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「もやしはなぜ安い?」消費者の''当たり前''が、生産現場に押し付けている''無理''

    

from VOICE

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スーパーマーケットや小売店で、年間を通じて低価格で販売されているもやし。家庭の食卓でも身近な食材である一方で、安さの理由や生産現場の実情など、知らないことは意外に多いのかもしれない。もやしの生産を手がける株式会社旭物産の社長、及び工業組合もやし生産者協会で理事長を務める林正二さんに、生産現場が抱える課題について話を伺った。

"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人

林正二さんさん

林正二さん

1953年生まれ。東洋大学経営学部を卒業後、株式会社旭物産に入社。1999年12月に同社代表取締役就任。2009年5月より工業組合もやし生産者協会理事長を務めている。

"瀕死状態"に陥る、日本のもやし業界

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工場で発芽してから10日ほどで出荷できるもやし

サラダや炒め物、おひたしやラーメンなど、調理が簡単でお財布にも優しいもやしは、多くの家庭や飲食店で使用されている。しかし、そのお手頃な価格がゆえに、生産者が非常に厳しい状況に置かれていることは、あまり広くは知られていない。

もやしの生産やカット野菜の製造を手がける旭物産の林さんは「実はもやしの値段は、約30年前から下がり続けているんです。店頭価格が下がると、生産者としてはスーパーマーケットなどに納品する際の卸価格も下がってしまうので、かなりの打撃を受けることになります」と話す。

価格の下落に伴う収益性の悪化によって、生産者の廃業も相次いでいる。60年前には1000社ほどあったもやし生産者の数は、今では110社にまで減ってしまった。

そこで、林さんが理事長を務める「工業組合もやし生産者協会」では、生産者を取り巻く環境の改善に向けて、業界団体として声明文なども発表している。2022年春には、公式ホームページに意見書を掲載。もやしの原料となる緑豆が高騰しているものの、小売店での販売価格が一向に上がらず、生産者にしわ寄せが来ている窮状を訴えた。

「我々の会社ももやし単体では利益が出ないので、付加価値を高めるためにカット野菜などと混ぜたパックを製造して販売しているのですが、大変厳しい状況です。もやしの生産だけで儲けている事業者はほんのひと握りで、ほとんどが瀕死の状態に陥っていると思います」

もやしはなぜ、安い商品になったのか

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もやし生産者協会のホームページ

現在は1袋(200g)30円前後で販売されることが多いもやしだが、そもそもなぜ、安い野菜として売られるようになっていったのか。林さんは、価格の推移をたどってみると、もやしが日本の経済状況に大きく影響を受けてきた様子が見えてくると指摘する。

「1990年代までは、もやしは一般的に40円ほどで販売されていました。さらに、種子の種類や栽培方法にこだわった100円のもやしも爆発的に売れていて。あの頃は、特別であることや高い値がついていることがきっかけで、商品を買いたいと思う人たちがいた。ですがその後は、日本の長引くデフレによって、もやしはどんどん安値で売られるようになっていきました。今の時代は、1円でも安く商品を買いたいという消費者がとても多いように感じています」

そのうえ林さんは、もやしが小売店にとって扱いやすい商品であったことが、廉売が常態化していった主な理由だと考える。もやしは成長時に太陽光や土を必要とせず、工場で発芽してから10日ほどで出荷できる。そのため、小売店は仕入れや販売時期の目処を立てやすい商品として、もやしを重宝するようになった。

「特にバブル崩壊後には、競合他社より1円でも安くもやしを販売して、目玉商品にしようという動きが強くなっていきました。小売店はお客さんの方を見て商売をしていますから、できるだけ安く売って、お客さんに喜んでもらおうと考えたわけです。もやし単体で利益がでなくても、お客さんが他の商品も購入すれば、最終的にはプラスになりますからね。過去には20円で仕入れたもやしを10円で販売した店舗もあって、公正取引委員会に警告されたこともありました」

日本のもやしの安さは、海外と比べるとより顕著だ。「アメリカやヨーロッパでは、通常100円ほどで販売されていますし、原料の仕入れ先である中国の生産者からは、日本のもやしがなぜこんなにも安いのかと、何度も質問を受けました。日本のもやしは、先進国と呼ばれる国々の中では、最も安いレベルになってしまっているんです」

商品の適正な価格を知る

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もやしの生産工場の様子

生産にかかるコストを総合的に考慮すると、もやしの販売価格としては、1袋40円前後が「適切」だという林さん。とはいえ、生産者の立場からは、小売店で売られている価格について「なにも言えないのが現状」だと語る。

このように、適正な価格で商品が売買されず、生産者がしわ寄せを受けているという課題は、決してもやし業界に限ったものではない。林さんはもやし以外でも、様々な生産者が苦しい状況に陥っていると指摘する。

「例えば昔と比べると、町のお豆腐屋さんの数はだいぶ減ってしまいましたよね。効率化や合理化を推し進めた結果、生産量や生産規模を拡大できる一部の企業だけが生き残り、小規模に事業を営む生産者の多くが廃業に追いやられている。今私たちの身の回りで起きている行き過ぎた競争や、一部の企業による寡占化などについて、改めて考え直すことが必要なのだと思います」

普段の買い物で何気なく目にしている商品やサービスの価格、そしてそれらの生産に携わる人々や過程について改めて考えてみると、身近な社会課題に気づくことができるのかもしれない。

元記事はこちら

from VOICE(フロムボイス)

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「ワクワクするサステナブルを、ここから。」をキャッチコピーに掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。オウンドメディアとして、日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探していく「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。

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