「気に入った服が、たまたま環境に優しかった。」サステナブルファッションが広がるためのアプローチ
目次
- ウルトラファストファッションの人気とその裏に潜む課題
⚪︎Z世代の「ごめんね消費」が示す現代の消費行動
- Z世代が注目、環境に優しいサステナブルファッション
⚪︎サステナブルファッションの広がりとZ世代の関心
⚪︎サステナブルファッションのイメージは「価格が高い」 - サステナブルファッションのプロデュースに挑戦しているZ世代起業家
⚪︎サステナブルファッションに挑戦するZ世代
⚪︎社会問題を知るきっかけとなるサステナブルファションブランド
⚪︎サステナブルファッションが広がるためには、価値を知ってもらうことと押し付けないことが重要 - まとめ
<調査概要>
調査主体 :デカボLab(Earth hacks株式会社、LINEヤフー株式会社、株式会社seamint.が共同で設立した研究機関)
調査方法 :LINEリサーチ プラットフォーム利用による調査
調査対象者 :東京大阪在住の18〜27歳
有効回答数 :300名
調査期間 :2024年7月12日〜7月16日
その他、座談会を開催し、Z世代3名から意見を収集
なお、今回の調査では1996年生まれから2006年生まれのZ世代を対象として実施しました。
環境意識が高まる中で、Z世代もファッション選びにおいてさまざまな葛藤を抱えています。安価でデザイン豊富なウルトラファストファッションが人気を集める一方、環境や労働問題への影響が懸念される現実もあります。
また、サステナブルファッションに対する関心も高まっていますが、価格やデザイン面でのハードルが高いと感じるZ世代も少なくありません。
本記事では、Z世代の消費行動やサステナブルファッションに対する意識、さらに新たなアプローチを試みるZ世代起業家の取り組みを深掘りしていきます。
ウルトラファストファッションの人気とその裏に潜む課題
Z世代の「ごめんね消費」が示す現代の消費行動
デカボLabの調査により、環境に悪いと知りながらも購入してしまう「ごめんね消費」の実態が浮き彫りになりました。
Z世代の52.3%が「ごめんね消費」を経験している一方で、24.8%は実際に購入を控える選択をしています。
座談会では、購入を控えている人たちの共通点として「知人や友人からウルトラファストファッションの環境への悪影響を聞くと、購入をためらうようになる」という意見も出ました。また、「環境への悪影響は意識しているものの、価格が手頃でデザインも豊富なため、『ごめんね』と思いつつ購入してしまう」という声があがりました。
それでは、ウルトラファストファッションを購入しない24.8%のZ世代は、どのような商品を選んでいるのでしょうか?
Z世代が抱える罪悪感「ごめんね消費」の実態はこちら
Z世代が注目、環境に優しいサステナブルファッション
サステナブルファッションの広がりとZ世代の関心
環境問題が注目される中、ファッション業界でも環境に配慮したサステナブルファッションを展開するブランドが増えてきています。
サステナブルファッションとは、製造から廃棄に至るまでのすべてのプロセスで環境への負荷を最小限に抑え、社会的な公正を追求することを目指したブランドです。これにより、環境保護やSDGs(持続可能な開発目標)への配慮が明確にされています。
調査によると、Z世代のうち約3人に1人がサステナブルファッションを知っていると回答しました。サステナブルファッションを知っていると回答した人のうち、半数以上は実際に購入経験があるそうです。
その中でも、Z世代はグローバルな大手ブランドによるサステナブルな取り組みについての認知度が高いようです。一方で、新興ブランドや中小規模のブランドによるサステナブルファッションの取り組みは、まだ一部の層に限られていることがわかっています。これらのブランドは、特に環境に配慮した製品づくりや持続可能な素材の使用を強調していますが、認知度を高めるにはさらなる普及が必要とされています。
サステナブルファッションのイメージは「価格が高い」
Z世代に「サステナブルファッションにどんなイメージを持っていますか」と質問したところ、「環境に優しい」「背景や環境への配慮に共感できる」といったポジティブな意見が寄せられました。一方で、「価格が高い」「意識の高い人が着るもの」「デザインがオシャレではない」といったネガティブな意見を持つZ世代がいることもわかりました。
また、Z世代を対象に行った座談会では、次のようなイメージが挙げられました。
- サステナブルなアウトドアブランドの服を着ている人は、本当に自然を大事にしている人が多いイメージがある。
- 以前はサステナブルブランドにはシンプルなデザインが多いという印象だったが、最近ではさまざまなデザインのブランドも増えてきた。
