買えば買うほど自然を豊かにする「宝くじ」フランス政府が考案
誰でも億万長者を夢見ることができる宝くじ。日本では、知名度が高いサマージャンボや年末ジャンボの他にも、バレンタインやハロウィンなどのイベントになぞらえた宝くじも発売されており、年間を通して「夢」を購入できる。日本宝くじ協会の統計によると、過去に1度でも宝くじを購入したことがある人の割合は81.4%、推計人口約8,572 万人というから、多くの人に親しまれる娯楽といえるだろう。
高額な当選金に注目しがちな宝くじだが、収益金の使い道についてはあまり知らない人が多いのではないだろうか。全国都道府県及び全指定都市が発売するいわゆる「ジャンボ」宝くじでは、当選金として当選者に支払われる金額は売り上げの約45%だという。そのほか、約40%は公共事業や社会貢献広報に使われ、残りの約15%は運営費に充てられているそうだ。公共施設で「この施設は宝くじの収益金で運営されています」という看板を目にした人もいるだろう。
宝くじは日本に限らず海外でも人気が高い。2023年10月にフランスで発売されたのは、生物多様性の保護を目的としたスクラッチくじだ。「ミッション・ネイチャー」と名付けられたくじは、1枚3ユーロで購入でき、当選すれば最大3万ユーロ(約476万円)を獲得できる。くじ1枚につき0.43ユーロ(約67円)が、フランス政府生物多様性事務局(OFB)により選出された生物多様性プロジェクトに使われる。
フランス政府のサラ・エル・ハイリー生物多様性担当閣外大臣は、SNSにスクラッチくじの写真と共にミッション・ネイチャーで、生態系の回復と保護プロジェクトを直接支援することができますとメッセージを投稿している。
今回OFBによって選ばれたのは、フランス国内20の生態系回復プロジェクトだ。国家規模の影響をもたらす6つのプロジェクトには、下水など淡水の流入や廃棄物により脅かされているマングローブ林の保護や、プレジャーボートで破壊された地中海沿岸都市での海草の保護、高圧電線での感電死により絶滅危惧種に指定されたワシの保護などがある。地域レベルの14のプロジェクトの中には、焼畑耕作や開墾で破壊されたサジリー半島の森林の回復や、駐車場開発で影響を受けたモン・サン=ミシェルの湿地回復などがある。
このくじの目的の一つは、生物多様性保護を国民に広く認知させることだという。くじに印刷されたQRコードにアクセスすると、プロジェクトの場所や目的、生態系の問題や協賛団体などの情報を知ることができる。
この取り組みに対し、フランス国民はおおむね好意的な反応だが、一部の国民からは「未成年のギャンブルの中毒性を誘発する」、「ラミネートされたカードが環境汚染を引き起こす」、「収益の多くは宝くじ販売業者に流れ、実際にプロジェクトに使われる金額が少ない」などの批判も上がっている。とはいえ、話題に上ることにより生物多様性の保護が広く認知されることは確実だ。
近年、生物多様性保護は、地球の持続可能性における重要な課題として、国際的な取り組みが進んでいる。日本でも2023年3月に「生物多様性国家戦略 2023-2030」が閣議決定された。企業の対応への社会的要請も高まっているが、一般的な認知度はまだ低い。娯楽を兼ねた広報という意味では、フランスの「ミッション・ネイチャー」のような取り組みも、効果的と言えるだろう。
元記事は こちら
【参照サイト】
Mission Nature(フランス政府ニュースリリース)
【参照サイト】
Mission Nature 公式サイト
【参照サイト】
宝くじ世論調査(日本宝くじ協会)
【参照サイト】
生物多様性国家戦略(環境省生物多様性センター)
【関連ページ】
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田子まさえ
田子まさえ。パリ在住フリーランスリサーチャー。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンで、就労経験あり。イギリス企業のカーボンニュートラルに関する調査に携わったことから、エネルギー転換や持続可能な社会構造に関心を持つ。海外の面白いスタートアップ企業の動向も追っている。