「貧しい」から抜け出したい! 円安・物価高時代に必須なお金との付き合い方
昨年から続く極端な円安。日常生活に必要なモノが値上がりしていることで、その影響を肌で感じる人も多いだろう。なぜこのような円安が訪れ、物価高が生じているのか。その基本的な理解とこれから持つべきお金への意識を、元日本経済新聞記者で経済コラムニスト・YouTuberの高井宏章さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。
"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人
高井 宏章さん
1995年に日本経済新聞社に入社し、マーケットや資産運用などを担当。編集委員を務めたほか、電子版の動画解説でも親しまれた。2023年6月に退社した後は、経済コラムニスト、YouTuberとして幅広く活動。著書の『おカネの教室』(高井浩章名義)は10万部超のロングセラー。
生活に貧しさを感じさせる円安
「2022年の初めに1ドル110~120円程度だった円相場は、同年10月には151円と32年ぶりの低水準を記録。現在まで140~150円で推移し、『歴史的』ともいわれる円安が続いています。と、普段ならこのような経済ニュースにピンとこない人も、今回の円安は『ヤバい?』と実感していますよね。値上げという形で、自分の財布に直接影響しているわけですから」
元日経新聞編集委員で経済コラムニスト・YouTuberなどとして活動する高井宏章さんは、VOICEに込められた気持ちを汲み取った上で、現在の円安の異質さを説明してくれた。
「私たちは普段、基軸通貨であるドルと円の価値を比較して、『円安・円高』と言っています。なので、対ドルで円安だとしても、ほかの主要通貨と比べればそれほど安くはないこともあるわけですが、今はあらゆる通貨の中で、円の値段だけが際立って低くなっています」
このような状況が生じた理由は、日銀と各国の中央銀行とが、金利について真逆の政策をとっているためだという。
「コロナ禍からの経済回復や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、世界的な物価高となったことを受けて、アメリカをはじめとする各国の中央銀行は昨年3月以降、利上げによる金融引き締めに転じました。一方で日銀は、かねてからの利下げによる金融緩和の方針を続けたため、各国と日本の間の金利差が拡大したんです。すると、お金は金利が高い海外へと流れ、需要の低下した円の値段は安くなってしまう。それが今回の円安の基本的な構造です」
高井さんはさらに、円安が日常生活に与えている影響について、次のように解説を続ける。
「世界的な物価高だったところに始まったのが、この極端な円安。輸入をすることは海外で買い物をすることと同じですから、日常生活に必要なモノの多くを海外産に頼る日本では、日々を暮らすための負担がどんどん大きくなっています。物価が高くなったとしても、賃金が上がっていれば大きな問題はなかったのですが、日本の賃金はこの20年間、ずっと横ばいのまま。このような要因によって、進行すればするほどに多くの国民が貧しくなっていく点が、今回の円安の『ヤバい』ところだと思います」
資産の分散は新たな常識に
金利の差が円安の要因ならば、日銀もすぐに金利を他国並みにすればよかったのではないかと考えてしまうが、そう簡単な話ではないのだと、高井さんは話す。
「日銀は、物価下落と円高で停滞した経済を刺激するため、2013年の黒田東彦前総裁の就任以降10年にわたり、金融緩和のアクセルを『ベタ踏み』してきたんです。たとえば通常、各国の中央銀行が操作する金利は、極めて短い貸し借りについてだけなのですが、日銀は長期金利についても、1%より低くなるようコントロールしてきました。また、一定額を超える日銀への預金にマイナス0.1%の利息をつける、マイナス金利政策も行っています。このように、荒っぽいほどの『ベタ踏み』状態から、一気に利上げへと転換すると、低金利を前提に動いてきた社会は、急ブレーキを踏んだ時のようなショックを受けてしまいます」
高井さんの言葉を借りれば、現在は「ゆっくりとアクセルを緩めている状態」。この年末か年明け、遅くとも2024年末にはマイナス金利の解除が予想されるというが、その通りに事が運び、円安に歯止めがかかるかどうかは、はっきり見通せない。
「アメリカがさらなる引き締めに入る可能性もありますし、各国の景気が落ち込めば、日銀は利上げに転じづらくなる。経済のシナリオはいくつものパターンがありますから、私たちは状況に合わせて波を泳いでいくしかないんです」
高井さんは、このような時代の中で安定的な資産形成をしていくため、海外株式などへの投資も選択肢にすることを勧める。
「海外投資などと聞くと難しそうですが、儲けを出せだとか、予測を当てろなどということではありません。要するに『預貯金だけではなく、海外通貨や株式、債券などに資産を分散しておけば、もしもの時にも安心ですよ』というだけのことなんです」
実際に、今回の円安においても、海外投資をしていた人は、増加した生活負担を補えている一方、円での預貯金だけで資産を持っていた人は、経済的な打撃が大きいのだという。
「かつては一社で一生懸命働けば、資産形成は会社や国が面倒を見てくれましたが、今はそういう時代ではありません。投資は自分で自分の面倒を見ていくための、新しい常識となってきています」
お金は「ありがとうチケット」
高井さんは、今年の6月に退職するまでの28年間を日経新聞に在籍し、現場記者とデスク、編集委員を歴任。そのキャリアの原点は、自身の子ども時代にあるという。
「割と貧乏な家庭で育ったものですから、お金の有無で人生の選択肢が変わることも、使い方の判断を誤ればダメージが大きいことも、体験として知っていました」
しかし、世の中には基本的な金融リテラシーを身に付けないまま大人になり、大きなお金の失敗を経験する人も少なくない。
「日本人の価値観には、お金について語ることを恥じる文化もありますからね。でも、悪いのはお金ではなく金銭欲。『たかがお金』『されどお金』という意識を持ち、欲に振り回されないようになることが、お金について学ぶ目標だと思います」
日経新聞を退職したのは、若年層をはじめとする幅広い層に、そのような学びを届ける必要性を感じたため。フリー転向の大きな転機になったのは、2018年に出版して10万部を超えるヒット作となった著書『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』だ。
「経済の基礎知識が学べる青春小説で、もともとは小学生だった長女に、お金の勉強をしてもらおうと書き始めたんです。はじめは本にする気はなかったのですが、7年間をかけて執筆する中で、子どもだけでなく大人にも需要がある内容なのではないかと思い、出版を考えるようになりました。実際に寄せられた反響も、『こういうことが知りたかった』という大人の声が多く、基礎的な金融教育に対するニーズの大きさを実感しました」
退職後には、若年層の金融リテラシー向上に取り組む業界団体として2022年に立ち上がった一般社団法人日本金融教育推進協会にも参画。国が小中高校での金融教育を始めた中で、高井さんの活動の重要性はさらに大きくなっている。そんな高井さんに、「そもそもお金とは何か」を小さな子どもに伝えるように教えてほしいとお願いしたところ、こんなシンプルで素敵な言葉が返ってきた。
「お金は『ありがとうチケット』なんです。『ありがとう』を伝える時に渡すチケットがお金で、皆が『ありがとう』と言い合える場面が増えるのが経済成長。だからこそ、世の中にお金を回していくことが大切なのではないでしょうか」
サステナビリティ社会は、経済成長とともに実現されるもの。そのイメージを描こうとする時に、「ありがとうチケット」という考え方は、大切なヒントになりそうだ。
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三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
「from VOICE」
「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。