自分を主語にして生きる。ギャルマインドでイノベーションが起きるアゲな社会を #豊かな未来を創る人
企業の会議にギャルを送り込み、参加者たちがぶっちゃけた意見を忖度なしに発言できる場作りをする。そんな取り組みが、いま日本企業の間でじわじわと注目を集めているそうです。
「ギャル式ブレスト」と呼ばれるこのプログラムを考案したのが、CGOドットコムを運営するバブリーさん。
進学校を退学した後、周囲や世間ではなく「自分はどう生きたいのか」をもがきながら問い続けた10代。生き方の指針を与えてくれたのがギャルでした。
あらゆる人の心に眠る「ギャルマインド」こそが、社会の閉塞感をぶち壊し、イノベーションをもたらすための武器になり得る。そう語るバブリーさんに、自身の "好き" をどのように紐解いて「ギャル式ブレスト」を生み出すに至ったのか、そしてこの先に思い描く未来はどんなものなのか伺いました。
バブリー
CGOドットコム総長。1996年生まれ、山梨県出身。高校2年生のときに中退。大阪に家出をしてギャルカルチャーと出合う。その後、立教大学コミュニティ福祉学部に入学。在学中の2020年に「ギャルマインドで世の中をアゲにする」ことを目指して、CGO(チーフギャルオフィサー)ドットコムを立ち上げる。主力事業である「ギャル式ブレスト」は、これまで30社以上の企業や団体への導入実績を持つ。バブリーの由来は、本名である竹野理香子の「バンブー(竹)」と理香子の「リ」から。本人曰く「生活は質素」。
老若男女の中にあるギャルマインドで世の中をアゲにする
── ギャルとビジネスマン。ふだん生活圏が交わらないであろう人たちが、同じテーブルを囲んで対話するというのはとても新鮮ですね。
日本の企業の会議って、上司に忖度したり部下に過度に気を使ったりすることにエネルギーを使いがちですよね。その結果、しがらみから抜け出せずに議論が膠着してしまい、新しいアイデアも出てこない。だから、あえてそこに先入観や固定概念のないガチギャルたちを投入して、好き勝手に発言してもらうんです。
最初はみなさん戸惑われることも多いですが、ギャルが加わることで、その場の空気がどんどん柔らぎ、発言の量も格段に増えるんです。
そうやって組織のコミュニケーションを活性化することで、アイデアの質も変わってくる。その積み重ねで、ひいては日本社会にイノベーションを起こすことに一役買えるのではと考えています。この取り組みを通して、世の中をアゲにしていきたいなと。
── 「アゲ」というのは、どういう状態なんですか?
心のバイブスというか、心の温度が上がる状態かな。「これやってみたい!」という熱い思いがふつふつと湧くようになって、それを実際にアクションに移せる。そんな人たちを増やしたいという思いがありますね。
今、多いときは月に3〜4回、さまざまな企業に呼んでいただいてギャル式ブレストを開催しています。参加するギャルは、私たちCGOドットコムという組織に所属している4〜5人をメインに、外部も含めると20人くらい。東京だけでなく、大阪や福岡など地方からも参加してくれています。
── そもそも「ギャル」とは、どういう人たちを指すのでしょう? 第一次ブームとなった平成から、令和のギャルはさらに変化していますよね?
私の捉えるギャルというのは、外見でいうとファッションで何らかの自己表現をしている、そして内面はギャルマインドを持っている人たちです。
ファッションの観点で見てみると、平成に比べて令和のギャルたちはかなり多様化している印象ですね。ガングロの子もいれば、Y2K(90年代後半〜2000年代に流行った厚底ブーツやルーズソックスなどのファッション)を取り入れている子、原宿や韓国のカルチャーが混ざっている子など、本当にさまざま。
あとは、自らギャルを公言しているクリエイターのkemioさんのように、ジェンダーの垣根もなくなってきていますね。
── 画一的な流行を追うよりも、個人の"好き"やオリジナリティを表現するギャルファッションが主流になってきているのですね。内面における「ギャルマインド」とは?
