プラスチックや生活排水から海を救う。ニュージーランド発のホームケアブランド『エコストア』

むかしむかし、あるところに、マルコムとメラニーという名の夫妻がいました。
二人は、文明に汚されていない原生林が生い茂った谷間を見つけると、そこにエコビレッジをつくることにしました。自分たちで作物を育てて、自給自足の生活をはじめます。
ある日、マルコムが川へ出かけると、どんぶらこ、どんぶらこと、何かが流れているのを見つけました。
それは、なんと生活排水。
自給自足の生活をしていた彼らでしたが、使っている洗剤やシャンプーなどは、スーパーマーケットで購入したものだったのです。有害な化学物質(Nasty Chemicals)によって汚れた生活排水は、川の流れにのって、最終的に海へ流れ出てしまいます。
そこで、マルコムは考えました。
「食べ物だけでなく、洗剤やシャンプーも作ってしまおう!」と。
こうして、さほど"むかし"ではない1993年、"あるところ"ことニュージーランドで生まれた『エコストア』は、洗濯用洗剤、食器用洗剤、住居用洗剤をはじめ、ボディケアにヘアケア、ベビー用ソープなどを次々に作り、ホームケア・ボディケア全般の製品を扱うブランドへと成長しました。
現在では、自然素材を原材料にした中身へのこだわりだけでなく、プラスチックを削減するための量り売りや、100%リサイクル可能な容器の開発などにも取り組んでいます。自国内のシェアはNo.1を誇り、2016年には日本にも上陸を果たしました。
筆者は以前、アディダスが取り組むプラスチックごみ問題を取材してから、企業が社会に与える影響力を感じ、継続的に取材していきたいと考えるようになりました。
『エコストア』の取り組みについても興味があり、株式会社マッシュビューティーラボのecostore事業部でPRを務める西村香菜子さんにお話をうかがいました。
日本もニュージーランドも同じ島国ですが、日本では「サステナブル」という言葉がようやくここ数年で聞かれるようになったくらい。今から26年前に誕生した『エコストア』は、ニュージーランドでどんな存在なのでしょうか。
中身も容器も環境にやさしいエコブランド

── まずは、『エコストア』がどんなブランドなのかを教えてください。
1993年にニュージーランドで生まれた、ナチュラルホームケアブランドです。各種洗剤から、シャンプー、ボディケア用品など、環境に配慮したさまざまな商品を展開しています。
── 環境に配慮しているというのは、どういった点ですか?
石油由来の成分は、微生物など自然の働きで「生分解」することがなく、最終的に流れ着いた海に長く残ってしまうといわれています。
一方、自然由来の成分のみで作られている製品は、環境を汚染することがありません。例えば『エコストア』の看板商品である洗濯用洗剤や食器用洗剤には、生分解性のあるヤシノミ・ココナッツ由来の界面活性剤を使用しています。
こうした中身へのこだわりだけでなく、量り売りや、自然に優しい容器の開発なども行なっており、2014年にはサトウキビを原材料にしたバイオプラスチック「カーボン・キャプチャー・パック」を開発し、容器に利用しています。
── 「カーボン・キャプチャー・パック」。初めて聞きました。
日本ではまだ馴染みがないですよね。
ほとんどのプラスチックは、再生不可能な石油化学製品で作られています。さらに成分の抽出工程とプラスチックの製造過程で二酸化炭素(カーボン)が排出され、空気中に吸収されてしまうので、結果として気候変動に繋がるといわれているんです。
その一方で、「カーボン・キャプチャー・パック」は、見た目は普通のプラスチックと変わらないのですが、二酸化炭素を減らす効果があります。

