無自覚に「説教したがる男たち」|マンスプレイニングの実態
皆さんは、「マンスプレイニング(Mansplaining)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは「Man(男性)」と「Explain(説明する)」を組み合わせた造語で、2010年代以降、インターネットを通じて広く知られるようになりました。
この言葉が広まる少し前の2008年、アメリカの作家レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit)によるエッセイ集(※1)、「Men Explain Things to Me(邦題:説教したがる男たち)」が発表されました。その中で彼女は、自身が2003年に出版した著書「River of Shadows:Eadweard Muybridge and the Technological Wild West」にまつわる出来事を紹介しています。
この本は、アメリカの写真家エドワード・マイブリッジの功績を軸に、写真技術の進歩と近代社会の変化を描いたノンフィクションですが、あるパーティーで、主催者の男性が彼女に、「マイブリッジについて決定版ともいえる素晴らしい本がある」と熱心に語り始めました。彼がソルニット本人に対して、得意げに延々と解説し続けたその「素晴らしい本」こそ、他ならぬ彼女自身の著書でした。
本当に知らないのは誰なのか
マンスプレイニングは、単に男性が女性に何かを説明をすることを意味する言葉ではありません(※2)。そこには前提として、「男性のほうが女性よりも多くの知識を持っている」という思い込みが存在します。頼まれてもいない説明や助言を行い、ときには内容そのものが間違っていることさえあります。
つまり、女性の知識や経験を最初から過小評価し、見下すような態度で一方的に説明する行為こそが、マンスプレイニングなのです。ソルニットが女性だというだけで何も知らないと思い込み、自らの知識をとうとうと語った男性のエピソードは象徴的な事例です。
ケンブリッジ大学(※3)では、このテーマに関する「Well,Actually」という研究が行われました。このユニークなタイトルは、相手の発言を訂正するときによく使われる英語の言い回しで、マンスプレイニングが始まる時の典型的なフレーズと言われます。この研究では、マンスプレイニングとされる499件の体験が分析されましたが、その多くは男性によるもので、女性が行ったケースはわずかでした。この造語の語源が示す通り、この行為は主に男性から女性に向けられる、性別に基づく不当な扱いであることが改めて確認された形となりました。
Credit: Eight in ten British women have faced "mansplaining," via YouGov.com
インポスター症候群を生むマンスプレイニング
職場において、マンスプレイニングの影響は特に深刻です。先の「Well,Actually」研究によると、この行為は単なる無礼な態度以上に、従業員満足度の低下や離職意向の要因であることが分かっています。また、情報発信やイベントなどを通じて女性の活躍を支援する米国企業Fearlessは、その活動の中で(※4)、女性エグゼクティブたちの意見は職場で軽視され、男性より知識的に劣ると見なされてしまう現実を紹介しています。こうした経験により、女性は仕事に対する自信を損ない、それが生産性の低下にもつながります。
たとえ努力と実績によって高い役職に就いても、「自分はこのポジションにふさわしくないのではないか」と悩む女性も少なくありません。これは、十分な実績があるにも関わらず、周囲や運に恵まれているだけで自分の実力ではないと感じてしまう(※5)「インポスター症候群」という心理状態です。
善意に潜むジェンダーバイアス
男性が善意でアドバイスをしているつもりでも、それが相手の女性にとっては押しつけや軽視として受け取られ、気力まで失わせることもあります。こうした行為は「慈悲的性差別(Benevolent Sexism)(※6)」と呼ばれます。「女性は生まれつき優しい」、「女性は守られるべき存在だ」といったステレオタイプに基づき、必要以上の手助けをしてしまうことなどが該当します。
このような先入観は、誰もが持ち得るものです。特に男性管理職は、自らの言動に偏見が入り込んでいないかを日常的に振り返ることが重要です。たとえば、なぜ男性部下をプロジェクトリーダーに選んだのか。それは本当に専門性や経験を正当に評価した結果なのか、「男性のほうがリーダーに向いている」というアンコンシャスバイアスが影響してはいないか。こうした問いを自らに投げかけることが必要なのです。
さらに慈悲的性差別は、「責任ある仕事は女性には荷が重い」という偏見を強化し、女性が一人前の存在として扱われにくい状況を固定化させてしまいます。このことが、経営層や取締役会に女性が少ない現状の一因(※7)ともなっています。
日々の内省が組織を変える
多くの企業がリーダー層の男女格差の是正(※8)に取り組む今、私たち一人ひとりも認識を改め、女性が持つ専門性や経験を正当に評価する姿勢が求められています。そのアドバイスは本当に相手の成長を支えるためのものなのか、自分の知識や能力を誇示したいだけなのではないか。こうした内省を重ね、日々の言動を見直すことは、「男性アライ」になるため(※9)の大切な一歩です。そしてそれは職場の信頼感を醸成し、個々人が自信を持つことで、全体の生産性を高めることにつながっていくでしょう。
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執筆 A. Parks 翻訳・編集 K. Tanabe
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