やっぱりあった「無限の可能性」! 今こそ知りたい、宇宙市場3つのメガトレンド
近年、民間企業による宇宙ビジネスが注目を集めている。プライスレスな夢やロマンを想起させる「宇宙」と、経済的な利益をイメージさせる「ビジネス」。この2つの言葉が結びついた事業活動とは、いったいどのようなものなのだろうか。衛星による地球観測データを利活用したビジネススキームの確立に取り組む、衛星データサービス企画株式会社(SDS)の代表・粂野和孝さんと取締役・橋詰卓実さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。
"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人
粂野 和孝さん
2001年 三菱電機 鎌倉製作所に入社後、人工衛星の開発に約20年従事。途中、米国駐在などを経験し、2021年より同社宇宙システム開発センターの副センター長として衛星データ利用事業や新会社(衛星データサービス企画株式会社)設立を推進。2024年度から衛星データサービス企画株式会社の代表を務める。
橋詰 卓実さん
2006年に三菱UFJ銀行に入行後、主に営業本部、海外拠点でグローバル企業へのファイナンスソリューションなど法人営業に従事。産業リサーチ&プロデュース部開発グループで投資事業開発のチームヘッドを経て、2024年度にサステナブルビジネス部宇宙イノベーション室を立ち上げる。同室長と衛星データサービス企画株式会社取締役を兼務。
成長市場に挑むビジネス的ロマン
「宇宙」と耳にした時に、どんなことを思い浮かべるだろうか。国民的な注目を集める宇宙飛行士、実業家の宇宙旅行、SF映画で描かれた架空の未来......。「宇宙ビジネス」と聞いた時にも、どちらかというと私たちの生活とは縁が薄い、夢やロマンの先にあるものというイメージを抱くかもしれない。衛星による地球観測データの利活用推進を図る衛星データサービス企画株式会社(SDS)の代表・粂野和孝さんは、こうした印象を含んだVOICEを受け、2つの視点から「ロマン」を語ってくれた。
「海から陸へ上がり進化した人間が、地球上にまだ見ぬ場所を求め続け、次に目指すフロンティアが宇宙。そう考えると、すごくワクワクしますよね」
まず1つは、未知の世界に憧れを抱き続けた1人としての視点。これは宇宙そのものへのロマンと言えるだろう。もう1つの視点は、成長市場で新たなソリューションを追求する、ビジネス的なロマンだ。
「私たちの事業は、社会インフラや自然環境などを衛星で観測・解析するとともに、そのデータを企業や自治体などが低コストで活用できる仕組みを作ることで、社会課題の解決を目指すものです。衛星が観測できる範囲は実に幅広い。この仕事は文字通り宇宙規模でものを考えるスケールの大きさがあり、そこが面白さだと思います」
世界の宇宙ビジネスの市場規模は現在、約54兆円。2030年で76兆円、2040年には120兆円にまで市場は拡大すると予測されている。その大きな割合を占めているのは、SDSが事業領域とする衛星データの利活用によるサービスだ。市場の将来性は非常に大きいが、「衛星データ利活用の産業化は、まだ途上段階です」と、同社取締役で三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部宇宙イノベーション室長の橋詰卓実さんは語る。
「衛星データは、そのほかのデータやAIなどの技術と組み合わせることで、車の自動運転や社会インフラの管理、小売業の需要予測、都市開発に株価予測と、とても幅広く適用できます。でも、ある事業者が衛星データを使おうと思っても、そのための環境整備や解析にかかるコストは自ら負担しなければいけないのが現状。だからこそ私たちは、衛星データを利活用しやすい仕組みづくりに取り組んでいる訳ですが、産業化とはつまり、汎用化であり一般化であり、コモデティ化です。それはある意味で、宇宙へのロマンとは反対側へと進んでいくことだと思います」
確かに、ロマンだけで終わらせず、現実に価値を生んでこそビジネスだ。粂野さんと橋詰さんは、宇宙ビジネスの拡大により、宇宙が日常生活に密接な存在になっていくことを確信しつつも、次のように口をそろえる。
「宇宙ビジネスは、たとえ1つのテーマで産業化を果たしたとしても、その過程で必ず新たなテーマが生まれてくる。尽きることのない無限の可能性。それはロマンと言えると思います」
衛星データを「使う」需要の高まり
近年、宇宙ビジネスが盛り上がりを見せている背景には、関連技術の進展と低コスト化、衛星データに対するニーズの広がりにより、民間企業が宇宙開発に携われるポイントが増えたことが背景にあるという。アメリカのNASAをはじめとする政府系機関から民間企業へと、事業主体の転換が進行。日本でも、政府が宇宙産業を経済活性化に資するものと捉えて、起業・開発などに対する積極的な補助を行っている。
「現在、衛星付きロケットを『造る・飛ばす』ことに伴う官需以上に、観測データや衛星通信システムを『使う』ことへの民需が拡大しています。『造る・飛ばす』に範囲を限れば、関わる民間企業は製造業などが主になりますが、『使う』ことまで含めた宇宙ビジネスは、全業種を横断するほど広範囲に及びます」
橋詰さんは宇宙ビジネスの概観をこのように語った上で、市場の成長を押し上げている3つのメガトレンドを解説する。
「1つは、安全保障です。国家間の軍事的な緊張が高まると、宇宙や航空などの防衛に関わる技術開発への投資が拡大し、平常時にはそれら先端技術が民間にも解放されます。これは、歴史上で繰り返されてきた事実です。2つ目は、国の経済を支える製造業の産業政策が変化していること。製造業は国の経済を支える屋台骨ですが、近年はサプライチェーンをグローバルに構築するだけではなく、国内にも集約することで強固な産業基盤を構築していこうという流れが生じています。そこで、宇宙ビジネスに対する新たな産業としての期待感が高まっているのです」
