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いくら駆除しても減らない!? カラスとの共生に必要なのは「カラスの目」

    

from VOICE

ごみの食い荒らしや糞害、農業被害など、カラスによる全国の年間被害額は10億円を超える。
ごみの食い荒らしや糞害、農業被害など、カラスによる全国の年間被害額は10億円を超える。

ごみ捨て場を荒らす、威嚇してくる、鳴き声がうるさい。こうした厄介者のイメージで語られがちなカラス。人に危害を与える鳥獣は一般的に駆除という対策がとられるが、カラスにはどのような対応がなされているのだろうか。東京大学特任准教授でカラスの専門家として知られる松原始さんに、三菱電機イベントスクエアMEToA Ginza 「from VOICE」編集部が話を伺った。

"ワクワク"するサステナブルのヒントを教えてくれた人

松原 始さん

松原 始さん

1969年、奈良県生まれ。東京大学総合研究博物館・特任准教授。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学、研究テーマはハシブトガラスおよびハシボソガラスの生態、行動、進化。『カラスの教科書』『カラスは飼えるか』『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』『カラス学者の回想録 京都・京大・百万遍』『もしも世界からカラスが消えたら』など著書多数。

ごみに触れさせないことが一番のカラス対策

カラスによる被害を抑えるためには、駆除をするよりもカラスが住みづらい環境を作ることが効果的だと松原さんは語る。
カラスによる被害を抑えるためには、駆除をするよりもカラスが住みづらい環境を作ることが効果的だと松原さんは語る。

「カラスは相当な数が駆除されていますよ」。日本でも数少ないカラスの専門家である東京大学特任准教授の松原始さんは、カラスが「駆除されない」という認識が実態と異なることを指摘する。

「カラスによる直接的な被害では主に地方での農業被害が大きく、全国の年間被害額は10億円をゆうに超えます。こうした被害が出た場合は、市民から行政を通じて猟友会に駆除の依頼があり、箱わなや猟銃で駆除されるんです。また、都市部の自治体では、ごみの食い荒らしや糞害など生活被害の対策として、定常的に駆除を行っている例も少なくありません。代表的なのは2001年から始まった東京都の取り組みで、増えすぎたカラスが社会問題化したことを受けて専門のプロジェクトチームを組織して対策を進めています」

一方で、カラスは駆除されないという印象を持たれることに対しても、松原さんは理解を示す。

「カラスはほかの野鳥と同様に、鳥獣保護管理法によって保護されています。具体的な被害が生じた場合でなければ、個別に駆除の対応はなされないので、それが『駆除されない』という認識につながっているかもしれません。また、駆除はごみ処分場や田畑の周りのように、人目につかない場所で行われます。駆除に銃を用いるためでもありますし、駆除の様子そのものが苦情のもとになる場合もあるためです。それに、クマが人里に降りてきた時などとは違い、カラスの駆除はニュースになりませんからね」

また、駆除を行っていたとしても、個体数の削減につなげることは難しいのだと松原さん。繁殖により数が増える上に、減った個体数を補うように別のエリアからほかのカラスがやってくるためだ。目に見えるカラスの数が減らなければ、駆除が行われているとは感じにくいだろう。

「すべての動物にとって住みやすい環境の条件は、エサがあること、命の危険がないこと、繁殖できることの3つです。たとえばカラス1万羽を養える環境であるならば、半分を駆除したとしても、また1万羽が生息するようになります。その点、生ごみが多く出る都市部は、カラスにとっては労せずして食べ物にありつける格好の餌場。雑食性のカラスと人間は食べるものが似ていて、フライドポテトやフライドチキンなど、メタボになりそうなものが大好きなんです」

逆に言えば、カラスにとって住みづらい環境に変えていくことで、駆除を行わずともカラスの個体数を減らすことができるという。

「実際に、東京都が20年間で約4分の1にまで個体数の削減を果たしたのも、ごみそのものを減らしたり、ごみ捨て場への鳥除けネットや蓋付きのダストボックスの設置を進めたりしたことが大きな要因です。カラスをごみに触れさせないのが、もっとも効果的なカラス対策。それをきちんと実践できているかどうかで、カラスの寄り付き方はまったく変わってきます。人間がごみに対してだらしなければ、カラスは集まってくる。街のカラスのあり方は、人間の都市生活を映す鏡だとも言えます」

カラスには人工と自然の線引きはない

カラスに対するマイナスイメージが払拭されることを目指して、松原さんはカラスの意外な一面を積極的に伝えている。
カラスに対するマイナスイメージが払拭されることを目指して、松原さんはカラスの意外な一面を積極的に伝えている。

鳥獣保護管理法で守られていることからも分かるように、迷惑者と思われがちなカラスといえども、生態系を構成する一員としての役割を担っている。

「カラスは植物を食べて、その種子を糞とともに散布していますし、動物の死骸を食べて糞として土に戻すという循環に非常に貢献しています。カラスとしては、都市であろうが自然の多い場所であろうが、生物としての行動に変わりはないんです」

都市でも自然の中でも、生物としてのあり方は同じ――。さらに松原さんの話を聞いていくと、人とカラスの関係を考える上で、この言葉が非常に重要であることが分かってくる。

「カラスにとって、人工的なものと自然なものとの間に違いはありません。『都市とその周辺の自然』という線引きは、人間側が勝手につくったものでしかなく、彼らから見ればすべて等しく『環境』です。その中で、住みやすい条件を満たす場所を選び取っている。人間側としては迷惑に思えるごみの食い荒らしだって理屈は同じで、カラスとしては自然界で動物の死骸から内臓や肉を引っ張り出すのと同じことを行っているだけなんです」

