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豊かな未来のきっかけを届ける

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リサイクルできそうにない物からプラスチックを作る。不可能を可能にした企業

BLUE SHIP

化粧品の容器やポテトチップスの袋など様々なものから作られたペレット
アーネル・シンプソンさん

アーネル・シンプソン テラサイクル グローバル研究開発部門 バイスプレジデント

今までリサイクル不可能とされてきた様々なモノの解決策を生み出してきた、テラサイクルのR&DグローバルVP。タバコの吸い殻や使用済みのおむつなどの画期的なリサイクル案を生み出したテラサイクルが誇る研究開発チームのリーダー。

40年以上の業界経験の内、6年間はJohnson&Johnson Pharmaceutical Researchに所属し、その他Dupont, Xerox Corporation, Rohm and Haas, Arco Chemical等でもその知識と経験を発揮。応用化学の博士号を持つと共に、10もの特許[アメリカ3つ、世界知的所有権機関(WIPO)7つ]を取得。レオロジー協会の会員であり、かつてはプラスチック技術者協会、米国化学会にも所属。

すでに成人している娘が二人おり、40年以上連れ添っている妻とともにペンシルベニア州のヤードリーに居を構える。研究室にいない時には、音楽、スポーツ(特にサッカー)、執筆活動に興じている。

アーネルさんは何をされていますか?

私は商品開発に関わる「研究開発部門」の総責任者になります。例えば、ポテトチップスの袋からペレット(プラスチックの原料)を作ることや、使用済みの容器を洗浄し別の用途のプラスチックとして再生するプロジェクトを科学的なアプローチから研究しています。

私たちは、本来の用途を遂げたプラスチック製品が様々な工程を経て、新たな用途として生まれかわるプラスチックのことを「ストーリープラスチック」と呼び、その成果のひとつに、現在発売されているP&G社のHead&Shoulders(日本ではh&sブランド)のシャンプーボトルには我々が再生したプラスチック材が使用されています。

リサイクルシャンプーボトルH&Sの写真
リサイクルシャンプーボトルH&Sの写真

テラサイクルはどのように始まったのでしょうか?

その話をすると長くなりますよ(笑)

では少し歴史をお話しましょう。2001年に19歳のプリンストン大学の学生で、テラサイクルの創業者兼CEOのトム・ザッキーが有機物を多く含んだ肥料を作りたいと考えていました。そこで着目したのはミミズの糞。ミミズの糞は窒素を多く含み、肥料に合う事がわかったのです。

そこで、多量のミミズの糞を集めるのに使用済みのペットボトルに入れていました。そのうち、ペットボトルがどんどんたまってしまった。「さて、このたまったペットボトルをなんとかしないといけない」という発想が始まりでした。だから、今日のテラサイクルの歩みは、ミミズの糞がきっかけと言えるのです。

ミミズの糞から再生した肥料
ミミズの糞から再生した肥料

ミミズの糞はひとつひとつ、集めたのですか?

いえ、糞をひとつひとつ集めている訳ではありません(笑)。まずミミズが活動している土を集めます。そしてそれを水に漬けて、堆肥効果を上げるために添加物を加えます。そのため我々はこの液体のことを「tea(お茶)」と呼んでいます。

ミミズの糞からなぜ、プラスチックの再生へ?

ペットボトルを回収している時に社員から、ペットボトルだけではなくて他の容器も集めたらという意見が生まれ、そこから「廃棄物をリサイクルする」というコンセプトを思いつきました。

そしてポテトチップスの会社と提携する事になり、米国SPIコード(米国でのプラスチック製容器の識別および材質表示方法)の「7」に該当する袋を集めるようになりました。それに続き、他の廃棄物の回収にも広げてゆきました。

当時、米国SPIコードの「7」で集められたゴミは埋め立てにするか、焼却していました。そこに着目してリサイクルを始める事になりました。焼却による熱リサイクルもやらず、すべての原料を再生する理念をテラサイクルは持っています。

アーネル・シンプソンさん

テラサイクルへの入社はいつですか?

2010年の2月です。2008年にテラサイクルがリサイクル事業を本格化させた2年後になります。

なぜテラサイクルに入りたいと思ったのですか?

私はデュポン、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのメジャーな会社に勤めていました。しかし、中規模で直接影響が商品に伝わるような会社に携わりたいという思いから2007年に退職しました。その時、テラサイクルの求人広告を見て、面接を受け、話を聞いているうちに会社を気に入り、入社を決めました。

テラサイクルを実際に気に入り、入りたいと思った理由は?

大手企業で培ったリサイクル技術を応用できるのが、すごく魅力的でした。「リサイクルはパズルのようなものだ」と、私は考えています。リサイクルされた原料を使うのはバージンマテリアルとは違い、使用済みの物をどうやって再生できるか、考える事がすごく好きです。

実験中のアーネル氏
実験中のアーネル氏

自然への意識などはありましたか?

はい、あります。自然から出たものを自然に還す。最後まで使い道を考える。

アメリカの本社オフィスの中はリサイクル品ばかりなのですか?

コンピューター以外は全てリサイクルです。テーブル、デスク、床のカーペットも全てです。私の後ろは廃盤のレコードを吊るした壁になっていますし、CEOのトム・ザッキーを含め、オフィスは仕切りのないオープンスペースになっています。

どのようなものがリサイクルされていますか?

