「生理の貧困」ってなんだろう――言えない、買えない 問題の背景は
最近、目にすることの増えた「生理の貧困」という言葉。経済的な理由などで、生理用品を十分に入手できないことを指す。支援を求める声が高まり、地方公共団体では無料提供などの取り組みが行われている。東京都は、9月からすべての都立学校で女子トイレに生理用品を配置することを決めた。なぜ今、注目されているのか。買えない背景にはどんな事情があるのか。解決に向けて必要なことは? 「生理の貧困」を一から解説する。(情報提供:国際NGOプラン・インターナショナル、ネクイノ/デザイン&イラスト:佐島実紗/取材・文:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
Q&Aで知る実情
Q1. 「生理の貧困」とは?
A. 経済的な理由などで、生理用品を十分に入手できないこと。
国際NGOのプラン・インターナショナルでは、2017年にイギリスで初めて「Period Poverty (生理の貧困)」の調査を実施。この調査で、回答者の10%が「生理用品を買えなかったことがある」と答えている。その後、アメリカの調査でも、入手できない人たちが一定数いることが認識され、欧米を中心に問題意識が高まっていった。
Q2. なぜ、最近話題になっているんですか?
A. コロナ禍が長引き、経済的に困窮する女性が増えている背景がある。
Q1と同じくイギリスのプラン・インターナショナルが2020年に実施した、新型コロナウイルスが女性に与えた影響に関する調査で、3割が「生理用品の購入が難しい」と回答。日本では、2021年版「男女共同参画白書」によると、2020年4月の就業者数がその前月と比べ、男性は39万人減少、女性は70万人減少している。女性の失業者が特に多く、シングルマザーの完全失業率も増加。コロナ禍で女性の貧困問題が深刻化していることがうかがえる。
Q3. 生理にかかるお金はどのくらい?
A. 「生理用品はナプキンを使用」「2〜3時間ごとにナプキンを交換」「生理期間が5日間」「1〜3日目に鎮痛剤を使用する」と仮定した場合、生理にかかる費用は1日あたり約100〜140円、1カ月あたり約500〜1200円で、生涯にかかる費用は約40万円という計算になる(ピルのオンライン診療サービス「スマルナ」の調査から)。
ほかにも、生理用ショーツを買う必要があり、人によっては生理痛の軽減などのために低用量ピルを服用する。肌がかぶれやすい人は高価なナプキンを使ったり、腹痛がつらい場合はカイロで温めたりするなど、購入するものはさまざまで、この費用が上記の金額に加わる。
プラン・インターナショナル・ジャパン(以下、プラン)の長島美紀さんはこう言う。
「生理痛によってアルバイトなどの仕事を休んだ場合、収入減にもつながってしまう。また、出産回数の減少や栄養状態の改善などによって、女性が生涯経験する生理の回数は増加傾向にあります」
Q4. 本当に買えない人がいるんですか?
A. 2021年3月、プランが15〜24歳の女性2000人を対象に行った調査では、何らかの理由で生理用品の購入や入手をためらったり、購入できなかったりしたことがあると答えた人が717人(35.9%)。その8割は、「収入が少ない」「生理用品が高額」「お小遣いが少ない」など、収入や価格を理由に挙げている。任意の回答では「バイトしておらず、親の負担を増やすのが申し訳ないから」(17歳・学生)なども。実際に、経済的な理由で購入をためらうケースがある。
Q5. 他のものが買えるのに、どうして数百円のナプキンが買えないのですか?
A. 前出の長島さんは、「限られた収入やお小遣いで購入しなければならないなかで、優先順位が高くない状況がある」と言う。プランの調査では、食費、交際費、通信費、交通費、学費、洋服費、娯楽費、美容費などと比較して、生理用品の優先順位は中位だった。一方、回答者の中には、月収10万円未満で毎月の生理にかかる費用は1000円以上という人も。収入の中での負担が大きい場合もある。
Q6. 買えない場合、どうしているのですか?
A. 十分に入手できなかった際の対処法として、約7割の人が「ナプキン/タンポンなど長時間使ったり、交換する頻度を減らしたりした」と回答。次いで多いのは、「トイレットペーパーやキッチンペーパーなどで代用した」。「収入の中で負担が重く感じられたとき、長時間使うなどの我慢をすることで、買わずに済ませていることが分かります」(長島さん)
Q7. どんな対策が行われていますか?
日本では、地方公共団体一部の学校や公共施設などで、生理用品を無償提供している(2021年5月19日時点で255団体。検討中を含む)。東京都は、9月から全ての都立学校の女子トイレに生理用品を配置する方針を決定。そのほか、生理用品を軽減税率の対象にすることを求める署名運動なども行われている。
生理のことで悩んだら
生理はタブー? 理解を深め、困ったら話しやすい環境を
「生理に関して嫌な思いをしたことがあるか」という質問に対し、「経血が服などについたり、シミになったりしたこと」という物理的に困難な状況のほか、「学校や職場で、教員や同僚に生理であることを伝えなければいけなかったこと」「『生理だからヒステリック』『生理だからイライラしている』など、生理や女性に対する偏見を感じたこと」など、他者とのコミュニケーションに関する回答が多く挙がった。
「生理について、公に語りたくない、恥ずかしいという声があります。日本は海外と比べて生理に対する不浄感、タブー意識が強く、初めて紙ナプキンが発売されたのは、欧米よりも40年ほど遅い1961年のことです。今年、アメリカのプランの調査で、27カ国を対象に『生理についてオープンに話せるか』を聞いたところ、日本は27カ国中25位、G7諸国では最低でした。今もタブー意識が根強く、理解が広がりづらい状況がある。男女かかわらず、女性にとって生理は当たり前の日常で、不浄ではないという意識を持つことで、社会の取り組みも前へ進めると思います」(長島さん)
知りたい、相談したいときには?
・地方公共団体
役所や学校などで生理用品を無償提供しているかどうか、各市区町村に問い合わせを。
・婦人科医
生理の症状は人によって異なるもの。つらい症状があるときには婦人科医へ。
・書籍
生理について知っておくべきこと、性教育、さまざまなトラブルに関する書籍で、正しい知識を。
・企業サイト
生理用品を扱う企業には、生理に関する知識を伝えるサイトや動画を制作しているところも。
・プラン・インターナショナル・ジャパン「女の子のためのチャット相談」