LINEヤフー サストモ

知る、つながる、はじまる。

知る、つながる、はじまる。

「かっこいい寝たきり」を将来のキャリアに。テクノロジーの力で、出かけなくても出会える世界へ

    

from VOICE

001
2021年にオープンした、外出困難者である従業員が分身ロボットを遠隔操作しサービスを提供する 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」

多様な社会を目指す働きかけが数多く見受けられるが、学校や職場、地域、あるいは趣味などのコミュニティにおいて、障がいがある人々と触れ合う機会が少ない気がするのはなぜだろう。「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参画できる未来の実現」を理念にロボット開発を行う、株式会社オリィ研究所の所長・吉藤オリィさんに、障がい者の社会参画を支える技術とそれによるサステナビリティについて、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が伺った。

"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人

吉藤 オリィさん

吉藤 オリィさん

株式会社オリィ研究所共同創業者代表取締役所長CVO。分身ロボット「OriHime」の開発者。高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学創造理工学部へ進学。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発するほか、視線入力を用いた意思伝達装置「OriHime eye+ switch」、車椅子アプリ「WheeLog!」、寝たきりでも働けるカフェ「分身ロボットカフェ」等を開発。米Forbesが選ぶアジアを代表する30名「30 under 30 」、Google impact challengeグランプリ、グッドデザイン大賞2021、Ars Electronica(ゴールデンニカ)など受賞。

接し方がわからないなら、友だちになればいい

003
吉藤オリィさんは、障がいの有無に関わらずに対等な立場で出会い、友だちになれるような機会や場所を作ることが重要だと話す

「街なかで寝たきりの人とすれ違うことはまずないですし、特別支援学校があるので、障がいを持っている人と同じ学校で学ぶ経験もほぼありません。障がい者に対してどう接していいかわからないという話もよく聞きますが、その感覚は江戸時代に外国人を見た人の反応に近しい気がします。つまり、現在の私たちは、障がい者と出会い、関わり合うことに慣れていないだけだと思うのです」

分身ロボットの開発を通して、外出困難者の孤独化の解決を図る、オリィ研究所の吉藤オリィさんは、まずVOICEについてこのように分析してくれた。また一方で、障がい者が身近に存在するのに認識できていない可能性もあるとも指摘する。

「例えば障がいを持つ子どもの両親、引きこもりの人などは、自身が障がい者手帳を持っていなくとも、移動や就労等の社会参画に困難を抱えています。こういったケースは、身近に存在していたとしても気が付きにくい。『障がいがある』という表現もまた、多様な状態を含んでいることを意識するべきだと思います」

そのうえで吉藤さんが冒頭で語ったように、障がいを持つ人の存在を知り、関わり合うことに慣れていないという課題を乗り越えるためにはどうしたらいいのだろう。

「重要なのは、障がいの有無に関わらずに対等な立場で出会い、友だちになれるような機会や場所を作ること。同僚と一緒に働くうちに仲良くなったり、バーでたまたま出会ったりなどといった、移動ありきで起こる出来事を、車椅子やベッドの上にいながら体験できる世の中を考えることが、障がい者との共生社会への近道になると思います。そして私は、そうした社会の実現に向けて、テクノロジーを活用していけると考えています」

ロボットの体を借りることで、肉体労働も可能になる

004
オリィ研究所ではテクノロジーを通じて、人々の新しい社会参加の形の実現を目指している

オリィ研究所が開発した「OriHime」(オリヒメ)は、障がいがある人の社会参加を無理なく、持続可能な形で実現できるロボットとして注目されている。ここで重要なのは、OriHimeは昨今話題のAIロボットではなく、遠隔で操作を行う分身ロボットである点。視線入力や画面のタッチを行いOriHimeを遠隔操作することで、ロボットの体を借りて、リアルタイムにその場に存在することが可能になる。

「近年、ZoomやSkypeなどのオンラインコミュニケーションツールでは、画面を通して顔を見せることで、対面の時と同様のコミュニケーションができるようになっています。しかし、入院中や化粧ができない時など、顔をあまり見られたくない時もありますよね。そうした時に、遠くにいて顔が見えない相手であっても、同じ場所にいると感じられるようなもう一つの体を作ることができないだろうかと考えました」

吉藤さんの親友である故・番田雄太さんは、交通事故による頸髄損傷で首から下がまったく動かなかったものの、OriHimeを介して吉藤さんの秘書として活躍。OriHimeの発展型である、身体労働を伴う業務を可能にする分身ロボット「OriHime-D」や、こうしたロボットが接客をする「分身ロボットカフェ」のアイデアは、番田さんとの会話から生まれた。

