座るだけのSOSサイン。孤独を感じる子どものための対話型ベンチ
新型コロナウイルスのパンデミックは、社会のさまざまな局面で、大きな影響を及ぼしてきた。そうしたなかで、子どもたちのメンタルヘルスが深刻化していることをご存じだろうか。
ユニセフの調査によれば、コロナ禍の世界では、10~19歳の子ども・若者の7人に1人が心の病気の診断を受けている。さらに、年間46,000人の若者が自ら命を絶っているという(※1)。
日本でも、昨年度は798人の子ども・若者(19歳以下)が自ら命を絶ち、ここ数年の過去最多を記録した(※2)。ユニセフ・イノチェンティ研究所によれば、日本の子ども・若者は孤立や孤独を強く感じており、その精神的幸福度を38か国中37位と結論づけた。そのうえで、日本にさらなるメンタルヘルスサービスの導入を訴えているのだ。
そんななか、いま北米を中心に世界で広がっているのがベンチを活用した、子どもたちの「居場所」づくりである。学校、公園、遊び場、教会などにある「バディ・ベンチ」というラベルが貼られているベンチに座るだけで、周囲に心のSOSを発していることを知ってもらえるというものだ。周囲の子どもたちは、そのベンチに座っている子がいれば、ただ一緒にいてあげたり、遊んだりと、手を差し伸べることができる。
この座ることで孤独を減らす「バディ・ベンチ」を販売するアメリカ企業、「POLLY PRODUCTS(ポリー・プロダクツ)」によれば、バディ・ベンチはすべての子どもたちにとって有益だという。まず、ベンチに座る子は、自分自身の辛さに気づくことができる。「辛いときには、助けを求めてもよい」と「ガマンする」以外に感情を処理する方法を学ぶことができる。
一方、周囲の子どもたちは、他の子どもへの共感能力を育てられ、困ったことが起こっているとき、どう察知し助ければよいかを学び、社会性を育むことができるのだ。
また、カナダでは「フレンドシップ・ベンチ」がすでに中学校、高校に60台以上も設置されているという。このフレンドシップ・ベンチは、いつでも生徒たちが自らのメンタルヘルスについてオープンに語り合える場として活用されている。より象徴的な意味を持たせるために、ベンチは黄色く塗られている。
さらに、フレンドシップ・ベンチには、メンタルヘルス支援サービスサイトに案内するプレートが付けられている。結果として、学内のサポートに連絡を取る生徒は18パーセント増加したという。またハッシュタグ#YellowIsHelloなどによってSNSでメンタルヘルスについて積極的に発信する生徒も増加しているのだ。
長年うつ症状に一人で悩んできた男子中学生は、フレンドシップ・ベンチのおかげで、ソーシャルワーカーに連絡することができ「このことを話してもいいんだ、と思えるようになりました」とThe Friendship Bench公式サイトで語っている。
困っているときに「助けてほしい」と、周囲にSOSを発することは、誰にとっても難しい。心の悩みであれば、なおさらかもしれない。メンタルヘルスが社会問題となる一方、対策のための財源確保やその方法は大きな課題でもある。子どもたちの世界に「居場所」をつくる──ベンチ一つを置くだけの、小さいように見えて実は大きな影響をもたらすグッドアイデアなのだ。
元記事は こちら
【参考文献】
ユニセフ・イノチェンティ研究所(2020)「イノチェンティレポートカード16 子どもたちに影響する世界」
【参照サイト】
Buddy Benches: Why They Are Important For Your School
【参照サイト】
France : des écoles installent des "bancs de l'amitié" pour les enfants introvertis
【参照サイト】
The Friendship Bench公式ホームページ
Okazaki Akiko
Akiko Okazaki。福岡・糸島在住のライター。社会人を経て大学院で教育学を専攻。戦後教育の研究者でもある。教育、政治、環境、歴史、思想、ジェンダー、労働、健康...と幅広いテーマを鋭い視点から切り込みたい。文章の力で社会をちょっとずつ変えていけると信じている。Twitter: @okazaki_akikox