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投票に行かなくなったのは中高年。これからの選挙のあり方を考える

    

サストモ編集部

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画像:アフロ

「若者は選挙に行かない」

これは昔から言われてきたことで、実際に過去10年の国政選挙の投票率を見ても、40〜60代が50%を超える投票率であるのに対し、20代の投票率は40%未満、30代の投票率も50%に届かない結果が続いています。

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過去10年間に行われた国政選挙における年代別投票率(抽出)の推移 出典:総務省

少子高齢化が進んで年代別人口数が少ないこともあり、SNSなどでは10〜30代の有権者たちの「選挙に行っても意味がない」という、自分の一票の価値を信じられないようなコメントも目にします。

しかし、「結婚したくない、できない問題」「ジェンダー格差」「子育て支援」「社会保障負担」など、若者の人生設計を左右する問題は、政策によって大きな影響を受けます。投票に行かないという選択は、自分たちの未来の生活に返ってくるのです。

そこで、改めて考えたい。

若者世代の一票は本当に無力なのでしょうか?

そんな疑問を持って訪ねたのは、埼玉大学名誉教授の松本正生先生。日本人の政治や選挙に対する意識を研究してきた第一人者です。

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埼玉大学名誉教授の松本正生先生。2020年には大学内にベンチャー企業「社会調査研究センター」を設立。新聞社やNTTドコモなどと共同し、新しい世論調査の手法の構築を行っている

若者と選挙について伺おうとしたところ、松本先生から驚きの一言が......。

「実は、ここ20年で投票率が大きく減っているのは50、60代の人たち。だから選挙離れを起こしているのは、若者ではなく中高年なんです

えっ!?ということは、今は相対的に若者世代の一票の価値は上がっているということ......?

「そういう側面もある」とした上で、松本先生が話してくれたのは、地方からすでに始まっている若者と政治の新しい動き。それがこれからの若者の投票行動につながっていくのではないかというのです。

2000年代から中高年の選挙離れが始まっていた

── 「若者と選挙」についてお話を聞きたいと思っているのですが、その前に、「中高年が選挙に行かなくなっている」というのはどういうことですか?

各回の選挙の投票率だけを見れば、10〜30代の投票率が低く、「若者は選挙に行かない」ということに変わりありません。ただ、過去20年くらいの「投票率の減少の幅」を見ていくと、大きく減らしているのは50〜60代の中高年層なんです。

この傾向は地方選挙の数字を見るとよくわかります。一例として、さいたま市議会選挙と埼玉県知事選のデータを見てみましょうか。

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左が2007年と2011年のさいたま市議会選挙、右が2007年と2011年、2019年と2023年の埼玉知事選の年齢別投票率の推移を比べた表(さいたま市選挙管理委員会および埼玉県選挙管理委員会ウェブサイト掲載データをもとに作成)

── たしかに中高年層の投票率の減り幅が大きいですね。2023年の埼玉県知事選に至っては、50〜70代の投票率が10ポイント以上も下がっている。

これまで選挙に行っていた年齢層の投票率が大きく下がったことで、2023年の埼玉県知事選は全体の投票率も23.76%と全国過去最低を記録しました。この現象は埼玉に限らず日本のあらゆる地方で起こっていて、これまで投票率が高かった地域ほど加速しています。

そして、少し遅れて国政選挙でも同じ傾向が出てきている。最近の選挙の投票率って50%くらいのことが多いでしょう?

── それでも年配の人は投票に行くイメージだったので、正直びっくりです。どうしてこんなことになっているんですか?

地域社会が無縁化したからだと思います。かつては選挙ってお祭りみたいなもので、地元で付き合いがある人をみんなで応援して議会に送り出すものだった。それによって地域に雇用が生まれるなどのリターンもあったわけです。

でも今は選挙にそこまでの力はない。1994年に中選挙区制から小選挙区比例代表制が採用されて、人に投票する選挙から政党に投票する選挙に変わったのも大きいと思います。

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平成8年(1996年)が選挙制度が変更になって初の衆院選の投票率。大幅に投票率を減らしていることがわかる(参考:総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移」)

2000年代以降、特に投票率が上がらなくなっているのは、「自己責任論」が広まり、近隣の人同士で頼り頼られるような関係性が減ったことも影響しているように感じます。

かつては、よく言えば「つながり」、悪く言えば「しがらみ」を前提に成り立っていた選挙が、地域のエネルギーが減少したことで機能しなくなった。地域の祭りや消防団の運営でも同じようなことが起こっていますよね。

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また、昔の60代と今の60代を比べたときに見た目が若くなったのと同じように、中高年のメンタリティも若者に近くなっているのではないかと感じます。これは、新聞の購読率の減少とも相関性がある気がしていて、かつては社会人になったら新聞を読むのが一般的でしたし、読まないと営業先の会話に困ったものです。でも今は違います。自分の好きな情報だけ見ていても問題なく暮らせる社会になったことも投票率に影響しているのではないかと思いますね。

若者が「一票のリアリティ」を持てないのはなぜ?