「寝たきりの人でも従事しやすい頭脳労働は、それなりのスキルや経験がないと雇ってもらえない仕事で、まずは肉体労働を経て、頭脳労働にステップアップしていくパターンが多いですよね。それだと体の動かない人は、ファーストステップを踏み出せない。だったら、肉体労働が可能になるテレワークを作ればいいのではないかと思ったのです」

2021年に、外出困難者である従業員が分身ロボットを遠隔操作しサービスを提供する 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」がオープン。現在は80名ほどがOriHimeを操作するパイロットとして働いている。さらに2023年10月のOriHime一般販売以降には、企業の受付や説明員など、活躍できる職場が広がっている。

「カフェのオープンから2年以上経った今では、接客だけでなく、後輩を教える立場の人や、シフトの作成やチームビルディングを担当する人、他企業から接客スキルを評価され、引き抜かれていくメンバーもいます。こうした流れの中で、リスキリングの機会作りや、人材紹介サービスなどの取り組みも、従業員から自発的に生まれはじめています。OriHimeは単なるロボットにとどまらず、寝たきりの先の働き方をみんなで考えるプロジェクトになりつつあるのです」

"かっこいい寝たきり"を将来のキャリアとして想像する

005
オリィ研究所では、ALSなどの重度障害があり外出困難な人々を「寝たきりの先輩」と呼んでいる

分身ロボットの開発は、吉藤さん自身が、病気で小学校から中学校にかけて不登校だった時に感じた、「自分の体がもうひとつあれば学校に通えたかもしれない」という思いがそもそものきっかけだった。

「当時の私は人とのコミュニケーションが苦手でしたが、オンラインゲーム上の友達とは話すことができていました。つまり、リアルが難しいだけで、人のことが嫌いというわけではない。そのことに気がついた時に、視力の弱い人には眼鏡があり、足が不自由な人に車椅子があるように、引きこもりなどの理由で直接的なコミュニケーションが困難な人に向けたコミュニケーションのサポート機器を作ろうと思い、生身の人よりも話しかけやすくて、仲良くなりやすいロボットの開発を始めました」

元々はコミュニケーションのサポート機器という発想から始まったOriHimeに、障がいを持つ人の社会参画というテーマが加わったのは、ALSや頚椎損傷などで寝たきりの生活を送る人たちとの出会いがきっかけだった。

「話すことができず、頷くことすら困難な彼らにとっては、指先から1センチ先がもう遠隔。手が届かないという意味では、1センチ先も宇宙も変わらないんです。そうした人々と出会ってからは、OriHimeを障がい者の社会参画にどう役立てていくかということがテーマになっていきました」

吉藤さんはここで改めて、「車椅子を使って外に出るという選択以外にも、社会参画の方法はあることを広めていきたい」と強調する。自宅や病院のベッドの上からであっても、リアルな体験と同じように、様々な人と出会い、対等な関係性を築きながら関わり合うことができるはずだ、と。

「これまで人間は、他者に頼らなくても生きていけるツールをたくさん作ってきましたよね。だけど誰にも頼らなくていいということは、誰からも頼られないことでもあると言えます。私は、テクノロジーを活用しながら、どんな人でも外に出て、頼ったり頼られたりできる社会を目指す方が健全だと思うんです」

また、吉藤さんは「障がい者=頼る人」「健常者=頼られる人」という図式や、障がいを持つ人に一線を引いてしまうことも、一面的な捉え方ではないかと語る。

「今の社会は、障がい者と健常者をはっきりと分けてしまっていますが、健康寿命を過ぎて、体を動かすことが難しくなる可能性は誰にでもあるわけです。寝たきりの先輩たちの中には、視線入力で絵を描いていたり、DJをやっているALSの方もいます。ぜひ皆さんには、『大人になったら何をしよう』、『老後の暮らしは何をしよう』と考える延長線上で、『寝たきりになったら何をしよう』と、"かっこいい寝たきり"を将来のキャリアとして考えてみてほしいんです」

自分が障がいを抱えた時のことを想像することができれば、障がいに対する考え方にもきっと変化が生まれるはず。社会全体の課題を自分ごととして捉えるためのヒントが、吉藤さんの話には詰まっていた。

元記事はこちら

from VOICE(フロムボイス)

三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」

「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

  • facebookでシェアする
  • X(旧Twitter)でポストする
  • LINEで送る
  • はてなブックマークに追加
  • Feedlyに登録する
  • noteに書く

ABOUT US

サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

TOP