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プラスチックスープの海。誰もが汚染者であり、誰も汚染を受ける側となる

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高田秀重氏の写真

高田秀重 東京農工大学農学部 環境資源科学科 教授

環境汚染の解析が専門。廃棄されたプラスチックの海洋汚染や環境ホルモン、ゴミ処理のあり方に警告を鳴らしてきた。医薬品による水汚染問題に日本で最初に取り組んだ1人でもある。最近は「プラスチックの海」海洋プラスチック問題についての講演活動も多い。

「プラスチックスープの海」の汚染は1960年代から問題視されていた

Q.どのようなお仕事をされているのでしょうか?

合成洗剤や、環境ホルモン、医薬品、抗生物質の研究をはじめプラスチックの海洋汚染の研究をしています。1998年頃、環境ホルモンの大きな暴露源は「プラスチック」ではと言われ始めたのが、きっかけで研究を始めました。現在は汚染物質が「どこから発生」して「どこに流れ」「どこにたまる」その一連の影響を調べています。

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析
粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析

神奈川県鵠沼海岸の調査から世界に広がった

Q.海中に漂う多量のプラスチックを「プラスチックスープの海」と言いますが、現在の状況は?

21世紀に入り研究者たちによる大きな展開が3つありました。1つ目は私たちが1998年に鵠沼海岸で採取したプラスチック片を分析してみたら高い濃度の環境ホルモンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)という汚染物質が検出されました。それでプラスチックが海の汚染物質の運び屋になっているとわかり、追加の実験結果を論文にまとめ2001年に発表。この問題提起は私たちの分野で大きな反響を呼びました。

鵠沼海岸から採取されたプラスチック片
鵠沼海岸から採取されたプラスチック片

もう一つはリチャード・トンプソンという研究者が、1ミリ以下のサイズになったプラスチック片が、海の底や砂の中などに堆積している事や、プラスチックが小さくなって食物連鎖の中に入ってくることを指摘。プラスチックの有害な物質が体内に害をもたらすという事がわかってきました。いわゆる「マイクロプラスチック(5ミリ以下の微細な破片)」が海洋生態系に入ってきたと言う2004年発表のリポートと、1997年にチャールズ・モアという船長から太平洋の真ん中にプラスチックがたまっている海域があるとの報告もありました。

それら2つのリポートと、われわれが2001年に発表した報告書によって、2010年くらいからこれは危険なのでは? と学会や研究者の中でも問題視されるようになってきました。

誰もが汚染者であり誰も汚染を受ける側となる国境がない問題

鵠沼海岸から採取されたプラスチック片

Q.先生のお話だと日本の近海に多くのプラスチックが漂っていると聞きました。

この10年くらい大規模な研究用の航海も世界中で行われるようになり、どこにどれくらいプラスチックがたまっているのか調査されています。その結果、世界中の海で27万トンのプラスチックが浮いているとの結果が出ています。数にして5兆個でしょうか。日本の海は多くのプラスチックが漂っています。プラスチックの分布密度が高い場所は、地中海、黒海、ユーラシア大陸の南岸、インドから東南アジアから日本に至る海域など人口密集地の近くです。人口も多いですしプラスチックも多く使う、ゴミの管理もしっかりしていない。マイクロプラスチックの水中濃度が非常に高いのです。

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析
ボトルの砂に水を入れ攪拌(かくはん)すると、プラスチック片が浮いてきます

Q.日本人は環境意識が高いと思っていました。なぜ日本近海で高いのでしょうか?

東南アジアに比べたらポイ捨てなど少なくて街は奇麗ですが、それでも道にはプラスチックやペットボトルが落ちています。例えば荒川でボランティア団体が河口清掃するその場所で年間数万本のペットボトルを回収したと聞きます。日本ではゴミの管理がしっかりして、リサイクル率が高いのですが、海に出ていくものもたくさんありますね。リサイクル率が高くても、プラスチックの使用量が多ければ、リサイクルされずに海に出てしまうプラスチックの量も増えてしまいます。

また日本は黒潮の下流に位置しているので東南アジアや中国の南部から出たプラスチックが日本周辺に流れてくると考えられます。ただしマイクロプラスチックになった細かなプラ片が、東南アジアや中国から流れてきているという証拠はありません。あくまで推定です。これから中国や東南アジアの方々と調査していくことによってわかってくることもあります。日本のゴミもハワイやカナダに流れ着いたりしているので、ゴミを排出している国を責めるのではなく、世界みんなで考えていきましょうという事です。日本周辺の海域は世界の平均値に比べると約30倍、密度が高いと環境省では報告しています。

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析

Q.海鳥や魚が体内に取り込んでしまった場合はどうなりますか?

