いつまでもこの病気が解明されない理由は、ひょっとして女性に多い病気だから?
それは2023年のこと。この10年間毎日続く痛みと戦ってきた私に、やっと「線維筋痛症(Fibromyalgia)(※1)」の正式な診断が下りました。この病気であることは既に2年前に分かっていたにも関わらず、正式な診断結果までにかなりの時間を要しました。これは、イギリスの医療サービスであるNHS(United Kingdom National Health Service:イギリス国民に対し多くの医療サービスを無料で提供する国民保健サービス)の深刻な資金難がその背景にあると考えています。人生が変わるほど大きな病気の診断を受けた時、普通は自分の病状などの詳細について出来るだけ多くの情報を得ようとするものですが、私の場合はまずそこからが苦労の始まりでした。
医療におけるジェンダーバイアス
線維筋痛症について4年前の情報と今とを比較しても大きな進展はなく、この病気についてはほとんど何も詳しく分かっていません。なぜこうも進歩がないのかと不審に思い、ある日病院での診察の際、医師に「いつまでもこの病気が解明されない理由は、ひょっとして女性に多い病気だからでしょうか?」と敢えて冗談めかして聞いてみました。すると、なんと担当医師はその可能性を否定しませんでした。私はすぐ自宅で色々と調べ始め、そこで見えてきた真実に何とも恐ろしい気持ちを抱いたことを今でも覚えています。
中でも、イギリスのサイエンス・コミュニケーション分野で活躍するジャーナリスト、ケリー・スミス(※2)が2023年に発表した記事は衝撃的でした。あろうことか、主に男性が多く罹患する疾患の研究には、女性特有の疾患よりも多くの資金が投入されているというのです。子宮内膜症、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎(ME/CFS)、自己免疫疾患、アルツハイマー病、乳がん、HPV(ヒトパピローマウイルス)など、患者の多くは女性です。これらの医療研究はとても遅れており、研究自体が不十分です。ジェームズクック大学のメローネ氏ら(※3)が発表した論文によると、女性はこれまでの医療研究分野においてずっと蚊帳の外でした。医療業界は伝統的に男性社会であり、今もその体制は変わっていないのです。また、女性の治験数は絶対的に少なく(※4)、薬が過剰に処方される傾向にあるとも語っています。
女性の病気に対する過少診断と誤診
医療にもこのような格差が存在することと、女性に自閉症の誤診が多いことも無関係ではありません。歴史的にも、私たち女性は男性優位の医学研究の分野から締め出されてきました(※5)が、今も軽視される状況は変わっていません。The Royal College of Nursing(※6)(看護専門職の人々のための英国の登録労働組合および専門機関)によると、子宮内膜症は診断までに平均で7.5年かかるとされています。子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が体内の他の場所に増殖し、しばしば臓器を癒着させる疾患であり、命に関わる深刻なものです。そして女性は医療過誤となるケースや、燃え尽き症候群にかかる確率が男性よりはるかに高いのが現実です。イギリスの公式な報告書によると、56%以上もの女性(※7)が、医師や専門家にその痛みについて重要視されなかったと感じているそうです。そして、私自身も実際にそれを経験している一人です。「たまたま少し気分が落ち込んでいるだけではないですか?」「もっとしっかり食事をとった方が良いですよ?」「気にし過ぎだと思います。」など理解の無い言葉を何度も言われ続けると、誰でも嫌気がさし、治療や通院を止めてしまうこともあるのではないでしょうか。
見えてきた変化の兆し
このような状況にはあるものの、少しずつ良い変化も見られます。例えば昨年、ある企業が生理食塩水の代わりに血液を使った生理用品の商品テスト(※8)を開始しました。従来の生理用品開発プロセスでは、体液と浸透性を等しくした生理食塩水(水、塩、重炭酸塩の混合液)が血液の代わりに使用され商品の開発・検証が行われます。ところが実際には生理食塩水と血液とでは粘度や吸収速度が異なり、実際の吸収容量に違いが出てくるという問題がありました。血液は非常に貴重なため生理食塩水が使用されてきたわけですが、今回本物の血液を使用した商品テストがスタートしたことは、女性のヘルスケアにおいて非常に大きな進歩と言えます。また、子宮内膜症は細菌感染(※9)により引き起こされることも研究で分かってきており、今後抗菌薬での治療が可能になるかもしれないという研究発表もあります。そして今年、これは医療とは直接関係はありませんが、車の衝突実験用(※10)に女性の平均的な体型のダミー人形が使用されるようになりました。このような対応の変化は、実は女性にとって大きな意味を持つのです。イギリス政府(※11)もまた、女性を対象とした医療研究にフォーカスし始めており、今年初めにその旨を正式に表明しました。2020年代も半ばに差し掛かりましたが、ここからもより良い変化がもたらされることを心から願っています。
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執筆 A. Onisiphorou 翻訳・編集 K. Tanabe
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