業側に地域課題をビジネスチャンスとして捉えてもらえれば、働き世代の減少に歯止めをかけることにつながっていくと思います。たとえばIT分野においては、多くの地方ではまだまだ充実しておらず、地域課題となっており、サテライトオフィス誘致につなげるべきだと考えます。どのようにして魅力ある雇用を生み出し、地域経済を回す仕組みをつくれるかが、今後の課題だと思っています」

「10万人の商圏に自分たちを組み込む」という発想が、過疎地の生活コスト上昇を防ぐ

鍋谷さんが、「人口密度が低い地域ほどサービスが撤退していき、住民の不便さが高まる」と語るように、豊かな暮らしを守りたければ、人口のいる都市部へ出ていくのが合理的だろう。

しかし筆者の想いとしては、あくまでも「故郷での」豊かな暮らしを守りたい。そのために何ができるかを、人口問題の専門家である河合雅司さんと、総務大臣補佐官として地方創生に関わってきた太田直樹さんに聞いた。

まずは、人口減少社会における日本の未来を予測した書籍シリーズ『未来の年表』の著者でもある、河合さんの考えを紹介したい。

河合さんは「集住をし、より大きな商圏に自分たちの生活を組み込むことが大切」と語る。

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作家・ジャーナリスト。産経新聞社で論説委員を務めた後、一般社団法人「人口減少対策総合研究所」理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省や人事院など政府の有識者会議委員を務める。主な著書にはベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』『未来のドリル』『未来の年表 業界大変化』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。

河合さんが「集住」を提案する理由は、あらゆるサービスが撤退していくことによる、生活コストの上昇を防ぐためだ。

河合さん

「現状のようにみんなが思い思いの土地に分散して暮らし続けたら、生活コストが高くつき一人当たりの可処分所得は相当少なくなるでしょう。水道も医療も、何もかも少ない利用者数で増大する維持コストを負担しないといけなくなるわけですから。人口減少社会とは、人口が少ない地域ほど生活コストが高くなる社会なのです。

それでも公的サービスは維持されるでしょう。問題は民間事業者のサービスです。消費者が減って採算が取れなくなったら撤退するか、廃業をするしかありません。すでに民間の医療機関や路線バス、スーパーマーケットの撤退・縮小が各地で相次いでいます。こうした民間サービスが消えていくと不便になるだけでなく、いずれその地域で暮らせなくなってしまいます。だからポツンと一軒家のように分散して住むのではなく、ある程度まとまって暮らすという発想が必要となってくるのです」

実は筆者、河合さんの著書である『未来の年表』シリーズを読んで、この記事を企画した。

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本シリーズで気になったのが、集住する規模について「最低10万人規模の商圏を生活圏とすること」と語っている点。10万人規模というのは、生活に不可欠な民間サービスの大半が存続可能なラインであるとの国土交通省の分析結果を踏まえての数字だ。

能代市のような人口5万人程度の自治体では、そもそも人々が集住する拠点を、より人口の多い秋田市などに移さなければいけないということだろうか?

河合さん

「能代市の住民に対して、県庁所在地である秋田市に引っ越してくださいと言っているわけではありません。能代市がひとつの核となって、周辺の1,000人や5,000人といった人口集積地と結びつき最低10万人商圏を築けばいいんです

もし商圏を築かず、各自治体がそれぞれこれまで通りの暮らし方を続けたならば、人口が減るにつれて企業も店舗も無くなっていくでしょう。それは就職先が無くなるということであり、人口流出がより速まります。そうした流れに抗おうと税金を投じ補助金を出すような手法には限界があります。それよりも、自分たちの生活エリアの中で自治体の枠を乗り越えて連携し、より大きな商圏を築いていくという発想に切り替えたほうがいいと思っています。これは市町村合併をせよということではありません。あくまで一体的な商圏の構築です。

能代市を中心に最低10万人商圏を築いたとしても、いずれは人口が減っていきますので、そうした未来にも備えなければなりません。それには、秋田市のようなより大きな商圏とくっついていく政策を同時に進行することです。

たとえば秋田市と能代市を結ぶ交通網の充実に投資すること。片道数百円の電車代、バス代で秋田市内まで行けるよう補助金を出すとか、災害があっても寸断しないように道路を複数つくることです。いまから秋田市と一体的な都市圏を築いていけば、能代市から多くの民間事業者が撤退する状況になったとしても、暮らしを維持し得るでしょう。もう自治体ごとに街づくりをデザインする時代は終わりです

人口が激減していく未来では、既存の自治体の枠組みにとらわれずに発想していくことが重要だと河合さんは言う。

河合さん

「人口減少社会においては現在の自治体の多くはいまの姿のままでは維持できません。秋田県を例に挙げれば、2045年までに人口が4割減るという見通しで、能代市も現在の半分程度になることが予測されます。100年後の日本人の人口は現在の3分の1程度となる見込みですので、2045年以降の能代市の人口は恐ろしく減っていくことでしょう。

『地方』を残すことと、地方自治体を残すこととは異なります。人口が減り続ける将来を前提として、どうやって経済を成長させ、社会を機能させるかを考えなければならないのです。いつまでも現状維持バイアスにとらわれていれば、多くの地方の未来は『消滅』へと向かいます

