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使用済み太陽光パネルの回収・リサイクル義務化の動き。負担は所有者? それともメーカー?

    

エコトピア

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町並みを歩くと、住宅や建物の屋根のあちこちで銀色に光る太陽光発電パネルが見えます。発電量は世界第3位。再生可能エネルギーの代名詞のような存在ですが、実は大変な問題が起きています。使用済みとなった太陽光パネルの廃棄・処分問題です。

2030年代後半には、廃棄される太陽光パネルは年間50~80万トンと予想され、リサイクルの動きも始まっていますが、技術を持つ業者はごく少数。多くは埋め立て処分されていますが、このままでは処分場が満杯になってしまいます。EU(欧州連合)ではかなり前から法律で回収・リサイクルが義務づけされ、メーカーが負担しています。日本も遅ればせながら、政府は、有識者の合同会議で検討を始めました。

日本ではエアコン、テレビなど4品目の家電製品のリサイクル費用を消費者が払っていますが、太陽光パネルも所有者が払うことになるのでしょうか。負担を嫌う人たちによる不法投棄の増加を心配する声も出ています。

ジャーナリスト 杉本裕明

政府が法律づくりに動き始めた

経済産業省と環境省は、太陽光パネルの回収・リサイクルの義務化に向け、9月、産業構造審議会と中央環境審議会に設けた両小委員会の合同会議の初会合を開いた。両省は共同で、来年春の通常国会に、新しい法案を提出する予定だ。最終処分業者にとっても重要な課題だ。

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2019年の台風19号で被災した長野市の太陽光パネル。持ち主は「どろだらけでもう使えない。感電で危険なので近寄れないんだ」と嘆いた
杉本裕明氏撮影、無断転用禁止

太陽光発電量は世界3位!

太陽光パネルの耐用年数は20~30年と言われる。再生可能エネルギーの中で、日本では太陽光発電が最も多い。2022年度の発電量は太陽光発電が926億kWh(キロワットアワー)。水力発電の768億kWh、バイオマス発電の372億kWh、風力発電の93億kWh、地熱発電の30億kWhに比べて最も多い。再生可能エネルギーの発電量は発電量全体の21.7%を占め、うち太陽光発電が半分の9.2%を占める。

EU諸国に比べて再生可能エネルギーの比率が少ないといわれる日本だが、太陽光発電量は中国、米国に続き世界で3番目に多い。世界に誇ってもよい数字だ。2011年度は48億kWhの発電量しかなかったから、約10年で20倍近くに増えたことになる。

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環境省ホームージより

FITの高額買い取りで発電量が急増

その原動力になったのが、2012年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)だ。電力会社が発電者から定められた料金で強制的に買い取ることが法律で義務づけられた。当初の買い取り価格が1kWh当たり40円で、10kWh未満は10年間、10kWh以上は20年間その価格が維持されるという、破格の優遇策が適用された。

そして太陽光パネルを設置していない電気の消費者も含め一律に再エネ賦課金を徴収し、電力会社の再エネの購入費や再エネ施設への補助金に使う施策をとった。太陽光の発電業者にとってあまりに有利な条件だったことから、中国をはじめ、世界中から投資マネーが流入し、急速に導入が進んだ。筆者が知る太陽光発電業者はFITについて「kWh30円なら10年でも充分もうかるのに、40円で20年継続。ありえない破格の好待遇だった」と話した。

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現在、買い取り価格は10~16円に下がっているが、発電量が飛躍的に増えたため、賦課金は増える一方だ。2024年度は1kWh当たり3.49円の賦課金を電気の消費者・国民が負担する。太陽光発電は世界3位になり、大きく普及し、普及を目的とするFITの目的を達成している。 EUや中国はFITを廃止しているが、日本では賦課金がさらに急上昇する見込みだ。今年度は月400キロワット時を使う標準家庭で4月から月平均で836円負担が増える勘定だ。

再生可能エネルギーの買い取り費用は4兆8,172億円。再エネの販売収入に当たる回避可能費用は2兆1,322億円あり、その分を引いた国民負担分の賦課金は、2兆6,850億円となる。

立ち後れた廃棄後の処理体制

一方、太陽光パネルが使用済みとなった時の問題点は当初から予想されていた。パネルが増えれば増えるほど、廃棄物が増える。パネルには鉛、カドミウム、ヒ素、セレンが含まれている。ガラスやプラスチック、アルミニウムなどに選別し、リサイクルする必要がある。環境省の試算では2030年代後半には年50~80万トンが廃棄されると予想されている(9月の合同会合に提出された両省が連名で出した使用)。

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環境省ホームージより

これまではメーカーや設置者に回収・リサイクルの義務がないことから、所有者が専門業者に処理を委託、破砕されたあと大半が埋め立てて処分されてきた。アルミなどの一部を除き、大半が埋め立てて処分され、含有する有害物質も持ち込まれていた。