── 二酸化炭素を減らす効果が!? どういうことでしょうか。
まず、原材料となるサトウキビが育つ間は、空気中の二酸化炭素を吸収します。育ったサトウキビの外皮は、製造工場で必要なバイオ・エネルギーを発電するために使われますが、このバイオ・エネルギーは二酸化炭素の排出量を削減できるんです。
しかも、作られた容器は100%リサイクル可能で、「リサイクルする過程」と「万が一埋め立てに送られてしまった場合」でもCO2を吸収するんです。
── サトウキビ、すごい......!
独自の研究や開発を行なっているので、ちょっとでも環境に良いものが発見されたときは、費用などを惜しまずに切り替えています。
エコビレッジで誕生した『エコストア』
── 企業努力によって、「少しでも環境に良いものを」という精神がめちゃくちゃカッコいいのですが、そもそもブランドが立ち上がった経緯を教えてください。
創業者はマルコム・ランズという男性なのですが、妻のメラニーと一緒にエコビレッジをつくり、自給自足の生活をしていました。そこにはきれいな小川が流れていましたが、あるとき家の周りから生活排水が流れ出ているのが目に留まります。
洗剤やシャンプーを流した水が生活排水になっていると気づき、洗剤の裏面を見てみましたが、成分表記の義務がないためどんな成分が入っているのか、わからなかったそうです。
それでも知識を得ていくなかで、自分たちが避けてきた石油由来の成分が使われていると知ったマルコムは、「それなら自然成分だけで洗剤を作ってしまおう!」と、裏のガレージで作りはじめました。

── 食べ物だけでなく、日用品まで自作してしまうのがすごい。
すごい発想ですよね。作りはじめた洗剤は、自分たちで使うだけでなく、家族や友人にも使ってもらえるようにと、メールオーダーを受けるようになります。
すると、あるときから「掃除のときにクシャミが出なくなった」とか、「子どものアトピーが治った」といった感謝の手紙が届くようになりました。
── 環境のことを考えて作ったものが、人にとってもよかったと。
はい。環境にも人にもいいものなら、もっと多くの人に使ってほしいと、オークランドに店を作りました。
2002年にはスーパーマーケットにも進出し、現在ではニュージーランドの90%以上のお店でエコストアの商品がセレクトされています。

── 90%以上! 近所で気軽に買えてしまうくらい身近な存在なんですね。
そうなんです。オークランドの本店で洗剤の量り売りをスタートさせたのですが、今ではスーパーやドラッグストアでも量り売りコーナーがあるので、ニュージーランドの人々には気軽な感覚で手にとっていただけています。
── 量り売りにしたときに、プラスチックゴミはどれくらい減るんでしょうか?
2018年末時点までに、500mlの容器276,466本分のプラスチックを削減しました。
2021年までに量り売りできるリフィルステーションを2.4倍に増やすことを計画しています。
ニュージーランドのエコ意識
── ニュージーランドでは、環境に配慮した洗剤ブランドが主流なんでしょうか。
そうですね。ニュージーランドでも石油由来の合成洗剤を売っていますが、エコ素材でできた洗剤が選ばれています。ただ、エコ素材の洗剤は海外からの輸入が多く、ニュージーランド原産の素材を使っているブランドは数えるほどです。
── 『エコストア』は本国でどういう認知のされ方をしているんでしょうか。
ニュージーランドで権威のある市場調査機関『Colmar Brunton』の調査では「サステナブルNo.1ブランド」という称号を5年連続でとっています。
また、商品は洗剤だけでなく、住居用の掃除クリーナーや、ボディケアにヘアケア、ベビー用ソープなど多岐にわたり、130品目にもなるので、衣食住をトータルケアできるのも特徴ですね。
── 同じブランドで揃えることができるのはいいですね。西村さんはニュージーランドに行って、日本より環境意識が高いと感じることはありましたか?

日本でもエコ意識が徐々に高くなってきていると思うのですが、まだまだ整備されていない印象があります。例えば、マイボトルを持とうとしても、日本では給水できる場所が限られていますよね。飲みきったらペットボトルの飲料を購入しなくてはならない。
でも、ニュージーランドでは給水できる場所がたくさんあるので、多くの人がマイボトルを持ち歩いているんです。日本ではまだまだ環境整備されていないので、そういった面で遅れているのかなと。
── ニュージーランドは島国で、資源が限られていることを知っているからなのでしょうか......。日本も同じように島国ですが、違いって何でしょう。
ニュージーランドでは、国をあげてサステナビリティを取り入れようとしていること、メディアでも大々的に取り上げていることが大きい要素ではないでしょうか。
創業者であるマルコムは、エコストア創設当初より『フェアグランド・ファウンデーション』を立ち上げ、今でもトークイベントなどを積極的に行なっています。メディアへの露出も多いので、人々が環境について目に触れたり、考えたりする機会が必然的に多くなっていると思います。

