性暴力の被害者を責めないで。日本で初開催された「そのとき、あなたは、何を着てた?」展
「着ている服が、性暴力の被害に遭う原因だ」ということを言う人がいる。「そうかもしれない」と、その言説になびく人たちがいる。
こういった先入観をなくし、性暴力の被害者に「あなたは悪くない」というメッセージを届けることを目的としたアート・インスタレーションが、2023年11月25日から12月8日にかけて、東京・千代田区にある上智大学のキャンパスで展示された。
女性に対する暴力撤廃の国際デー(11月25日)から国際人権デー(12月10日)までに世界各地で開催された「ジェンダー暴力と闘う16日間キャンペーン」の一環で、展示会名は「そのとき、あなたは、何を着てた?~What Were You Wearing?~」だ。
上智大学グローバル・コンサーン研究所所員で総合グローバル学部の田中雅子教授が、学生など有志とともに、オンラインフォームを通じて、性暴力の被害経験の共有を呼びかけた。こうして寄せられた体験に基づき、被害に遭った人がそのとき着ていた服のイメ―ジを古着で再現。また、被害の背景や状況を説明するキャプションを日本語と英語で作成し、古着と一緒に展示した。
「What Were You Wearing?」は、2014年にアメリカの大学で行われて以来、欧米だけでなく、アジア各地で実施されているという。日本では、今回が初めての開催だそうだ。
この企画を運営した田中雅子氏に、展示会に込めた想いや、性暴力をめぐる状況などについて聞いた。
筆者が展示場所で見た服は、子ども服やスーツ、女性の服や男性の服、赤い服やグレーの服、半袖の服や長袖の服、スカートやズボンなど、さまざまだった。全体的に、ごく普通の服だと感じた。それぞれの服のキャプションには、「こういうことが起きるなんて」とショックを受ける内容が、たくさん書かれていた。
田中氏は、展示会に込めた想いについて、次のように話す。
「この展示をきっかけとして、性暴力の被害者に寄り添える人が増えることを願っています。『被害に遭った人のことを想像しましょう』と言われても、想像できない多くの人に、被害者の想いを届けたいんです」
展示されていた複数のキャプションにも、「家族に相談したら信じてもらえなかった」「友人に相談したら軽くあしらわれた」「性暴力被害ホットラインに連絡したら、威圧的な対応をされた」といった内容が書かれていた。
「誰かに相談したら、『気にしすぎ』『被害妄想なのではないか』と言われるかもしれないと思った」という内容が書かれたキャプションもあった。被害に遭った人への理解が十分に進んでおらず、被害者が声を上げにくい状況があることがうかがえる。
「そのとき、あなたは、何を着てた?」は、性暴力の被害に遭ったことのない人も、性暴力について想像を広げる一助となるのではないだろうか。
たとえば、「痴漢に遭わないように気をつけましょう」というメッセージについて、田中氏は次のように話す。
「『痴漢に遭わないように気をつけましょう』というメッセージは、『誰に対して言うか』という点において、根本的に間違っていると思います。このようなメッセージは、被害に遭う人に責任を押し付けているとも捉えられます。『痴漢をやめなさい』『痴漢は犯罪です』といったメッセージにするべきでしょう。
『痴漢に遭わないように気をつけましょう』というメッセージを発していると、痴漢が起きたとき、『なぜ対策をしないのか?』『気をつけていないあなたが悪い』と、被害者を責める発想につながるのではないでしょうか。被害に遭った人も、『自分が気をつけていなかったからいけないんだ』と、自分を責める方向に向かってしまいます」
「性暴力の加害者に、もっと目を向けるほうが良いのではないか」という意見は、さまざまな人が出している。この視点に基づき、痴漢防止ポスターに関する話し合いも行われてきた(※1)。性犯罪者などを専門的に治療する、性障害専門医療センターSOMECは「被害者の心を癒やすには加害者へのアプローチも必要」と、AERAにてコメントしている(※2)。
人がなぜ
被害者非難
をしてしまうのか、要因を知っておくことも大切だろう。カナダの被害者支援団体「カナダ犯罪被害者支援センター(Canadian Resource Centre for Victims of Crime)」が公開する記事では、人が不愉快な出来事から自分自身を遠ざけ、それによって自分の無敵さを確認する方法として被害者非難を行うという、「無敵理論」などが紹介されている。
「そのとき、あなたは、何を着てた?」で展示されていたキャプションに、「自分の不注意のせいだと思い、自己嫌悪に陥った」という内容が書かれていた。被害に遭ったとき、こう感じてしまう人を減らすために、適切な言葉かけについて考えたいと思った。「あなたは悪くない」というメッセージを、普段から発する大切さも実感した。
私たちは、性暴力の被害に遭った人に、どのようなことを伝えられたらいいだろうか。田中氏に尋ねると、「『つらかったね』など被害者に共感を示す言葉や、『あなたに寄り添います』という姿勢を示す言葉です」と教えてくれた。
あなたが誰かに、性暴力の被害に遭ったことを打ち明けられたとき、この話を思い出してくれたら嬉しい。
元記事は こちら
【参照サイト】
上智大学グローバル・コンサーン研究所
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木村つぐみ
木村 つぐみ(きむら つぐみ)。大学卒業後しばらく経ってから日英の翻訳を始める。そして翻訳にとどまらず自分で文章を作り上げてみたいと思いライターも始める。学生時代に海外生活の経験あり。好きな文筆家はよしもとばなな、ナンシー関など。好きな言葉は「花鳥風月」。