── 中高年の投票率が下がっているということは、相対的に若者の一票の価値は上がっているともいえるのではないかと思います。そもそもなぜ若者は選挙に行かないのでしょうか?

政治に関心を持つきっかけがないですよね。たとえばアメリカやイギリスでは有権者登録制度があって、選挙権を得られる年齢になっても自分で手続きをしないと選挙権が得られません。つまり、自分で「政治に参加する」という意思表示をする必要がある。

日本の場合は18歳になると自動的に投票の通知が届きます。選挙権は権利なので、本来は自分で求めて得るものだと思うのですが、与えられるものになってしまっている。

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2015年、埼玉大学で実施された知事選の模擬投票。翌年から選挙権年齢が引き下げられることを受け、10代への政治の関心を呼び起こすねらいがあった。

さらに、若い世代ほど「一票のリアリティ」を持てない人が多い。つまり、自分が一票を入れることでどれだけ社会が変わるのか、その手応えを信じられないということです。

── なぜ若い人ほどそのように考えてしまうのでしょうか?

政治が自分たちに向いてくれた経験がない、もっと言うと、政治家に大事にされたことがないからだと思います。

政策の効果を実感することによって10年、20年先がある程度見通せるならば、結婚したり子どもを持ったり、人生計画を立てられるわけですよね。でも今は政治家が「給料を上げます!」と言っても、そのぶん社会保障などの負担が増えていたりして、言葉通りに信じることはできない。日常的に政策の効果を感じられる機会が減っているのだと思います。

ただ、これは若い世代の投票率が低いという結果によるものでもあります。政治家としては当選しなくては何も実現できないので、投票してくれる層に目を向けなければいけないですから。

ネット投票が解禁されれば、若者は投票するのか

── 投票率を上げるために議論され続けている「ネット投票」が実施されれば、若者の投票率も上がるのではないかと思うのですが、松本先生はどのように考えますか?

スマホがライフラインの世代ですからね。投票は決められた期間に決められた場所へ出向いて行わないといけないので負荷が高い。

たとえば、2024年4月に総選挙があった韓国では、全国どこの投票所からでも期日前投票ができます。それができる理由は、国民がデジタルナンバーで管理されているから。「ネット投票できたらいいね」ってみんな簡単に言うけれど、日本のマイナンバーカードの普及状況を見ると相当難しいことだと思いますね。

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画像:アフロ

── マイナンバーカードの保有率は2024年4月末時点で73.7%。交付開始から8年、ポイント還元などさまざまな施策も行ってきての数字と思うと、100%保有への壁の高さも感じます。

さて、考えたいのは、そうやってネット投票が実現したとして、本当に若者たちは投票するか?ということです。政治に関心がある層が投票しやすくなる面はありますが、政治にまったく関心がない人が「スマホで投票できるなら参加しよう」となるのか。

それよりも、「選挙とは別のところで政治に触れるような制度づくりやサポートをして、政治参加の意識を持ってから投票する」という順番にしていく必要があるのではないかと、私は考えています。

抽選で議員に⁉︎ 地方からはじまる、政治への新しい関わり方

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画像:アフロ

── 選挙ではないところで政治に触れる制度とは、具体的にどういうものでしょうか?

ここまで「投票する側」の選挙離れの話をしてきましたが、実際には「選ばれる側」である政治家のなり手も減っているんです。定数に対して候補者が足りず無投票選挙になったり、議会の維持自体が難しい自治体がすでに出てきています。

── 投票率の話以前に、そもそも選挙が成り立たないと。そういう自治体はどうなっていくのでしょう?

