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''自分が嫌''という言葉が何度も出てくる――インターネットで自殺を防ぐ研究の今 #今つらいあなたへ

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写真はイメージです(写真:アフロ)

自殺対策といえば、「いのちの電話」などの相談窓口が思い浮かぶ。ただ、生きるのがつらくなった人が必ずしも助けてほしいと相談するわけではない。人と関わることなく、ネット空間に気持ちを吐き出しているケースもある。それらは対処の仕方が分からず、長らくそのままにされてきた。しかしそうしたサイバー空間に飛び交う「死にたい」思いをすくい上げ、自殺予防につなげようとする研究がなされている。果たしてインターネットで自殺は防げるのか――実証データに基づき検証している数少ない研究者、和光大学・末木新教授に話を聞いた。(取材・文:西所正道/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

広告のクリックから、解決に導いてくれる人へつなぐ仕組み

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末木新さん

悩みを抱えた人の孤立や孤独を防ぐ人のことを、「ゲートキーパー(命の門番)」と呼ぶ。それをネットの中で展開しようというのが、末木新さんが関わっているプロジェクトだ。

「パソコンやスマホの検索で"死にたい"とか"自殺方法"、あるいは"簡単に死ぬ方法"......といった言葉を書いている人に対して、"無料で相談できます"というような内容の広告を出すのです。その広告をクリックすると、相談窓口があり、公認心理師や精神保健福祉士といった専門家がメールなどで相談に乗ってくれる。彼らが相談者それぞれの問題を明確化したうえで、現実的な支援の場につないでくれます。例えば心の問題で困っている人ならば精神科医などにかかるように勧めたり、お金の問題なら生活保護を受けるように促したり、借金で苦しんでいる人には弁護士への相談を案内したり」

この「インターネット・ゲートキーパー」システムを開発したのはOVA(オーヴァ)というNPO法人で、2013年から末木さんは共同研究してきた。このプロジェクトを始めた当初は、見慣れない広告であるためかクリック率は2%程度だったが、現在ではクリック率が4~5%まで上昇している。

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広告画像の一例

2018年から2019年にかけて行われた検証結果によると、「インターネット・ゲートキーパー」システムの自殺予防の可能性は見えてきている(※1)。広告をクリックし支援につながった167人が、メールなどの相談を1カ月ほど継続的に受けたところ、自殺したいと思う気持ち(自殺念慮)や抑うつ、不安感が軽くなったことが分かっているのだ。既に、いくつかの自治体でも活用されている。その自治体に住む人だけでなく、勤務する人、訪れた人が、エリア内で自殺関連の言葉を検索すると、広告が表示される。

一人でも多く人を救うためにも、まずは広告のクリック率を上げることが重要になる。そのために広告に使う言葉の試行錯誤が行われている。

「いろいろな言葉で試してきて分かったのは、『つらかったですね』という共感的な言葉や、『相談してください』といった直接的なメッセージを入れたほうがクリック率が高くなるので、二つの言葉を併用するようにしています」(※2)

相談メールには"嫌"という漢字が頻出

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心の健康状態をチェックする指標(K6)。合計得点が9点以上あれば、うつ病や不安障害の可能性が高いといわれる。大野裕ほか「一般人口中の精神疾患の簡便なスクリーニングに関する研究」(平成14 年度厚生労働科学特別研究事業)をもとに編集部作成

相談者はまず、問診のような簡単な質問に答える。自殺念慮がどれぐらい強いのか、自殺の計画があるのか、自殺を試みた経験があるのか。心の健康状態をチェックする指標(K6)に関する質問もある。

実際の流れの例はこのようなものだ。(※3)。

「苦しみの少ない自殺方法」をネット検索した25歳男性のケース。

大学に入るがなじめず中退して以降、自宅にひきこもり状態に陥り、孤独感と無能感にさいなまれていた。昼夜逆転の生活、家族への申し訳なさがあり、自室から出られない。将来の展望も見いだせず、部屋にいると自殺のことを考えてしまう状態だった。

広告をクリックして相談すると、精神保健福祉士に心療内科の受診を勧められた。予約をし、受診すると気分が軽くなり、バイトに行けるようになるまで回復。その後もときどき自己否定的になることはあるが、立て直しができ、相談開始から8カ月後、就職先が決まった。

「すべてがこのようにスムーズにいくわけではありません。中には専門医を受診するのが怖いという人もいます。初めての経験ですから、誰でも多かれ少なかれ不安になるのは当然です。医師に何を話していいのか分からない人もいます。そういう場合には一緒に考えて、『こういうふうに話してみたら?』とか、『話す内容を書き出した紙を先生に渡すだけで大丈夫だから』といったところまで話を詰めてから受診してもらうこともあります」

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写真はイメージです(写真:アフロ)

相談者の8割は自殺念慮を持ち、4割は過去に自殺を試みていたことが分かっている(※4)。相談メールに使われている言葉の分析からは、自殺を考える人の心の中が垣間見えるという。