エサと間違えて摂取してしまうと有害物質が生物の体の方に蓄積されてしまうことが懸念されます。しかし誤解のないように説明します。確かに魚の体内にプラスチックはたまっています。東京湾のカタクチイワシを調べた結果、64尾中49尾から小さなプラスチックが出てきました。しかしプラスチックを含んだ魚を食べても、プラスチックは排泄(はいせつ)されてしまいます。人間の体内のどこかにプラスチックが、たまるということはないのです。

しかし一方で化学物質が含まれているので、消化液に溶け出して、一部が体に吸収されると考えられています。人間では確かめていないのですが海鳥では確認しています。有害な化学物質が溶け出して生物の体に蓄積してしまうことも、わかってきています。鳥で起こることは人間でも起こる可能性があります。しかし有害物質はプラスチックからだけではなく、食品などからも人間の体内に取りこまれます。

現状で言えばプラスチックから入ってくる汚染物質の量は他の食品からのルートに比べより低いレベルになっていると考えられています。すなわち有害化学物質のことを考えても今のところ問題ありません。しかしこれから何も手を打たないと海に漂うプラスチックの量は増え、もしかしたらプラスチックから取り込まれる有害物質の方が増えてしまう事が世界的に懸念されています。世界中で海に漂っているプラスチックはこれから20年で10倍になるという試算もあります。ダボス会議では今世紀の後半には海中の魚の量よりもプラスチック片の方が多く浮くと言う警告が出ています。プラスチックは海の中で自然に分解するものではないので出せば出すだけ、どんどんたまってしまうということです。

20世紀の終わり頃から徐々に汚染被害が広がり現在に至る

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析

Q.そもそもなぜこんなことになったのでしょうか?

大量のものが、使い捨てられています。日本は管理しているけど100%ということはない、リサイクルされなかったものは海に出て行く。プラスチックは1930年代くらいから使用され、この2016年まで100年近く海に流れ出ている。いったん、小さくプランクトンサイズになってしまったプラスチック片を回収することはなかなか難しい。

プラスチック片を採取する簡単な方法の動画画像

高田教授からプラスチック片を採取する簡単な方法を教えていただきました

空瓶に海岸で取ってきた砂を入れます。そこに水を入れてかき回すと細かく軽いプラスチックが浮いてきます。このプラスチック片を放置しておくと海に戻りプラスチックスープの元となってしまいます。ご覧の皆様も簡単なので気軽にトライしてみてください。海岸にいかに細かい破片が落ちているか、わかるはずです。そして高田教授はこのプラスチック片の判定のために、映像に出てくる機械を使い研究されています。

個の努力。社会のシステム。技術革新。

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析
解析のため取り出す


粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析
スクリーン上の映し出される山なりの曲線は、解析物がポリエチレンであることを示している

Q.解決するには?

いろいろな手段があることはわかってきています。しかしこれだけやれば大丈夫だと断言する方法はまだ見えてきていません。例えば、プラスチックが分解されないのなら分解されやすいものを使えばいいという考え方もありますが、海の中では分解を促進する微生物が少ないのでこの方法だけでは難しい。社会の流通システム的にゴミを海に出さないという取り組みの推進や、3R(ゴミの削減、廃棄物の再利用、リサイクル)を徹底することにより海に出て行くプラスチックの量を減らす事を促進して行くことも重要な手段だと考えます。例えば、レジ袋、これは減らそうと思ってもなかなかゼロにはできない。しかし耐水性の強い紙で作れば海へのプラスチックの流入は減らせるかもしれない。そういう技術革新もこれからは必要な事です。

海岸はマイクロプラスチックの製造場所

Q.われわれにできることは?(あなたの力が必要な理由)

今、われわれにできることは海に流出するプラスチックを止める事だと思います。根本的には出さない努力をすること。使い捨てのプラスチックを使ってしまう前に他の方法はないのか? レジ袋をもらう前にその商品は手で持っていけないか? 使い捨てのプラスチックの必要性を個人個人が考えるのが大切なことだと思います。消費者の意識が変わってくると生産者側や流通側も、なるべくプラスチックの過剰な包装を減らして行く方がエコだと気が付き意識が少しずつ変わってくると思います。

そもそも、マイクロプラスチックができる場所は海岸の砂浜の上です。大きな破片として海に入ってきたものが、海岸に打ち上げられて、海岸で熱と紫外線を浴びてどんどんボロボロになり、それら細くなったプラスチック片が海に入って行く。それを防ぐには海岸掃除というのは非常に効果の高いことです。放置してあるとそれがマイクロプラスチックになってしまうので大きなプラスチック片のうちに拾うのが大切なこと。海岸では重機を浜に入れて清掃する場合もありますが、それだけでは不十分。人力でコツコツと取ることに大きな意味があるのです。

Q.高田先生の思い

粒がプラスチックであるかどうか。プラスチックであれば、素材の種類の解析

日常生活を見つめ直す事が一番大切です。プラスチックを使わないで済むなら使わないようにする。このように小さな事から実践してほしい。「海のゴミの多くは海のない町から出る」海のない町の方々が少し意識を変えていただくだけで、プラスチックゴミは随分と減らせると思います。

研究室
http://web.tuat.ac.jp/~gaia/Index.html(外部サイト)

インターナショナルペレットウォッチ
http://pelletwatch.jp/(外部サイト)

取材・写真/上重 泰秀(じょうじゅう やすひで)
http://jojucamera.com(外部サイト)

  • ゴミ拾い・環境ポータルサイトBLUE SHIP (海と日本プロジェクト)参照
    【BLUE SHIP主催】日本財団・NPO法人海さくら
    https://blueshipjapan.com/(外部サイト)

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