有志の市民が議会をサポートしながら一緒に政策決定に携わる「市民サポーター制度」や「ボランティア議会」など、新しい取り組みが生まれています。

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市民と議会が協働して政策づくりをすすめる政策サポーター制度を導入した長野県飯綱町議会の様子(提供:飯綱町議会)

私は、裁判員制度の仕組みを地方議会に転用してみるのがいいんじゃないかと思っているんです。つまり、その地域に住む有権者の中から抽選で「あなたが今期の議員です」という通知が届く

── そんなお知らせが突然来たらびっくりしますね。

でも議員をやるのは期間限定。さらに、みんなが順番で同じ体験をしていく。自治会やマンションの管理組合と同じです。

この制度のいいところは、選挙で選ぶ側の役割しかできない人が、選ばれる側の体験ができるということ。自分が住んでいる地域の政策決定に関わらないといけないとなったら、真剣に考えますよね。

── たしかに、議員に立候補するなんて考えたことがない人でも、強制的に地元のことを考えてくれと言われたらやるしかない。

特に若い人にとって、この体験の価値は大きいと思います。裁判員制度でも、2023年の一年間で18、19歳が26人裁判員になったそうです。シビアな判断を求められる現場を体験している若者がすでにいるわけですから、議員だってできるはず。

若者の政治参加でいうと、愛知県新城市で2015年4月に「新城市若者条例・新城市若者議会条例」に基づき誕生した「若者議会」も、おもしろい取り組みです。市長直属の機関として予算も用意されていて、公募で選ばれた16〜29歳の若者たちが考えた政策がいくつも実現しています。

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新城市若者議会は、予算提案権を持ち、予算の使い道を若者自らが考え政策立案する。これまでに公共施設のリノベーション事業や若者のコミュニティ支援、ビンゴで移住支援事業など若者目線の政策が提言されている(提供:新城市若者議会)

── すでに選挙以外の新しい政治参加の動きが起こっている地域があるんですね。

こういう新しい動きは、人口減少や高齢化によって存続の危機を強く実感している自治体を中心に生まれています。長野県飯綱町議会の「政策サポーター制度(市民と議会が協働して政策づくりをすすめる制度)」や北海道芽室町・栗山町議会の「議員モニター制度(議会運営に市民の声を反映する制度)」など、市民を交えた合議制の取り組みについては総務省もモデルケースとして提示しているので、ほかの地域にも広がっていくでしょう。

Uターンしたり地方移住した若者が議会に参加して地域を変えていく例もよく見聞きするようになりました。

地方でこういう経験をする若者が増えて、彼らの発信を受け取って自分の地域との差を感じる若者が増えたら、その先にある選挙にも自然に目が向いてくる。そういう順番がいいのではないかと思うんです。

投票率上昇は、より多様な人が政治に納得感を持てる社会になること

── 地方から若者と政治の新たな関わり方が生まれているのは希望が持てますね。若者たちの政治参加は社会にどのようなポジティブな変化をもたらすと考えますか?

いい社会というのは、なるべく多くの人、なるべく多様な人が納得感を持てる社会であることだと思うんです。

そのためにあるのが選挙。だから選挙は、多くの人が関わって結果が出ることが大切
だと思います。たとえ結果が同じだったとしても、30%の人しか投票していない選挙で生まれた政権が決めた政策より、さまざまな年代・性別・属性を含む多くの人が投票して決まった政権の政策のほうが納得して受け入れられるでしょう?

個人的には、投票率は60〜70%くらいがちょうどいいと思っていて、このくらいあれば、選挙に行かなかった人にとっても社会全体の意思表示で決まった結果だという納得感が生まれると思うんです。

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若者の投票率上昇のためには地道な主権者教育も必要。松本先生が埼玉大学のゼミ生とともに継続的に行っている小学校での模擬投票。ゼミ生が候補者となりマニフェストを発表し、小学生が実際の選挙さながらに投票を体験する。

また、7割程度の人々が投票して結果が出れば、選ばれた側の政治家にも緊張感や責任感が生まれ、それがより多様な声を拾い上げた政策につながると思います。

── 選挙に行く、ということは、みんなの納得感が高い社会をつくることなんだと思いました。

今は投票する前から結果がわかりきっている選挙も多いので、より自分の一票の価値を信じられない、行っても無駄だと感じている人は多いと思います。人にさんざん「投票に行こう」と言い続けてきた私ですら腰が重い選挙もあるくらいですから。

でも、「政治の現場は少しずつ変わり始めているよ」と伝えたい。地方議会が変わりはじめ、若い議員や首長も続々と誕生しています。若い政治家を支援する年配の人も増えています。政治の現場に若い人が増えれば、制度も変わっていき、よい実例はほかの地域にも派生して広がっていくでしょう。今はその過渡期です。地域や政治に関心がある若者にとってはおもしろい時代ですし、それが若い人の投票率にもつながるのではないかという希望があります。

投票は、未来の自分たちの生活に返ってきます。毎回行かなくてもいい、3回に1回でもいい。ため息をつきながら、選挙に付き合い続けてほしいです。

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\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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