橋詰さんは、 "次なる時代につながるCHANCEを探していく"を掲げるfrom VOICEにとっては、3つ目のトレンドが特に重要になるのではないか、という。
「ESGとDXが、企業や自治体などの持続可能性の鍵だと認識されるようになっていることです。ESGと総称されるenvironment(環境)、social(社会)、governance(ガバナンス)に配慮した取り組みにはデジタル技術の活用、つまりDXが欠かせません」
ESGは近年、サステナビリティ実現に向けた価値創造の視点として重視されるようになった。また一方で、業務の省人化・効率化を可能とするDXは、深刻化する人手不足に企業や自治体が対応していくために重要とされており、衛星による観測データの利活用もその一環と言えるが、そこにESGはどう関連してくるのだろうか。粂野さんは解説を引き継ぐ。
「たとえば製造業者が、『当社では脱炭素化を進めています』と言っても、実際にはどのくらいの取り組みをしているのかは分かりづらいですよね。そこで、衛星によって製造拠点のCO2排出量を観測すれば、環境への取り組みの客観的な評価が得られます。その評価をもとに、自社の取り組みをさらに進めることも、外部への情報開示を行うことも可能になるのです。また、衛星には広範囲にわたる網羅的な観測が得意なものや、ピンポイントでの高精度な観測が得意なものがあり、さらにはこれらの特長を組み合わせて活用することもできます。こうした特性から、インフラや国土の維持管理を効率的に行う上で、衛星は非常に有効な手段と言えます」
宇宙からの視点が地球の持続可能性を高める
SDSは、衛星データの実利用を促進するビジネススキームの構築を目指して、2021年に設立した。利益追求を一義的な目的とするのではなく、事業化に向けた実証などを行う「企画会社」という形をとっている。衛星の開発・運用からデータの解析、それをもとにしたコンサルティング。つまり「造る・飛ばす」「使う」におけるサービスでそれぞれの強みを持つ6事業者が、共同で出資して立ち上げたことが特長だ。
「衛星データサービスを展開していく上では、まずは必要とする観測情報が企業や自治体などのユーザーにとって使いやすい形で提供され、スムーズに活用できる仕組みを作らなければいけない。そのために個々の企業でできることには限界があり、協調が必要だという考えのもとで、当社は設立しました」
SDSの人員は各出資会社から派遣されており、このように設立経緯を語る粂野さんも、気象観測衛星「ひまわり」や先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS4)の製造などに携わる三菱電機からSDSの社長に就いた。
「SDSでは現在、政府系研究機関と連携して、国土やインフラの維持管理、災害対応の迅速化に資する実証研究を主に行っています。それを通じて、汎用性の高い共通の衛星データ基盤を構築し、行政や企業が必要とする観測情報をワンストップで提供できるスキームを確立していこうとしています」
出資各社は、こうした公的な取り組みに共同で当たると同時に、構築中のスキームをベースとして独自のサービスを展開。すなわち、「共創」と「競争」を並行することで、衛星データ利活用の普及を図っており、粂野さんは「この枠組みに多くの事業者を巻き込んでいき、将来的にはオールジャパンの規模に成長させたい」と展望する。
その目標に賛同し、7社目の出資企業としてSDSに参画したのが、橋詰さんが所属する三菱UFJ銀行。同行が担っているのは、金融機関として全国の企業とのネットワークを生かし、衛星データの需要と供給をつなぐ役割だ。橋詰さんは、宇宙ビジネスに携わる金融マンとして、衛星データ活用がもたらす未来像を語る。
「衛星データのビジネス的な将来性はもちろん大きいですが、私が重要だと考えるのは、『正しいことをしている人に、正しくお金が回る社会』が実現できるのではないかということです。先ほど言ったように、衛星は企業のESGへの貢献度を数値として可視化することができる。すると、今度は貢献度を経済価値に変換することが可能になります。温室効果ガスの削減量をクレジットとして取引する『カーボンクレジット』などがすでに運用されていますが、衛星データ活用の普及に伴い、こうした仕組みやルールをサポートする取り組みがどんどん生まれていくはずです。サステナビリティの実現に向かって、確かな情報に基づく対話を社会全体で行っていくためのツール。衛星はそんな存在になり得ると思います」
サステナビリティの観点から、粂野さんはさらに言葉を継ぐ。
「衛星データに触れる中でつくづく感じるのは、地球にはもともと国境などないのだということです。衛星は世の中に対する人々の視野を、より大きく広げてくれるものでもあるのかもしれません」
ロマンをロマンのままにしていてはビジネスにはならない。ビジネスとサステナビリティを一体的な活動として進めることが求められている今、粂野さんと橋詰さんの言葉には、持続可能な社会を理想で終わらせず、現実にしていくことへの強い想いが込められていた。
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三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」
「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。