行政指導も限界に来た

もちろん、国は何もしなかったわけではなかった。経済産業省と環境省は、業者に補助金を出し、分離・リサイクルの技術開発を進めてきたが、技術力を持つ業者は全国に1万ある産業廃棄物の中間処理業者のまだ一握りにすぎない。それでも、パネルの重さの半分以上になるガラスは不純物が多いため、建材用の断熱材や道路の路盤材など、用途が限られている。

環境省は適正処理とリサイクルを進めるために業者向けのガイドラインを作成した。自治体も条例で適正処理等を求めたが、いずれも行政指導の限界があった。

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環境省ホームージより

リサイクルに取り組む業者のデータでも回収量の6分の1が埋め立てに

ところで2022年に環境省が中間処理業者のうち回答のあった41社のデータをまとめたものによると、廃棄物の3割を不良品と災害が占めた。回収した2割はリユース、残りの8割が中間処理に回った。うち5割がリサイクルされたという。ガラスの分離・回収が多く、2304トン(パネル11万5000枚)のうち、1828トン(9.3万トン)が中間処理に回り、1247トン(6万4000枚)がリサイクルされた。またリサイクルに回らない単純破砕が101トン(5000枚)、熱回収(焼却のこと)が480トン(2万4000枚)。最終処分が402トンだった。

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環境省ホームージより

これは、リサイクルできる業者に限った数字なので、実際のリサイクル率はもっと低いと思われる。そこで経産省と環境省はこのままでは、まもなく使用済みの太陽光パネルが数十万トンレベルに達し、最終処分場が逼迫し、不法投棄の懸念が高まると考えた。

それを防ぐには法律で太陽光パネルの回収とリサイクルをメーカーまたは所有者に義務づけるしかない。そして円滑に行うためには分離・リサイクル技術を開発し、リサイクルできる体制を整えることが必要だ。

9月から両省の審議会の小委員会の合同会議はそのための法制度の在り方を検討する。環境省の官僚は「回収・リサイクルのための法制化の必要性はかなり前からわかっていた。しかし、経産省との調整がつかず遅れた。EUは10年以上前から法律で義務づけされており、立ち後れていた。

しかし、大量廃棄問題が目の前に迫り、先延ばしができなくなった。家電リサイクル法では、使用済み家電の購入者がリサイクル券を購入し、リサイクル費用に充てられている。太陽光パネルも、リサイクルの費用を負担するかが大きな議論になるだろう」と語る。参考になるのがEUだ。

EUは10年以上前にリサイクルを義務づけ

EUは、2012年8月にEU指令によって各国による仕組みの整備を求めた。これは欧州運輸・通信・エネルギー理事会の大臣会議で、電子機器などの廃棄物発生量を抑制するため太陽光パネルのリサイクルを義務づけることを決めた。加盟国ごとに国内法を整備している。これを受け、2014年1月にイギリス、2015年10月にはドイツが法制化し、さらにオランダ、ブルガリア、ルクセンブルクなどが続いた。

ドイツでは、パネルが40枚未満の住宅用では、自治体に設置された回収ポイントへの輸送は所有者が行い、その後の処理はPV CYCLEという団体が行う。40枚以上の住宅用と非住宅用のパネルは、解体と撤去までは所有者が行い、輸送以降の処理はPV CYCLEが処理業者に委託する。その費用はPV CYCLEの会員企業(製造業者等)の会費からあてる。

ドイツのPV CYCLEは、欧州太陽光発電協会(EPIA)、ドイツソーラー産業協会(BSW)、太陽電池モジュールメーカー6社が2007年に太陽光パネルの自主的な回収・リサイクル・適正処分を目的に設立した非営利団体。PV CYCLEに、欧州を市場とする太陽光パネルのメーカーの90%以上が加盟している。ドイツでは、太陽光パネルの生産者が第三者機関に処理を委託することができる。

EU司法裁判所の明確な判断

こうした動きに、日本の経産省は指針づくりに動いた。これがガイドラインの策定につながるが、EUと違い、事業者の自主的な取り組みを重視し、回収・リサイクルの義務づけの動きに結びつかず、立ち後れることになる。

廃棄物処理法を所管する環境省は、最終処分場の延命化と有害物質の汚染防止、不法投棄防止の観点から、法制化を視野に入れていたが、経産省の同意取り付けが難しく、実態調査や課題摘出にとどまっていた。

ところでEUも問題がすべて解決したわけではなかった。2012年のEU指令に対する各国の対応には濃淡があった。チェコで太陽光の発電施設を運営するVW社が、EU指令で生産者が払うとされている処理費用を払わされているのはおかしいと異議を唱え、国を訴えた。

