宇多田ヒカルも公言、ノンバイナリーとは? 性自認を共に考える
これまでの世の中では、「性別とは生物学的に男性と女性の2種類である」という考えが、多くの人にとっての常識とされてきました。しかし、LGBTQ+といった「個性」を社会が受け入れ、認識が広がるにつれ、性別の「男女二元論」は単なる文化的なものに過ぎず、生物学的に証明されたわけではないということが明らかになってきました。これまで何百年もの間、植民地化を推し進めてきた西側諸国は、同化政策により自らの文化、言語、宗教、社会習慣で植民地の固有の文化を塗り替えてきました。そして権力をより強固にするために、性の多様性を抑圧し排除しようとしました(※1)。しかしそのような状況下でも、「男性」や「女性」を超えた性別は、人類の歴史の中で長く存在してきたのです。例えば、ネイティブ・アメリカンには「トゥー・スピリット」と呼ばれる「男性」と「女性」の両方の特性を持つ人々の概念があります。更に南アジアの「ヒジュラ」、メキシコの「ムシェ」なども、既存の「男性」「女性」の二元論に当てはまらない存在です。
ノンバイナリーを自認し公言できる時代へ
近年では、「ノンバイナリー」という言葉も使われるようになり、現在アメリカの成人の約1%(※2)が、このノンバイナリーに該当すると言われています。ノンバイナリーという言葉は、「自分は男性でも女性でもない」と感じる人、「両方の性別を持っている」と感じる人、あるいは「自分の性は流動的だ(※3)」と感じている人など、さまざまな性自認を含むインクルーシブな表現です。最近においては、イギリスのシンガーソングライター、サム・スミスや、アメリカのミュージシャン兼俳優のジャネール・モネイ、日本とアメリカで活躍するシンガーソングライターの宇多田ヒカルなど、多くの著名人がノンバイナリーであることを公表しています。
性別に関連した言語の問題
そしてノンバイナリーの人々にとって、「代名詞」の使い方(※4)は非常に重大な問題です。英語では三人称の代名詞「she, he, they」のみが性別に関係しており、話し手自身が自分の性別について言葉で表現する機会はほとんどありません。そのため、ノンバイナリー(あるいはトランスジェンダー)であることを公表した場合でも、どの代名詞が使われるかは周囲の人々の配慮に委ねることになるのです。世界には文法やボキャブラリーにおいて性別が明確に区別される「ジェンダー言語」が存在しますが、これらの言語では、名詞、形容詞、動詞などが男性、女性、または中性に分類され、性別によって変化します。例えばスペイン語のように、ほとんどの言葉に性別がある(※5)ジェンダー言語の場合、どの言葉を使うか使わないかという問題はさらに広範囲になります。ノンバイナリーの人々がその存在を認められ、社会でも尊重されるためには、インクルーシブな言語を私たちが積極的に選択していくことがとても重要です。
ところが、周囲の友人や家族がその人のジェンダーを全面的に支持していたとしても、ノンバイナリーの人々が誤った性別で呼ばれてしまうことは多々あります。カフェの店員、ショップの販売員、職場の同僚たちに対して、自分を見た目や話し方で判断せず、個別に自分の性別を覚えてもらうよう毎回お願いしなくてはいけないとしたら、皆さんはどう思われるでしょうか。もちろん快く協力してくれる人もいれば、面倒がる人もいるでしょう。中には、意図的にあなたを傷つけようと、そのお願いを冷たく拒む人もいるかもしれません。一方でカミングアウトはせず自分の性に言及しない場合、周囲から常に違う性別で扱われることを、嫌でも受け入れるしかなくなります。ある調査では、アメリカのノンバイナリーやトランスジェンダーの若者のうち83%(※6)が鬱病を発症し、そのうち29%が自殺を試みたことがあるという結果が出ています。ノンバイナリーの人々が日々性別にまつわる苦労を経験していることを考えれば、この高い数値に疑いの余地はありません。
マイノリティのアライとなる
ノンバイナリーの人々は、トランスジェンダーや一般的な性別に当てはまらない人々と同様に、社会的、職業的な差別を受けています(※7)。それにもかかわらず、英語で自分の代名詞に「they」を使うノンバイナリーの人々は、LGBTQ+のコミュニティにおいて受け入れられず、公平に扱われないことがあります。だからこそ、私たちはノンバイナリーの存在を認め、ノンバイナリーについて学ぶことが求められるのです。
是非皆さんも、弱い人々の味方となり、多様性を広げ、日常生活で「ジェンダー中立言語」を使ってみてください。中立言語には、「partner(パートナー)」「spouse(配偶者)」「parent(親)」など、性別を限定しない表現は沢山あります。また、初対面の人に自分の代名詞を敢えて伝えるのも良いかもしれません。それを続けることで、「自分の性別は自分が選択する」時代だという認識が、段々普通になっていく可能性もあります。一つ一つは小さな努力や試みでも、やがて周囲の意識に少しずつ影響を与えていくことができるのです。ノンバイナリーの人々が「ありのままの自分を表現しても、周りから受け入れられる」社会へと成長するように、私たちも一過性ではなく、継続的な努力を続けていくことが大切です。
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執筆 K. Smith 翻訳・編集 K. Tanabe
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