私たちの中では、3つの要素に分解できると考えています。
まず一つ目は「自分軸」。ギャルの子たちがよく使う言葉に「他人ウケより自分ウケ」というのがあるんです。他人や社会が決めたことではなく、「自分は何が好きなの?」「自分は何がしたいの?」という基準に従って自分を表現をする。そんなブレない自分軸をギャルは持っています。
二つ目は「直感性」。ギャルって会話のテンポがすごく早いんです。それは、頭だけであれこれ考えるのでなく、直感に従って物事を捉えているから。「可愛くない!?」「ダサくない!?」とか、ものすごくはっきりしているんです。
三つ目は「ポジティブ思考」。ギャルは「うちらって最高じゃない!?」っていう考え方がベースにあって、そこからもっと上げていこうよという「盛り」の文化があるんです。そうやって何事も必ず前向きに推進していく力がすごく強いと感じますね。
こうしたギャルマインドって、性別や年齢、属性を問わず、誰の心の中にも本来あるものだと私は思っています。それをギャル式ブレストのフォーマットを使って、掘り起こして、ビジネスや社会に活かしていけたらと考えているんです。
ギャル軍団が闘う姿を見て生き方が変わった
── たしかに「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」と分解してみると、どんな人の心の中にも少なからず眠っているような気がします。ところで、そもそもギャルに出会ったきっかけは?
もともと私自身は、ギャルとは真逆の生き方をしていたんです。地元山梨で両親が教員の家庭に生まれ、小学校、中学校ともに成績は常に上位。生徒会長やバスケ部の部長も務めて、すごく真面目な優等生だったんです。
人生が大きく変化したのは高校生のとき。県内トップクラスの進学校に入学して、初日に先生から言われたのが「みなさん東大に行きましょう!」というひと言でした。
そのときに初めて「やばい、自分の人生決められてる」って思ったんです。そこからすごくモヤモヤし始めて、ある日学校に行けなくなりました。自分の部屋のベッドに引きこもりながら、「自分は本当は何になりたいんだっけ?」ということを、人生で初めて考えたんです。それが16歳のときでした。
その後は、親の理解もあり高校を退学し、通信制の学校に通うことに。オンライン学習になって時間ができたので、一人で大阪に行くことにしました。
── 突然の大阪!(笑)
当時ネット上で仲良くなった同い年の友人が大阪にいたので、会いにいくことにしたんです。ちょうど地元を出てみたかったので、そこで一人暮らしを始めました。
その友人が暮らす地域の女の子たちがみんなギャルだったんです。初めて本物のギャルと対面したときは、めちゃくちゃ怖かったですよ。でも、喋ってみたら面白くて、何というかすごく生きる力を感じたというか。
今でも覚えているのが "ちくび戦争" です
── 何の戦い...!?(笑)
当時暮らしていたのが、大阪の築港(ちっこう)という地域だったんですよ。そこのギャルたちが「うちらは築港の美女軍団やから、略して "ちくび" やねん」と言っていて。
そうしたら、隣町のギャル軍団も「うちらが "ちくび" や」と名乗り出したので、チーム名を賭けて決闘することに。近所の公園でバチボコ殴り合いの喧嘩をして、見事勝ったんですよ(笑)。
私はそれを横で見ていて、「マジかっこいい!って思った。正直チーム名なんて何でも良いと思うんですが、人にどう思われるかではなく、自分たちの信念に従って守りたいものをちゃんと守る姿が本当に眩しく見えました。
それまで自分の周りにいたのは、私のように親の期待通りに進路を歩んでいる人たち。それに対してギャルたちは、何をするにも自分の意志を持って決断して生きていた。そこに憧れたんです。
時代が変わってもギャルマインドの価値は変わらない
── まさにギャルマインドを間近で感じる日々だったのですね。そこからどうやって、今のギャル事業につながっていったのですか?