自立した生活様式によって、過疎地でもインフラコストを劇的に下げる

「過疎化が進む故郷の豊かな暮らしを守りたい」という筆者の想いに対して、集住した上で、より大きな商圏に自分たちの暮らしを組み込むという道を示してくれた河合さん。

太田さんは、分散ではなく集住という河合さんの意見に合理性の観点で同意を示しつつ、「『自立した生活様式』をつくりインフラコストを劇的に下げることで、分散して住んでも豊かな暮らしをつくる」という道に挑戦していることを明かした。

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2015年から17年まで、総務大臣補佐官として、日本のデジタル戦略と地方創生の政策策定に従事。IT技術を活用した地域課題の解決をめざす非営利団体「Code for Japan」の理事、挑戦する地方都市を「生きたラボ」として、行政、企業、大学、ソーシャルビジネスを越境し、未来をプロトタイピングすることを企画・運営する「New Stories」の代表を務める。風の谷を創るプロジェクトの一員。

太田さん

「僕らは普段、電線を通ってきた電気、道路下の上下水道など、公共インフラに依存した生活をしており、過疎地では電気や水を遠くから引っ張ってくる必要があるためインフラコストが高くなります。

だから、分散して暮らしてはいけないというのが基本的な考え方なのですが、僕が参加している『風の谷を創る』というプロジェクトは、市内に分散して住んでもインフラコストを劇的に下げようとしているんです」

『風の谷を創る』は、都市一極集中の未来に対するオルタナティブな場をつくろうとする活動。分散して住んでもインフラコストを下げるには、どんな方法があるのか?

太田さん

「風の谷では、自分たちで必要なものを自分たちで独立してつくるオフグリッド(*1)にしようとしています。テクノロジーを使い倒すことで、自分たちで電源や水、必要な道路をつくることに挑戦しているんです。言ってしまえば、自立分散という形を目指しています」

太田さんが、「自分たちでつくる」ことの必要性を説く理由は、行政任せの地方創生に限界を感じてきたことが一因となっている。

太田さん

「多くの行政に関わってきて思うのは、行政組織は議会や予算を踏まえて合理的な判断を下すわけではない、ということ。もう10年近く日本各地でやっているコンパクトシティもほとんど成功していない。むしろ郊外にショッピングモールを建てるなどして、日本各地の市街地は広がり続けています。

やはり行政とは、いろんな人の声を聞いて動いていく性質なので、合理性だけで動くのは難しいんです。だから、行政任せ、民間任せではなく、自分たちに必要なものを自分たちでつくることが、まちづくりの下支えとして大切なんです」

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太田さんが理事を務めるCode for Japanでは、市民がテック(技術)を使って、地域の身近な困り事を解決するプロジェクト「シビックテック」を展開しており、市民が主役の活動団体が全国各地にできている。

奈良県生駒市では、子どもの給食の献立からアレルゲンまでを保護者がアプリで確認できるようにしたり、北海道札幌市では、それぞれの家庭の事情に合わせて子どもの預け先を見つけることができるマップアプリ「さっぽろ保育園」がつくられたりしている。

コロナ禍で、陽性者数や対策情報などを発信する「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を、行政に先駆けて開発したのも、Code for Japanだ。

自分たちで暮らしやすさをつくる上で大切にしたいのは、課題解決から考え始めるのではなく、おもしろそう・ワクワクするという気持ちをベースとして、それを実現するものを作り始めていくという姿勢だ。

太田さん

「まちづくりというのは、企業が新商品を開発するように1年などの短いスパンで目に見えた結果が現れるものではなく、10年程度はかかるものです。そのくらい長い年月を要するプロジェクトを、課題を原動力にがんばり続けることって難しい。

一方で、『こういう未来があると楽しそう』という気持ちを原動力に、おもしろがりながら何かをやっている地域もある。そのほうが持続可能性が高く、明るい未来があるんじゃないかと思うんです」

おわりに

「人口減少」と「地方の持続可能性」という大きなテーマを扱ったが、その原動力は「自分の故郷の豊かな暮らしを守りたい」という一個人の切実な思いだった。

同じような思いを持っている人は、日本全国にたくさんいるのではないかと想像する。

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潮風に吹かれながら能代港を歩けば、防波堤を壁画とした『はまなす画廊』が見える

人口減少による労働力不足や利用者不足が、生活機能の低下を招き、豊かな暮らしを維持できなくなる問題。多くの地方自治体はそれを防ぐために、自治体の人口を増やそうと定住者の引っ張り合いを繰り返してきた。政府は、労働力不足改善のために、「高齢者」「外国人労働者」「女性」「AI」を挙げている。

注目したいのは今回、取材した3者からは既存の方向性に捉われない提案が挙がったことだ。きっとまだ、議論し合えば、新たな選択肢が出てくる期待感がある。それを考え、行動を起こしていくのを、行政や民間に任せっきりでいたくないと、筆者は思った。

自分たちの暮らしを自分たちでつくる。人類が積み上げてきた知恵や教訓、技術によって、それが不可能ではない時代に生きていることを知ることから、故郷と豊かな暮らしを守る選択肢が生まれるのかもしれない。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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