── 日本でも最近は「サステナブル」という言葉が聞かれるようになってきました。『エコストア』が上陸したのは2016年とのことですが、3年で認知度が上がっている実感は?
これまで恵比寿の直営店や、『コスメキッチン』系列の店舗での取り扱いが主だったのですが、2019年の春に紀伊国屋や成城石井などのスーパーや、大手ドラッグストアでの取り扱いが始まったことにより、量販店への販路が拡大しました。それによって『エコストア』の認知度は上がってきたのかなと。一商品でも入っているお店としては、1000店舗以上あります。
上流から海まで100%ピュアウォーターに
── Gyoppy!は「海の豊かさを守ろう」をテーマにしたメディアなのですが、『エコストア』は海に対して取り組んでいることはありますか。
本国では、ビーチクリーン活動を頻繁に行なっていますし、オーシャンプラスチックで作ったボトルを展開する予定もあります。
もともと創業者のマルコムは、エコビレッジの上流から入ってくる100%ピュアウォーターを、「自分たちの生活排水で汚すことなく、海に流れ出るまでを100%ピュアウォーターにしたい」という思いがあってはじめているので、海をきれいにする活動にも積極的に取り組んでいますね。
── ちなみにマルコムは今でもエコビレッジに住んでいるんですか?
はい、エコビレッジで自分たちの手で育てた作物を食べ、排泄物を有機肥料にするコンポスタブルトイレを取り入れるなど、日本ではあまり見ないような暮らしをしています。
── お金持ちになってタワーマンションに住んでいるとかではないんですね。

ははは(笑)。裸足でエコビレッジを歩き回っていますよ。
妻のメラニーも国際環境NGOのGreenpeaceニュージーランドで理事長を務めるなど環境について呼びかけていて、ニュージーランドでは有名な夫婦です。
── 不仲になったりとかは?
してないです(笑)。とても仲がいいです。
── 夫婦仲もサステナブル。
目先の利益より未来の子どもたちのことを考えている

── お話を聞いて、とても素敵な取り組みをされている企業だとわかりました。でも、サトウキビからプラスチックを作ったり、オーシャンプラスチックからボトルを作ったりというのは、その分コストがかかるのではないかと心配になってしまうのですが......。
サトウキビからプラスチックを作ることに関して言うと、日本円にして年間2300万円のコスト増になりました。
── えっ! 大丈夫なんですか?
商品の値段をあげて消費者に負担を転換するのではなく、エコストアが負担しています。そのポリシーが信頼を集め、さらに支持率が上がりました。
── ブランドイメージが向上して広告効果もあったんですね。
そうですね。本国のチームと仕事していると、彼らは目先の利益よりも、未来の子どもたちについて考えていることが伝わってきます。
そのためには、サステナブルでなければ意味がない。だから、日本でも本国とあまり変わらない価格で販売しているんです。もちろん輸入するためのコストはかかっていますが、本国と合弁会社にすることで利益を半々にして、実現させています。
── カッコいい......。最後に、『エコストア』としての今後の展望などはありますか?
エコストア香港では使用済みのボトルを回収して、本国に送り返し、ボトルをリサイクルするということを大々的に行なっているのですが、これを日本でも取り入れたいと思っています。
あとは、日本ではまだまだ知名度が高いとはいえないので、まずは知っていただきたいです。子どもたちの未来のことを意識した先に、選択肢として『エコストア』があるといいなと思っています。
さいごに
ニュージーランドでは、できるだけ地球や人に優しいものを選ぼうとする考えが浸透している、と西村さんは話していました。
それは、「子どもたちが生きていく未来が持続可能であってほしい」という願いが込められているから。
石油由来の洗剤を使い続けた先にある未来と、自然由来の洗剤にスイッチしていった先にある未来。それを想像したときに、今はちょうど分岐点に立たされているのかもしれません。
生活排水が"どんぶらこ"と海へ流れていくことを知ってしまった私たちにできることは何でしょうか。

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取材・文栗本千尋
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