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豊かな未来のきっかけを届ける

豊かな未来のきっかけを届ける

国連はなぜ今「女性 × 気候変動」をかかげるのか。未来のために知っておくべきジェンダーの視点。

国際連合広報センター

画像:アフロ

国際女性デー、ようやく日本に定着

「ジェンダー平等に真剣に向き合わなければ」という問題意識が、ようやく社会の多くの人々にとって日常の風景として定着してきた。2021年2月、東京2020大会組織委員会の森喜朗会長(当時)によるジェンダー平等の理念に逆行する発言で氏が辞任に追い込まれたことは、大会開幕を5カ月後に控える中で大きな混乱を招いたが、これをきっかけに、日本社会にはびこるジェンダー格差とそれを温存する構造的な問題に積極的に声を上げる人が増えたのは事実だろう。「ジェンダー平等」という言葉は、その年の世相を表す2021年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」のベスト10にも入った。

国連が定めた3月8日の「国際女性デー」も、日本に定着してきた。私は2013年から2019年まで毎年3月に「国際女性デー、知っていましたか?」と問うオンラインでのディスカッションをナビゲートして定点観測してきた。初年の2013年にはYESの回答は全体の2割程度にしか過ぎなかったのが、2019年には9割近くにまでなった。これも多くの関係者がこの国際デーを自分事として受け止め、大切にしながら広めてくださったおかげだと感謝している。
http://ewoman.jp/entaku/info/id/3533/

ジェンダー視点で気候変動を考える

今年の「国際女性デー」の国連システムでのテーマは、「女性 x 気候変動」。より持続可能な未来を築くため、気候変動への適応・緩和・対策を主導する世界中の女性と女児の貢献を認識・評価するものだ。
https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/news/2021/12/iwd2022

でも、もしかすると、この切り口は、まだ多くの日本の方々に「腹落ち」していないかもしれない。そんな思いから、なぜ国連がいま「女性x気候変動」をテーマに据えるのか、改めてお伝えすることにした。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行による影響同様、気候変動事態は男女関係なく起こるものの、気候変動から受ける影響は男女で異なる。例えば、水くみ・まき集めは多くの途上国で女性と女児の役割と見られ、気候変動によって水・森林資源が減少するとより遠くまで行かなければならなくなり、その結果、無償家事労働の時間が増え、教育やさまざまな社会参加の機会を諦めなければならなくなってしまう。長距離を水やまきを運ぶ中で性暴力の標的になることもある。

©UN Photo/John Isaac

国際NGO「プラン・インターナショナル」が、同NGOが活動するアフリカのザンビアとジンバブエで実施した調査に基づいて昨年10月に発表した報告書によると、農業に依存している地域では、1つの農期の中で過度の降⾬と乾期の両⽅を経験するなど、洪⽔・降⾬パターンの変化や度重なる⼲ばつにより⾷料危機が深刻化し、困窮家庭では娘を年配の男性と結婚させたり、商業的な性的搾取の犠牲にしてしまう事例も増えている。また、男児を優先的に学校に通わせ、女児を後回しにするという教育格差などが調査から浮かび上がっている。

パリ協定とジェンダー

しかしながら、ジェンダー平等が横断的な礎の一つにもなっている「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(持続可能な開発目標(SDGs)はその一部)の採択をはじめ、「ジェンダー主流化」は大きな国際的な潮流だ。この流れに後押しされる形で、2015年の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で2020年以降の新たな気候変動対策の法的枠組みとして採択された「パリ協定」の前文には、気候変動対策におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの重要性が明記されている。

「気候変動が人類の共通の関心事であることを確認しつつ、締約国が、気候変動に対処するための行動をとる際に、人権、健康についての権利、先住民、地域社会、移民、児童、障害者及び影響を受けやすい状況にある人々の権利並びに開発の権利に関するそれぞれの締約国の義務の履行並びに男女間の平等、女子の自律的な力の育成及び世代間の衡平を尊重し、促進し、及び考慮すべきであり(後略・外務省仮訳・下線は筆者が加筆)」