人間はカラスのことを、つい「人の生活圏を侵す存在」のように思ってしまうが、松原さんの言う視点を持つと、それが身勝手な発想なのではないかという新たな疑問が湧いてくる。

「生活圏でカラスが増えすぎたなら駆除すべきと考えるかもしれませんが、その場所に生物がどのくらいいるのが適正なのかというのは本来、『どのくらいの数が生息可能な環境なのか』ということでしか測れません。カラスを減らすべきかどうかという議論もつまりは、カラスの生物としての営みとは別にある、『人間がどんな生活をしたいのか』という願望の話なんです」

松原さんは、一概にカラスを保護すべきだと主張している訳ではない。農業被害など実害が生じる場合は、駆除も致し方ないという立場だが、一方でカラスの扱いに理不尽さを感じているという。

「カラスに関する苦情では、生活に直接影響する被害のほかにも、『襲われそうで怖い』『鳴き声がうるさい』といった心情的なものも多いんです。確かに、黒々とした羽根や身体の大きさなどの見た目は、人間がつい恐怖感を覚えるものですし、鳴き声も一般的にきれいとは言えません。でもカラスとしてはどうしようもない理由でマイナスイメージを持たれて、ほかの鳥のように受け入れてもらえないのは、理不尽だと思うんです」

こうした想いから、松原さんは著述活動などを通して、カラスの意外な一面を積極的に伝えている。

「たとえば、カラスが襲ってくるというイメージ。確かに威嚇することはありますが、それは繁殖期の親カラスが雛を守ろうとナーバスになっている時だけで、こちらから刺激を与えなければ危害は加えられません。カラスの群れは繁殖を経験していない若い個体ですから、映画などで描かれるように集団で襲ってくるようなこともありません。カラスは図々しく見えて、実際はとても臆病。電線にとまっているのを急に見上げると、足を踏み外すんじゃないかってくらい、びっくりするようなやつらです。賢いようでドジだったり、きれい好きだったり。そんな姿を知ってイメージを少し変えるだけで、『まあ、このくらいの数のカラスなら、いてもいいか』と、少し寛容に生活できるのではないでしょうか」

頭上に広がるカラスの世界

カラスの視点になってみると、都市と自然といった線引きのない、『環境』としての世界が見えてくる
カラスの視点になってみると、都市と自然といった線引きのない、『環境』としての世界が見えてくる

松原さんのように、カラスを専門に研究する鳥類学者は、日本では片手で数えられるほどしかいない。これほど身近なカラスという存在を研究しようとする人が少ないのは、なぜなのだろう。

「繁殖の仕方に鳥類として特別なところがなく、その視点では新しい発見がある可能性が低いからですね。しかもそのくせ、繁殖を経験したカラスは警戒心が強く、なかなか捕まえらないので、個体を認識するためのタグを取り付けるという、通常用いられる研究手法が使えないというのも1つの理由。仮に捕まえることができても、顔を覚えられて近寄ってくれなくなるんです」

そんな中、松原さんは動物がいかに行動するのかを研究する動物行動学の分野で、約四半世紀をカラスの研究にささげてきた。

「子どもの頃から、なんとなくカラスに興味はあったのですが、卒業研究で入った動物行動学の研究室の先生が、たまたま見た『カラスは成人男性を怖がるけれども、女性や子どもを舐めてかかる』というニュースの話をしてくれて。『面白いですね、研究しましょう』と言ってしまったのが運の尽き(笑)。結果としては、カラスは性別や年齢で人を見ているのではなく、身体のサイズが大きければ警戒するというだけでしたが、『観察していれば、次の瞬間には何か面白いことをやってくれる』ということを知って、今に至るわけです」

そのようにして好奇心に衝き動かされてカラス研究の第一人者となった今、松原さんはどんなテーマに関心を惹かれているのだろうか。

「日本で繁殖しているカラスは、ハシブトガラスとハシボソガラスという2種。このうちハシブトガラスは東南アジアの各国に生息していますけれど、もともと森林に住むカラスで、日本ほどたくさんの個体が都市のなかにいる例はないんです。似ている環境の都市ならほかにもあるのに、なぜ日本だけそうなっているのか、そして彼らが森林でどんな風に生活しているのか。そうしたことを少しずつ調べています」

長年カラスの行動を研究する中で、「自分がカラスなったつもりで考える」ことをしてきたと松原さん。その経験から、「カラスの目」を持ってみると、世界は違って見えてくるという。
「人間は、地面を区画割りして生活していますが、カラスの目になると、その上空にはカラス独自の区画割りが乗っかっていることが分かります。ビルは見張りの場、ごみ置き場は餌場、公園は巣をつくる場所という風に、資源がどう分布しているのか、それを使っていかに生存していくかという基準でつくられた区画です。すると先ほど言ったように、都市と自然といった線引きのない、生物が生きる『環境』としての世界を捉えることができるんです」
私たちは、すべての生物とともに地球という有限の資源を共有している。それは理屈として分かっていても、つい人間の生活圏とそれ以外とで区別してしまいがち。そんな中で、松原さんの言う「カラスの目」は、動植物や自然環境との共存を考える上で、新しい視点を与えてくれそうだ。

元記事はこちら

from VOICE(フロムボイス)

三菱電機イベントスクエア METoA Ginza
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「ワクワクするサステナブルを、ここから。」を掲げ、三菱電機社員が社会の皆さまと共に学び、共に考えながら、その先にある"ワクワクする"社会を創るべく活動しています。日常にある身近な疑問"VOICE"から次なる時代のチャンスを探すメディア「from VOICE」を企画・運営しています。最新情報はインスタグラムで配信中です。皆さまのVOICEも、こちらにお寄せください。

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