その後、親が心配していたこともあって、18歳で地元に帰りました。そして親から「就職しても大学に行っても良いよ」と言ってもらったときに、自分には選択肢があることに気づきました。
大阪で出会ったギャルの子たちはとても頭が良かったけれど、大学に行くという選択肢はなかった。家庭環境が原因で、学校を辞めたり水商売をしたりする子たちをたくさん見てきました。
日本に格差があると初めて知ったとき、勉強できるチケットがあるなら勉強しよう。そしていつかそれを格差の解消に役立てたり、ギャルに還元したりしたいと思ったんです。19歳から大学の受験勉強を始めました。
── 今度こそ、自分の意志で学ぶことにしたのですね。
はい、その後大学に入り、社会福祉の分野を専攻しました。と同時に、ビジネスコンテストを主催するNPOのインターンに参加。そこでビジネスを作る面白さにも触れました。
その頃に偶然目にしたのが「ギャルは絶滅した」というネットの記事でした。そこには、ギャルファッションを長年牽引してきた有名ブランドが、コンセプトを一新すると書いてあって。ショックだったし、悔しかったですね。
自分が救われたのは、何よりもギャルマインドに出合えたおかげだった。だから例え当時のギャルファッションが廃れたとしても、そのマインドが存在する限り、ギャルは絶対に絶滅しないと私は思ったんです。
ギャルマインドをもっと世の中に広めたい。そう考えて、大学に通いながら事業を立ち上げることにしました。
── ブームに左右されることのないギャルマインドの価値を確信していたのですね。
はい。そこから渋谷のギャルサーの長たちに頭を下げて、協力してくれるギャルを探したんです。「てめえがギャル語るなよ」と怒られながらも、共感してくれる子たちを見つけました。
そして彼女たちとまずは「ギャルマインド」というものが何なのか?を紐解くことから始めました。アンケートをとって話し合う中で、先ほどの「ギャルマインド」の3つの要素を抽出したんです。
── バブリーさん自身が魅力を感じていたギャルの考え方の特徴を、まずは言語化してみたと。
そうです。そして次に、それが世の中のどこに活かせるのか考えました。
そんなときに、元々湘南のギャル男だった知人に再会したんです。彼は大企業に就職したのですが「上司には忖度して、部下にはパワハラと言われないように気を使って、とにかく窮屈だよ」と話していて。「俺にギャルマインドを分けてくれ〜」と言われたんです。
「あ、これじゃん!」と思いました。このおじさんがもう一度ギャルマインドを持つことができたら、ビジネスシーンの課題を解決できるんじゃね? そうしたら少しだけ世の中がアゲになるかもしれないと。ギャルマインドを社会に活かせる兆しが一つ見つかった気がしました。
そこからギャルたちを連れて、企業の人たちととにかく喋ってみるという試みをやり続けたら、今の「ギャル式ブレスト」というフォーマットやルールが出来上がっていきました。自分で話していても、はちゃめちゃですね(笑)。
「クワガタと一緒にごはんが食べたい」というWill
── ギャルマインドという概念と実社会との接点を探った結果、「ギャル式ブレスト」ができたのですね。実際に事業を展開してみてどう感じましたか?
手応えを感じていますね。先日も大手の企業の方々と「食の未来を考える」というテーマでブレストをさせていただいたんです。20代の若手から50代の偉い方まで、さまざまなポジションの方が参加していました。
最初は、50代の方に周りが気を使って堅い雰囲気でした。でも冒頭でギャルの子が、休日に野菜を育てているという50代の方に、「野菜キング」というあだ名をつけたんです。
── そのあだ名で会議を回すのは、吹き出しちゃいそう...(笑)
会議が始まってしばらくは、若手のみなさんも慣れなくて、ちょっともごもごしていました。でも、後半になると、「野菜キングもっと意見出しなよ!ノッてこー!」みたいな会話が飛び交って、全員ノリノリで発言できる状態が作れたんです。コミュニケーションの壁が壊せた実感がありましたね。
その結果「クワガタとごはんを食べたい!」というアイデアを出す人まで出てきました。
── なんというか...すごく奇抜なアイデアですね...!
