チョコを食べる人も、つくる人も、育む土地も幸せに。チョコレートから世界を変える挑戦
普段の「買い物」にも、私たち消費者の意識と選択が問われる現代。何気なく食べている「チョコレート」が、児童労働や貧困の問題と密接に関わっていることはご存知でしょうか?
チョコレートの原料カカオ豆は赤道近くの高温多湿な地域で栽培されます。世界のカカオ生産の約7割を占める西アフリカ地域では、農薬の使用や森の伐採などにより生態系や環境が破壊されたり、地域の子どもたちが学校に行けずに危険な労働を強いられていたりと、さまざまな問題がおきています。世界第1位、第2位のカカオ生産国であるコートジボワールとガーナだけでも、18歳未満の児童労働者は、210万人に上ると言われています。(※1)日本が輸入するカカオ豆の74%はガーナ産(※2)で、ガーナのカカオ豆の年生産量は約100万トン、金と並ぶ主な輸出品で、輸出総額の約4分の1を占めています。
このような状況の中で、世界的にもチョコレート業界の在り方が見直され始めています。とりわけ、グローバルなチョコレート市場の中核を担うヨーロッパにおいて、SDGsに合致するフェアトレードへの関心が高まっています。今回は、チョコレート産業における"フェアトレード"と"SDGs"についてご紹介します。
チョコレートにおけるフェアトレードとSDGs
チョコレート業界のフェアトレードへの挑戦は「責任ある消費、ジェンダー平等、働きがいのある人間らしい仕事、持続可能な開発のためのパートナーシップ」を掲げる国連の持続可能な開発目標(SDGs)と密接に関わっています。フェアトレードは、カカオ農家の地位を高め、公正な賃金を確保し、持続可能な農業と生産体制を促進することで、貧困、不平等、環境の問題を解決に導いています。
トニーズ・チョコロンリー - オランダ
2005年に設立されたTony's Chocolonelyは、ポップでカラフルなパッケージが印象的なオランダのブランドです。フェアトレード認証だけにとどまらず、強制労働を100パーセント排除しています。ガーナとコートジボワールのカカオ農家との積極的に協力(農家と5年以上提携して農家の長期的な投資を促す、協同組合に協力、出資など)する、割増金を上乗せする等の公正な賃金でSDG 1(貧困撲滅)およびSDG 2(飢餓撲滅)にも寄与しています。経済的な考慮だけでなく、教育や医療のコミュニティ開発プロジェクトにも取り組みSDG 3(健康と福祉)およびSDG 4(質の高い教育)にも取り組んでいます。さらにカカオの調達だけでなく、積極的に児童労働についての認識を高めることでSDG 8(働きがいも経済成長も)も推進。ステークホルダーとの協力を促進することで、同社はSDG 17(パートナーシップで目標達成)にも大きく貢献しています。チョコレートの売上の純利益の1%が「チョコロンリー財団」に寄付され、カカオチェーンの強制労働を撲滅するためのプロジェクトも支援しています。透明性があり、影響力があり、チョコレート業界に新たな姿勢を呈示しているTony's Chocolonelyは、倫理的でサステナブルなチョコレート生産の規範となっています。
ディヴァイン・チョコレート - イギリス
1998年にイギリスで設立されたDivine Chocolateは、フェアトレードの理念に沿って運営されているユニークな企業です。株式の44%をカカオ農家が所有し、会社の利益は公正に分配されます。生産者自身が会社の経営に加わることで、現地の人々の手による充実した地域社会を築き、人々が貧困から抜け出し、さらに質の良いカカオを育てることへとつながっています。Divine社は「生産者ファースト」を掲げて、カカオ農家の搾取を終わらせるために「チョコレート・レボリューション」を提言。『生産者が本来得るべき利益をしっかりと手に入れ、会社の経営に関わることができ、自分たちの要求を声に出すことができる』これは非常にシンプルで当たり前の権利ですが、これまでそれこそ当たり前のように搾取され続けてきたカカオ生産地に革命を引き起こしました。
中でもガーナのカカオ農家に焦点を当て、会社に出資している農家に公正な価格を確保し、SDG 1(貧困撲滅)およびSDG 2(飢餓撲滅)に取り組んでいます。協同組合のモデルは農家を積極的に巻き込み、カカオ生産コミュニティの女性の地位を向上することでSDG 5(ジェンダー平等)にも貢献。また、カカオだけでなく砂糖と牛乳にもDivine社のコミットメントは広がり、SDG 12(責任ある消費と生産)にも合致しています。この包括的なアプローチはサプライチェーン全体のサステナブルな取り組みを促進しています。Divine Chocolateの影響は単なるフェアトレードを超え社会的な取り組みにも及んでおり、教育、医療、女性の力強化への投資はSDG 3(健康と福祉)およびSDG 4(質の高い教育)にも密接に関わり、豊かなコミュニティの開発を促進しています。
オリジナル・ビーンズ -オランダ
