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豊かな未来のきっかけを届ける

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森林資源を活用し、洗練すること。山間部の集落で生まれた「森ノ茶」

エールマーケット

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静寂に包まれる森の中、ゆっくりと昇る朝日を眺めながら味わう朝の1杯...そんなイメージで作られた、「森ノ茶」。

クロモジの枝葉と、有機栽培でつくられたほうじ茶をブレンドして作られており、ほうじ茶の優しい香ばしさと、それでいてスッキリとした味わいが特徴のこのお茶。

使用されているのはクロモジという植物で、おもに和菓子に添えられる楊枝として古くから使われてきました。リナロールという心が安らぐような甘い香りと、リモネンという、柑橘系に含まれる成分のすっきりとした香りを持っています。

木漏れ日が少し当たるような、明るい日陰を好むクロモジ。北海道南部から九州まで、広く自生している落葉低木で、山のいたるところで見つけることができます。そんなありふれた植物は、どうやってお茶に昇華されて行ったのでしょうか?

「すべての始まりは集落に住むおじいちゃん達がきっかけなんです」

そう話すのは、発案者の徳山雅美さん。編集・制作チーム「lien」として、地域の循環型の仕組み作りをはじめ、誰かの「やりたいこと」を実現する活動に伴走中。

また「森のセレクトコンセプトショップ noix -ノワ-」の運営者として、現在は愛知県名古屋市と北設楽郡設楽町の二拠点生活をしながら地域資源を使った物づくりと販売を行なっています。

彼女から、製品が生まれたきっかけや開発背景、製品に込める思いをお伺いしました。森を思わせる穏やかなパッケージの裏には、豊かな森林資源と山々で暮らす人達のあふれるバイタリティーが秘められています。

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今回ご紹介する現場
lien

2017年に愛知県北設楽郡設楽町にて、森と街をつなぐセレクトコンセプトショップnoixを設立。森林資源の循環プロジェクトを企て、カエデの樹液(メープルシロップ)の商品化に取り組んだことをきっかけに、資源活用の相談、プロジェクトの立ち上げなどを経験。2020年には、より多くの地域に循環させていくために規模を拡大し、編集・製作チーム「lien」を立ち上げる。また、多地域でのpop upの開催の企画運営や、地域の女性にフォーカスしたマガジンの発行を手がけている。
lienの森ノ茶

きっかけは集落に住むおじいちゃん達

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「森ノ茶」は2021年、愛知県の北東部に位置する北設楽郡設楽町で生まれました。設楽町は、人口5000人を切る小さな山間地域です。一方で、愛知県最大の原生林を持っていたり、一級河川の源流となる水源をいくつか持っていたりと、今でも豊かな自然が残った場所。

徳山さんが設楽町に興味を持ったきっかけも、その豊かさに気付いたからだといいます。

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「生まれ育ちが三重県の桑名市というところで、桑名市自体が川の河口の町なんです。揖斐長良川(いびながらがわ)という河口の側で育ちました。ある時、ご縁をいただいて設楽町の山を登ったとき、感動したのと同時に、親近感を持ちました」

それをきっかけに2014年から5年ほど暮らし、地域の活動に携わり始めました。そして2018年から設楽町で森林保全のお手伝いをすることに。

「町の9割が山林であるため、このたくさんの森林資源を日常に届けることはできないか、と当時は模索していました。ある日、集落に住むおじいちゃんから相談をうけたんです。『紅葉樹を切ってできた丸太が余ってるんだけど、これってなにかに使えないかな?』」

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山間地域ではご高齢の方が一人暮らしをしているケースが多く、その中で自分の敷地内に生えている木を切れないという困りごとが発生していました。みんながみんな林業をやっているわけではないけど、山に住む人達にとって木を切ることは日常の一部。それを集落内で助け合うという習慣があったため、徳山さんが木を切りに行くこともありました。ただ、切って出た丸太には使いどころがありません。「すごく良い木なのに、もったいないよね」と、集落で暮らす人達も頭を抱えていました。

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「丸太の使い道をみんなで考えているうちに、『薪にしようよ』という案が出ました。それから試行錯誤の日々が始まります。まず薪を乾かす場所を作る必要があったんですが、集落の方達が協力してくれて「使っていいよ」と土地を貸してくれたんです。そのあとも、家からあるものを持ってきてビニールハウスをチャチャッと作ったり、屋根を作ってくれたり...なんでも作れてしまうんですよね」

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こうして住民同士で『こうしたほうがよく乾く』『いやこっちのが乾きやすい!』なんて知恵を出し合いながら、薪作りは順調に進行。それから約1年が経ち、のちに薪は町内のキャンプ場へおろすようになります。使われなくなった丸太を"薪"に変化させ、販売することに成功したことで集落の方達に共同意識が芽生えました。

こうして「地域にあるものを自分たちで形にして、伝えていきたい」そんな思いが地域に根付き、森ノ茶を作るきっかけにも繋がったのです。

軽トラックいっぱいに積まれたクロモジ

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薪の販売が軌道に乗りはじめた頃、「次もなにかやりたいね!」と集落は活気づいていました。

「なにをやろうかとなり、おじいちゃん達がいくつか素材を提案してくれました。その中にクロモジの枝があったので『あれば持ってきてほしいです〜』とふわっと口にしました。すると、数日後に一人のおじいちゃんがガッサーと軽トラいっぱいにクロモジを積んできたんです。1、2本刈ってきてくれたらいいなと思っていたんですけどね(笑)。そのスピード感と熱意に、これはもうやるしかないな...!と背筋が伸びました」

クロモジを採取した場所は針葉樹の森で、時期が来ると下草として刈られてしまいます。放っておいても土には還るけど、せっかくだからなにかに使えたらいいねとアイデアを寄せ合いました。

