海外の先進的な企業によるLGBTQ+支援の取り組み3選
毎年6月は、世界各地でLGBTQ+の方々の権利を啓発するための活動が行われる期間として「プライドマンス」と呼ばれています。日本はG7の中で、同性婚や婚姻と同等の権利を保障するパートナーシップ制度を国レベルで導入していない唯一の国であり、法的認識に関してまだまだ遅れをとっています。ビジネスにおけるSDGsへの関心が世間で高まってから久しいですが、LGBTQ+の方々の人権問題は、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」などに深く関わってきます。日本企業がLGBTQ+の方々のために制度を整えることは、法的に実現できていない倫理的責任を果たすことに繋がります。また、それは道徳的な義務であるだけでなく、持続可能な成長を促進し、グローバルなリスクや課題に対応できる、時代に合った柔軟な組織を構築するための戦略的な方法でもあります。
具体的にはどんな取り組みが考えられるのでしょうか? 本記事では、企業がD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に取り組むべき理由や先進的な海外企業が実践しているLGBTQ+インクルージョンの事例を紹介します。
D&Iの戦略的な利点
企業におけるD&Iの取り組みは、道徳的に重要であるだけでなく、戦略的・ビジネスとしての利点もあります。「利点がないならやらなくてもいい」ということではありませんが、D&Iのビジネス的な利益が分かれば、社内での取り組みを加速させることができるのではないでしょうか。以下は、D&Iが企業にもたらすといわれているポジティブな変化です。
創造性とイノベーションの促進:多様なバックグラウンドや視点を持つ従業員が集まることで、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなり、イノベーションの原動力となります。
市場への適応性:多様な従業員がいることで、多様な顧客層に対する理解やアプローチが生まれ、市場の変化や異なる地域、文化に対する適応性が向上し、競争力が強化されます。
人材獲得と人材定着の向上:D&Iに取り組む企業は、多様な人々にとって魅力的な職場環境を提供することができます。そのため、優秀な人材の獲得と定着が容易になります。
法的および社会的リスクの軽減:D&Iに取り組むことは、法的コンプライアンスや社会的責任を果たすうえで重要です。差別や偏見に基づく訴訟や評判の損失を避けるために、包括的な政策を採用することが必要です。
従業員の生産性向上:心理的安全性が確保された職場環境は、従業員のエンゲージメントと生産性が高いと言われています。
組織文化の強化:多様性と包括性を重視する企業文化は、協力と共感を促進し、従業員間の信頼や協力関係を築きます。これにより、チームワークが改善され、組織全体のパフォーマンスが向上します。
具体的な取り組み
それでは、実際にLGBTQ+インクルージョンのためにどんな取り組みが考えられるのでしょうか。企業が導入できる取り組みの大枠には以下のようなものがあります。
ポリシーとガイドラインの制定:LGBTQ+の権利と平等を保障するポリシーを明文化し、社内外に明示する。
教育とトレーニング:従業員全体に対するLGBTQ+に関する教育プログラムを実施し、意識の向上を図る。
パートナーシップ制度の導入:同性パートナーにも配偶者と同等の福利厚生を提供する。
社内ネットワークの支援:LGBTQ+の従業員ネットワークを支援し、コミュニティ形成と相互支援を促進する。
採用と昇進の透明性確保:採用・昇進プロセスにおいてLGBTQ+の人々が平等に扱われるよう、透明性と公平性を確保する。
先進的な企業の取り組み事例3選
さて、海外の先進的な企業は、具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか。3つの企業の事例をご紹介いたします。
Barclays(イギリス):20年以上続くLGBTQ+ネットワーク
イギリス・ロンドンに本拠を置く国際金融グループBarclaysは、LGBTQ+コミュニティに対する支援で有名な企業の一つです。同社は、従業員のジェンダーアイデンティティや性的指向に関わらず、平等な機会を提供するための厳格なポリシーの設定や性別適合手術の補助、プライドイベントのスポンサーとしての活動などを行っています。また、20年以上前に設立された「Spectrum」は、LGBTQ+の社員の個性を尊重し支援する職場環境を作り出すと共に、LGBTQ+コミュニティを取り巻く課題への意識向上を目的として活動しているネットワークです。外部講師を招いての聴講会、LGBTQ+関連イベントへの協賛、LGBTQ+の学生に向けた就職活動支援などを通じ、従業員一人一人の性的指向が尊重される受容的な職場環境の確立を目指しています。東京における他の金融機関等のLGBTQ+ネットワークとも活発に交流しており、「LGBT Finance」と称して共同で東京レインボープライドに参加するなどしています。
IKEA(スウェーデン):元祖インクルーシブな広告
「より快適な毎日を、より多くの方々に」をビジョンとするスウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニーIKEAは、LGBTQ+インクルージョンに関して積極的な取り組みを行っています。同社はグローバルのLGBTQ+インクルージョンプランを採択し、トランス・インクルーシブな職場を構築するためのガイドラインを発表しています。さらに、LGBTQ+の社員には包括的な福利厚生を提供しており、IKEAアメリカでは性別適合カウンセリングと手術の一部をカバーしています。従業員向けには、LGBTQ+の包括性に関するトレーニングも行い、無意識の偏見に気付き、性的指向や性自認に関する偏見を減らすために学びの機会を提供しています。また、消費者向けにもインクルーシブな広告で知られており、1994年に公開された男性カップルがダイニングテーブルを探しているIKEAのテレビCMは、LGBTQ+を取り上げた初期の広告として知られています。さらに、毎年5月17日にはIDAHOBIT(国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日)を祝い、グローバルでキャンペーンを展開しています。
ブルームバーグ(米国):インターセクショナリティに光を当てる
経済、金融情報の配信、通信社、放送事業を手がけるアメリカ合衆国の大手総合情報サービス会社ブルームバーグは、 D&Iのポリシーで明確にインターセクショナリティに言及しているところが特徴的です。インターセクショナリティ(交差性)は、複数のアイデンティティが組み合わさることで特有の不平等、差別、抑圧または特権が生じることへの気づきを促すものです。例えば、性的マイノリティの方は、同時に人種、障がい、年齢、家庭状況、学歴や生育環境など他の面でもマイノリティ性を持ち合わせているかもしれません。あらゆる不平等について考えるとき、こういったことを考慮し、包括的なアプローチをとることがとても重要です。また、ブルームバーグは優秀な人材を獲得するためのテクノロジーに投資し、適切なシステムやプロセスを導入しながらインクルーシブな採用慣行を推進しています。インクルーシブな採用を促す団体やキャリアフェアなどと協力して、LGBTQ+の人材ネットワークを広げながら人材採用のパイプラインを構築しています。
終わりに
プライドマンスは、LGBTQ+コミュニティの権利と平等を祝う重要な期間であり、企業がインクルージョンを推進するために議論を生む絶好の機会でもあります。グローバル化していく世界のなかで先進的な企業の取り組みから学び、日本企業も積極的にLGBTQ+インクルージョンを進めていくことが求められています。誰もが安心して働ける職場環境を整え、イノベーションや生産性をあげていくことで、持続可能なビジネス慣行を実現させましょう。
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