「"嫌"という漢字が頻出するんですよ(※5)。自殺リスクが比較的低い人のメールには、人の名前が出てくるんです。会社の上司が嫌だとか、友だちや親が嫌だとか。ところが自殺リスクが高まってくると人の気配が消えるんです。メールの中の登場人物は自分しかいなくなってしまい、"自分が嫌"という言葉が何度も出てくる。自殺の危険性を高める要素のひとつに、『負担感の知覚』があります。つまり自分は能力がなくて、会社や周囲の人たちに迷惑をかけてばかりいる、負担をかけている。そんな自分が嫌だというわけです。人の気配が消えて自殺念慮が強くなった人に必要なのは、気持ちを聞いたり相談に乗ったりできる人ですね。人が周りにいれば自殺リスクは下がると思うのです」

セルフチェックリストで「抑うつ度」を知る

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末木新さん

現状では、広告を見て相談メールを送るところにまで到達する人は0.03~0.25%だという(※6)。末木さんはその確率を何とか上げたいと思っていたが、ヒントになりそうなデータが最近出てきた。

東京都で、2022年10月から2023年1月にかけて行われた自殺対策に関する調査研究で、比較的症状の軽い人をすくい上げ、予防につなげられないかを調べたものである。末木さんも関わったこの調査では、前述した自殺関連用語を検索した人に広告を示すシステムを使用したところまでは従来どおりだが、新しい試みをした。

「広告を見てクリックした人にセルフチェックリストを用意したんです。カジュアルな感じで答えられて、"あなたのいまの抑うつレベルはこれぐらいです"みたいな形で、自分の状態を知ることができるようにしました。するとクリックした人の14.3~36.6%というかなり高い確率でセルフチェックをやってくれたんです(※7)。この結果から、チェックリストを広告に表示して答えてもらうようにすれば、もっとクリック率が上がり、相談にたどり着く人も多くなるのではないかと思いました。"あなたの抑うつ度はこれぐらい高い点数です。相談したほうがいいですよ"というふうに言ってもらったほうが、相談しようという気になるかもしれません」

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写真はイメージです(写真:アフロ)

末木さんは、「死にたい気持ちになる手前」でケアするための研究にも力を入れている。そのほうが回復が早いし、相談にあたる専門家を症状の重い人たちに振り分けられるからだ。

先ほど紹介した東京都の調査研究では、6つのグループに分けた。自殺の原因になりやすい妊産婦、DV、依存症、うつ、性的マイノリティ、虐待である。

「結果は期待が持てるものでした。例えば産後うつ病にかかる率は一般的には10~15%の幅で存在するのですが、この調査では、セルフチェックに回答した9割の人が産後うつ疑いの基準値を超えていました。他のDV、うつ、性的マイノリティ、虐待でも、今回のような広告の出し方で、産後うつ病と同じように、かなり高い割合で気分・不安障害と判定される人をすくい上げることができました。今後、少し状態の悪い人にしぼって、相談を促すことはできそうだなという見通しが立ちました」

相談だけでなく、セルフケア情報や体験談を提供する動きも

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写真はイメージです(写真:アフロ)

OVAが新たに取り組んでいるプロジェクトは、小中学生からのSOSを早めにキャッチする試みだ。児童生徒に一人1台配布されている端末で自殺関連ワードが書き込まれた際に、それを足がかりとして自殺予防につなげようというものだ。

「これを活用すれば、担任の先生でも分からなかった兆候をつかめるのではないかと思うのです。コミュニケーションの中身を見ることで、例えばクラスの中で浮いている子の存在を見える化できる。リスクを抱える子に広告を出して、相談窓口の案内をしたり、また自分で気持ちをやわらげる方法を教えたりします。直面する問題に応じてスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの皆さんと情報を共有して、積極的に対応することも考えられます。いま、参加する教育委員会や学校を募集中です」

東京都の調査結果やこの子どものSOS発信をつかまえるプロジェクトの例をみても分かるとおり、相談だけではなく、セルフケア情報の提供もひとつの動きになってきている。

「比較的症状の軽い人にはリラクゼーション方法を動画で流して、緊張をほぐしたり、ストレスを自分で和らげたりする方法を伝えるコンテンツ、あるいは体験談を紹介するのもいいかもしれません」

では、身近な人がSNSなどで発信する内容に異変を感じた場合、どうしたらいいのかを聞いた。

「少し気にかけてあげることですね。もし悩みを打ち明けられた場合には、余裕があれば話を聞いてあげるといいと思います。一人で支えようとすると疲れるから、可能ならば複数の人でやったほうがいいですね。私が幼い頃、祖父が自殺していて、それが自殺に興味を持つきっかけになっているんです。祖父とは一緒に旅行に行ったりする仲だったから、"おじいちゃん、死ぬ前に、言ってくれりゃいいのに"と、悲しかったです。孫には言いたくはないだろうけど、何でもいいからSOSを発信してくれたら防げることだってあったかもしれない。難しいですけどね」

元記事は こちら

末木新(すえき・はじめ)

1983年生まれ。博士(教育学)、公認心理師、臨床心理士。2012年、東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程修了。和光大学現代人間学部教授。著書に『インターネットは自殺を防げるか』『自殺学入門』『「死にたい」と言われたら』『臨床心理学入門』などがある。

#今つらいあなたへ」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。つらい気持ちを抱えた人の「生きるための支援」につながるコンテンツを発信しています。

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