©UNICEF/UN017117/Shrestha

パリ協定の採択から6年、発効から5年で開催された、昨年のイギリス・グラスゴーでの第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)。温室効果ガスの削減で進展はあったもののその歩みは遅く、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書など科学の声が指摘するように、このままでは地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑え込むことはおろか、2度に抑える目標さえも危うい。COP26の模様をオンラインで見ていて、より気候変動の影響を受けやすく、かつ命と暮らしの拠り所である森林や海の保全・管理の最前線を担っている女性たちにこそ、もっと気候変動交渉の場に直接関わる機会を、と切に願った。

11月1日に開催された首脳レベルによる「ワールド・リーダーズ・サミット」のオープニング・セグメントで、カリブ海の島国バルバドスのミア・モトリー首相の「命を懸けた」と言っても過言ではないパワフルな演説には、稲妻のような感動が駆け抜け、鳥肌が立った。

「生き残るには1.5度未満が必要、2度上昇は我々にとって死刑宣告。 私は恐ろしい死刑宣告を回避し、全力をあげてさらに頑張るために来た」

女性も含め、本質を見据えた多様な視点が、さまざまな利害が絡み合う複雑な気候変動の議論の場でこそ不可欠だ。より多くの方々にモトリー首相の言葉の力に直接触れていただきたい。

気候災害における女性のレジリエンス(強靭性)強化を

残念ながら、気候変動の深刻化を受けて、気候災害は増加の一途を辿っている。1980年から1999年までの20年間と2000年から2019年までの20年間とを比較すると、風水害や干ばつ・熱波などに代表される気候災害の数が倍増している。紛争や災害による国内にとどまりながらの避難(「国内避難」)の件数を見てみると、昨年気候災害由来の避難は紛争による避難の3倍にも上った。国連安全保障理事会でも、気候変動が安全保障の文脈で議論されるまでになっている。
さらに、2月28日に国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した報告書で示された気候科学の声に対して、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「(対応の)遅れは死を意味する」とまで発言した。

気候災害に限らず災害全般についてのことではあるが、国連防災機関(UNDRR)は「災害は性差別的で女性を苦しめる」と強調している。これは犠牲者の数字からも明白だ。

  • 2004年に起きたスリランカとインドネシアの津波の死亡者の70%以上は女性(UN ESCAP 2013)。
  • 2008年にミャンマーで発生したサイクロン・ナルギスによる死亡者の61%は女性と女児。特に被害が大きかった村では、18歳から60歳の女性の死亡率は男性の2倍(Myanmar Government, ASEAN & UN 2008)。

複合的な背景があるだろうが、例えば、途上国や伝統的な社会では、女性と女児が「泳ぐ」という命を守るためのライフスキルを身に付けていないケースがまだまだ多い。

さらに、避難と回復の段階でも、災害により多くの女性が担っている家族の世話や家事などの無償労働の負担が増える。2015年に発生したネパールでの地震では、被災女性の63パーセントが停電で家事労働時間が増加したことがわかっている。深刻化している気候災害の強大化と頻発も、女性により大きな負担を強いることになる。さらに、災害後には避難所や家庭などでジェンダーに基づく暴力が多発する傾向にあるということは、東日本大震災など日本の経験でも指摘されている。

©UN Photo/Martine Perret

生計の面でも、世界の家族農業の中核的な担い手は女性なのだが、気候災害の直撃を受ける。2015年に起きたミャンマーでの洪水で失われた家畜の8割は、女性が買う小型動物だった。また、女性の健康も災害で脅かされる。2015年にベトナムを襲った干ばつ後、清潔な水が不足し、妊産婦や母子保健のための施設がやむなく閉鎖され、汚染された水の供給も婦人科疾患の増加原因となったことも報告されている。

残念ながら、避難所の運営から始まって、地域の防災計画づくり、復興計画の策定や政策立案などへの女性の参画機会はあまりにも少ない。だからこそ、UN Womenは、人命と生活手段の損失におけるジェンダー格差を緩和し、気候災害に対する地域社会のレジリエンス(強靭性)と回復力を強化するために、1)ジェンダーに配慮したデータ収集と分析の強化、2)ジェンダー格差を考慮した個別政策対応の災害リスクマネジメント政策への統合と国家レベルでのガバナンス強化、3)国家および地位レベルの予算配分や女性の資金アクセスの確保、4)気候災害の防災・減災ならびに災害から回復する女性の能力強化、という4つの柱からなる「グローバル・フラッグシップ・プログラム」を立ち上げている。

