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食べられるスプーンで脱プラスチック?「楽しさ」を入り口に社会課題を解決するヒント

    

from VOICE

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勤労食では、子どもたちが喜んで手を伸ばしてくれるような「食べられる」楽しさを大事にしている

環境への配慮から、飲食チェーン店での提供が広がっている紙ストローだが、従来のプラスチック製と比べると使用感が良くないという声も聞かれる。そこで、紙ストローと同じく脱プラを図りながら、"食べられる"という特徴も備えたスプーンである「PACOON」を開発・販売する、株式会社勤労食の濱崎佳寿子さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。

"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人

濱崎 佳寿子さん

濱崎 佳寿子さん

1978年生まれ。勤労食代表取締役副社長。栄養士を目指し短大に入り、卒業後に勤労食に入社。栄養士として勤務し、2014年に取締役に就任。営業と現場管理を担当し、「PACOON」の販売事業を手掛ける。

思わず手を伸ばしたくなるサステナブル製品を

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濱崎さんは、サステナブル消費が『当たり前』になる未来のために、製品を通して啓発していくことが大切だと語る

「紙ストローのように、環境に配慮した素材に転換していくのは、脱プラスチックの流れの中で必要なことだと感じています。ただ、プラと遜色のない使い心地を別の素材で実現するのは、簡単ではないのだと、私自身も製品開発を通じて実感しました。開発者側が努力を重ねるとともに、サステナブルであることの価値を世の中に認識してもらうことが、脱プラ製品の普及には重要なのだと思います」

こう語るのは、勤労食の代表取締役副社長・濱崎佳寿子さんだ。同社では、国産野菜を原料とした、クッキーのように食べられるスプーン「PACOON(パクーン)」を2020年10月から販売している。その開発を手掛けた濱崎さんは、現状を「大量生産・大量消費からサステナブル志向へと移っていく変わり目」だと捉えた上で、次のように話す。

「世界的にサステナブル消費が広がっていますが、日本ではまだまだ、環境に良いというだけでは受け入れられにくい状況があります。使い心地が変わることもそうですが、値段という基準で考えても、コストがかかりやすいサステナブル製品は、従来品より比較的高めの価格設定になりますからね。無添加で安心だったり、カラフルで写真映えしたりなど、まずはそういった理由で選んでいただき、環境への配慮はその影に隠れてついてくる、という段階を踏んで広めていくのが良いのだろうと感じています」

つまり、サステナブルの文脈とは異なる付加価値が重要だということ。そこで勤労食が「PACOON」にプラスしているのが、子どもたちが喜んで手を伸ばしてくれるような、「食べられる」楽しさだ。ただし、付加価値を提供するためには当然、基本的な機能性を備えていなければならず、そこが開発の上で苦労した点だという。

「丈夫にしすぎたら、スプーン自体を食べるときに大変ですし、かといって砕けやすい素材を使うと、水分の多い食べ物に使用できなくなってしまいますので、何度も試作をして強度を調整していきました。プラ製品は当たり前に受け入れられているだけに、それを比較対象とした製品開発はなかなか難しいのですが、今の『当たり前』は、大量生産・大量消費を前提にしたもの。サステナブル消費が『当たり前』になる未来のために、製品を通して啓発していくことは大切だと考えています」

消費者とともに見出す商品の付加価値

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PACOONでは、生産者の収入増やフードロスの削減につながっている事例もある

PACOONの累計販売本数は発売から約3年で40万本と、ヒット商品と呼べる現状となっている。多くの関心を集めている理由は、食べられる楽しさや脱プラだけではなく、子どもたちへの食育にもつながる商品であることも大きい。かぼちゃ、抹茶、おから、ビーツ、いぐさの5種類のフレーバーを管理栄養士が監修しており、それぞれの原料となる野菜は国産を使用している。

