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女性だけが背負う避妊の負担|男性用避妊薬が普及しない理由

    

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1950年代半ば、ホルモン避妊薬である「ピル」の臨床試験がプエルトリコで行われました。ホルモン避妊薬とは、女性のホルモンバランスを調整することで妊娠を回避する薬です。避妊のために、女性は経口避妊薬であるピルを毎日服用する必要があります。当時のプエルトリコは、避妊に関する法律規制がアメリカより緩かったため、アメリカの生物学者であるグレゴリー・ピンカス博士により臨床試験が実施され、避妊を希望するプエルトリコの貧しい女性たちが被験者となりました。初期に作られたピルは、今と違い多量のホルモンを含有しており、服用リスクが高い薬(※1)でした。臨床試験中、被験者である女性たちは体に痛みを発症しましたが、ピルの避妊効果が100%であると証明されたことがより重要視され、痛みに関する訴えは取り上げられませんでした。アメリカ国内で、食品や医薬品などの安全性や有効性を規制・監督するFDA(アメリカ食品医薬品局)は、それからまもなく女性用避妊ピルの流通を承認しました。その一方で、安全性の高い男性用の避妊薬の研究開発は遅れ製品化すらされていない現状を、私たちはどう捉えるべきでしょうか。

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マーガレット・サンガーによるドキュメンタリー映画「バースコントロール」の雑誌広告
B.S. Moss Motion Picture Corporation / Message Photo-Play Co.,Public domain, via Wikimedia Commons

女性に強要される責任、男性に課せられぬ責任

とはいえ男性も、自身による避妊行為を望まないわけではありません。事実、2000年代初頭の調査では、男性の83%は避妊薬を使用する意思がある(※2)ことが分かりました。そして2011年には注射による男性用ホルモン避妊薬の開発が進んでいましたが、一部の被験者に女性と同じような鬱症状などの重大な副作用(※3)が確認されたことをきっかけに、研究は中止となりました。さらに試験終了時、約4分の3の男性被験者は薬の継続使用を希望し、避妊の責任を女性と分担しようと前向きだったにも関わらず、研究が再開することも製品化も実現しませんでした。その後も、安全で使いやすい男性用避妊薬の開発計画は何度もありましたが、製薬会社の中では優先度が低く資金も充てられず(※4)、どの研究も頓挫したままです。

本来妊娠や避妊は、男性と女性と双方に同等の責任があるはずです。ところがホルモン避妊薬の副作用や望まない妊娠のリスクは、女性だけに降りかかります(※5)。ニキビ程度のものから気分の浮き沈み、血栓や心血管系のリスクまで、ホルモン避妊薬が女性のQOL(Quality of Life:生活の質)に与える大きな影響は計りしれません。

全ての女性に影響を及ぼす生殖医療

筆者はこれまで、様々な年齢、結婚歴や配偶者の有無、身体の状態、人種など、多くの異なる経歴を持つ女性たちに避妊方法について話を聞いてきました。驚くことに、その女性たち全員が、ホルモン避妊薬を服用したことで一度は辛い経験をしていることが分かりました。筆者自身、ニキビ治療やホルモン疾患でピルを服用していた頃は、これまでで一番苦しい時期だったと強く感じています。

現代医療の発展により、今ではダイアフラムという「柔らかいシリコンでできたカップを腟内に挿入し子宮頸部を覆うことで避妊する器具」や子宮経管キャップ、銅製IUD(子宮内避妊具)など、ホルモン治療に頼らずとも他に複数の選択肢があります。しかし、女性が本当に自分に合う避妊方法や器具を見つけるには、多くの時間と費用が掛かります(※6)。副作用が少なく長期間使用可能な避妊器具や避妊法に出会うまで、数カ月、時には数年かかる女性もいるのです。

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Ryan Somma,CC BY-SA 2.0,via Wikimedia Commons

「男性=標準的な人間」として研究が進む医療界

これまでの医療では、治療法や薬の開発において「男性」を人体の基準と位置づけ研究が行われてきた経緯があります。その影響で、女性の性や生殖に関わる健康は、依然として十分な研究がなされていない(※7)のが現状です。女性は長きにわたり医療の現場で軽視され(※8)、またその痛みも軽んじられてきました。避妊薬が初めて作られてから約50年が経ちますが、女性の痛みは今でも見過ごされたままです。

女性用避妊薬の登場により、女性側に生殖に関する自主的な意思が尊重されたことは間違いありません。しかしこれからは、男性女性の双方が使いやすく、双方に安全な避妊方法を選択する時代です。性と生殖に関する医療の発展、進歩を、さらに加速させる時が来ています。

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2022年5月、ワシントンDCで行われた中絶権利を支持するデモ
Elvert Barnes,CC BY-SA 2.0,via Wikimedia Commons
  • 執筆 M. Chaza   翻訳・編集 K. Tanabe

元記事はこちら
オリジナル英語版はこちら

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