STEMも含め、気候分野でこそ、女性のエンパワーメントを

ソーラーパネルの設置に挑戦するレバノンの67歳の女性 ©UNDP Lebanon

気候変動対策の担い手として活躍するために、ジェンダーステレオタイプを突き崩して、科学・技術・工学・数学、最近では「STEM」と呼ばれる分野での女性活躍を支援したり、インフラやエネルギー業界への女性進出を促進したりすることも重要だ。STEM分野で女性が少ないことは、気候災害や気候変動対策においてジェンダーの目線からの研究や分析、女性のニーズを反映したテクノロジー開発がまだこれからという現状につながっているだろう。エビデンスに基づく政策形成を進める上で、ジェンダーの視点を適切に反映するためにも、これは急務だ。

壁は厚いが、希望はある。バルバドスのミア・モトリー首相と並び、COP26の「ワールド・リーダーズ・サミット」では女性の言葉が光った。オープニング・セッションでスピーチをした二人の若い女性のスピーチには、人を動かす力があった。

ブラジルのアマゾンの先住民のチャイ・スルイ氏 ©UNFCCC

世界には後世に語り継がれる言葉がある。グレタ・トゥーンベリ氏の2018年のポーランド・カトヴィツェのCOP24でのスピーチや2019年の国連サミットでのスピーチがそうであったように、COP26でも若い女性活動家たちの闘志溢れる真剣勝負の言葉が強い印象を残した。

太平洋の島国サモアの気候活動家のブリアナ・フルーアン氏は「私たちは溺れているのではない。闘っているのだ」と静かに語り、そしてブラジルのアマゾンの先住民のチャイ・スルイ氏は「アマゾンはどんどんなくなっていく」「起きていることから目を背けないで」と強い調子でスピーチした。それは女性が気候変動の影響を受ける「被害者」を越えて、レジリエンス溢れる「解決の担い手」であることを体現している。

COP 26では、UN Womenとスコットランド政府とが共同で後援する、気候変動対策に女性と女児が果たす役割を前進させることを求める声明が発表された。この「ジェンダー平等と気候変動に関するグラスゴーの女性リーダーシップ宣言」は、気候変動対策を牽引する女性と女児への支援をさらに強化することを約束するもので、新たな署名も受け付けている。

UN Womenプレスリリース(新たな署名の受け付けについては、リリースの末尾を参照)

気候変動を食い止めるためのアクションにもジェンダー視点を

国連の気候アクションのためのAct Nowキャンペーンのキービジュアル

では、気候変動を食い止めるために、日本の私たちには何ができるのだろうか?再生エネルギー中心の電力会社への切り替えから、サーキュラー型のビジネスモデルへの転換、サステナブル・ファッションや食品ロス削減の徹底、そして個人レベルのアクションから社会の仕組みを変えるためのアクションまで、気候変動を食い止めるためにできることがたくさんある。是非より多くの日本の方々に気候変動対策の担い手になって仲間を増やしていただきたい。具体的なアクションを考える際に、ジェンダーの視点を忘れないようにして欲しい。
国連の気候アクションのためのAct Nowキャンペーン

その参考にとの願いを込めて、KNOW知る・THINK考える・CHOOSE選択する・ACT行動する、という4つのカテゴリーからなる『気候変動アクションガイド』を有志で制作したので、ここで挙げさせていただく。

『気候変動アクションガイド』のひとつ「CHOOSE選択する」
根本かおる

根本 かおる

国連広報センター所長
1986年テレビ朝日入社。アナウンサー、記者を経て米コロンビア大学大学院にて国際関係論修士号取得。1996年から2011年末までUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。WFP(国連世界食糧計画)広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年より現職。
2021年度日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤー」受賞

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