2008年、カカオ貿易の中心地アムステルダムでスタートしたOriginal Beansは、単なるフェアトレードなカカオの調達を超え、環境保全への積極的な貢献と地元コミュニティのサポートにまで広がっています。例えば、チョコレートを一枚購入すると、その産地にカカオもしくはシェードツリーを一本植えるという「ONE BAR ONE TREE」というプログラムを実践。単にカカオを買ってチョコレートを作るのではなく、現地の人と共に産地に必要なことに取り組みながら持続可能なチョコレート作りを目指しています。この取り組みは、森林伐採に対抗するだけでなく、SDG 15(陸上の生命)と美しい地球の生物多様性保全にも繋がっています。また、エコフレンドリーなパッケージを採用することでSDG 12(責任ある消費と生産)を実現させ、サステナブルな調達と生産体制を大切にすることで責任あるビジネス、循環型の経済を奨励しています。Original Beansは「フェアトレード実践」と「環境保全」の両方にアプローチし、さまざまなSDGsに合致する方法を示すことで、チョコレート産業における責任あるサステナブルビジネスを世界に示しています。
ショコラ・ハルバ - スイス
1907年にスイスで設立されたChocolats Halbaのフェアトレードのアプローチは貧困対策からジェンダー平等、環境保全と多岐にわたっています。ペルーとドミニカ共和国の小規模農家をフェアトレードを通じてサポート(SDG 1:貧困撲滅)、公正な賃金を提供することで農家に経済的な力を与え(SDG 8:働きがいも経済成長も)ジェンダー平等の取り組みではカカオ生産コミュニティ内の女性が力を発揮することを保証、サポートしています。(SDG 5:ジェンダー平等)
また、炭素排出削減にも積極的に取り組み、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)にも貢献しています。社会的なプロジェクトに積極的に参加することでSDG 3(健康と福祉)およびSDG 4(質の高い教育)も推進し、コミュニティの発展へ大きなインパクトを与えています。Chocolats Halbaは経済的な取り組みにとどまらず、このように「コミュニティの発展と幸福」にフェアトレードがどのように組み込まれ、拡大可能かを示しています。さまざまなSDGsの目標に合致することで、サステナブルなチョコレートづくりを実現したChocolats Halbaはスイスのチョコレート業界において称賛されています。
ゾッターチョコレート - オーストリア
オーストリアのチョコレートメーカーZotter Chocolateは、創業者ヨーゼフ・ゾッターが語る哲学『BIOでなければ、自分が作ったチョコレートを買って下さるお客様に対してのみならず、カカオや砂糖を作る生産者の人達、そしてそれを育む土地に対してFAIRではない。BIOとFAIRは切っても切り離せない』の言葉どおり、BIO=有機栽培とフェアトレードの実践を重視しています。ペルー、ボリヴィア、グアテマラ、タンザニア、マダガスカルなどの農家から全て有機栽培*およびフェアトレード(BIO & FAIR)の認定を受けたカカオを直接調達。これにより、SDG 12(責任ある消費と生産)、経済成長(SDG 8)を促進しています。2006年からは毎年ニカラグアにあるカカオ農園の生産者と交流し、現地で技術指導も行なうなど、人と人とをつなぐ形でカカオの栽培から製品になるまでの全てのプロセスを自身の目で見届け、公正な賃金を確保し、SDG 1(貧困撲滅)およびSDG 10(格差の削減)にも貢献しています。
他にもエコフレンドリーなパッケージやエコロジーに徹した最新の設備の採用、帆船を使ってベリーズから運んだカカオでチョコレートを作るなど、有機栽培とフェアトレードを統合した数々のサステナブルなコミットメントを実践することで、Zotter Chocolateは責任ある倫理的なチョコレート生産の模範となっています。
おわりに
世界中の人々に愛される嗜好品であり、日本ではバレンタインに想いを伝えるアイテムでもある「チョコレート」。紹介したケーススタディからは、ヨーロッパ諸国のチョコレート業界ではフェアトレードの実践が当たりまえになっており、消費者もまたその企業姿勢を支持していることがうかがえました。児童労働の禁止や不当な労働賃金の是正など倫理的な問題に対処するだけでなく、たくさんのSDGs目標に合致し、貢献できることを示しています。そしてチョコレート業界のみならず、さまざまな業界でも活用できる、ヒントが隠されていたのではないでしょうか。
消費者がますますサステナブルな製品=社会・環境の問題にポジティブな影響を与える製品を求める中で、これらのチョコレート企業の取り組みは、ポジティブで力強いメッセージと言えます。
元記事 こちら
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