人類が手に入れた新世界!? メタバースが埋める経済格差と環境格差
近年、メタバース(仮想空間)がさまざまな業界で注目を集めている。企業は今後、メタバースをどのように事業に取り入れられるのか。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、そしてメタバースの開発を手がける、株式会社インフィニットループの小池翔太さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。
"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人
小池 翔太さん
株式会社インフィニットループマネージャー。スマホゲームやブラウザゲームなど複数のプロジェクトを経験後、xR事業部のマネージャーに。お客様の要件を満たすべく、各プロジェクトを横断しながら円滑に進行する役割を担っている。主責務は新規事業立ち上げや長期プロジェクトの改善、組織構築・運用など。
それぞれの立場から描く、メタバースの未来像
国内外で、メタバースが盛り上がりを見せている。2021年にはSNS大手の米フェイスブックが社名を「Meta(メタ)」に変更し、大きな話題になったことは、記憶に新しいだろう。ゲームやWebアプリ、メタバース開発などを手がけるインフィニットループの小池さんは、こうした機運の高まりや日本の現状についてこう話す。
「弊社はメタバース事業を2018年ごろから展開しているのですが、最近は企業研修などの教育用途で利用ができないか、というご相談が多くなってきています。先日もVRやAR技術を紹介する大規模な展示会で、メタバースを使った安全教育訓練サービスのデモを行ったところ、特に製造業の皆さんからたくさんお声がけいただきました」
しかし、メタバースに関する相談や開発の依頼が増えている一方で、今回のVOICEのように、その具体的な活用方法までは検討できていない場合が多いという。
「メタバースやVRなど、新しい技術に注目が集まっていることには間違いありません。ですが、それらをどのように活用するかまでを考えられている企業は、現段階ではとても少ないと思います。メタバースという単語は聞いたことがあり、ポテンシャルも高そうだけれど、どこにどういった利点があるのかわからない、という声が多いですね」
そもそもメタバースとは、「超(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を合わせた造語であり、一般的には三次元の仮想空間のことやサービスを示す。だが、この定義自体もまだ共通認識になっていないというのが、小池さんの見解だ。
「メタバースは新しい概念であるため、定義については、正直なところ明言するのが難しいと思います。それぞれが定義を探っている段階で、企業ごとに思い描くメタバース像があるのかなと。我々インフィニットループの場合は、場所を超えて人やモノをつなげ、新たにコミュニケーションを生み、これまでのリアルな世界ではできなかったことに挑戦できるようになるのが、メタバースという空間だと捉えています」
ビジネスから教育まで。さまざまな場面での活用が可能に
こうしたメタバース像の実現に向けて開発を進めているインフィニットループでは、手軽にバーチャルキャラクターになりきって、仮想空間の中でコミュニケーションをとれる「バーチャルキャスト」や、専用アプリを通じて、購入を検討している自動車の状態を詳細にチェックできる「カートル」など、関連会社とともにさまざまなサービスを提供している。
「たとえば自動車を買う時、今はウェブサイトやカタログを見て、ディーラーに行って、試乗をしてから購入するのが一般的ですよね。ですが仮想空間内では、二次元では掴み切れなかった車体の大きさを目の前に見たり、実際にドアを開けてみたり、色をその場で変えてみたりということが可能になります。数千台を使ってテストをしたところ、カートルを使うことで、自動車の在庫期間が20%減り、商談までの期間も17%減るというデータが出ました」
ほかにも同社では、他社と協業し、メタバースを活用できる分野の開拓を進めている。その一例として、私立の通信制高校であるN高には、VRやメタバースを使った学習プラットフォームを提供。この取り組みは、100か国・20万人以上の教師や学校などが活動に賛同し、UNESCO(国連教育科学文化機関)やUNICEF(国際連合児童基金)、OECD(経済協力開発機構)などの国際機関が活動を支援しているイギリスの教育支援団体が主催する世界最高の学校賞の革新部門において、日本で唯一トップ10に選出された実績をもつ。
「生徒がVR機器を装着して学習空間にワープすると、360度の視覚と聴覚を使って、深い学びを得ることができます。たとえば、数学の授業の時は目の前に立方体を出したり、化学の実験では薬品を混ぜてわざと爆発させたりと、メタバース内では、安全な環境下にありながら色々な挑戦をして学ぶことができるんです」
現実世界にある、環境格差や経済格差を埋める
先進的な技術をもち、それらを事業に生かしているインフィニットループだが、メタバースの開発当初は、社内の部活動が中心になってプロジェクトを動かしていたと小池さんは振り返る。
「弊社は創業以来、ゲーム開発を主力の事業にしていました。そのなかで2016年ごろにVRを使ったゲームが登場した際、ある社員がその技術に大変興味を示し、社内にVR部を発足させたんです。すると有志の部員たちが時間外に集まるようになり、VRやメタバースを使うと何ができるのかを、いわば趣味的に色々と試していきました」
部活動での取り組みやその成果は、徐々に社内で注目を集めるように。その後2018年には、本格的に開発を進めるべく、メタバースに特化した事業を立ち上げた。今では、他社向けのサービス開発だけでなく、面接やインターン、そして新人研修など、自社内でもメタバースを積極的に活用している。
「面接や研修がバーチャルで行われると、ただのアバター同士として話ができますので、礼儀やマナーに気を取られ過ぎずに、相手が話す内容に集中しやすいように感じています」
このように、従来リアルで行っていたものを次々とメタバース内で実現させているインフィニットループは、今後もメタバースの可能性を様々な面から探るべく、研究開発を進めている。
「私たちは、メタバースを人類が手に入れた新世界だと捉えています。そこでは、現実ではできなかったような挑戦ができる。たとえば、これまでなんらかの制限や障がいなどがあって自由に体を動かせなかった人が、自由に活動することも可能になりますよね。これは現実世界にある人々の環境格差や経済格差を埋められるかもしれないということ。今はまだ、メタバースに必要なVR機器は十分には普及していませんが、メタバースの楽しさや可能性がより広く知られるようになれば、今後は一家に一台、もしかするとそれ以上の台数を持つことが当たり前になるのではないでしょうか」
メタバースの定義や活用方法がまだ確立されていないからこそ、より自由で柔軟な発想をもとに、未来をつくることができる。そんな前提を持ってメタバースと向き合うと、新たなアイデアや、現実世界にある課題の解決方法が見えてくるのかもしれない。
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三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」
「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。