- ヒラヒラした可愛いデザインの服を買いたいが、サステナブルブランドにはシンプルなデザインの服しかない印象がある。
- シンプルな服であれば、他の大手ブランドの方が十分だと感じる。
- デザインがオシャレでないため、価格に見合う価値を感じられない。
このように、Z世代の中にはサステナブルファッションが環境に良いと理解している一方で、コストパフォーマンスやデザインの面で手を出しにくいと感じている人がいることがわかります。
サステナブルファッションのプロデュースに挑戦しているZ世代起業家
サステナブルファッションに挑戦するZ世代
環境に配慮したサステナブルファッションに興味はあっても、Z世代にとっては価格やデザインの好みといった理由から、なかなか手を出しにくいのが現状です。
そんな中、デカボLabの仲間にもサステナブルファッションに挑戦しているZ世代の起業家がいます。サステナブルファッションブランドを立ち上げた北村さんは、「社会問題に触れるきっかけの場を作りたい」という思いで事業をスタートさせました。今回は、彼女にその思いと取り組みについて話を伺いました。
アパレルブランドecmile. ディレクター 北村風優
在学中にファッション業界の社会課題に取り組む学生団体「MGCloset」で活動し、明治学院大学ボランティアチャレンジ大賞を受賞。アパレルブランドで販売員から副店長、本部EC運用担当を経て、2023年10月に自社ブランド「ecmile.」を立ち上げる。ファストファッション問題や大量廃棄問題をテーマにキャリアを築き、2022年にはエシカルファッションと地域創生を組み合わせた「PLA COLLECTION」ファッションショーを開催。同年、渋谷QWS Challengeに採択。
社会問題を知るきっかけとなるサステナブルファションブランド
── 北村さんが起業されたサステナブルファッションブランドについて教えてください。
環境負荷を抑えつつ、フェミニンで女性らしい、他にはない唯一無二のデザインを提供するサステナブルファッションブランドを展開しています。従来のサステナブルブランドと比べ、手の届きやすい価格帯を実現し、デザイン性にも優れたアイテムを揃えています。
ブランド名の「ecmile.」は、カモミール(花言葉:逆境で生まれる力)とフランス語の「declic(きっかけ)」を組み合わせたもので、消費者が社会問題を知り、ファッションを楽しむきっかけを提供する場にしたいという思いが込められています。
── Z世代起業家として、サステナブルファッションブランドをつくりあげた北村さんですが、どのような思いから起業されたのですか?
ファッション業界に身を置く中で、ウルトラファストファッションが環境や労働条件に与える影響を目の当たりにし、何かできることがないかと考えるようになりました。Z世代は環境問題や社会的課題に敏感で、彼らが共感できる新しいファッションの選択肢を提供したいと考え、サステナブルファッションブランドを立ち上げました。
── サステナブルファッションが世間でどのように捉えられていると感じますか?
サステナブルファッションは「価格が高い」「特別な人が着るもの」というイメージを強く持たれていると感じています。高価なサステナブルファッションを選ぶ人の中には、そのデザインや機能性以上に、「サステナブルであること」に対価を払っていると感じる人も多く、私自身、アパレル販売員時代に「環境にやさしい系」と呼ばれた経験があります。
一方で、Z世代などの若者の中には、募金感覚で購入するほどの金銭的余裕がない人も少なくありません。そもそもファッションはおしゃれを楽しむものであり、環境のために行うものではないという認識を持っている人が多いのが実情です。
しかし、「デザインが気に入って購入した服が、たまたまサステナブルだった」という状況を作り出すことができれば、環境にも配慮しつつ、消費者が自然にサステナブルな選択をする機会が増えるのではないかと考えました。
そこで、環境配慮をあえて前面に押し出さずにファッションそのもののデザインや価格にこだわり、特別ではなく当たり前の選択肢として浸透させるためのブランドを立ち上げました。
サステナブルファッションが広がるためには、価値を知ってもらうことと押し付けないことが重要
── ウルトラファストファッションが人気な中で、サステナブルファッションが広まっていくために必要なことはなんだと思いますか?
サステナブルファッションが広がるためには、まずその「価値」を知ってもらうことが大切です。実際に手に取って、価格やデザインに納得できる体験をしてもらうことが必要です。
環境への配慮を押し付けず、自然と生活に取り入れられるようなものをつくりあげていくことが大切だと思います。
── サステナブルファッションがより自然に世の中に浸透していくために工夫していることはありますか?