チェコ地方裁判所は、VW社の主張を全面的に認めたが、環境省がチェコ最高裁判所に上訴した。最高裁は2012年のEU指令の解釈と有効性について、EU法裁判所に予備判決を求めていた。その判決が2022年1月に出た。裁判所は2005年8月から2012年8月までに市場に出回っていた非住宅用の太陽光パネルについて、生産者に回収義務はないとし、EU法を部分的に違法とした。

そして2012年8月以降に市場に出た太陽光パネルの廃棄処理は非住宅用も住宅用も生産者の負担とし、2018年以降EU市場に出た電気・電子機器について、生産者は廃棄物の管理・処理の責任を負うとした。これに基づきEU委員会は、2024年3月、2012年の廃電気電子機器指令を一部改正する指令を出し、2025年10月までに加盟国の国内法に反映するよう求めた。

ちなみにリサイクルの義務づけは、EU諸国にとどまらず、アメリカでは州ごとに義務づけが行われ、韓国は2023年から回収・リサイクルのための負担金制度が施行され、日本は待ったなしの状況になっている。

日本は待ったなしの状況に

司法裁判所の判決が出た頃、日本の環境省は、建設リサイクル法を改正し、太陽光パネルを回収義務づけの品目に追加し、解体業者などに再資源化をさせられないかと検討を始めた。裁判の結果に触発されたのかもしれない。

しかし、国土交通省が同法の主務官庁。結局、国交省が抵抗したのか、この構想はさたやみとなる。「何度か制度のありかたを検討してきたが、先送りが続いていた」と関係者は語る。10kWh以上の発電事業者に適正処分させるため、経産省は2022年、再生可能エネルギー特別措置法を改正し、設置者に処分費用の積み立てを義務づけた。

資源エネルギー庁の2019年の調査で、太陽光パネルの廃棄費用を積み立てている発電事業者が16%しかなかったことがわかったからだ。放置すれば不法投棄や不適正処理が増えるに違いなかった。

さらに、経産省は、2022年4月、環境省と合同で、太陽光パネルの抱える問題と解決方法を整理する検討会を設置し、翌年5月に提言書をまとめた。ただ、ここでは開発許可など網羅的な論点が整理されており、使用済みパネルの法制化には言及していない。今回の合同会議は使用済み太陽光パネルの回収・リサイクルの在り方をメーンにすえて、仕組みと法制化を提案することになる。すでに両省の間では来年春の時期通常国会に提案することで合意しているようだ。

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環境省ホームージより

費用負担は誰が行うのか

環境省によると、「回収・リサイクルを義務付けることで、最終処分場の受け入れ容量の圧迫を緩和させると同時に、資源循環を進めることができる」という。9月に始まった合同会議では、義務付けの対象範囲や、リサイクルの費用を誰が負担するのかといったことが審議される。リサイクルしなかったり、使用済みの太陽光パネルを放置したりした場合の発電事業者の罰則も検討する。

ピークとなる50~80万トンは家電リサイクル法の家電4品目の約50万トンを凌駕し、リサイクルの体制づくりは急務だ。既存のリサイクルに関する法律は自動車や家電、小型家電を対象とし、車は所有者が車の購入時にリサイクル料金を支払い、自動車メーカーはフロン、エアバッグを引き取り、リサイクルする。エアコンやテレビなどの家電は、所有者が廃棄時にリサイクル券を購入し、リサイクル費用を負担する。

太陽光パネルの場合、ドイツでは生産者が大半の費用を払う仕組みになっているが、日本の家電リサイクル法の仕組みにならうと、生産者はパネルの販売価格にリサイクル費用を含めず、廃棄時に所有者に支払わせることになるため、生産者責任が弱いとの批判がかねがねある。

一方で、生産者に費用負担を求めるにしても、日本で普及する太陽光パネルの多くは中国製。生産者責任を明確化するためには、海外のメーカーのただ乗りを許さないことが必要となりそうだ。

リサイクルできる中間処理業者や解体業者を増やせ

一方、リサイクルの義務化には課題も多い。環境省によると、太陽光パネルが増えれば処理施設が足りなくなる。経産省と環境省はリサイクル施設を増やそうとしているが、技術力があり対応できる業者は一握りにすぎない。このままリサイクルを義務づけると、費用負担が増え、不法投棄を誘発する恐れがある。

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長野県辰野町で条例に違反して設置された太陽光パネル。全国でこうしたトラブルが起き、使用済みの太陽光パネルが撤去されず、放置される事例が相次いでいる
辰野町提供

ちなみにJPEA(太陽光発電協会)は、リサイクルできる全国の産業廃棄物中間処理業者35社の一覧を公表している。

元記事はこちら

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