「国産の原料を使用しているのは、国内の身近な生産者さんに目を向けてもらいたいという思いからです。北海道のとうきびや浜松市のメロンなど、全国の皆さんとコラボしたご当地PACOONも製造して、名産品PRをサポートさせてもらっています」

ご当地PACOONはまた、生産者の収入増やフードロスの削減につながっている例もあると濱崎さんは語る。

「規格外や生産調整などの理由で、従来なら廃棄するしかなかった野菜を、どうにか活用できないかとお問い合わせをいただいたりもするんです。PACOONは、消費者が食の魅力や課題を知って、考えてもらえるきっかけになるだけでなく、生産者の方々にとっての新たな販路になればと考えています」

現在は、食育のイベントや小学校での出張授業などを通して、PACOONを起点とした環境配慮や食育の啓発活動を積極的に行っている。また、PACOONが広まっていく中で、消費者が新たな価値を見出してくれることもあるという。

「使った後にごみが出ないし、洗う必要がないので水を使わなくてもいいと、アウトドアシーンでご利用される方もいらっしゃいますね。また、同じ理由から非常食としても注目していただいています。私たちとしてもニーズに応えて、賞味期限を延ばす取り組みを進めています」

こうして消費者とともに価値を高めているPACOONは、2021年に香港への輸出を開始し、今年からハワイにも販路を拡大している。

「海外展開の強化を考えるきっかけになったのはアメリカでの展示会だったのですが、『食べられる』という点に関心を持って、足を止める方が多かったんです。やはり、『楽しさ』には万国共通の訴求力がある。そこから食にまつわるメッセージを広げていけそうだと手応えを感じました」

大人の健康の近道は、子どもの頃からの食育にある

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働く大人に向けた既存事業の改善を図りながら、子どもの食育を中心にした事業を立ち上げるべく、PACOONが生まれた

勤労食は1968年に、濱崎さんの祖父が愛知県刈谷市で創業。社名が示す通り、社員食堂の運営など、働く人の食を担う会社としてスタートした。製品開発・販売を行うのはPACOONが初めての試み。この企画を立ち上げるきっかけは、大人たちの食に対する意識への懸念だった。

「私たちの地元の愛知は、自動車製造業の盛んな地域。製造の現場で力仕事をする人たちは、管理栄養士が野菜をたっぷりとれるメニューを考案しても、丼物やラーメンばかりを選ぶ傾向があって、野菜不足になりがちだったんです」

健康の維持は、社員本人のためはもちろんのこと、企業にとっても安定的な経営のために欠かせない。特に人手不足の現在は、一人ひとりの社員が健康に働ける環境づくりの重要性が高まっている。給食を勤労食に依頼する担当部署にはこのような思いがあっても、野菜を意識的に食べる習慣がなかった現場の人たちの食生活を変えるのは、そう簡単なことではない。濱崎さんはそれを日々痛感する中で、新事業を模索した。

「考えたのは、私たちがこれから先の未来にも役に立てるには、どうするべきかということです。食に関心を持ってもらえなければ、私たちが提供する価値は受け入れられにくい。だったら、働く大人に向けた既存の事業の改善を図りつつも、子どもの食育を中心にした事業を立ち上げようと思い至ったんです」

そこから思案を重ね、より多くの人に働きかける方法として企画したのがPACOON。開発ノウハウがない同社が斬新な製品を世に出すまでには苦労も少なくなかったが、食べられるスプーンというコンセプトは、世の中のサステナブルへの関心の高まりにしっかりと重なった。製品が多くの人に届いた先に、濱崎さんはどのような未来を思い描いているのだろうか。

「子どもたちの価値観が変われば、これからの社会も良い方に変わると信じています。身近な食の大切さを知ることは、日々を当たり前に過ごせていることに思いをはせて、感謝するきっかけになる。その経験はきっと、食だけに限らず、SDGsの17のゴールにあるような、様々な課題の解決につながるのではないでしょうか」

元記事はこちら

from VOICE(フロムボイス)

三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」

「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。

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