ペットボトルはすでにリサイクルのマーケットがあるため、テラサイクルでは扱っていません。我々は「これリサイクルできるの?」というカテゴリーでリサイクルを進めています。

例えば、紙オムツをペレットにする技術が今までで最も難しかったです。オムツは使用済みなので当然汚れています。そのままでは使えないので、どうにかして消毒しなくてはなりません。

そこで使用したのがガンマ放射線。これで消毒すると、ガンマ放射線の照射によってバクテリアを死滅させ、匂いがなくなり、後の工程に進める事ができます。そして、洗浄中に出た糞尿も捨てずに堆肥として再利用できます。

オムツのリサイクル技術は確立されたものの、回収工程や行政との調整等様々なチャレンジがあるため、まだリサイクルプロジェクトとしては開始できていないのが現状です。

おむつリサイクルの最初のテストの時(2012年)
おむつリサイクルの最初のテストの時(2012年)

再生の過程に出るエネルギーの方が環境に悪い事はないのでしょうか?

テラサイクルはすべてのプロジェクトに関してLCA(Life Cycle Assessment)という環境負荷のレポートを作ります。LCAとは、リサイクルをするにあたり、プロダクトを作る工程の環境に対する影響および負荷を比べたものです。それを見る限り、リサイクルする工程は影響が少ない、という結論になっています。

リサイクル作業が全て外注という事で、外注先の姿勢などを調べますか?

テラサイクルは、化学分析の装置や機器については自社で所持していますが、リサイクルの加工用機器は所有していません。そのため、加工処理は提携先の工場に委託することになります。

提携先はもちろん秘密保持契約を結び、私自身が工場の安全対策マニュアル、処理工程など、直接現場に赴いてチェックしています。もちろん定期的な監査も欠かせません。

実験中のアーネル氏
実験中のアーネル氏

焼却するより、再生が環境への影響が少ないと言う事でしょうか?

焼却してしまうと、材料がなくなってしまいますし、化学物質が出てしまうので環境に負荷がかかります。しかし、回収して再利用すれば負荷は少ないという形です。

子供の頃は自然の中で生まれ育ったのですか?

オリジナルはジャマイカの出身です。それも田舎の方で、広大な森林の中で動物たちや自然に囲まれて育ちました。

そして1971年にアメリカに移住しました。アメリカの中でニューヨークのように大都会ではないデラウェア州を選びました。この街は私がジャマイカで育った環境に近かったのです。大学もデラウェア州の中で選びました。

大学卒業後の最初の仕事はデュポン社、国際的な化学企業です。ここは、主に世界中で使われるプラスチックを開発している会社ですが、この会社でお金をもらって学ぶ事ができました。

「プラスチックスープの海」と言われるくらいマイクロプラスチックが海にあります。

海に捨てられる大量のプラスチックゴミは集まって塊をなし、海に浮く「プラスチック島」となってしまう恐れがあります。プラスチック島には魚など海洋生物が住み着くことがよくあり、生態系に悪影響を及ぼします。

プラスチック島の処分については、多くの国は手を出さず、他国へ流れていくのを待っているのが現状です。

しかし私は、企業が積極的にプラスチック島の解決に乗り出す必要があり、今後はプラスチックが海を漂流することによって、どのように変性または劣化するかを研究したいと考えています。

アーネル氏

再生が自然環境をよくするという事を読者に伝えてください。

自然界では廃棄物と言う概念がない。自然界から出てくる物はすべて自然界に還る資源として利用されるべきです。「人間もそこから外れるべきではない」がテラサイクルの理念です。

今までリサイクルがなぜ効率的にできなかったのか、それは技術がなかったからだと思っています。20年前は分別をする技術もありませんでしたから。

作る側も再利用までの考え方がなかったと思います。それが今は技術の進歩で実現できるようになりました。

リサイクルのペレットは何種類くらいありますか?

アメリカでは現在100種類以上のペレットを保有しています。ペレットは素材別で分けている訳ではなく、回収物ごとに分けています。例えば、ポテトチップスの専用の倉庫もありますし、歯ブラシ専用の倉庫もあります。

いろいろな企業に、そのペレットを商品化しプレゼンテーションを行っています。通常は20種類の基本ペレットを用意、顧客の希望を聞いて100種類以上保管してあるペレットの中から、その商品に合うペレットを混ぜ合わせて商品を開発していきます。

ペレットを売っている会社は様々ありますが、テラサイクルでは顧客の希望に合わせてペレットから商品を作るので、オーダーメイドペレット商品ですね。

リサイクル別のペレット。紙おむつのペレット化は一番の困難だった
リサイクル別のペレット。紙おむつのペレット化は一番の困難だった

例えば、ビーチクリーンで回収時に使われるビニール袋がゴミにならない方法はありますか?

日本の現状では難しく、焼却されていますが、これを変える努力をしていくことが必要です。日本では焼却を止めなくてはなりません。実は日本で作られるペレットは、焼却時の温度調整に使われるものがほとんどです。日本のマテリアルリサイクル(ゴミを原料として再利用すること)率は約20%にとどまります。
資源からエネルギーを抽出して新しい資源にする事が、私たちの掲げている循環型のリサイクルです。

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

日本の商品の過剰な包装に驚きます。しかし嘆くのではなく、これはリサイクルできる機会が多いという事なのです。リサイクル品というと、汚れているのではないかという先入観があるかと思うのですが、リサイクル品でも新品と変らないクオリティーがあるという事を伝えたいです。

アーネル・シンプソンさんの想い

昔はリサイクルの大切さが世の中に浸透していませんでした。しかし、今ではリサイクルの重要性をよく理解され、なお且つ技術が伴ってきました。

今の若い世代の皆さんの、高いリサイクル意識のさらなる高まりを楽しみにしています。

アーネル氏
  • ゴミ拾い・環境ポータルサイトBLUE SHIP (海と日本プロジェクト)参照
    【BLUE SHIP主催】日本財団・NPO法人海さくら
    https://blueshipjapan.com/

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