私たちは、サステナブルファッションであることを強調しすぎず、消費者に壁を作らないように意識しています。環境への配慮を前面に出さず、自然に手に取ってもらえるアプローチを大切にしています。
また、ウルトラファストファッションを好む層でも「これなら買いたい」と思ってもらえるよう、デザインや価格にこだわり、誰にとっても手軽に選べる製品を提供しています。
── 実際に購入した方の中で、いただいたお声などはありますか?
実際に購入された方からは、「大人可愛い世界観が魅力的」というご意見や、環境に配慮している点に対して好意的なフィードバックをいただいています。また、大学でサステナブルファッションを研究している方からも連絡をいただくことがあり、若い世代が興味を持ってくれることにとても嬉しく感じています。
さらに、タグにもこだわりを持っており、土に植えると花が咲く特別な紙を使用しています。これは、ファッションを楽しむだけでなく、自然に環境にも配慮できるようなワクワクする体験を提供したいという思いからです。
ecmile.のコンセプトは"大人甘"ですが、それに加えて「お洋服を買うことで少しでも社会を良くできたら」というエシカルな考えを大切にしています。環境問題や労働条件など、ファッション業界が抱える課題を少しでも解決するために、誰も傷つけない、正しい過程で作られたオリジナルの洋服を展開しています。
私たちは、サステナブルな選択が特別ではなく、自然に楽しめるような世界を少しずつ広げていきたいと考えています。
まとめ
・Z世代の4人に3人が手に取る"ウルトラファストファッション"
ウルトラファストファッションは、安価でデザインが豊富なため、若者に広く支持されています。しかし、大量生産や環境への悪影響、劣悪な労働環境が問題視されています。
また、約半数のZ世代が、環境への悪影響を認識しながらもウルトラファストファッションを購入しています。
・環境に優しいサステナブルファッションは、Z世代も注目
Z世代の約3人に1人がサステナブルファッションを認知しています。
グローバルブランドの認知度は高い一方、中小ブランドの認知度はまだ低いのが現状です。
・サステナブルファッションのイメージは「価格が高い」
Z世代はサステナブルファッションを「環境に優しい」と認識していますが、価格やデザインに対するハードルを感じています。
座談会では「高価であり、オシャレさに欠ける」といったネガティブな意見も聞かれました。
・Z世代起業家が挑戦するサステナブルファッション
北村さんは、「社会問題に触れるきっかけの場」を提供するため、サステナブルファッションブランド「ecmile.」を立ち上げました。
環境配慮を強調せず、日常に溶け込むデザインと手頃な価格を重視しています。
サステナブルファッションが広がるためには、価値を知ってもらうことと押し付けないことが重要
サステナブルファッションが広がるためには、消費者にその価値を理解してもらい、納得できる価格とデザインを提供することが大切です。
環境配慮を押し付けるのではなく、自然に生活に取り入れられるような提案が求められています。
Z世代とサステナブルな未来をつなぐ「デカボLab」
デカボLabは、Z世代の生活者に焦点を当て、彼らのサステナブルな取り組みや行動、トレンドに関する深いインサイトを提供する情報発信のプラットフォームです。
私たちは、Z世代が持続可能な未来に向けて、実際にアクションを起こすためのきっかけを提供し、彼らが楽しく取り組めるような内容を発信していきます。
リサーチャーからのコメント
Z世代のサステナブルに関するインサイト・ ⾏動・トレンドをリサーチするために、リアルなZ世代の動向を把握する多様なリサーチャーをテーマ毎に迎え、定性・定量の観点から研究活動を展開します。
今回のリサーチ結果について、リサーチャーからのコメントを掲載します。
デカボLab所長 seamint.CEO 朝比奈ひかり
サステナブルファッションは、白いTシャツのようなシンプルなデザインを思い浮かべるZ世代が多くいることも取材でわかりました。「オシャレじゃない」というイメージも多い中で、北村さんのブランドのように「デザインが気に入って購入した服が、実はサステナブルだった」という自然な選択があることで、これからのZ世代の消費行動にポジティブな変化をもたらすと思います。
Earth hacks プランナー 赤峰沙枝
ウルトラファストファッションは、Z世代にとって身近であり、SNSでも頻繁に紹介されているため、好んで利用しているように思われがちです。しかし、実際には環境への悪影響を認識しながらも、購入してしまう現状がリサーチによって明らかになりました。Z世代は可処分所得が少ない世代であり、物価上昇が続く中では、どうしても安価な商品に手が伸びやすいという現実があります。一方で、価格が高めであったり、デザインやブランドの選択肢が限られているサステナブルファッションを、どのように普及させるかについては、今後さらに検討していく必要があると感じました。
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