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首都直下地震の確率は「今後30年で70%」。命を守る ''最初の3分''とは?

    

from VOICE

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日本ではこの先、様々な巨大地震災害の発生が予測されている(撮影:平田 直さん)

日本は世界の中でも、地震が多発する国。歴史的な災害となった東日本大震災以降も、各地で甚大な被害がもたらされている。この先「首都直下地震」をはじめ、さまざまな巨大地震災害の発生が予測されている中、私たちはどう備えておくべきなのか。東京大学名誉教授で、地震学の第一人者である平田直さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。

"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人

平田 直さん

平田 直さん

東京大学名誉教授。専門は地震学・地震防災。政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会委員長、気象庁・南海トラフ地震に関する評価検討会会長、東京都防災会議地震部会長他、政府・自治体の委員を務める。一般社団法人防災教育普及協会会長。平成29年防災功労者内閣総理大臣表彰受賞。

30年以内に約70%の確率で発生する、南関東のマグニチュード7クラスの地震

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地震研究者の平田さんは「首都直下地震は、私たちの多くが生きている間にほぼ確実に起きるけれども、その備えは決して十分ではない」と指摘する

大きな地震は、全国どこでも起きる可能性があり、この国に住む誰にとっても無関係ではない。そうした中で、地震研究者の平田さんは、東京都を含む南関東で大きな被害をもたらすとされている「首都直下地震」について、こう警鐘を鳴らす。

「そもそも地震はプレート(地球を覆う岩石の層)の水平方向の運動により発生するのですが、関東周辺は複数のプレートが入り組んでいるため、地震が起きやすいエリアに当たります。首都直下地震災害については、今年5月、都が2012年以来10年ぶりとなる被害想定を出し、マグニチュード(M)7.3の地震が都心南部で起きると、最悪のシナリオで、死者約6100人、負傷者約9万3000人と発表しました。M7.3というのは、日本で発生する地震としては珍しくなく、強い揺れの範囲も、列島規模から見れば局地的だと言えますが、東京という都市の特性をふまえると、災害としての影響は広範囲に及ぶでしょう」

都の防災会議地震部会長として、この被害想定の検討や作成に当たった平田さんは、耐震性や耐火性の高い住宅が増えたことにより、10年前よりも想定死者は約3500人、負傷者は約5万4000人減少していると説明する。だが、人口密度が高く、経済や文化、政治などのあらゆる機能が集約された東京という都市の構造が、地震災害の甚大化リスクをはらんでいることには変わりがない。また、こうした地震を含む、南関東のどこかで発生するM7クラスの地震は、30年以内に70%という大変高い発生確率だと言われている。

「この確率をもう少し身近に考えていただくために、他の事故と比較してみましょう。公表されているデータによると、30年以内にひとりの人が交通事故で負傷する確率は12%、火災に遭うのは1%弱とされています。こうした『ゼロではない』程度のリスクに対して、ほとんどの人は保険で備えますよね。ですが首都直下地震は、私たちの多くが生きている間にほぼ確実に起きるけれども、その備えは決して十分ではないと言えるのではないでしょうか」

最初の"3分間"をイメージして

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平田さんは地震を人の力で弱めることはできないものの、それが引き起こす震災は事前の備えによって小さくすることができると強調する(資料:東京消防庁)

こうした情報を見聞きすると、どうしても危機感ばかりが募ってしまうが、今後起こり得る巨大地震に対して、私たちはどう備えることができるのだろうか。

「そもそも被害想定は、対策を考えてもらうためにあるものです。今回発表した想定では、地震発生後に電気や電話などのインフラや市民生活がどのように変化していくかという災害シナリオも記載していますので、自身の生活に引き寄せて考えていただきたいですね。自然現象としての地震を人の力で弱めることはできませんが、それが引き起こす震災は、事前の備えによって小さくすることができます」

平田さんが指摘するように、今の私たちにできるのは、地震が発生した際の被害をいかに小さくとどめるか、すなわち「防災」と真剣に向き合うことだろう。そのために平田さんは、今回被害想定を作成した都をはじめ、地域コミュニティ、そして個人・家族と、それぞれの立場で備えることが大切だと話す。

「たとえば、地域コミュニティでの"共助"については、日頃から近隣との付き合いを深め、情報を共有しておくことが求められます。その一例として、いざという時にマンションの備蓄倉庫の鍵を誰が開けるのか、という細かな部分まで確認しておくべきでしょう。また、自主防災組織などによって、『自分たちの地域は自分たちで守る』という自覚、連帯感に基づく防災対策を行うことが重要です。ただ、現在は高齢化でマンパワーが不足し、プライバシーの観点から住民間の個人情報を共有することに慎重になりつつある。こうした問題を改善するためには、行政の役割が重要ではないでしょうか」

そして、個人や家族レベルでできることについて、こう続ける。

「個人でできる"自助"としては、地震が起きてからの最初の3分間、身を守ることが最も大切です。阪神・淡路大震災時も、最初の大きな揺れが続いたのは約30秒でした。それより大きな地震でも、3分ほどでいったん収まりますので、3分間への備えとして、家屋の耐震化を進め、家具を固定しておくことがとても効果的です。また、家族間で安否を確認する方法を明確にしたり、食料・飲料を備蓄しておくことも重要で、政府広報をはじめとするウェブサイトからも詳細を学ぶことができます」

過去の教訓を、未来に生かす

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過去の災害から、今後の備えを学ぶことが求められている(資料:中央防災会議)

こうした基本的な備えに加え、「防災対策で最も求められるのは正確な情報」と強調する平田さん。それを社会に痛感させたのは阪神・淡路大震災だったと振り返る。

「あの地震が起きるまで、市民はおろか行政の間にも『関西で大地震は発生しない』という風説がありました。確かに頻度は関東と比べて少ないですが、決して『ゼロではない』ことが周知されていなかったんです。その当時と違い、今はさまざまな防災情報へ簡単にアクセスできます。もちろん、個々人が積極的に知識を求めるべきですが、情報は玉石混交ですので、まずは行政の発表を確認してほしい。また、過去の災害を遡ることで、今後の備えも学べると思います」

実際に、過去の教訓が命を救った例はいくつもある。東日本大震災では年長者が語るチリ地震津波(1960年)の経験や、昭和・明治の津波被害を伝える史跡が被害を防いだ。平田さんは自身の研究を通じて、「過去の災害を振り返り、経験と知識の積み重ねを次世代へ伝承することが、今後の被害を食い止めることにつながる」と考えている。そこで現在は、大学や研究機関などで地震現象を科学的に解明し、それらに起因する災害を軽減するための情報発信を続けている。

近い将来の発生が取り沙汰されているのは、首都直下地震だけでなく、南海トラフ地震や、北海道太平洋沖合の日本海溝・千島海溝地震など、実にさまざまだ。「いつ」「どこで」「どれほどの」揺れが起きるかを詳細に予知することは難しいが、巨大地震に遭う確率はゼロではない。この事実を心に留め、一人ひとりができることに取り組むことが、防災対策の第一歩だと言えるだろう。

元記事はこちら

from VOICE(フロムボイス)

三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
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「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。

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