いや、このアイデアが出せたことは、大きな価値があると私は思っています。
その男性社員の方は、クワガタが大好きで飼っているそうで。今の時代ではまだクワガタと一緒に食事はできないけれど、いつかそれを実現してみたいと、詳しく説明してくれました。
そのアイデアって、少し視点を変えてみると、例えば「家族の在り方って人間同士だけなんだっけ?」「ペットと同じものを一緒に食べる未来があったら楽しいかも?」など、「食の未来」にまつわる新しいヒントがたくさんあるなと。
── まさにギャル式ブレストを通して、コミュニケーションの活性化と、新しいアイデアの創出ができたんですね。
そうなんです。実はその方は最初、「社会から貧困をなくしたい」と紙に書いてたんですよ。それはそれで素晴らしいですが、それを見たギャルが「あんたを主語にして書きな」「そこにあんたの"好き"とか"やりたい"をちゃんと乗せな」と言ったんです。それでもう一度書き直したのが、このアイデアでした。
まさにこれが私がギャル式ブレストに求める瞬間だったなと。未来志向で、個人のやりたいWillがしっかりとそこにある。「私たち」ではなく「私」が主語になっているんですよね。それって、まさにギャルマインドだなと。
── たしかに組織の中で自分を主語にするって難しいですよね。「会社の方針は〜」とか「上司が〜」とか、主語を他者にしてしまうと「自分はこれがやりたい!」という発想も生まれにくいように感じます。
そうなんですよね。以前、ある企業の方が「昔は同じものを大量に作っていれば良かったけれど、これからの時代で選ばれるには、商品やサービスの背景に独自のストーリーが必要だ」と話されていました。
そうしたユニークでオリジナリティのあるものを企業の中から生み出す必要がある今、やはり肩書きを超えて個人がやりたいことを出していかない限り、新しいものは生まれないと思うんです。だからこそ、そのための組織醸成にギャルマインドが寄与していけると、超うれしいなと考えています。
異なる視点を持つ人たちとの掛け合わせを広げていく
── 今の取り組みを通して、この先どのような世界を実現したいか教えてください。
ギャル式ブレストの本質って、違う視点を持っている人たちが掛け合わさったときに、もっと良いものや多様なものが生まれるじゃん!ということだと思っていて。だから、そうした場をこれからも作り続けたいなと思っています。
それでいうと、世の中にはギャル以外にも面白いジャンルの方がたくさんいますよね。たとえば漁師さんや夜のクラブで働くダンサーさんとか、そうした他ジャンルの人たちとの掛け算を広げていくのも面白いかなと。「◯◯式ブレスト」のバリエーションが増えていくとか。まだまだ具体的な形はイメージしていませんが。
それから、今後もギャルがバリューを発揮できる場所をちゃんと創っていきたいですね。ギャルの格好をしていると働く場所がないという話もよく聞きます。でも実際には、語彙力やワードセンスがすごい子や、SNSマーケティングが得意な子など、それぞれに得意を持っているんです。その能力を集結させて社会に活かしていける、やばい集団を作りたいです。
── 最後に、ギャルマインドを心に宿すために個人ができることがあれば教えてください。
まずは、心の中にギャルを一人飼ってみてください。その子に名前をつけて、鏡を見ながら「あんた今日何したい?」って尋ねてみるんです。「マック食べたい」とか何でも良いので、それを叶えてあげてください。
今の自分の中には1ミリもギャルが見当たらないという人は、月に一度でも良いので、自分の声をちゃんと聞いて行動すると約束する日を設けてみてください。たとえば四万十川に飛び込みたくなったら、飛行機予約して行っちゃうとか。
つまりそれって、自分の「やりたい」にちゃんと目を向けることだと思うんです。そうした作業を積み重ねていくと、心の中のギャルがじわじわ現れてくるはず(笑)。まずは自分自身とつながることで、世界を変えていけるかもしれません。
-
取材・文木村和歌菜
撮影大城士武