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「どういう風に使うのか会議になった時、アロマオイルも案として出ましたが、香りとなると使い方に限りが出てしまう...もっと日常に馴染むものはなにかと考え、『お茶』にたどり着きました。あとは私自身、ほうじ茶が元々好きだったのもあって。まずは実験的に作ってみたら意外と美味しかったので、『よし、これだ!』って」

しかし、お茶にするためには、クロモジの枝葉を乾燥させる必要があります。そのための場所をどうしようかと悩んでいたところ、薪を乾かしていた場所がそのまま活用できることに。またもや地域の人たちが率先して協力をしてくれたおかげで、予測していた何倍もスムーズな流れで開発が進みました。

集落で暮らすご高齢の方達がクロモジを森で採取し、枝葉を干し、乾燥。そのあとのほうじ茶とクロモジをブレンドする工程は、山を隔てた隣の新城市にある製茶メーカーと連携しています。

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「新城市にある鈴木製茶さんは、有機栽培で育てたお茶園を営んでいて、素材が持つ香りをすごく大切にされています。クロモジの一番推したいところは、やはり香りでした。けど一方で、香りが強いので、どうしてもハーブっぽくなってしまう。私たちがつくるお茶は、日常的に飲みたくなるような味にしたかったので『ほうじ茶とクロモジの香りを生かしたようなものができないですか?』とオーダーさせていただき、丁寧にブレンドを仕上げていただきました」

スピード感に圧倒されながら、わずか2ヶ月で販売へ

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こうして、クロモジが運ばれてきてから、たったの2ヶ月で開発・販売まで達成し、驚異的なスピード感でお披露目された「森ノ茶」。しかし、発案者である徳山さんは開発当初自信がなかったと話します。

「発案者のくせに、はじめは弱気でした。『2ヶ月後に販売するなんていけます?』って。鈴木製茶さんからも木をブレンドするのは初めてだから、味は整えるけど実際にウケるかどうかはかわからないと言われてしまい、大丈夫かなあと。

けれど、実際の反応は、思ってたよりも良かったです。正直わたしが一番びっくりしていました。特に試飲していただいたみなさんが香りに反応してくれて、『こんな香りがする木があるの?』と興味をもってくださいましたね。あるいは、『クロモジって自分の住んでる地域にもあるのかな?』と、聞かれることがあります。このお茶を飲むことが自分たちの暮らしてる土地に目を向けるきっかけになっていることが嬉しいし、そういう人がもっと増えてほしいですよね」

朝の一杯目に飲みたい、清涼感と優しいまろやかさ

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そうして予想以上の評判を得た森ノ茶。最初のローンチのあと、さらにパッケージとブレンドの改良を重ね、現在の味になったのだとか。無農薬で栽培された豊かな味わいのほうじ茶と、森の空気をいっぱい吸ったクロモジの香りが合わさり、すっきりとした飲みくちに。朝の目覚めと共に飲むのもよし、これからの季節は水出しもおすすめです。

「ホットとアイスでは香りの感じ方が全然違います。ホットはコップを口元にもっていっただけで香りを感じることができるので、クロモジをよりダイレクトに感じながら楽しんでいただけるかなと。紅茶みたいな感じで、牛乳で煮出して、ほうじ茶ラテで召しあがっていただくこともおすすめです。濃いめに煮出してお砂糖をすこしだけいれると、ラテみたいな感じになるんですよ」

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ちなみに、パッケージは設楽町出身のデザイナーさんが手がけているのだそう。「森ノ茶」のコンセプトは、森でくつろぐ穏やかな時間。パッケージのイラストも、深い緑の山々から、朝日がちょうど上がってくる光景をイメージして制作されています。

田舎でも、洗練された価値のあるものを作れる

地域でひとつの物を作りあげることで、多くの人が集まり、協働してくれました。地域課題を解決するといった意味でも、この商品は効果的だったのではないでしょうか。

「地域課題をなんとかするというよりも、自分たちの暮らしに楽しみがひとつ増えたという感じですよね。地域資源によって新しい関わり方ができたから、設楽町の人達にとっても新鮮だったんだと思います。ひとりひとりが持ってる知恵を活用することもできて、暮らしの先に楽しみを見出せた。ゆるやかな産業ができたことでひとつのコミュニティみたいなものができたことは嬉しいですね」

お金をかけずに、手元にあるものを使い、みんなで知恵を出し合って作り上げた価値がある。だからこそ、この事業の先にいつかは雇用を生みたいと考えているそうです。

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「すぐに会社を作るとかは難しいと思うけど、やっぱり楽しんでやってくれている方達のためにも、雇用を生みたいという気持ちはあります。ただのボランティアではなく、小さいながらも経済循環にのせていくほうが地域の活性という意味で必要なこと。会社を作ることが目的というよりは、『森ノ茶』を販売していった先に、雇用を生むことで、次の楽しみを企てることができるのかなって」

徳山さんはハツラツとした表情で次の目標を語りました。「地域内の循環だけにならず、もっと外に広がって伝わってほしいです」

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「自分たちの満足だけで終わらせたくないですね。届いた地域の方達にも新しくなにかやってみたいという気持ちになってもらいたい。森ノ茶を通して、設楽町を知ってもらいたいという気持ちもあるけど、自分達の暮らしに関心を持つ人が増えていったら嬉しいです。

ワクワクしながら森林の可能性を考えてくれる人が、街から『おもしろそう!』と思って来てくれたらいいですよね。田舎と呼ばれる場所でも、これだけ洗練された価値のあるものが作れるんだということを、これからも伝えていきたいです」

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